異世界に、日本国現る    作:護衛艦 ゆきかぜ

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We are American(俺たちはアメリカ人だ)

 そう。彼は——彼らは自由の国である、アメリカ合衆国の国民なのだ。世界最強の国の国民なのだ。


これが戦争——-2

 

 ニシノミヤコに怒声と銃声とが響き渡る。パチパチと音を立てて炎が燃え盛る。夢かと思うような光景だが、紛れもない現実であった。

「だめだ。全然見つからない」

 そんな悪魔のような光景が広がるニシノミヤコを静かに移動する人影が三つあった。

(伏せろ)

 レイモンドからのハンドサインを確認して2人は手近な瓦礫に身を潜める。すぐそこの通りをマスケット銃を抱えてパーパルディア皇国兵士が走って行く。

 通り過ぎたのを確認したレイモンドは通りを静かに移動する。

 崩壊した家屋は後回しにし、無事な家屋を中心に探すものの—-

「やっぱりいない」

 ニシノミヤコの中心部にまで来たが、未だに見つからない。

「分かれて探しますか?」

 ウィリアムの提案にレイモンドは首を横に振る。

「駄目だ。相手はマスケット銃とはいえ、銃を武装している。対して俺らは丸腰、その状況で分散したらかなりキツい」

「了解です」

 相手の武装は骨董品のマスケット銃、されどマスケット銃だ。当たればどんなに頑強な者だろうと死んでしまう。なら、1人で立ち向かうのではなく、複数で対処したほうがいいと判断した。

 バンッ!

 再び銃声が響く。

「これ生きてんのか?」

 ウィリアムのぼやきは他の2人にハッキリと聞こえた。しかしレイモンドはもちろん、ウィリアムも探すことはやめない。生きていたら助けを待っているかもしれない。生きていなくても、せめて遺体を確認するまでは——

 ◆

 パーパルディア皇国軍第21歩兵隊はニシノミヤコの掃討作戦を行っていた。

 バンッ!!

 瓦礫に身を潜め、こちらが近づいてきたら斬りかかろうとするフェン王国兵を淡々と倒して行く。

「ヤァァーー!!!」

 バンッ!!

 仲間と共に正確に撃ち抜いてゆく。

「ん?」

 ふと、1人が足を止める。

「どうした?」

「......あそこで何か動いた」

 崩れた家屋の影を指さす。

 2人はマスケット銃を構え直すと、慎重に近づく。

 ガタッ!

 突然発生した物音に、2人は振り向く。

 ——犬であった。

「ッ......なんだ、犬か.....」

 勘違いであったことに安堵した瞬間—-

「—-むぐッ!?」

 口を強く抑えられ、そのまま喉を切られて心臓に鋭い痛みが走り、そのまま彼は息絶えた。

「なっ!」

 もう1人に仲間が慌ててマスケット銃を撃とうとするも、マスケット銃の銃口を天高く向けられ、そのまま大きく外れてしまう。そのまま喉笛を掻き切られ、そのままこの世から去る。

「制圧です」

「武器弾薬を全て回収、死体を隠し、捜索を続行する」

「分かりましたけど.........俺ら、マスケット銃の使い方なんて知りませんよ? まさか隊長は知っているので?」

 レイモンドは手をパチっと額に当てる。

「すまん。失念してた」

 結局、使えるのは装填されたままのマスケット銃一丁のみという結果になった。

「ま、ここならよく探さない限り見つからんでしょう」

 死体を瓦礫の奥に仕舞い込んだウィリアムとジェームズの2人はレイモンドの元へと戻る。

「隊長、やはり分散するべきなのでは? 今の位置は街の中心から少し外れた場所。おまけにそれなりの規模の街です」

 レイモンドは頭を抱える。ウィリアムの言う通り、この街を探すとなるととても時間がかかる。おまけに3人で一緒に探しているため、余計に時間がかかる。

「だが.....分散は危険だ。時間はかかるが、固まっていこう」

 若干の不服はあったものの上官はレイモンドのため、了解する。

 パーパルディア皇国兵士の捜索をかい潜りながら、3人は子供を探すものの—-

「—-見つかりませんね.....」

 ジェームズが一息を吐いた時、そばにあった家屋が崩壊する。

「うおっ!?」

 家屋の破片が飛んでくるが、なんとか避ける。だが—-

「おい! 声がしたぞ!」

「探せ! 探せ!」

 大声を出してしまったことで、パーパルディア皇国兵士に感づかれてしまう。複数の足音がこちらに近づいてくる。

「まずい——この家に入れ!」

 奇跡的に砲撃に巻き込まれずに無事だった家屋の中に入る。制圧するのも一案だが、相手の人数が不明な上に マスケット銃を装備している兵士だ。無駄な戦闘を避けるためにレイモンドは家屋の中にて身を潜めることに決めた。だが——戸の隙間から周囲を伺っていたレイモンドがあることに気付く。

「まずったな。無事な家屋がここしかない......」

 周囲には倒壊した家屋が(ほとん)どなのに、ここだけが倒壊を免れている。怪しい、どう見ても怪しすぎる。どうやって凌ぐかをレイモンドが思案していると——ジェームズがあることに気付く。

「隊長、これ......」

 彼は倒壊した物置の下、そして麻布の下を指さす。

「......地下室か!」

 麻布をずらすと、地下室へと続くであろうハッチがあった。

「どうします?」

「入れ」

 即断即決、レイモンドは迷うことなく中に入ることを決める。

 ウィリアムとジェームズを先に入れさせ、レイモンドは不自然にならない程度にハッチを隠してから地下室へと続く。

「う......暗いな」

 外の光が一切届かないため、漆黒の闇に包まれていた。

「ライターありますよ」

 ウィリアムがポケットからライターを取り出し、ジュポっと音を立てて青白い火が灯る。

 地下室がライターの光で淡く照らされると、大きなものは机、小さな者は食器と、どうやら物置として使われていたらしい。

「物置きだったみたいですね——って、隊長。何をやっているんですか」

 レイモンドは木製のものを片っ端から折り、布を巻き付けている。

「松明にするんだよ。ライターだけじゃオイルがもたないだろ」

「なるほど」

 ジェームズもマスケット銃を慎重に置き、レイモンドと同じように松明を作る。

「だいぶ見えるようになりましたね......」

「あいつらがここに入ってきたらかなり厄介なことになるがな」

「祈るしかありませんね」

 現状、3人が持っている武器はジェームズが鹵獲したマスケット銃一丁と崩壊した家屋から回収した刃物だけであった。これで戦うにはかなり心許なさすぎる。

 ふと、ウィリアムがあることに気づく。

「あ、隊長。無事な家屋はここだけですので、もしかしたら.......」

 レイモンドはウィリアムが言おうとしていることを理解する。

「探してみよう」

 さほど広くない地下室だ。おそらくすぐに見つかるはずだ。

(ん?)

 地下室に転がるように入ったため、最初は気づかなかったが、よくよく見ると地面に大人1人と子供1人の足跡があった。

(やはりここに.......)

 慎重に物置の隙間を見て行く。すると、ガタッという物音が鳴る。

「いました!」

 音の発生源の近くでウィリアムが声を上げる。そこに向かうと、フェン王国人と日本人の子供1人の2人がいた。

「よかった。君が——君だね?」

 5歳くらいの子供がコクンと頷く。その顔は恐怖に染まっていた。

「あ、あんたらは?」

 フェン王国人が誰何してくる。

「この子供を探しに来たんだ。守ってくれてありがとう」

「あぁ、だけど外にバカの連中がいるんだろう? どうやって来れた?」

 バカの連中がパーパルディア皇国のことを喩えていると理解する。

「コソコソと、2人始末したがなんとか来れた」

「すげぇな」

 若いフェン王国人は感心する。

「さて、バカ言ってないでどうやってここから出るか」

 ニシノミヤコをどうやって見つからずに移動するかをレイモンドが思案していると、地下室の上—-無事な家屋の扉を蹴破る音が鳴る。

(静かに)

 ジェスチャーで静かにするように合図する。

「おい、いたか?」

「いません。やはり気のせいでは?」

「念のため探せ。全ての物をひっくり返せ」

 ガタっ! ゴトッ! とあらゆる物が倒される音が鳴り響く。

(まずいな......)

 このままだと見つかってしまうだろう。

(奥へ2人を)

 レイモンドはウィリアムに2人を奥に隠すよう指示する。ウィリアムは2人を連れて先程と同じ場所に押し込む。

 だんだんと音が近づいてくる。

「あ! 隊長、これ!」

 どうやら地下室へと続くハッチを見つけたらしい。

「地下室の扉か?」

「おそらく」

「探せ」

 ハッチがこじ開けられる。

「やはり地下室のようです」

「暗いな.......明かりを」

 何か呪文のような声がすると、地下室がポッと明るくなる。

「足跡があります。それも5人くらいです」

「ほぅ......」

 兵士の報告を受けた隊長は面白そうな顔になる。

「出てこい! 大人しく投降すれば、保護すると約束しよう!!」

(さて、どうするつもりだ? フェン王国の民よ)

 

『出てこい! 大人しく投降すれば、保護すると約束しよう!!』

 そう言われて素直に出るほどレイモンドらは馬鹿ではない。

「どうします? おそらく複数の兵士が外にいるでしょうし.......」

「強行突破は無茶を通り越して無謀です」

 万策尽きた。そう表現するしかない状況にレイモンドは頭を抱える。大人しく投稿したとしてもいい扱いは受けないだろう。だが、投稿すれば、少なくとも命の保証はされる可能性が高い。

「——-」

「待て。逃げ道が一つある」

 若い男が提案をしてくる。

「ニシノミヤコに限らず、アマノキでもそうなんだが、地下水道が整備されているんだ。その入り口はニシノミヤコの東側の外れにあって、その地下水道はアマノキに程近い海岸に繋がっている」

「! おぉ、強行突破する価値が出てきたな」

 レイモンドらの顔が一様に明るくなるが、対して若い男は一段と暗くなる。

「だが、その水道.......パーパルディア皇国兵士が気づいていないとは考えずらい。地下水道の入り口はかなり目立っているからな」

 その希望は提案した本人によって容易に打ち砕かれる。

「だが、やるしかない」

 レイモンドは覚悟を決める。

「いいか? よく聞け」

 レイモンドは大雑把な作戦を説明する。

 包囲している兵士の数によって作戦を実行するかしないかは適当に合図する。もし実行できたら複数の兵士を人質に取る。ジェームズとウィリアムは、できるなら上官を人質に取ってくれ。

 つまるところ、人質作戦。

 人質を取ることにより、なんとか地下水道にまで辿り着こうという魂胆であった。

「まさしく博打ですね」

「ま、せめて子供とあなただけでも逃しますよ」

 命を賭ける事態だというのに、この男たちはなぜ笑っていられるのか。若い男はずっと心に疑問を抱いたままだった。

「じゃあ行くか———わかった! 投降するから手を出さないでくれ!」

 

 地下室から男4人、子供1人が出てくる。5人を広場へと連れて行き、跪かさせる。

「ほぅ。そこの以外、フェン王国人じゃないのか.......どこの出身——」

 隊長が興味深げにレイモンド達に近づいたところでその顔が驚愕に包まれる。

「.......貴様——」

 口をパクパクとさせる隊長。

「まさかムーの人間?」

「ムーだと.....」

「ま.....まずいな......」

(何を言ってるんだ?)

 言葉が理解できないのではなく、隊長らしき人物が言っていることがよく分からないのだ。 

「貴様、出身はどこだ?」

 この隊長が何を言っているのかは分からないが、それでも敢えて乗ってみせる。

「そうだ......ムーの人間だ」

 必要以上の答えは言わないでおく。

「うぐっ......ただの民間人とはいえ、手を出せば流石にまずいか......」

 若干困惑気味の5人を置いて、パーパルディア皇国兵士たちは話を更に飛躍させていく。

(このままなんとか誤魔化せそうだが.......フェン王国の奴と子供が取り残されてしまう........)

「よし、そこの3人を解放しろ。上空にいるワイバーンへ通信しろ、『空襲は当分の間控えるように』と」

「了解」

「待て」

 兵士がレイモンドらを立たせようとした時、ウィリアムが声を上げる。周囲の目がウィリアムに集まる。

「そこの2人は我がムーの友好国の内の一つ、日本国の人間だ」

 極一部の兵士がどこの国だと思うなか、大多数の兵士が一様に困惑した顔になる。隊長を除いて。

「日本、だと.....!」

「あぁ.......あなたたちは知らないかもしれないが、日本国は間違いなくムーをも上回る力がある」

「だからなんだと?」

 少し手強いなと思いつつ、ウィリアムは続ける。

「フッ。たかが1人や2人だと思っていると、いつかパーパルディア皇国は痛い目に遭うだろう」

 言い切ったウィリアム。かなり具体的に脅したから、ある程度は理解できるだろうと思った矢先。

「き、貴様、いくらムー人だからといって皇国を愚弄するつもりか!!」

 そう言いつつ、激昂した兵士が剣を持ち斬りかかろうとする。

「っ!」

 ウィリアムの背後にいたため、反応が遅れてしまう。だが、兵士の剣があらぬ方向へと強制的に変えられると、そのまま剣を奪い取られて首に突きつけられる。

「グハッ!」

 また1人、同じような状況になる。隊長が呆気に取られつつも状況を把握しようとする。そしてすぐに理解する。

「き、貴様ら——ぐっ!?」

 全員の注目が人質となった兵士へと向けられていたため、隊長にジリジリと近づくウィリアムに気づけなかった。

「悪いね。あんたには人質になってもらう」

「貴様、ムーの人間ではないな? ましてや民間人でもないな!?」

 隊長がそう喚き散らすのを、レイモンドは不敵に笑いながらフェン王国人と子供を守るように立つ。

「あぁ。ムー人でもないし、日本人でもない」

 レイモンドは日本語ではなく英語で言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    『We are American(俺たちはアメリカ人だ)

 

 そう。彼は——彼らは自由の国である、アメリカ合衆国の国民なのだ。世界最強の国の国民なのだ。




 アメリカは世界最強。異論は認めない。

内閣総理大臣 上野の運命

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