異世界に、日本国現る    作:護衛艦 ゆきかぜ

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『ラファエル・ペラルタ』の戦い

 ニシノミヤコ陥落の報がフェン王国侵攻軍司令部へと届けられる。

「やっと落としたか」

 シウスが唸りながら言う。

 軍事力で圧倒的な差があったと言うのに、街一つを落とすのに犠牲者が多すぎた。

「シウス司令。ベルトラン将軍からの連絡ですが、フェン王国人1人を捕らえたそうです」

「.......1人だと?」

 今までの戦争の中で、街一つを落として得た虜囚がただ1人だったと言うことは一度もない。

「はい。そして、アメリカ人を名乗る人物を殺したとのことです」

「ん? どう言う意味だ?」

 わざわざそのような報告をあげてくると言うことは、何か意味があるのだろうと思い、問い返すものの——

「わかりません。ベルトラン将軍からの魔信に含まれていました」

 淡々と報告してくる副官を他所に、シウスは深く考え込む。

(アメリカ人だと? そのような民族など、聞いたことがない)

 長いこと、パーパルディア皇国軍にて戦争に従事してきたが、少なくともこの世界にアメリカ人などと言う民族は存在しないことは確かであった。この世界には、だ。

「まぁいい。虜囚を大量に抱えても足手纏いになるだけだ。それより——」

 シウスは声のトーンを落とす。

「首都空襲の準備は?」

 シウスは陸軍部隊に対する援護として、首都空襲を画策していた。そして砲艦約20隻を首都沖合に派遣し、艦砲射撃を行おうともしていた。

「既に整いつつありますが、事前に偵察を思わせようと考えています」

「無論許可する。念入りにやるよう伝えておけ」

 竜母から三騎のワイバーンロードがアマノキの偵察へと向かう。

 

 ニシノミヤコ上空を飛行している鳥がいた。その鳥は胴体下部にある目をギョロギョロと動かし、睥睨する。不思議なことに、その鳥は羽を幅たせることなく、代わりに、虫の羽のような音を立てて空を飛んでいる。

 それは鳥ではなく、国防空軍の無人偵察機『MQ-2』であった。

 無人偵察機が得た映像はリアルタイムでアマノキ防空任務に就いている『ラファエル・ペラルタ』の元へと届けられる。

「コンタクト。ドローンが空母から発艦するワイバーンを捉えました」

 画面に三つのブリップが表示される。

「.......三機だけか」

 艦長のブラッドレイ中佐だ。

「はい。おそらく偵察が目的と思われます」

「防空ラインに侵入した時点で撃墜だ」

「了解。ESSM、スタンバイ」

 防空ラインはアマノキのほぼ上空に設定されている。『ラファエル・ペラルタ』からの距離は約40kmだ。本来なら約60kmのラインが望ましいのだが、米国はあくまでも戦争に関わるつもりはないという意思表示のためにこういう処置が取られた。

「通信に警告しろ。通じるかは知らん」

「了解」

 通信員が魔信のスイッチを入れ、警告を開始する。

「こちらはアメリカ海軍駆逐艦『ラファエル・ペラルタ』。アマノキへ接近しようとするワイバーンに通告する。貴機は避難作業中のエリアへ侵入しようとしている。直ちに左旋回し、当該空域から離脱せよ。繰り返す——」

 

 この警告は上空を飛行している竜騎士がしっかり聞いていた。

「と、言ってますけど?」

「はっ! 皇国軍に警告するなど、恥を知ってほしいものだな」

「そうですな!」

 『アハハ!』と笑う竜騎士たち。

「そうは言っても、警告してきた恥知らずの正体は知りたい。警告してきたということは、既に捕捉されているな.......低空に降りるぞ」

「「了解」」

 軽口は叩いたものの、彼らは気を抜くことなく敵の正体を暴こうとする。

 

 アマノキに近づいてきたブリップが画面からフッと消える。

「レーダーロスト。低空飛行に移りましたかね」

「流石にマジックレーダーがあるだけはあるな。対レーダー戦術を理解してる」

 レーダーがワイバーンを失探(ロスト)してもクルーは驚くことはなかった。

「AWACSさえいれば......」

 火器管制官が苦悶の表情でそう言う。確かにAWACSがいたら、フェン王国全体、そして周辺の状況を瞬時に把握できるだろう。

「無いもの強請(ねだ)りををしても仕方ない。全力で対処だ」

「了解」

 彼らは一瞬の気を抜くことなく、目標の再探知に努める。

 

 編隊はレーダーの探知を避けるため海面スレスレを飛行していた。彼らの練度の高さが窺える。

「まもなくアマノキ! 全員警戒配置!」

 密集体型から間隔を広く取り、警戒配置へと移行する。

「........見えた!!」

 アマノキの沿岸に灰色の巨大船が見えた。

「フェン王国があんな船を持てるはずが無い。間違いなく警告してきたやつだ」

 隊長が敵の評価をしている中、僚騎は魔信にて母艦に偵察状況を報告する。

「アマノキ沖合にて灰色の巨大船を確認。全長、約150m。武装は艦首に魔導砲らしきものが一門。その他の武装は見当たらず」

 その後も報告を続けていたのだが、ムー製の双眼鏡で巨大船を見ていた隊長が衝撃の光景を目の当たりにする。

「爆発?」

 敵艦の艦首部分から猛烈な煙と炎が現れる。その煙は真っ直ぐ上に上がるとこちらに指向する。

「敵の攻撃か! 全騎散開!」

 各々回避行動を取る。だが、更に驚くことになる。

「ついてくる!!!」

 反射的に魔信スイッチを入れて、そう叫んでいた。

 上空に黒い花が三輪咲いた。

 

『ついてくる!!!』

 それ以降、通信が入ることはなかった。

「こちらからも呼びかけていますが、未だに応答がありません。おそらく撃墜されたものかと」

 シウスは腕組みをしながら計画を立てる。

「艦がワイバーンを落としたのなら相当な高性能艦だろう。だが、一隻のみ.........」

 全力出撃を命じれば、すぐにでも撃沈できるだろう。だが、高速で飛行しているワイバーンをこんな短時間で撃墜できるほどの技量を持つ艦がいる.......。

「司令、やはり陸軍の侵攻のためにも攻撃すべきです。撃沈に至らなくても、せめてフェン王国から引き離さないと.......」

 参謀の言う通りだ。

「.......どの程度出すべきだ?」

「陸軍の援護、艦隊の直掩もありますから........保有騎の5割は出すべきかと」

「.......6割で行こう」

「了解」

 念には念を、で約140騎による航空攻撃の実施が決定された。

 後方の安全海域を遊弋している竜母艦隊に攻撃命令が下される。

「発艦用意!」

 艦首を風上に向けて全速で動かし、そこに風神の涙による人工風を形成、ワイバーンの発艦を補助する。

 大空へと飛び上がるワイバーンロード。140騎がそれぞれに編隊を形成し、攻撃目標へと向かう姿は圧巻であった。

「頼んだぞ」

 はっきり言うなら、この攻撃の成果次第でフェン王国侵攻計画を根底から変えかねない。

 シウスの願いは大空へと吸い込まれるのだった。

 

 ◆ 日本国 国防省 

 

 ワイバーンが発艦する様子を捉えた映像が統合運用室に流される。

「詳細な数は不明。100を超えているものと推測されます」

 海・空関係者が騒つく。

「イージス艦といえど、制空権がない状況では攻撃を受ける可能性があるぞ!!」

 加えて対空戦闘に不利な位置。避難作業の支援を行なっていた結果であった。

「距離は約80km」

「くそっ! 第一護衛艦隊は絶対に間に合わない!」

「艦載機は? 艦載機ならどうだ!?」

「無人空中給油機を使用したとしても、足が届かない。第一、パイロットの負担が大きすぎる」

 議論は段々と白熱する。仲間(友軍)が自分たちの国のみならず、日本人とフェン王国人を守るために戦っているのだ。すぐそこで戦っているのに、自分たちだけ蚊帳の外という状況に、彼らはイラついていたのだ。

 議論はただの罵り合いになろうとした時、上座についていた白井が『静かに』という一言で、騒音は収まる。

「........全員、耳を澄ませ。全員が証人だ」

 白井が何を言っているのかよく分からなかった幕僚らだったが、素直に従う。

 白井は卓上に置かれた受話器を取り、どこかに電話を掛ける。相手はすぐに出た。

「安藤司令。白井総隊司令だ」

「第一護衛艦隊の司令?」

「......まさか」

 一部の幕僚が察する。

「貴官に友軍援護の命令を下す。直ちにワープし、友軍を救援せよ」

 部屋は物音一つないため、向こう側の声もハッキリと聞こえた。

『しかし、防衛出動が発令されていませんが!?』

「そうだ。だからこそ、私が責任を取る。貴官は......一切の気兼ねなく任務を果たせ! 安藤!!! これは命令だ!!!!」

 急な怒声に要員がビクッと肩を上げる。

『.......分かりました』

 弱々しい安藤の声が部屋に残ったのだった。

 ガチャ、と音鳴らし、受話器を置く。

「.......さて、命令違反の時間だ。ここから先は俺の独断専行だ」

 そう言うと、白井はあちこちに電話を掛け始める。

 海軍の第四機動部隊、空軍の第三航空団の部隊に待機命令を発動。陸軍中央即応連隊、第41戦闘旅団にフェン王国への移動準備命令。

「何をしてる! 司令1人に任せるつもりか!! さっさと仕事に移れ!!!」

 それまで呆気に囚われていた幕僚たちが、雲野副司令の喝によってパッと動き出す。

 静かだった部屋は再び騒音に包まれる。

「ったく......どうするつもりなんですか? 司令」

 雲野が白井のもとに来るなり、そう聞いてくる。

「すまん。ありがとうな。お前たちを巻き込むことになるが......」

「結構です。まさか人生初の反抗が国家に対する反抗になるとは思いはしませんでしたがな」

 いつも通りに接してくれる雲野に白井は心の中で感謝するのだった。

 

 

 フェン王国に向かって約30ノットで突き進む第一護衛艦隊。

 総隊司令直々の命令を聞き終えた安藤はため息とともに受話器を戻す。

 司令官室から艦橋に上がる。

「いずも艦長、中央からの命令だ。戦闘中の友軍を救援せよとのお達しだ」

「ワープ航法の許可が?」

「司令の独断専攻だとさ。我々はそれに全力で応えるだけだ」

 全てを察したいずも。いずもはインカムのスイッチを入れる。

「『いずも』より『たくみ』『あきづき』。フェン王国にて戦闘中の友軍の救援を命じます。直ちにワープ準備に入ってください」

 『了解』と両艦艦長から返事がくる。

「近海の安全が確認され次第、我々もワープに入る」

 第一護衛艦隊は直ちにワープ準備に入るのだった。

 

 ◆ 『ラファエル・ペラルタ』 CIC

 

 イージス駆逐艦『ラファエル・ペラルタ』はフェン王国首都アマノキの沿岸にて遊弋、警戒配置についていた。

 彼女の任務は、在留邦人を守ることであった。

 艦長のブラッドレイ中佐はCICの艦長席にて瞑目していた。

 レーダー画面を凝視していたレーダー員が敵艦隊の位置を報告し続ける。

「フェン王国、ニシノミヤコ沖10kmでパーパルディア皇国艦隊、その後方20kmに空母艦隊の反応です」

 画面に表示される輝点ブリップの数は、地球のを基準にするとかけ離れていた。

「AWACSはまだなのか?」

 火器管制官が苛立ち気味に聞く。

「再三司令部へと要請していますが、未だに......」

「イージス艦の能力は連携で発揮するんだぞ......それを理解しているのか?」

 個より集団での戦闘重視の弊害がでていた。

 

「.........!」

 画面に映るレーダー情報を凝視していたレーダー員が鋭く報告を上げる。

「空母艦隊から多数の艦載機の発艦を確認! 数は未だ上昇中」

 すると、今まで腕を組んで目を閉じていた艦長が目を開けた。

 そして重々しく『ついに来たか.......』と言う。

 その言葉にCIC要員一同が気を引き締める。

「避難作業中のヘリに退避命令を発令」

「了解」

 アマノキにて人員輸送を行っていたMH-60Sに退避命令が発令される。

「敵航空機、数は約140機。速度100ノット.....更に増速、120ノット」

「140.......ロウリアの時に比べたらかなり少ないが.......」

 あの時は艦隊での迎撃、及び、強大な防空能力を持つ日本の戦艦が対応したからこそ無傷で勝利せしめた戦いなのだ。今回とはまったく違う。

「目標群識別を開始」

 ブリップにそれぞれ、a、b、c、d、e、f、gと割り振られる。

 CICの緊張感が更に増して行く。

「増援はないな?」」

「艦載機も無理か」

「第一護衛艦隊が全速でこちらに向かって来ていますが......」

 40ノット以上の快速を誇る日本の護衛艦がこちらに全速力で向かってきているらしいが、2日も掛かるのだ。到底間に合わない。

「まもなく防空圏に侵入します!」

「了解.......」

(約140機か)

 現代戦に於いて、これほどまでの攻撃に晒されたことはない。ましてや艦隊への攻撃ではなく、単艦にだ。

 速度は遅い。イージスの能力を持ってすれば対処は可能だろう。だが、もし撃ち漏らしたら——

 艦長は決断する。

「システムをハルマゲドンモードへ」

 艦長のその言葉にCICが静寂に包まれる。

「全自動迎撃モードですか........?」

「あぁ、単艦で対処できる能力を上回っているのなら、それを超える力を使うだけだ」

 中佐は冷徹に答える。ここで起きているのは戦争なのだ。

「.........分かりました」

 火器管制官が重々しく宣言する。

「これより、ハルマゲドンモードへと移行する」

 その宣言を聞いた各攻撃士官がデバイスから手を離す。ピピピッ! という電子音とともに、システムがハルマゲドンモードへと移行したことが知らされる。

 艦橋に於いても、舵輪やスロットルレバーから手を離された。

 この艦は、人の制御を離れたのだ。

 

 『ラファエル・ペラルタ』はレーダー情報をもとに判断した高脅威度目標に対して直ちに反撃を行う。

 まずは艦載機を発艦させた敵艦に対してハープーン全弾の発射を行った。発射されたハープーンはロケットブースターにて加速した後、ターボジェット推進へと移行。空母艦隊へ真っ直ぐ飛んでいった。

 空母艦隊への攻撃を完了し、『ラファエル・ペラルタ』は回頭を行い、射線を確保する。

 射線の確保を確認し、全力攻撃を開始する。

 前部後部のVLSからSM-6が発射される。発射されたSM-6は母艦の誘導を受けて真っ直ぐワイバーンの編隊へと突き進んでいく。ミサイルシーカーが起動し、イルミネーターの誘導が外れる。そして、すぐさま次弾のSM-6が発射される。

 『ラファエル・ペラルタ』は自身の煙に包まれながらも戦闘を続行する。

 

 竜母から発艦したワイバーンロードは、各小隊が編隊を形成し、それぞれ海岸線に沿うようにアマノキへと向かっていた。

「にしても」

 竜母『ミール』から発艦したワイバーンロード隊の隊長は呆れともおぼつかない感情を心に浮かべる。

「多すぎるんだよ」

 たかが一隻への攻撃に140騎は多すぎる。これではこの数が逆に足枷になりかねない。

「ん?」

 そんな愚痴を吐いている時だった。前方からまるで真っ青な絵に染みのようなものが現れたのは。彼は仲間へ知らせるべく魔信のスイッチを押す。

「各騎警戒せよ。正面下方——」

 彼の意識はそこで消えた。

 

 ドォォン!! という音ともに前方を飛んでいた小隊が全滅する。

「なっ!」

 反射的に旋回しようとするものの、魔の手は彼らを逃さない。

 SM-6は近接信管を作動させ、調整破片弾を周囲に撒き散らし、もれなく死をデリバリーする。

「回避! 回避ィィ!!」

 栄光あるパーパルディア皇国海軍ワイバーンロード隊はなす術なく撃墜されて行く。

「低空飛行だ! 海面スレスレを飛べ!!」

 生き残った50騎が海面スレスレを飛んでいくが、低空飛行に慣れていない新兵が海面にワイバーンロードともども叩きつけられて脱落して行く。残り40騎。

「待ってろよ.......!」

 竜騎士たちはまだ見ぬ敵に対して激しい憎悪を抱くのだった。

 

 『ラファエル・ペラルタ』のCICにてレーダー員が報告をあげる。

「レーダーロスト。目標群αは低空飛行へと移行した模様です。数は50」

 失探した時、10騎がいなくなっているのだが、彼らは知る由もない。

「全方位同時攻撃、波状攻撃に注意せよ。艦載機を上空に上げろ」

 今まで退避していたMH-60が高度を上げてレーダー捜索を行う。探知距離は短いものの、それでも地形に影響されず、水平線の向こう側も探知できるため、索敵に動かす。

 

 『ラファエル・ペラルタ』はその無機質なコンピューターの駆動音を響かせながら静かに状況を把握する。

(水平線の下に隠れたか。艦載機のレーダー探知はギリギリ間に合いそうにない........近接防空戦闘か.......)

 水平線の距離が前世界とは違い、約17kmあるため、有視界距離に入るのはすぐだ。ただ近づかれ過ぎるとVLSの都合上、至近距離は狙えない。

(8kmの敵をミサイルで優先的に排除。以降は艦砲、近接防空火器で対処)

 敵がどんな状態であろうと構わない。『ラファエル・ペラルタ』は創造主の望み(プログラム)に従い、迫り来る脅威を全て殺すことが仕事なのだから——

 

「レーダーコンタクト! ロストした編隊です、数は40」

「40? 残りの10騎は?」

「ノーコンタクト」

 艦長がインカムのスイッチを押そうとした時、艦橋の見張りから報告が入る。

「敵編隊視認。本艦右舷40度、速度120ノット。真っ直ぐ近づく」

 報告が終わるのと同時に、後部VLSからESSMが発射される。

「敵編隊、まもなく本艦の懐に入ります」

 ESSMはまだあるものの、10km圏内に入られると、VLSの都合上かなり当たりづらい。

「マークインターセプト。残り34」

「1対34か........」

 艦長は冷や汗を流す。鈍足であり尚且つミサイルへの対抗手段を持たない連中だ。といえど、その攻撃は同じイージス艦である『チャンセラービルズ』の被害によってその脅威が証明されている。防空の鬼(イージス艦)とはいえ、30騎以上ものトカゲに取り憑かれてはひとたまりもない。

『ジリッ.........』

 インカムにノイズのような音が走る。

「ん?」

 火器管制官がそのことに気づくも、無線の不調だと結論する。

「懐に入られました........」

 『ラファエル・ペラルタ』の戦いは佳境を迎える。

 

(推奨BGM ジパングのあれ)

 

「全騎、突入進路を確保!」

「了解!」

 残存した竜騎士たちは眼前を航行する『ラファエル・ペラルタ』に対して憎悪の視線をぶつける。密集体型だと1発の矢で複数騎が落とされるため、5騎編隊で各個攻撃を行うつもりだった。

 今まで撃ってきた必中の矢はどうやら底が尽きたらしい。偵察隊の報告通り、艦首に魔導砲が一門確認できるが、魔導砲は艦に当てるのにすら苦労するのに、万が一にでも空中を高速で移動するワイバーンには当たらない——-のだが、魔導砲が旋回し、こちらに砲口を向ける。

「たかが一門の魔導砲で、何ができるというのだ?」

 隊長は思わずそう口にしていた。

 

『右対空戦闘。目標群α。主砲、撃ち方始め』

 イージスシステムの管制下にあるMk.45 5インチ砲.mod4がワイバーンに対して牙を向ける。

 ダン! ダン! ダン!

 その速射性能は高くはないものの、この時代の砲火器の装填速度の常識を上回る速度で砲弾が発射される。

 超音速対艦、極超音速対艦ミサイルすら迎撃可能な主砲を、時速120ノット程度のワイバーンロードに向けたらどうなるか。容易に想像できる。

 砲弾は戦闘を飛ぶワイバーンロード命中。立て続けに編隊に命中し、消滅した。

「目標群α、撃墜!」

『続いての高脅威度目標を攻撃』

 主砲が連続して火を吹く。低空から艦に近づく目標を優先的に攻撃する。

『低空目標排除』

 残り28騎。

 『ラファエル・ペラルタ』はシステムをフル稼働させる。

 

 ガン! ドゴォォン!

 低空を飛行していた仲間が爆発音とともに爆発四散する。

「クソッタレが! 全騎続け!」

 上空から一気に急降下、高性能な魔導砲といえど、仰角を直角までに取れるわけがない。

 12騎が『ラファエル・ペラルタ』を目掛けて急降下を開始する。

 

 『ラファエル・ペラルタ』は直ちに回頭。ワイバーンロードの懐に入り込もうとする。そしてCIWSとODINを起動。

 コンマ数秒のスピンアップを行い、轟音とともに銃弾の雨を編隊に浴びせる。そしてODINはCIWSでは捌き切れない目標に対してレーザーを照射する。

「ガッ........!?」

 急降下していた竜騎士たちは銃弾の雨と高出力レーザーに絡め取られ、この世から去る。

 

『っ!』

 コンピューターからの警告が入る。編隊ではなく個々で接近してきているワイバーンがいた。数は14。

『主砲は間に合わない。CIWSとODINで対応』

 ——が、CIWSは先程の射撃で残弾がかなり厳しい、数秒の射撃で底を尽きるだろう。

 『ラファエル・ペラルタ』はそれを無視して実行。ODINも攻撃させる。

「2騎撃墜! 残存機との距離、1マイル!!!」

 レーダー員が絶叫に等しい声を上げる。

『迎撃は間に合わない』

 『ラファエル・ペラルタ』が持つ武器はほとんど撃ち尽くした。主砲はデンジャークローズのため使用不可。ESSMがまだ残っているが、同じくデンジャークローズ。ODINはまだ使えるが迎撃効率が悪い。

 この状況で、創造主を守るために取れる最善の行動........それは。

 

『ジジジッ!!!』

「っ.......」

 ヘッドセットに強烈なノイズが走った。

「なんだ?——うおっ!?」

 艦が左に大きく傾く。

「右に舵を切った?」

 すると、今まで沈黙していた主砲が再び攻撃を再開する。

「前方に位置してる敵機を優先的に攻撃をしています」

「どうしてだ.......?」

 ラファエルはいったい何をしようとしているのか。

「どこへ向かおうとしている」

 チャートを睨むCICオペレーター。右回頭し、真っ直ぐ沖合へと向かっている。

「そういうことか.......艦長」

「ん?」

「どうやらラファエルは民間人を戦火から遠ざけようとしてようです」

 何かしらの流れ玉が当たる可能性を考慮したのだろう。それはわかったが、この時点でその行動を行う理由が理解できなかった。

「分かった。だが——」

 一つ杞憂があった。

「そんなことを、機械が——イージスシステムができるのか?」

「分かりません。ただ、本艦はイージスシステムの管制下にあります。そこから察するに、自身の思考に基づく判断を下していると言えるでしょう」

 もはや事前のプログラムで設定された、イージスシステムの範疇を超えている。

「ラファエル.......最後まで任務を果たそうと......」

 艦長は思わずそう呟いていた。

 

「よし。もう少しだ」

「あいつ、魔力切れのようですね。全く撃ってきません」

 全周囲から攻撃を仕掛けた竜騎士たちだったが、敵艦は前方にのみ攻撃を行っていた。後部からの攻撃は一切ない。

 「今度こそやれる」と全員が確信する。

「よし! 全騎、我に続け!!」

 愛騎に導力火炎弾の発射準備を指示する。火球が形成され、発射準備が整う。

「発射!!」

 残存騎8騎から放たれた八つの火球。『ラファエル・ペラルタ』へと真っ直ぐ向かう。

 そして——

「2発命中!」

 巨大船を見ると、艦中央部と艦尾にある平らな甲板に命中していた。艦中央部に命中したのは、大きな破口を形成した。

「ざまぁ見ろ!!」

「仲間の仇だ!!」

「よし、このまま畳みかける!!」

 そう言いながら攻撃体制を取ろうとしたとき、ちょうど灰色の艦と編隊の中間地点の空間が歪んだように見える。

「ん?」

 歪みはやがて大きなうねりとなり——

「な!?」

 轟音、氷が割れるような音を伴いながら空中に艦が出現する。

「ど、どうなって........!?」

 刹那——-その艦から猛烈な対空砲火が向かってくる。

「は?」

 光弾の雨、外れることのない矢、あらゆる攻撃がワイバーンロード隊へと向けられ——10秒以内で上空を飛行していたワイバーンロード隊は全滅した。

 

「あれは.........」

 艦に設置されているカメラの映像を見た艦長。その途端、思わず顔がにやけてしまう。

 その艦は空中に白い航跡を描く。

「国防宇宙海軍の『たくみ』です」

 そう報告した士官の声も安堵に包まれていた様子であった。

「助かった!!」

「よかった!!!」

 口々に喜びを分け合うクルーたち。絶望的な状況でありながらも奮闘した甲斐があったというものだ。

「艦長、ハルマゲドンモードを解除します」

 火器管制官が艦長に聞く。

「システム解除」

「システム解除」

 システムがシャットダウンする寸前。それは聞こえた。

『無事でよかったです』

 男性とも女性にも聞こえる声で、『ラファエル・ペラルタ』クルー全員の耳に入った。

「.......聞こえたか?」

「はい、間違いなく」

「..........」

 ブラッドレイは艦長席から立ち上がり、艦尾方向に体を向けて敬礼する。CIC要員だけではなく、クルー全員が星条旗に敬礼をした。

 そして更に喜ぶべき事態が発生する。

『こちらダメコン班! 幸いにして、死者はいませんでした!!』

「よっしゃぁぁぁーー!!!」

 ついに喜びを爆発させるクルー。

「これがアメリカ合衆国の力だ!!」

 仕事を着実に行いつつも、艦内はお祭り騒ぎになるのだった。

 

 

「空中目標排除。その他の目標確認できず」

 レーダー士官が報告する。

「了解。引き続き警戒せよ」

 砲雷長が「ふぅ」と息を吐く。

「ワープアウト後の即対空戦闘でしたが、なんとかなりましたな」

「ホントホント、グラビティダメージで機関が数十分まともに機能しないっていうのにね」

 砲雷長の言葉にその特徴的な茶髪を振り乱しながら同意するたくみ。

「艦長、『ラファエル・ペラルタ』と交信しましたが、ほとんどの武装が枯渇してしまい、戦闘行動不可とのこと。任務引き継ぎの要請です」

「承諾して。それと『貴艦の奮戦に感謝する』と付け加えて」

「了解」

 たくみはモニターに映る『ラファエル・ペラルタ』を見る。艦中央部とヘリ甲板に大きな破口があるが、幸いにして死傷者はいなかったとのことだ。

「さて、気を引き締めていきましょう。まだ戦いは終わっていません」

 たくみのその言葉に、乗員全員が気を引き締めるのだった。

 

 ◆ 日本国 国防省

 

「—-『ラファエル・ペラルタ』はハルマゲドンモードを起動し、脅威目標を撃墜。被弾したものの、幸いにして死傷者は発生しなかったとのことです」

「”たくみ“と”あきづき“が間一髪で間に合いましたか.......」

「第一護衛艦隊もワープし、フェン王国の防備に入ります」

「第一輸送隊も順次ワープに入らせます」

 迅速な邦人救出のため、フェン王国へ向かっている艦船全てをワープさせる。空軍もAWACSを中心としたサポートパッケージを進出させる。

 全員がフェン王国に取り残されている邦人のために動く。

 そんな時であった。

「司令。官邸にいる広瀬大臣からです——」

 副官が電話を白井に渡してくる。白井は部屋から出て電話に出る。

「もし、白井だ」

『...........』

 相手は無言のままだった。

「すまん、そっちに迷惑を掛けた」

『.......なんて言えばいいのか分からない。だが、総理がご立腹だ。すぐに官邸に来い』

「分かった」

 部屋に戻り、副官に携帯を返す。

「官邸に行く。すぐに準備してくれ」

「分かりました」

 副官付きが部屋を飛び出て行く。

「雲野、官邸に行く。後は頼んだ」

「分かりました、1発かましてやってください」

 白井は雲野の冗談には答えず、部屋を後にするのだった。

 

 司令官用車の日産フーガに乗り、官邸に向かう。

 フロントガラスが雨により滴る。空は暗かった。

「司令官はどうしてこのようなことを?」

 助手席からバックミラー越しに副官が聞いてくる。

「副官、今年で連勤何年目だ?」

「3年目になります」

 通常、副官の任期はおおよそ一年が普通だ。だが、この副官は純粋な副官として白井のもとで働いている。仕事に慣れてきた段階で異動となる国防軍だが、異例とも言えることであった。

「だったら、少しは分かるはずだ」

 副官は少し考え込み、答える。

「アフガンの二の舞を恐れた、とかでしょうか?」

「それもある」

 アフガニスタンの状況よりはだいぶマシなのが現状だ。各種法律の整備も整い、それを実行に移せるだけの力が日本にはある。だが——

「それもあるが、やっぱり怖さが出てきたんだ」

「怖さ?」

「あぁ。救える命がそこにあるのに、救えなかった.......そんな経験をした全ての人たちに、そして、この国を今に導いてくれた先人たちへの恐怖だ」

「........」

「だからこそ、やり切って後悔する」

 白井のその言葉に、副官は黙り込むのだった。

 

 車は直ぐに官邸に到着する。勝手知ったる官邸。迷うことなくNSCセンターに向かう。

 地下に続くエレベーターに乗り、NSCセンターへと入る。センターへ入るなり、視線が白井に集められる。

 哀れみ、怒り、困惑。さまざまな感情が入り乱れた視線。後ろを付いてきている副官は気不味そうにしていた。

「白井司令!! 君はなんて事を!!!」

 NSCセンターに怒声が響き渡る。首相の席からこの入り口までそれなりに距離はあるが、それでもハッキリと聞こえた声。取り敢えず、白井は距離を詰めてまともに話せる位置につく。

「君は一体なんてことをしてくれたんだ! 防衛出動を出していないというのに、部隊の移動、あまつさえ、護衛艦をワープさせるなんて!!」

「護衛艦をワープさせなければ、アメリカ海軍艦船が撃沈される恐れがありました。それに、仮に米イージス艦が空襲を防ぎ切ったとしても、武装は枯渇。逃げるしかありません」

「だからと言って——」

「簡単な話です。私を解任すればいいのです」

 人事は国防省が行うものの、最終的な承認、拒否、解任は内閣府に一任されている。首相の一言で首を切ることなど容易いことなのだ。

「その上で防衛出動待機命令、防衛出動を発布すればいい。そうすれば、現場の暴走ということに仕立てれる。私もそれに協力しましょう」

 

「白井司令、あんな顔するんですね」

 大臣補佐官が物珍しいものを見る目で上野と白井の会話を見ていた。対して、広瀬の顔は段々と険しくなっていく。

「........あいつ、自分の首と引き換えに邦人を守るつもりだな」

「え?」

 大臣として、そして友人として止めなくてはならない。そう思い、口を開いた瞬間——

「君を解任する!!」

 上野と白井がどのような会話をしていたのか不明だが、どうやら逆鱗に触れたらしい。解任を告げられた白井はどこか冷静な表情で上野のことを見ていた。

「分かりました」

 そう言いながら、左胸につけてある国章を外し、上野の前に置く。

「では、これにて」

 白井があっさりと退場する。センターを出る前に広瀬のこと一瞥してから出て行った。

「これからどうすりゃあいいんだ......」

 思わず愚痴をこぼす広瀬であったが、無情にも事態は更に進んでいくのだった。

 

 




 これ、自衛隊に入隊するまでに完結させられる自信が無い。
 保証できるのはグラ・バルカス帝国編の途中までだな.......

内閣総理大臣 上野の運命

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