異世界に、日本国現る    作:護衛艦 ゆきかぜ

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殲滅のメロディー

 

 第10戦車中隊はゴトク平野に進出。

 稜線射撃の体勢にて敵を待ち構えていた。

 

 辺りには長閑な景色が広がっており、とても戦地だとは思えなかった。

 野鳥が囀りながら、平野の丘陵に鎮座する40式戦車の上に止まる。

 

「雀みたいな鳥だな......」

 

 車長用の周囲監視装置で鳥を見る。

 

「異世界だっていうのに、文化は文明開花以前の日本にそっくりですからね。似たような生き物が居てもおかしくはないでしょう」

「それもそうだな」

 

『まもなく会敵予想時刻。全車、戦闘配置』

 

 中隊長車から指令が届く。

 5両の戦車が丘陵地帯に身を隠し、伏撃を狙う。

 その他の車両は稜線射撃の体勢に入った。

 

「第一弾は後方にある砲火力の殲滅か」

「艦載機による誘導爆弾の投下です」

 

 ゴトク平野にて展開される迎撃作戦は、敵部隊を直掩する戦列艦の無力化または撃沈。そして航空部隊による敵砲火力の制圧、そして機甲部隊と対戦車ヘリによる撃滅が想定されている。

 

『現在時刻1423。作戦開始時刻まであと2分』

 

 整合された時計を見る。

 まもなく戦闘が始まる........。

 

『作戦開始まで1分——-』

 

 デジタル表示されている時刻は刻々と進んでいく。

 

『—-3、2、1、作戦開始』

 

「Drop ready.Now,bombs awey.Laser on.......raising」

 

 その言葉とともに上空で待機していたF-4B戦闘機がJDAMを投下。JDAMは地上部隊のレーザー照射先に向かって真っ直ぐ落ちていく。

 殲滅のオーケストラの前奏が始まる。

 

 

 

 ゴトク平野に進出したパーパルディア皇国軍地竜隊は布陣を整えて進軍を再開していた。

 なだらかな平野には1人の敵の姿も見えず、平和なものであった。

 

「このまま進めばアマノキです。おそらく、平野の切れ目辺りに防衛線を布陣しているものと思われます」

 

 ベルトランと参謀は敵の布陣の予想を立てていた。

 平野は地竜が最大の力を発揮できる戦場。敵もそれを理解しているからこそ、平野には兵を1人も配置していないのだろう。

 

「ううむ。アマノキには確か例の正体不明の戦力がいるのだろう? それを頼りにしている可能性もあるな.......」

「はい。とにかく、ゴトク平野を占領し、アマノキに斥候を差し向けます。ワイバーンによる偵察は、海軍の報告通り危険と判断しました」

 

 情報が不足しすぎている、というのが、ベルトランと参謀らの共通見解であった。

 

「今、上空にいるワイバーンも下に下ろすべきか?」

「そうしたいのですが、斥候を前衛に出しすぎると、伏撃にあるかもしれません。偵察のためにも、下ろすことは......」

 

 できないと、参謀が言おうとした瞬間。

 上空にいたワイバーンが急旋回を始める。

 

『何かが——-!!!』

 

 魔信に竜騎士の絶叫が聞こえた瞬間、ワイバーンは爆発音とともに上空から消え去る。

 

「な、何が.......?」

 

 混乱するベルトランを他所に、事態は更に進行する。

 

「後方で爆発音!!!」

「何!?」

 

 ベルトランが後ろを見ると、魔導砲が配置されている後方が爆炎に包まれていた。

 

「何があった!?」

「落ち着いてください! 今、情報を収集中です!」

 

 混乱に包まれる地竜部隊を他所に、魔導砲が配置されている後方が次々と爆発していく。

 やがて、爆発が収まった頃には、部隊は悲惨な有様であった。

 

「ま、魔導砲が一門を残して全滅!?」

「い、一門しか残っていないというのか........!」

 

 失われたのは魔導砲とそばにいた兵士のみ。全体の1割にも満たない数だが、それでも重要兵器である魔導砲が失われたのは大きすぎる。

 

 そして、海上でも動きがあった。

 

「正面、巨大船を発見!」

 

 地上部隊の支援のために沿岸を航行していた戦列艦10隻は、正面から一隻で近づいてくる未確認船を発見した。

 

「ワイバーンロードを壊滅させた例の艦か.....」

「気を引き締めていくぞ!!」

「それにしても........」

 

 敵艦は速い。こちらの船速の倍以上はありそうだ。

 

「敵艦回頭!!」

「何!?」

 

 その報告に艦長は驚く。

 距離は約30km。砲戦距離にしては離れすぎている.........。

 

「発砲!! つ、続けて発砲! 信じられない速度です!!」

「転舵! 回避運動!!」

 

 10隻の戦列艦がそれぞれに回避行動を行う。

 だが——

 

「うお!?」

 

 猛烈な爆発音を立てて、隣を航行していた味方艦が轟沈する。

 

「しょ、初弾で——」

 

 艦長の言葉はそれ以上続かなかった。

 地上部隊援護のために沿岸を航行していた戦列艦10隻は、護衛艦『しらぬい』の攻撃の前になす術なく全艦沈没した。

 

 

 護衛艦『しらぬい』の艦橋にいたムー共和国海軍将校と士官は驚きに身を振わせる。

 

「交戦距離約30kmで初弾命中、しかも全弾命中させるとは.......」

「はい。しかも、装填速度も尋常ではない速さです」

 

 視察団の報告と、その後の交流によって日本国軍の実力は少しずつ明らかになってきてはいるが、実際にそれを見るとなると恐怖でしかなかった。

 もし、これがムーに向けられたとしたら.......。

 将校と士官の脳裏に、日本軍の攻撃を前になす術なく平伏していく様子が思い浮かぶ。

 

「味方でよかった」

 

 心の底からそう思うのだった。

 

 

 

 直掩の艦隊が全滅した様子はベルトランら地上部隊も目撃していた。

 

「皇国軍の戦列艦がなす術もなく全艦撃沈されるとは......」

 

 敵は予想以上かもしれないと、ベルトランが思っていると、参謀の怒号が耳に入ってくる。

 

「第一、ワイバーンを一瞬で落としたのはなんだ! ワイバーン一体を落とすのに苦労するのに!」

「戦列艦が一瞬で撃沈させられたんだぞ! アメリカ合衆国とかいう軍に違いない!」

 

 参謀のその一言に戦慄が走る。

 もしかしたら、平野に敵が潜伏しているかもしれない。

 

「各個撃破の危険性はありますが、斥候を出しましょう!!」

「あぁ、そうしよう」

 

 攻撃の正体が不明の中、参謀らはよく働いていると評価できよう。

 だが、敵はパーパルディア皇国軍の想像を上回っていた。

 

 

 

「敵、目視」

「中隊、射撃準備」

 

 第1小隊と第2小隊からなる第10戦車中隊は稜線にて姿勢制御を行い、稜線射撃の体制を取る。

 先鋒は第1小隊が担う。

 

「中隊射撃命令、対戦車榴弾。目標、敵装甲車。指名」

「距離2600。距離良し」

「撃て!!」

 

 40式戦車の120mm滑腔砲が火を吹く。

 

 

 

 ダン!!

 

「ん? 発砲音?」

 

 ガァァァーーン!! という音とともに、地竜が耳を塞ぎたくなるほどの断末魔をあげ、即死する。

 

「な、攻撃か!!」

「斥候からです! 正面左右に鉄竜が5騎ずつ。計10騎が魔導砲らしきものを撃ったとのこと、斥候からの連絡は途絶!」

 

 その間にも地竜に次々と砲弾が命中していく。

 頭から全てが吹き飛んだり、貫通して後ろにいた歩兵を数十人絶命させていくものまであった。

 

「とにかく、その鉄竜に攻撃をしよう! でなくては何もできん!!」

「は!!」

 

 地竜部隊が敵がいるであろうおおよその位置に前進するが、その間にも地竜が次々と死んでいく。

 

「このままだと、盾になる地竜が全滅します.......」

「くっ.......」

 

 だが、それでも前進する。

 そしてよくやくその場所に着いたものの、敵は既になく、足跡らしきものが残されていただけだった。

 

「くそっ! もう下がっていたか!!」

『正面! 敵鉄竜を発見!!』

 

 ベルトランが望遠鏡を使い、正面の丘を見る。

 

「な、なんだあれは........?」

 

 怪異。

 ベルトランは40式戦車を見るなりそう思った。

 その怪異が煙に包まれる。

 

「さ、最後の地竜が!!」

 

 パーパルディア皇国軍が精強である理由の一つ、地竜の全てが死んだ。

 

「くそっ! 撤退だ!!」

 

 陸将ベルトランは恐怖に支配されていた。

 城門すら一撃で吹き飛ばす皇国の切り札、陸戦兵器のけん引式魔導砲、これが一門を残して全損。

 地竜も全て全滅。

 自分達にあの鉄竜を打ち破る方法はない。

 

「どうする……」

 

 脳裏に降伏の2文字が浮かんだ。

 

「いや、それは出来ない」

 

 皇帝陛下の関心が高いこの戦いで降伏すると、一族がどんな目にあうか解らない。

 なら、転進すればいいのだ。

 一時的に撤退し、戦力を補充、また攻撃を再開すれば良い。

 ベルトランは撤退命令を続けて発出する。

 不思議なことに、鉄竜は何の手出しもしない。

 

「いったいどうするつもりだ?」

「後方に未確認飛行騎!! 騎数6!」

 

 ベルトランは後ろを振り向く。

 

「あれは何だ!?」

 

 後方に2騎、右後方に2騎、左後方に2騎。

 自分たちを囲むように虫のような物が空に浮いている。

 風車のようなものを回して空を飛んでいた。

 

「何をするつもりだ!」

 

 すると、羽虫の頭の下の辺りから、白い煙を上げながら、連続して陸戦隊に向かい、光の槍が猛烈な速さで飛んでくる。

 声を発する暇も無くそれは着弾、巨大な爆発と共に、陸戦隊の後方、右後方、左後方が被害を受ける。

 敵の飛竜が咆哮をあげ、光弾が連続して飛んでくる。

 飛翔してきた光弾は炸裂し、陸戦隊の兵がバタバタと倒れていく。

 隊の後方は恐怖に駆られ、前方の中心部に逃げる。

 しかし、隊の最前列は停止しているため、密集体系となる。

 

「あの飛竜も倒せないのか!!!」

 

 ベルトランははき捨てる。

 味方は既に脅えきっており、主力の地竜も全滅、敵については空の鉄竜、鉄の地竜を倒す術も見つからない。

 

「ま、まずい!」

 

 参謀は隊が密集体系になっていることに気づく。

 

「ベルトラン様!」

「何だ!」

「早急に降伏を進言いたします! 我々は追い込まれています!!!」

「何!?」

「我々は追い込まれているのです! 兵が無意識のうちに密集、中心部に追い込まれています!! 敵は止めを刺すつもりです! 地竜も、ワイバーンロードも、支援攻撃の砲艦も失いました! 全滅する前に降伏を!!!」

「しかし.......我々はニシノミヤコを、他国を蹂躙してきた部隊だ。降伏してもなぶり殺しに会うだけだ........」

「このままでは全員死んでしまいます! 全員死ぬよりも、僅かでも生き残る手段を!!!」

 

 ベルトランは拳を振るわせる。

 降伏の恐怖と屈辱が混じったよくわからない感情が起こる。

 

「降伏の旗を揚げよ!!!」

 

 それでも、彼は決断した。

 パーパルディア皇国軍は、隊旗を逆さにし、左旋回にふり始め、第3文明圏での降伏を示す合図を送り始めた。

 

 

 

 その様子は40式戦車内でもハッキリと捉えていた。

 

「何をしてるんだ? あいつら」

「.......戦意は失っているようです。武器も放り出していますし」

「.......指揮所に至急電を」

「はっ!」

 

 現場の報告は直ちに戦闘指揮所に届けられた。

 だが、何を意味をするのかまったくもって不明なため、観戦武官であるムー共和国軍に問い合わせた所、第三文明圏での降伏を意味する行動であると判明。

 残存パーパルディア皇国軍約800名が捕虜となったのだった。

 

 

 

 陸の戦いに決着がついた頃、海はこれからフェン王国沖海戦と括られた海戦が始まろうとしていた。

 

 フェン王国 ニシノミヤコ沖 

 

 パーパルディア皇国海軍竜母艦隊は隊列を組み、整然と並んでいた。

 竜母はワイバーンロードの発着を行うため、他の戦列艦に比べ2回り大きい。

 他国とは隔絶した圧倒的な造船技術があるからこそ、この船は造る事が出来る。

 第三文明圏はおろか、第二文明圏の列強国『レイフォル』すら打ち倒すことができるだろう。

 だが........

 

「まさか攻撃隊が壊滅するとは.......」

 

 アマノキに向かわせた偵察隊の撃墜から始まった戦闘。

 攻撃隊からの無線は支離滅裂であった。

 

 その最たる例が『絶対に外れない矢』である。

 

 回避行動をしても、外れることのない神の矢と表されている。

 

 竜母艦隊司令のアルモスはフェン王国を見つめる。

 

「合衆国とかいう国家か.......」

 

 日本国でさえ全ての素性が掴めていないというのに、アメリカ合衆国とかいう国の全ての素性が不明だ。

 おそらく、上層部も同様だろう。

 

「残存竜母は、あと5隻........」

 

 攻撃隊が発艦してまもなく、どこからともなく飛んできた矢に8隻の竜母が沈められたのだ。

 アマノキにいた高性能艦が撃ってきたとしても、距離は170km以上離れている。

 常識的に考えてあり得ないのだが.......。

 

 だが、不幸中の幸いだったのが、旗艦に命中しなかったことだろう。

 もし艦隊の中核である旗艦がやられていたとしたら........。

 

 アルモスは隣を航行する『ミール』を見る。

 通常の竜母に比べ、砲弾への耐性を持たせるため、対魔弾鉄鋼式装甲をふんだんに使用した美しく、強く、そして大きな竜母がそこにあった。

 

 すると、前方の護衛戦列艦からムー製の警報器の警戒音が上がり、思考が中断される。

 アルモスは前方を注視する。

 

「何だ?」

 

 非常に見えにくいが、青く塗られた2本の大きな矢が、超高速で旗艦ミールに向かっていく。

 

「あの時の!!!」

 

 海上スレスレを飛んで来た『それ』は艦の前方で1度大きく上昇し、斜め上方から旗艦ミールに突入した。

 

 『いずも』から発艦したF-4B戦闘機から発射された40式空対艦誘導弾のうちの2発は、亜音速でパーパルディア皇国海軍竜母艦隊、旗艦ミールに命中した。

 

 旗艦ミールが光と煙に包まれる。

 

 巨大なミールの船体よりも大きな爆煙が轟音と共にミールを包み込む。

 巡洋艦を1発で大破させられるほどの威力を持つ対艦ミサイルの直撃により、旗艦ミールは内部の人員、ワイバーンロードと共に、艦隊司令アルモスの眼前で木っ端微塵に粉砕され跡形も無く消滅した。

 

「くそっ! またあれか!!」

「飛行物体、多数飛来っ!!!!」

 

 各竜母艦隊は隊列を崩し、各々が勝手な動きを始める。

 

「フィシャヌス轟沈!!!」

 

 パーパルディア皇国の誇る最新鋭の100門級戦列艦フィシャヌス。

 最新式の対魔弾鉄鋼式装甲を施した皇国自慢の艦が、たったの1発でなす術も無く、木っ端微塵に粉砕される。

 

「竜母ガナム消滅!!!竜母マサーラ消滅!!!」

 

 1発の矢で一隻一隻沈められていく。

 

「この艦に向かって来るぞ!!!」

 

 見張り員が絶叫する。

 

「!!!」

 

 乗組員が絶叫する。

 

 艦隊司令アルモスの思考は強制的に切断された。

 

 竜母艦隊はF-4B戦闘機の対艦ミサイルの攻撃を受けて、護衛の戦列艦もろとも全滅した。

 

 その様子は上空を飛行している早期警戒機のレーダーによって正確に把握されていた。

 

「空母機動部隊、護衛艦を含めて全艦撃沈しました」

「よし。あとは殴り合うだけか」

 

 戦術士官が100隻を超える大艦隊に近づく、6隻のブリップを見る。

 海上戦の最終段階に突入しようとしていた。

 

 国防海軍海上総隊直轄の第一戦隊『むつ』『こんごう』と第一護衛艦隊の護衛艦を含めた第15打撃部隊が、100隻を超える大艦隊に近づいていた。

 

「距離50kmです」

 

 各艦は既に対水上戦闘、対空戦闘用意を終えて、戦闘配置に付いていた。

 

「結局、中央からの命令は全艦撃沈せよ、でしたね」

 

 最初、邦人保護出動の範囲でのみの戦闘許可であったものの、その後の続報で『フェン王国周辺にいるパーパルディア皇国軍は避難活動中の邦人に害を為す危険性があると認める』と出動部隊に伝達。

 暗に、防衛出動レベルの武力行使が許可されると伝えられた形だ。

 

「にしても、まさか司令が『敵艦全てのマストを破壊できるか』って言われたとき、こんごう艦長と言ったら驚きましたよ」

 

 むつ砲雷長妖精が顎に手を添わせながら言う。

 

「『なら司令がいずも艦長と一緒に突撃してください』ってね。笑っちゃいましたよ」

「ふふふ。まぁ安藤司令も無茶振りだって分かってた筈よ」

「はい」

 

 邦人の避難は輸送隊が全力で行っている。全体のおよそ6割の収容が完了したところらしい。

 1日後にはアメリカ海軍の揚陸艦も来ることなので、明日までには終了するだろう。

 

「距離40km! まもなく交戦距離に入ります!」

「本艦とこんごうの初撃で前面を崩します。その後、距離を保ったまま砲戦を続行します」

「了解」

 

 まもなく有効射程距離に入る。

 

「砲撃の射線を確保します。面舵30、210°方向へ」

『面舵30°、210°』

 

 艦が微かに左に傾斜する。

 後ろからこんごうがピッタリと付いてくる。

 

「距離33km!」

「対水上戦闘、左砲戦用意!」

 

 三基ある主砲が緩やかに角度調整を行い、その砲門を敵艦に向ける。

 45口径16インチ三連装砲三基、2隻合わせて18門が敵艦に向けられる。

 有効射程30kmに入った。

 

「撃ち方始め!!」

 

 攻撃士官の号令で砲術士がトリガーを引く。

 『むつ』と『こんごう』の一斉射であった。

 

 弾道解析画面に18の線が映る。

 

「着弾まで、10———3、2、1、着」

「敵艦に全弾命中」

 

 CICの画面に最前列艦の様子が映し出される。『むつ』と『こんごう』の攻撃を受けた戦列艦は材木一つの欠片すら残さずに消滅した。

 

「木っ端微塵です」

「戦艦必要か? これ」

「明らかな威力過剰ね」

 

 戦艦不要論の空気が両艦CICに流れる中、パーパルディア皇国艦隊はそれどころではなかった。

 

「距離30kmでの射撃で全弾命中だとぉ!?」

 

 シウスは目の前で繰り広げられる光景に衝撃を受ける。

 30kmという非常識な距離で撃ち、その全てが命中する。しかも大口径砲なのに装填が速い、速すぎた。

 

「何をどうやったらあんな命中率を、装填速度を実現できる!!」

 

 近づこうにも巨大艦の間に4隻の、戦列艦と比べて遥かに大きな艦が巨大艦を守るように陣取っている。

 

「おまけに速度が違いすぎる」

 

 敵艦は約20ノットで航行している。対してこちらは全速で14ノット。近づこうにもすぐに引き離される。

 

「何も......何もできずに終わるというのか!!」

 

 最初は、上陸戦の損害など、いくつかの想定外があったものの、順調に推移していた。

 だが、アマノキ空襲の時点から歯車が狂い始めた。攻撃隊の全騎撃墜、アメリカ合衆国とかいう未知の国家。そして日本国。

 

「こんな、こんな結末.......認められるものかぁぁぁ!!!!!」

 

 その瞬間、シウスが乗る艦に『むつ』の砲弾が命中。

 その衝撃でシウスは海上に吹き飛ばされたものの、奇跡的に生存。日本国の捕虜となった。

 

 これで第二次フェン王国沖海戦は幕を閉じ、一時的な小康が訪れた。

 

 ◆ 同時刻 アマノキ

 

 アマノキに避難する日本人や在留外国人が犇めき合っていた。

 その中に、子供を抱えたウィリアムとジェームズの姿があった。

 

「........」

「レイモンド.......」

 

 2人の顔は一様に暗かった。

 2人はふらふらと歩みを進めつつ、子供の親を探す。

 

「——!? ——なのね!!」

 

 集団の列が途切れた辺りに子供の親がいた。

 

「この子で間違いありませんね?」

「はい.......本当に、本当にありがとうございます........」

「ありがとうございます」

 

 家族全員が2人に頭を下げる。

 その子供の親は気付かなかった。助けに戻ったのは3人だったのに、ここに戻ってきたのは2人だということに。

 家族は何度も何度も頭を下げて順番待ちの列に入っていった。

 

「家族の下に戻れて何よりだが......」

 

 ウィリアムが下唇を噛んでいると、集団を掻き分けてこちらに近づいてくる5人のグループがいた。

 国防陸軍であった。

 

「国連軍の方ですね?」

「あぁ。そうだ」

「あなたたちを拘束するよう命令を受けています。申し訳ありませんが.......」

 

 リーダーらしき人物が結束バンドを取り出す。

 

「あぁ......構わない」

 

 2人は素直に両腕を差し出す。

 拘束中、隊員の1人がチラチラと見てくる。

 

「あんた、名前は?」

神代(かじろ)です」

「カジロ、何か言いたそうにしていたが?」

「……レイモンド大尉のことです」

「おい!」

 

 隊長が制止しようとするが、神代は続ける。

 

「パーパルディア皇国との交渉で、レイモンド大尉の遺体が映されたようです。『お前たちもこうなる』と」

「っ……」

 

 ウィリアムは神代に近づき、胸ぐらを掴んで強く揺さぶる。

 

「どうして、どうして助けが遅かったんだ! フェン王国の兵士も、レイモンドも、みんな死なずに済んだのに!!!」

 

 ウィリアムは自分が言っていることが、ただの八つ当たりだということは理解していた。自業自得、助かったのに戻ったのが悪い。そう言われたらそれまでだ。

 だが、こうでもしないと彼の気持ちは保てなかった。

 

「……すみません。私たちに派遣の命令が来たときには、既に……」

「っ……」

 

 ウィリアムは胸ぐらを掴んでいた手を離す。

 

「ありがとうございます。そして、国防軍を代表して謝罪します。本当に申し訳ありません」

 

 隊長がヘルメットを外し、深く礼をする。

 隊員も同様にヘルメットを外し、礼をした。

 

「すまん……」

 

 ウィリアムは一言、そう謝った。

 

 その後、2人は一時的に国防軍の下で拘束され、米海兵隊へと引き渡された。

 

 ◆ パーパルディア皇国 ムー共和国大使館

 

「—— まさか我が国が今戦いに負けると分析しての事でしょうか?」

 

 二ソールの問いに、ムーゲ大使はしばらく黙る。

 

「……」

「まさか、本当に我が国が負けるとお考えなのでしょうか? 答えていただきたい」

 

 長い沈黙の後、ムーゲはようやく口を開き、ある事実を話す。

 

 〜2日前〜

 

 ◆ 第一外務局執務室

 

 レミールは書記に作らせた報告書に目を通していた。

 横には局長エルトも同席し、書面に目を通す。

 

「蛮族が滅亡に向かって突き進む……か」

 

 エルトの呟きにクライスが反応する。

 

「トップが馬鹿だと大変ですな。日本はすべての民が消滅の危機にさらされているという事が全く理解出来ていない。それにアメリカ合衆国とかいう国もだ」

 

 エルトは哀れみすら感じる。

 皇国は多くの国を滅してきた。

 今回もその一部になるだろう。

 

 すると、ドアがノックされる。

 

「入れ」

 

 次長ハンスが決裁書類を持って駆け込んでくる。

 

「どうした?」

「今回のフェン王国の戦いに関し、観戦武官の派遣の有無を列強に調査いたしました」

「神聖ミリシアル帝国については、今回も派遣をしないとの回答でした」

「うむ、いつもの事だな。で、ムーはいつ派遣してくるのだ?」

 

 ムーはパーパルディア皇国との戦争にいつも観戦武官を派遣していた。前回のアルタラスのときもだ。だからこそ、クライスは尋ねたのだが……ハンスの顔が緊張に包まれる。

 

「その……ムーは皇国へ観戦武官の派遣はしない旨を回答してきました」

「珍しいな。ムーが派遣をして来ないとは。戦闘の収集癖が無くなったのか?」

「……」

 

 次長ハンスが黙り込む。

 

「ん? どうした?」

「ムーは、日本に観戦武官を派遣した事が判明いたしました」

「……」

 

 執務室にいる全員の頭に雷鳴のような音が響いた。

 

 日時をムー大使館へと戻す。

 

「——そのことについては秘密保持命令が出ていますので、回答はできません。ですが、私個人から申し上げるならば、日本のほうがいいと思いますね」

「!」

 

 二ソールは目の前にいるムーゲを凝視する。

 駐皇国大使となってから約6年。おそらく、ムーの中で皇国を一番知っている人物だろう。

 そんな人物が、()()()()()()()()()()()()()と言ったのだ。

 

「ムーは、日本に敵対できるほどの国力を持ち合わせてはおりません。私の個人的な感想なのですが、私は貴国の勇気に敬意を払いたいと思います」

 

 二ソールはそのまま逃げるように会談を終わらせようとした。

 だが、あと一つ聞かなければならない。

 

「分かりました。そして、最後に一つ、お聞きしたいことがあります」

「なんでしょうか?」

「アメリカ合衆国という国をご存知でしょうか」

「……えぇ。()()()()()()()()を行っています」

「分かりました、重ね重ね、ありがとうございます」

 

 二ソールは応接室を後にする。

 

「急いで報告しなければ……!」

 

 急いで報告しなければならない。

 日本を介しての交流ということは、ムーは日本とアメリカの全容、またはその一部を把握しているに違いない。

 ムーでさえ敵わないとされる日本。

 なんとかしなければ……

 

 

内閣総理大臣 上野の運命

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