異世界に、日本国現る    作:護衛艦 ゆきかぜ

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 友人から聞かれてるのですが..........『国防軍と国連軍の会話で英語とかロシア語とか喋ってるだろうけど、異世界の自動翻訳働いているの?』と聞かれたんですが............それについては、国連軍は駐留国の言語は基本的に話せて、この話で出てくるピョートル・ヴェリーキイは英語で会話しているという設定です。異世界の自動翻訳は働いていません。前回のインディアナ・ジョーンズは日本語ペラペラのペラです。
 ではどうぞ。

(無限に広がる大宇宙 2199版)

 ロデニウス条約を締結した日本とロデニウス大陸各国。そして日本は異世界列強のムー共和国とパーパルディア皇国と接触することを決定。そして国防軍はフェン王国から招待を受け、ピョートル・ヴェリーキイを旗艦とした親善艦隊を派遣、同軍祭に参加させることを決定した。
 異世界列強との接触で待ち受けるのは薔薇色の未来か、それとも破滅の未来か、それはまだ誰にもわからない。


異世界列強ムー共和国
列強ムー共和国 その1


 中央歴1635年 西暦2049年 12月19日 フェン王国沖 

 

 ピョートル・ヴェリーキイは、1986年に起工され1998年に就役した。起工時の艦名は「ユーリイ・アンドローポフ(Юрий Андропов)」である。建造中にソ連が崩壊し、極度の財政難に陥り完成は絶望的だと思われていたが、当時のボリス・エリツィン大統領が訪問し特別財政プログラムが発足した。これにより起工から12年の年月を経て、完成した。

 そんな艦が日本の転移に巻き込まれて、国連第7艦隊に移管、そして現在に至る。

 

 

 フェン王国特別親善艦隊旗艦 ピョートル・ヴェリーキイ 艦橋

 

 

「まもなくフェン王国領海に入ります」

 

「了解。ロナルドレーガンの直掩艦として行動を共にするかと思ったが、まさか軍事演習にわが艦が参加させてもらえるとは..........」

 

 ピョートル・ヴェリーキイ艦長『ミハイル・イヴァン』が呟く。

 

「まぁわが艦だけじゃなく、日本軍の駆逐艦も参加していますがね..........」

 

 副長がディスプレイに映る国防軍駆逐艦を見ながら言った。

 

「............沖合に待機するしかないな」

 

 ミハイルがディスプレイながら言う。

 

「その時は駆逐艦に移乗し、港に接岸します」

 

「今のうちに艦載機の準備をさせろ」

 

「はっ!」

 

 発令員が『航空機発艦準備』と言う。

 艦内格納庫からエレベーターを使用して、甲板上に出るKa-27ATG。

 その特徴的な二重反転ローターをさらけ出す。

 

「護衛艦あきづきにこれから向かうよう言ってくれ」

 

「はい」

 

「フェン王国からの誘導船を目視!」

 

 右ウイングより報告が入る。

 前方から帆船が近づいてくる。

 

「両舷前進半速」

 

 テレグラフを半速に下げる。

 

「航海長。操艦指揮を頼む」

 

「はっ!」

 

 そしてKa-27に乗り、あきづきに向かう。

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 フェン王国 

 

 

 剣王シハンは居間から見えるピョートル・ヴェリーキイ、あきづき、てるづき、すずつき、はつづきのあきづき型四姉妹の5隻を見ていた。

 

「すごいな..........あれが日本の戦船か」

 

 シハンがピョートル・ヴェリーキイを見てそう言う。

 ピョートル・ヴェリーキイは全長252mと、大和型戦艦に迫る長さである。

 

「まあ、あの時程ではありませんな」

 

 騎士長マグレブが言った、“あの時”とは、日本国転移当初の艦隊派遣である。その時に国防宇宙海軍第7艦隊がフェン王国、ガハラ神国と接触した時のことである。そして日本との国交を結んだが、シハンは『日本の力を見たい』と懇願。それから一年後の今回の軍祭に参加する運びとなった。

 

「あれは凄まじかったな...........」

 

「えぇ」

 

 それからシハンはしばらく親善艦隊5隻を眺めていた。

 

「さて、行こうか」

 

「は」

 

 シハンは桟橋に向かう。

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 あきづき 艦橋

 

 

「結構多いですね」

 

 双眼鏡で観客席を見ていた航海士がそう言った。

 

「文明圏外各国武官も来ているとのことです。我々は日本国の存在を知らせる役目も兼ねているのでしょう」

 

 あきづきが言う。

 

「ホモーン1、着艦アプローチに入りました」

 

「じゃあ、お迎えに行ってくるね。副長、操船指揮よろしく」

 

「はい!」

 

 あきづきは艦橋を出て、飛行甲板へ向かった。

 

「よっこいしょ」

 

 年齢に合わない声を出し、ホモーンから降りるミハイル。

 

「こちらへ!!」

 

 頭を低くし移動するミハイル。

 ヘリから安全距離を取ると姿勢を正すミハイル。その視線の先には第2種夏服制服を着たあきづきがいた。

 握手をするミハイルとあきづき。

 

「どうぞこちらへ!」

 

 まだヘリのローター音が鳴っているため大声で話すあきづき。

 

「わかった!」

 

 そして艦内へ移動したあきづきとミハイル。

 

「どうです?本艦の居心地は?」

 

「やはり目に新しい物ばかりだ..........我が国、いや、国連海軍には艦娘運用艦が存在しないからな...........」

 

「心中お察しします」

 

 艦娘運用艦は第2次世界大戦以降、減少傾向にある。

 その中でも日本国の艦娘運用艦保有率はぶっちぎりの一位だった。

 

「あきづき艦長、これから2週間程度、よろしく頼む」

 

「はい」

 

 あきづきとミハイルは再び握手をした。

 あきづきとミハイルはその後艦橋に移動した。

 

「どう?航海長」

 

 あきづきが左ウイングへ出たのと同時に航海長に聞いた。

 

「問題ありません」

 

「了解、両舷前進最微速!」

 

「両舷最微速!」

 

 護衛艦あきづきの乗員の目の先にはフェン王国民が手を振っていた。

 

『左、気を付け!』

 

 号令ラッパが鳴る。

 

『かかれ!!』

 

「左、帽ふれ」

 

『左、帽ふれ!!!』

 

 一定の作業を終えて制帽をかぶるあきづき。

 

「係留よ〜い」

 

 係留策を繋げる。

 

「係留よろし」

 

「深度は大丈夫?」

 

「深度21m、問題ありません」

 

 航海長がディスプレイを見ながら答えた。

 

「右舷、錨撃て!」

 

「右舷、錨撃て!」

 

 右舷側の錨の固定が外され、海底に向かって沈降する。

 錨が海底に着底し、鎖が止まる。

 

「投錨終了」

 

「タラップよろしく。では、行きますか、ミハイル司令」

 

「あぁ」

 

 その後、桟橋にタラップが繋げられる。

 そこを降りるミハイルとあきづき。

 そして陸に上がるとフェン王国民が大きな拍手を上げる。

 

「ようこそおいでくださった!儂は剣王シハンという」

 

 ミハイルとあきづきは、まさかのフェン王国国王が直々に迎えるとは予想しておらず、軽く面食らう。

 しかし、表情は崩さないのはさすが軍人と言ったところだろう。

 

「国王直々の歓迎恐れ入ります。私はフェン王国特別親善艦隊司令、『ミハイル・イヴァン』と申します」

 

 ミハイルの英語の挨拶を日本語に訳すあきづき。

 

「うむ。早速だが、我が城へ向かうとするか..........」

 

「え?」

 

 シハンの突然の申し出に困惑するあきづき。ミハイルは何を言っているかわからなかった。

 

「すまん、何を言ったんだ?」

 

「あ!sorry. Apparently trying to invite us to the castle(ごめんなさい。私達のことを居城へ招待しようとしているらしいです)」

 

「Ты серьезно........(マジかよ..........)」

 

 思わず母国語が出たミハイル。

 

「剣王!それは—」

 

「よいよい。我が国が無理を言って、来てもらっとるのだ、それ相応のもてなしをしなければならん」

 

「「「「「...............」」」」」

 

 ある意味正論を剣王に言われて押し黙る従者達。

 

「では、行こうかの」

 

「「「「「「はい」」」」」」

 

 従者とミハイル、あきづきの気持ちは一致していた。

 道中ミハイルがあきづきに質問する。

 

「なんてこったい...........歓迎を受けるとは思ったがここまでとは............」

 

 その後、シハンらの質問攻めや日本食擬きを食べさせられたりと、散々な目にあったのだった。

 艦娘であるあきづきはまだしも、人間であるミハイルはかなりキツそうである。

 艦に戻る頃には既に夕方になっていた。

 

「「は〜.........」」

 

 道中何度もため息を吐く2人。

 あきづきが突然歩みを止める。

 

「どうした?」

 

 質問に答えず、森の中をじっと見るあきづき。

 

「あなた、銃持ってるでしょ?貸して」

 

「は!?」

 

 突然の質問に驚くミハイル。

 

「いや、持ってるには持ってるが........」

 

「貸して」

 

 上下関係があやふやだがミハイルはそんなことはどうでもよかった。

 

「わかった」

 

 渋々、コートの内側のホルスターに入れていた『マカロフPM』を取り出し、ロックがかかっていることを確認してあきづきに渡す。

 

「ありがとう」

 

 あきづきはセーフティーを解除し、森のどこかを狙う。

 

「うっ.........」

 

 あきづきが艦霊力を銃弾に込めているのか、物凄い重圧を放つ。ミハイルが右腕を顔の前に持ってくる。

 

 ダン!!!

 

 乾いた音が周囲に響く。

 

「グハッ!!!」

 

 すると、木の影から人影らしきものが倒れる。

 

「おい!撃ってよかったのか!?」

 

 ミハイルがあきづきに聞くがそれに構わず影の正体を確かめようとする。

 その人影は足に銃弾が当たったらしく足を引きずりながら逃げようとしていた。だがあきづきとミハイルに追いつかれそうなのを感じたのか銃らしきものを取り出す。

 あきづきが走りながら銃を構えて撃つ。

 

「グワッ!!」

 

 その人影が持っていた銃に命中させる。

 

「くっ!」

 

 あきづきが銃を突きつけながら聞く。

 

「あなたはどこから来た?」

 

「Я не могу ответить. Эта гребаная женщина」

 

「なんて言ったの?」

 

 そっと目を逸らすミハイル。

 

「なんて言ったの?」

 

「『話す訳がないだろう。このクソ女』だとさ」

 

 あきづきの放つ重圧に観念して訳を話すミハイル。

 

「ふ〜ん、『クソ女』ね..........」

 

 あきづきは銃をミハイルに返す。

 

「弾代はおごりでチャラな」

 

「覚えておくわ」

 

 そう言いながら右の手の上に青白い光を形成し、すぐに消した。

 

「!?」

 

 男が目を見開く。

 

「クソ女じゃないのよね〜。まさかグラ・バルカス帝国諜報員がいるとはね...........」

 

「拘束するか?」

 

「必要ない」

 

 そう言いながらどこからともなく手錠を取り出した。

 

「なんで手錠なんかを持っている?」

 

「たまたまよ.........」

 

 絶対たまたまじゃないとミハイルは確信した。

 あきづきは手錠をかけて護衛艦あきづきへと男を連行した。

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 日本国 総理私邸

 

 

「無事に改正法案が可決されましたね」

 

 箕輪私設秘書が手帳を見ながら言う。

 改正法案とは、『海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律』を新世界情勢に対応させたものである。

 普通の海賊と元ロウリア王国水兵などが海賊化したものが、ロデニウス大陸周辺で海賊行為をしていることがロデニウス大陸各国政府より連絡された。それを受けて、政府は『改正海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律』の法案を新世界情勢に対応したものを改正したのだ。

 日本国にとって生命線であるロデニウス大陸各国からのタンカーなどに被害が出ると重大な事態になることを容易に想像できた野党は、この法案に大多数が賛成した。

 

「これでかなり海賊行為を減らせるだろう」

 

「おい〜す」

 

「!?」

 

 箕輪が後ろを振り向くと、そこには白井がいた。

 

「どこから!?」

 

「正面からだが?」

 

「................電子ロック、暗号キー、アナログキー、関係者の網膜、指紋などの多重ロックがかかっているはずですが?」

 

「EMPとピッキング、サーバーハックなどなどで余裕」

 

「ハッキングされたら通知が来るはずですが?」

 

「コネ舐めんな」

 

「................つくづく呆れます」

 

「まぁまぁそこまでにして、で、どうしたんだ?白井」

 

「フェン王国に派遣した艦隊から連絡が入った。グラ・バルカス帝国諜報員を拘束したとのことだ」

 

 白井が端末を見ながら言った。

 

「ロデニウス大陸で薄々感づいたが、ほぼ全世界に諜報員がいるのか............」

 

「フェン王国周辺に潜水艦がいるのは間違いない」

 

「可能性は?」

 

「70%」

 

「ふ〜。正当防衛のみ許可する、それ以上は現場とお前の責任だ」

 

「わかってる」

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 旧世界 西暦2049年 12月23日 アメリカ合衆国 ハワイ州 オアフ島 真珠湾

 

 

 日本国転移から1年半以上が経とうとしている旧世界。

 真珠湾にある記念艦ミズーリを見ていた人物がいた。

 

「これは好都合だわ.........うん、やろう」

 

 そう言うと、右手を天高く上げた。

 

「天照大明神の名の下に告げる。異世界に賜りし物、それが異世界に幸あらんことを」

 

 右手に青白い光が形成される。

 しかし周囲の人々は気付かない。いや、気付ける筈がない、彼女はこの世界では実体化できないからだ。

 ミズーリが青白い光に包まれる。そして一際強い光を放つと、ミズーリは姿を消した。

 観光客、見物客がどよめきの声を上げるが、彼女は一切動じない。

 

「さぁ、必要な装備は送ったわ。あとはあなた達次第よ..........日本」

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 新世界 日本国 東京湾 浦賀水道沖 護衛艦『いなずま』

 

 

 横須賀港に帰港するために浦賀水道を10ノットで北西に向かって航行していた護衛艦いなずま。

 双眼鏡を使い、航路監視をしていた妖精が何かに気付く。

 

「.............あ!?」

 

 艦の進路上に青白い光が突如出現した。

 

「最大戦速!面舵一杯なのです!」

 

 艦娘いなずまが回避操舵を指示する。操舵員妖精は復唱する間を惜しんでテレグラフレバーを最大にまで上げて右に舵を切る。

 加速感を感じながら、遠心力で微かに左に傾く艦橋。

 

「CIC!正面1kmの地点でレーダーに反応はあるのです!?」

 

『ありません!しかし艦外モニターでは捉えています!』

 

 いなずまも自身の双眼鏡で正体不明物体を見る。

 青白い光の中に微かに艦のシルエットが見えた。

 

「急いで横須賀艦隊司令部と中央へ通報なのです!それと全周波数にて緊急事態を宣言するのです!」

 

 いなずまが指示を出す。

 全周波数にて、周辺を航行している船に注意喚起をした。そして近隣を航行していた海保の巡視船や護衛艦が集まり、周囲海域を封鎖する。

 

「なんなのです?」

 

 すると周囲が突然青白い光に包まれた。

 

「きゃっ!!」

 

「「「うぅぅーー!!!」」」

 

 余りにも眩しすぎてうめき声を上げる妖精達。

 すると、ガラスが割れたような音を出しながら光が消えた。

 恐る恐る目を開けたいなずま。

 そこには...........。

 

「ミズーリなのです!?」

 

 そこには旧世界の真珠湾にあった筈の記念艦『ミズーリ』があった。

 

「ミズーリに呼びかけるのです!」

 

 通信士妖精が全て周波数、チャンネルでミズーリに対して呼びかけるが応答がない。

 

「まさか無人なのです?」

 

「艦長、中央より連絡です。『ミズーリは我が国の領海を無断航行しており、侵略の危険性がある。ミズーリに対して立入検査隊を突入させよ』とのことです」

 

 中央は既にいなずまから報告を受ける前に事態を把握していた。

 

「つまり拿捕ということなのです...........CIC、曹長聞こえますか?」

 

『はい、聞こえてます』

 

 いなずまがCICにいる曹長を呼び出した。

 

「立入検査隊隊員に呼集を掛けてください」

 

『了解です』

 

「副長、しばらくよろしくなのです」

 

「はい、お任せを」

 

 いなずまは艦橋を後にし、内火艇収容所へ向かう。

 

「敬礼!」

 

 いなずまが入ると、立入検査隊隊員は装備を整えて、点検しているところであった。

 

「お疲れ様なのです。今回の対象は戦艦ミズーリなのです。おそらく無人だと思われますが、もし人がいたら保護するのです」

 

「「「「「了解」」」」」

 

「搭乗!」

 

 立入検査隊隊長、曹長妖精が号令をかける。

 

「内火艇、下ろし方用意!」

 

 格納庫扉が開き、アームで外に釣り出される内火艇1号。

 

「ワイヤー下ろします!」

 

 操作員がワイヤーのウインチを操作して内火艇を海面に下ろす。

 

「離します!」

 

 ボタンを押すと、内火艇を釣り上げていたワイヤーが切り離される。

 船体から十分離れたことを確認すると、ミズーリへ向きを変える内火艇。

 

「気を付けてくださいなのです」

 

 その後、護衛艦いなずまの立入検査隊がミズーリに突入。艦内に残されたカレンダーなどから旧世界が西暦2049年12月23日、日本と同じ時間の進みだと判明した。

 そして、ミズーリは呉へ曳航され、ドック入り。近代化改修を日本と国連が行い、国連海軍の所属となるのだった。

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 後日 日本国 首相官邸 大会議室

 

 

 官邸の大会議室で、先のミズーリ出現事件が話されていた。

 

「—であるからにして、間違いなく外的要因、即ち、神が関係していると見て間違いありません」

 

 ミズーリの船体調査を行った国防軍関係者が報告する。

 

「間違いなく、か............」

 

 断定まではいかないが、日本国転移も神が関わっている可能性が高まった。

 

「そしてミズーリですが、艦娘ミズーリは確認されませんでした。現在は呉へと曳航し、ドック入りしました」

 

「改装案は?」

 

「現在国連軍と検討中ですが、船体、部品まで全てを分子レベルまで分解し、ミサイル戦艦として運用できる設計を考えています。そして単艦でも着上陸支援、対空戦闘、艦隊防空戦闘、対艦戦闘、護衛任務などを行える汎用戦艦として運用できるようになります。改装項目は後日提出します」

 

「それ、もはやミズーリでなくなるよな?」

 

 官僚の質問に、

 

「仰る通りです。ですがミズーリの面影は残します、例えば艦橋などです」

 

「予算はどうだ?」

 

「残念ながら、今年度の予算では改装費が足りませんので、補正予算案か来年度の予算案のどちらかを考えています。特に急いでいるわけではないので、来年度に組み入れようと考えています」

 

 すると佐山は今まで持っていた手帳を置くと、

 

「いや、補正予算を提出しろ」

 

「え!?」

 

 佐山の言葉に南部財務相が驚きの声を上げる。

 

「総理!いくらなんでもそこまでは—」

 

「あぁ、焦ることはない、だが、戦艦を一から作るより圧倒的に安い。それに、国連軍が戦艦を保有できるチャンスだ」

 

 旧世界で、国連軍は戦艦の保有を検討していた。第1案は、アメリカに保存されているアイオワ級を買い取る案が検討されたが、アメリカ国民の反発が大きいとして没。

 第2案は国連が独自に建造するという案。独自と言ったが、国連軍装備品委託会社、日本のブラックウォッチ社に委託するのだが.........そういう話になったが、情報がマスコミに漏洩、国連総会でパッシングを浴びたことにより、配備を断念した。

 

「そして恩返しでもある」

 

 佐山の言った恩返しとは、波動砲艦隊についてのことである。明らかな国際条約違反の兵器、世界中から非難と情報開示、又は全ての情報の破棄を要求したのだ。しかし国連は一切非難などはしなかった。その時、国連の予算などがほとんど日本に握られているというのもあったが、国連の権限を拡大できたのは日本国の支援があったからこそできたのだ。

 

「あの時、世界中を敵に回しかけたが、各国政府の一部中枢、そして国連が我が国を守ってくれたのだ。それに少しは答えなければならない............列強ムー共和国に使節団を派遣しろ、国連も含めてな。そして南部、補正予算案—」

 

「分かっています」

 

「.............すまない」

 

 その後の閣僚会議で、ミズーリの国連軍編入、列強ムー共和国への使節団派遣が閣議決定された。

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 12月25日 日本国 横須賀市

 

 

 世はクリスマスで沸いている中、横須賀で出港式が行われていた。

 

「諸君はこれから異世界列強のムー共和国へ向けて出港する。大変な困難な任務であることが予想される。しかし、どうか成し遂げてほしい。諸官一人一人の更なる献身と健闘を期待する。以上で任務前の訓示とする」

 

 須佐男宇宙海軍幕僚長が訓示を読み終える。空間幕僚長、宇宙海軍幕僚長の違いは、空間幕僚長は波動砲艦隊を管轄に置いている。宇宙海軍は、宇宙海軍所属の艦艇を管轄に置いている。

 宇宙海軍艦艇と、波動砲艦隊はそれぞれ分離し、別々の管轄に置かれている訳は、それぞれの任務の違いから別々の管轄に分かれたのだ。

 

「敬礼!!」

 

 列強ムー共和国派遣艦隊、第1任務部隊司令官、第7機動部隊司令『早乙女 晶』の号令で須佐男宇宙海軍幕僚長に向かって敬礼する。

 第1任務部隊の編成は下記の通りだ。

 

 第1任務部隊

 

 国防宇宙海軍       

 

 あかぎ型護衛宙母『あかぎ』

 うんりゅう型ヘリコプター空母『うんりゅう』    

 ながと型護衛戦艦『ながと』    

 同   『こんごう』

 たくみ型防空護衛艦『たくみ』

 ふぶき型護衛艦『ふぶき』

        『しらゆき』

        『はつゆき』

        『みゆき』

        『むらくも』

        『しののめ』

 かげろう型護衛艦『とね』

 同   『ちくま』

 同   『まきなみ』

 同   『たかなみ』

 同   『あさひ』

 同   『ゆうひ』 

 伊号潜水艦『伊-407』『伊-408』『伊-409』

 

 ここに増援艦艇である、国連海軍第7艦隊第5空母打撃群所属のタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦の『アンティータム』とアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の『バリー』の2隻が加わる為、第1任務部隊の艦艇数は、22隻となった。

 

「出港用意!!!」

 

 各艦の錨が巻き取られて、順番に出港する。

 第1任務部隊艦艇は浦賀水道を単艦航行し、東京湾沖で合流し、ムー共和国へ針路をとった。

——————————————————————————————————— クワ・トイネ公国 マイハーク人工島 迎賓館

 

 

 ここ、クワ・トイネ公国マイハーク沖にあるマイハーク人工島迎賓館で、ロデニウス連邦設立祝賀式典が行われていた。

 ロウリア王国が条約締結から僅か1年にも満たない期間で連邦加盟ができた最大の理由は、日本国による政治改革だろう。

 条約締結後、日本国政府はロウリア王国に監査員を送り、ロウリア王国に対して助言をしたり、補助をする役目を与えていた。

 しかし、その監査員の仕事はほとんどなかった。

 ロウリア王国が自力で政治改革などを全て成し遂げたのだ。

 そして日本はそこに僅かな支援をしただけなのだ。

 通常ではありえないことだが、魔法文明、異世界だからという理由で日本国政府は納得していた。

 迎賓館で食事を楽しむロデニウス大陸各国要人。警備はロデニウス大陸各国からの要請で日本国国防軍が担っている。

 

「いやはや............この光景が信じられませんな〜」

 

 ロウリア共和国元首パタジンが言う。

 

「ですな。一昔、といっても一年も経っていませんが、その時では考えられない光景ですな」

 

 相槌を打つクワ・トイネ公国外務卿リンスイ。

 

「それもこれもパタジン殿のお陰です」

 

 メツサルが言う。

 

「いえ、これは我が国の民、そして両国と日本国のお陰でここまで来れた.............感謝しています」

 

 パタジンの『日本国』の言葉に反応する2人。

 

「彼の国と国交を締結するとき、私は猛反対したな...........だがその心配も杞憂になった............」

 

 リンスイが過去を懐かしむ。

 

「私もクワ・トイネ公国からの紹介があった時、正直言って心配でしたね............しかしその心配も無駄だった」

 

 クワ・トイネ公国はインフラ、ライフラインの整備。クイラ王国は、日本主導による砂漠緑地計画の成果が順調に出始めている。

 ロデニウス大陸各国、いや、ロデニウス連邦構成州は日本に対して頭が上がらないのだ。

 しかし、それは日本も同じである。

 転移当初、異世界との接触でクワ・トイネ公国は日本に対して友好的な対応をしてくれ、クイラ王国と共に日本の活動の源である、資源と食料を輸出して、日本を助けてくれたのだ。

 もはや切っても切れない仲となっているのだ。

 

「我らは日本の科学技術を応用することで民間だけではなく軍も強化できた。しかし、この力の使い所を誤ってはいけない............やはり日本国を大東洋諸国会議に招待すべきでしょうな」

 

「それには賛成です。日本国の地位上昇は我が連邦にとっても利益となる。それにあれだけの国力があるのに、未だに世界には日本国の存在は知られていない」

 

 非公式の会話ながら、日本国を大東洋諸国会議に招待することが決まった。

 

「そういえば噂によれば、日本国が列強のムー共和国に使節団を派遣したとか?」

 

 リンスイの質問に、

 

「えぇ、私もその噂を聞いたことがあります」

 

 と、メツサル。

 

「ムー共和国か..........パーパルディア皇国より圧倒的な上位国家だが、日本国はそれを余裕で上回るだろうな...........」

 

「この世界が日本国にとって第2の故郷に相応しければいいがな............」

 

 その後も、雑談を楽しむ3人であった。

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 中央歴1636年 西暦2050年 3月12日 ムー共和国 アイナンク空港

 

 

(なぜまた呼び出しを喰らった?)

 

 空港応接室のソファーにムー共和国軍技術士官マイラス・ルクレールがいた。

 

(3ヶ月前に来たはずなのに、昨日のように感じる...........)

 

 ガチャ

 

「立たなくていいよ。待たせたね」

 

 入ってきたのはマイラスの上司、ウルゲンと、形から外交官らしき人物が入ってきた。

 

「彼は外交官のフェンリー・ディッツだ」

 

「よろしくお願いします」

 

 2人は軽い挨拶を済ませると、フェンリーが話し始める。

 

「早速だが...........マイラスレポートを読ませてもらったよ」

 

「..............は?」

 

 フェンリーの言った『マイラスレポート』に心当たりがなく、聞き返すマイラス。

 

「おっと、すまんすまん。君が3ヶ月程前提出したレポートのことを『マイラスレポート』と呼んでいる。そして君はそれに、『日本国』のことを書いたな?」

 

「はぁ?」

 

「その日本国だが............先日ムー東海岸沖に船団が現れた」

 

「え!?」

 

「そしてその船団に日本国の外交官が乗っていた。目的は我が国との国交締結だと言う」

 

 マイラスはフェンリーの言うことがわかった。

 

「自分に探りを入れろと?」

 

「そうだ」

 

 マイラスは少し瞑目する。

 

「.....................わかりました。務めさせて頂きます」

 

「おぉ!助かる!」

 

 そして、しばらく日本国外交官が話したことをマイラスに話すと、ウルゲンとフェンリーは退出した。

 

「どんな艦なんだろう.............?」

 

 マイラスは展望台へ向かう傍、日本国の艦について考えた。

 そして展望台の昇降機を操作し、上に向かう。

 

「なんてでかい空母だ!」

 

 そこにはアイナンク空港沖合で投錨していたあかぎら、第1任務部隊の艦船があった。

 そして空母の隣に視線を移すと、

 

「ん?.............あれはあの時の!」

 

 そこにいたのは、ながとだった。

 

「おー!しかも2隻もいる...........あ!あれは...........」

 

 マイラスの興味はタイコンデロガ級に移された。

 

「あの魔写の国旗と同じだ...........日本国の属国軍か?」

 

 タイコンデロガ級のマストに掲揚されている星条旗を見てそう言った。

 

「急いで戻ろう」

 

 マイラスは小走りで空港に戻る傍、フェンリーの言っていた飛行機械について考えていた。

 

(プロペラのない機体。ミリシアルの天の浮船かと思ったが、エンジン部分が動いたという.........どういう事だ?とにかく見てみないことには..........)

 

 やがて格納庫に到着する。

 

「!?、な、なんだこれは...........」

 

 マイラスの目の前にはMV-44コスモシーガルがあった。

 

「ミシリアルの天の浮船かと思ったが、全然違う...........ん?翼の部分が若干離れている?速度を上げたら折れてしまうじゃないか?............これは直接聞いた方が早そうだな」

 

 マイラスは踵を返すと、日本国外交官が待っている部屋へ向かう。

 

「ふ〜。緊張するな...........よし」

 

 マイラスは深呼吸し、部屋の扉をノックし、入室する。

 中には、5人のスーツを着た男女と、軍服に身を包んだ女性..........。

 

「え!?」

 

「あ!?」

 

 マイラスとその軍服姿の女性の目が合うと2人は驚きの声を上げる。

 

「「あの時の............」」

 

 マイラスの視線の先には、こんごうがいた。

 

 

 




 ピョートル・ヴェリーキイの説明はウキペディアより引用。
 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ピョートル・ヴェリーキイ_(重原子力ミサイル巡洋艦)
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 えー。地味にタイトル詐欺やらかしたかもしれません。『列強ムー共和国』のタイトルなのに、ムー要素が最後の方しかないという.........アハハ。後、外交官に混じってこんごうがいたのは、軍事専門家として同行していたからです。はい、マイラスのトラウマが蘇るかな?
 では次回予告。
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 次回予告

 ムー共和国へ使節団を派遣した日本国。それをムーは友好的に受け入れる。そしてフェン王国主催の軍祭に参加していた親善艦隊はついにその実力の一端を各国武官に見せる。
 
 次回『列強ムー共和国 その2』

パラレルワールド その1


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