私の力不足で原作とは性格やセリフなどが異なってきます。
キリト君はこんなこと言わない!って部分がありましたら申し訳ありません!orz
流れ星を現実世界で一度だけ見たことがある。
そのときはネトゲにどっぷり浸かっていたため、願ったことはロマンチックの欠片もない『次のモンスターがレアアイテムを落としますように』という、ゲーマー以外が聞くと顔をしかめてしまう内容だったが...。
そして今、現実世界と近いようで遠いこの仮想世界で二度目。それは迷宮区の薄暗い中眩いほどの光。ソードスキル特有のライトエフェクトだ。
流れ星を幻視させる原因を作っているのは小柄な深紅のフードを装備したプレイヤーであった。ちょうどモンスターとの戦闘中である。
一言で言うなら苛烈の極みであった。圧倒的なスピードで
コボルドが前に進もうと脚を出そうとする瞬間にはすでにコボルドの脚をレイピアの切っ先が瞬く。
攻撃しようと無骨な手斧を振り上げると正確な狙いの《リニアー》がコボルドの手首を穿つ。
体勢が大きく崩れたコボルドの頭・首元や亜人種によくある股座等のウィークポイントに怒涛の攻撃を見舞っていた。
本来ソードスキル後は少しの硬直がある。細剣カテゴリの基本スキル《リニアー》はその硬直が他の武器カテゴリのスキルより少ないのが強みであるが、モンスターの一挙手一投足に対応できるほどではない。
いや、計算上はできるかできないかと言えば可能なのだが、人間は動きが少しでも止まるとリズムを崩して多少の隙ができるものだ。
例えば、全力疾走中に金縛りが起こったとすると、体が自由になった時、瞬時になんの違和感もなく元の動きに戻れる人間がどれだけいるだろう。
それは数多の経験からのモンスターの行動予測と、《リニアー》を主体にした硬直を感じさせない完璧とも言える体捌きからなる理想的な戦闘であった。
モンスターとのレベル差が大きいからできるのだろうが、文句なしの神業である。ベータテスト期間を含めこれほどの完成度のソードスキルを見たことがなかった。
......多少の違和感があったが。
(何を変に感じたんだ...?)
違和感が拭えなかったがいいものを見たとこの場を去ろうとしたが...
神業を魅せたプレイヤーの背後の薄暗い通路から子供サイズの影が飛び出す。
(!!あぶな......っ!)
背後の愛剣《アニールブレード》を手に掛ける。
間に合うかッ?!
あまり他プレイヤーには関わりたくなかったが、見てしまったものは仕方がない。助けるべく今まで使用していた《
赤フードのプレイヤーはまるで後ろに目があるかのように間合いに入ったコボルドの斧を身体を捻るように躱した。見ているこちらがビビるほどにギリギリだったが不思議と当たるイメージが湧かない。
不意打ちを躱されたコボルドは戸惑う素振りをみせたが、そのプレイヤーはそんなわかりやすい隙を見逃さなかった。
コボルドのガラ空きの後頭部に容赦ない《リニアー》を叩き込む。
ゴォッ!!
レイピアで出してはいけない音が鳴る。クリティカルだ。
コボルドのHPを半分削る。
衝撃で転げ回ったうつ伏せのコボルドが起き上がろうとする下半身を脚で踏みつけ、再度後頭部に《リニアー》を放つ。
ゴッ...キン!!
またもクリティカルの音と同時に、剣先が破壊不可オブジェクトの迷宮区の床に当たってしまったのか、それとも単純な耐久値の問題か、武器が破壊した音が鳴り響く。
...もはや戦闘ではなく暴力だ。モンスターに同情してしまうほどである。
哀れなコボルドのポリゴン片が虚空に舞う中、武器が壊れたのになんのリアクションも見せず淡々とイベントリから替えのレイピアを装備するのを見て...
俺は......
無意識だった。無意識に後退りしてしまった。
なんの問題もなかったはずだ。
《
その瞬間、溢れんばかりの殺気を感じる。
身体中が総毛立つほどの感覚の後、赤フードのプレイヤーが新品のレイピアを構えこちらに走り出した。
(
PK(プレイヤー・キル)というのはMMORPGでは一般的に知られているが、仮想世界の死が現実とリンクしている
赤フードのプレイヤーのあまりの速度に、反射的に《アニールブレード》を防御型に構えるしかできなかった。
互いの距離が近づき、
一方は凄腕プレイヤーが超が10個は優に付くほどの美少女であったからだ。
SAOの開発者でこのデスゲームの首謀者の行いでゲームのアバターの見た目が現実と同じものになってしまった今、SAOのプレイヤーは女性割合が限りなく少ない。
ネカマや好んで女性アバターを使う男性プレイヤーがふるいにかけられたことでモロにネトゲ界隈の男女比になっている。
元々ネトゲ界隈の女性プレイヤーの少なさ+容姿が優れている割合により、女性の美系プレイヤーの数は絶滅危惧種レベルになっている。
あれほどの鬼神の如き強さを魅せたプレイヤーがまさか女性の、さらにレアな美人だとは思わなかったためである。
そしてもう一方は...モンスターと思ったらプレイヤーで、そのプレイヤーはこのゲームの
はしばみ色の瞳と目があう。その綺麗な宝石のような瞳は丸々と見開かれ揺れ動いていた。
心なしかアバターの顔色が悪くなっていく。
「...おい、あんた。なんのマネなん......っ?!おい!」
警戒しながら文句を言おうとすると、その女性プレイヤーは一度大きく瞳を揺らした後、糸が切れたように崩れた落ちた。
慌てて駆け寄り受け止める。
「大丈夫か?!...気を......失っている?.........マジかよ...」
ここは迷宮区のかなり奥だ。大声で起こすのはモンスターを引き寄せてしまうし、痛みを感じないVRでは叩いて起こすのも難しい。それ以前にそう簡単に起きそうにない。
だとしても放置するわけには...
「はぁ...やむをえないな」
奥の手だ。
×××××××××××××××××
無事に迷宮区から抜け出し森林区域のセーフゾーンで一休みする。
生い茂る木々から射し込む木漏れ日が心地いい。
隣を見ると凄腕の
彼女を運んでいる際、最初に感じた違和感の正体を解明できた。
いくら安全マージンを十分に取っていたとしても迷宮区はそのフロアの最上級ダンジョンだ。もしも防具なしで一撃でもコボルド共の攻撃を受けたら即座にデスしないまでも、間違いなく大変なことになる。
超絶技量に対し不気味なほどのチグハグさ。
攻略中にスペアごと手持ち全てが壊れたならばまだ理解できるが、最初から防具なしで迷宮に潜ったのだとしたら...
なぜそんなに生き急いでいるのか...
この可憐な姿の奥にはなにがあるのか...
自らの生命を燃やしながら輝く流れ星を
俺は
勿体なく思った。
「
時刻が夕方に差し掛かり肌寒くなってきた頃、隣から控えめなくしゃみの音がした。
「...起きたか?」
どうやら隣の
隣を見ると彼女の瞳がぼんやりとこちらを見返してきた。
しばらくそのままにしていたら目の焦点があった。
「ッ!!」
その瞳に映るのは驚愕と恐怖、ほんの少しの光。
「...どうして......」
美麗な姿に違わず声も美しかった。
「ん?あぁ。あんたが迷宮区で突然倒れたから「違う!」...?」
必死に問う彼女は疑問と怯えに満ちていた。
(VRで気絶したことで心配してたが、記憶は問題なさそうだ...)
自分でも妙なところに関心を持ったが、続けて彼女が問うた。
「どうして......っ...攻撃しようとした...私を......助けたの...?」
「あーそっちか、...正直に言えば勿体ないなって」
「それは...マップデータが...?」
マップデータか...確かにかなりの深さを潜っていたマッピングされた彼女のマップデータはかなり価値があるだろう。普段の俺ならそれも理由にするだろうが今回は...
「それもあるけど、あんたみたいに強い奴がこんな場所で死ぬのかと思ったら勿体なく思ってね」
この輝きを見てみたくなった。
この子は間違いなくこの鉄の城に囚われた1万人の光となり得る。
そんな逸材がこんな誰も知らない薄暗い場所で燃え尽きるなんて......悔しく思ったからだ。
...この返答は彼女のお気に召さなかったようだ。ここで気を利くことを言えたらいいのだが、いかんせんなにも出てこない。
彼女が暗い顔のまま続ける。
「そう...ですか...。助けていただいて...ありがとうございました。...お礼は...何がいいですか?」
お礼が欲しくて助けた訳ではないが、...いらないと言っても納得しないんだろうな。
「それなら...迷宮区のマップデータをくれると助かる」
「はい、わかりました」
彼女からマップデータが送られてくる。迷宮区どころか1層全体のマップを送ってくる...かなり歪な軌跡だ。始まりの街から一つの村に寄っただけの迷宮区までのほぼ一直線しかクリアされていないマップ、それに反比例する様に迷宮区の塔の1階から17階まで隅々までマッピングされている。
......
「なぁ、
「...どうかしましたか?」
「これからどうするんだ?」
「......まだ目標レベルに達していないので...」
「また潜るのか?」
「.........」
「ついさっき気絶したのに?」
「............」
黙りこくるその姿は迷宮区内での苛烈さと打って変わり、まるで進むべき道がわからない迷子のようだった。
確信はないがここで彼女を行かせたら二度と会えない気がする。
はぁ...
「あんたもゲームをクリアするために頑張ってるんだろ?無駄に死ぬためじゃなく。なら、《攻略会議》には顔を出してみてもいいんじゃないか?」
ピクリと彼女の肩が動く。
「.........攻略会議...」
「12月2日...2日後の夕方に迷宮区近くの《トールバーナ》の町で、1回目の《第一層フロアボス攻略会議》が開かれるらしい」
「2日後...」
んんー、期間を出したのは失敗か...まだ行こうとしてる。
「あんた《トールバーナ》までの道知らないだろ?」
先程の彼女のマップデータから知り得た情報だ。
「案内するよ、どうせボスに挑むなら体調は万全にしとかなきゃ、パーティーの足を引っ張るはめになるぜ?」
...何に反応を示したのか彼女の肩の力が抜けた。
よし!説得できたようだ。
そうと決まれば、立ち上がり外していた片手剣を背中に装備し直す。
「行こうぜ、もうすぐ日が暮れる」
「...えぇ」
そうして俺はレイピア使いの危なっかしい同行者がきちんとついてきてるか時折確認しながら、《トールバーナ》への帰路につくのであった。
アスナの体は升です。かなり強いです。無茶のおかげで真っ正面から挑めば現時点のキリト君ならば若干勝ります。
ですが目標レベルに達していないこととポンコツの自覚、キリト君への負い目等で自信が地の底です。
『キリト君の足を引っ張る』は彼女のタブーです。