オーシア連邦召喚   作:スカイキッド

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第17話「機械文明国ムー・下」

 

翌日 09時30分

ムー国 マイカル市郊外/歴史資料館

 

 

 翌日、マイラスはオーシア使節の2人をムーの歴史資料館へと案内した。歴史資料館は国営でそれ故に大きな建物をしている。マイラスは広い館内を案内する前にムーの歴史について簡単な説明を2人に対して始める。

 

 

「では我が国の歴史について簡単にご説明いたします。まず信じてもらえないような話かもしれませんが、我々のご先祖様は元々この星の住人ではありません」

「「え?」」

 

 

 マイラスの説明に2人は驚きのあまり唖然とした顔になる。いきなりそんな話を始められたら誰だって同じ反応をするだろう。だがマイラスにとってはムーの歴史を他国の人間に説明する度によく見てきた光景だ。

 

 

「時は1万2千年前、ムーは大陸ごとこの世界へ転移しました。この現象は当時王政だったムーの正式な記録として残されています」

 

 

 マイラスは資料館職員の持ってきた青い球体状の物体を取り出す。それは前の世界の地表を表した地球儀と呼ばれる球体状の地図だ。マイラスが取り出すと、シンクレア大使とスコット補佐官は食い付くように地球儀に見入る。

 

 

「これが前世界の惑星の模型です。我々はこの前世界を『地球』と呼んでいます」

「これは……!!」

 

 

 オーシア人らは「まさか」とか「いや、ひょっとしたら……」とか何やらブツブツと呟きつつ地球儀を観察している。この世界には惑星が球面であることを知らない人間も多くいて、それを知って驚く人間もよくいる。

 

 おそらく2人も同じような理由で驚いてるのだろうとマイラスは判断した。もっともマイラスとしては予想外なほどの食い付きであったが。とりあえずマイラスはそれを使ってムーの歴史の説明を続けることにする。

 

 

「ご覧の通り地球は丸い惑星です。かつてムーが存在していた世界でした。ちなみに前世界での我が国の位置は……」

 

 だがマイラスがムーの存在していた大陸の位置を指し示そうとしたとき、先ほどまで取り乱したかのように地球儀を興味深く眺め回していた2人のオーシア人は、突然何かに醒めたかのように、地球儀からスッと離れる。

 

 

「うーん、我々の居た世界ではないですね」

「みたいですね……」

「はい?」

 

 

 もしこの地球儀を、例えば我々(日本人)が見たら地球と判断するだろう。だがオーシア人にとってその地球儀にはユージア大陸、オーシア大陸、アネア大陸、ベルーサ大陸のいずれもなく、要するに彼らの元居た世界ではなかった。

 

 もしかしたら、この地球儀の世界が自分たちの元居た世界ではないかとオーシア人は淡い期待を抱いたのだが、ハズレである。もちろんマイラスにとってはオーシア人の事情など知りもしないので分からないのだが。

 

 

「すみません、こちらの話です。説明を続けて貰って構いません」

「は、はぁ。では続けます」

 

 

 突然反応の変わった2人を訝しみながらも、マイラスは地球儀上のムー大陸の位置を指し示しながら歴史の説明を始めた。ちなみにムー大陸の位置は地球の都市伝説に出てくる古代文明ムーの位置と同じだったりする。

 

 転移前、ムーはかなり発達した高度な文明を築き、ムー大陸の全土を自分たちの領土として繁栄を謳歌していたという。その当時は『アトランティス』と呼ばれる自分たちと同じ大国と世界を二分していたそうだ。

 

 だが1万2千年前に国ごとこの世界に転移し、資源不足や天変地異、周辺の魔法文明や海賊による侵略を受け、当時ムーに築かれていた文明は崩壊。住民も大陸北東部へと追いやられた。そこからムーは機械文明として再出発した。

 

 最初こそ魔法文明に比べて機械文明は劣勢、ムー大陸に侵攻した周辺諸国との軋轢を経験したものの、それでもムーは文明を発展させ、周辺諸国とも共存共栄の道を歩み、ついに世界第2位の国力を持つまでに至った。

 

 

「なんと……それまた随分と苦難の連続だったようですね」

 

 

 シンクレア大使は衝撃を受けつつ口を開く。共に説明を聞いていたスコット補佐官の方も彼女と同じ反応だ。

 

 

「今の話はすべて公式な記録です。他国の人にはあまり信じて貰えないのですが、信じていただけたでしょうか?」

「えぇ、もちろんですとも。なにせ()()()()()()()()()()()()()()()()()のですから」

「え?」

 

 

 マイラスはシンクレア大使の口から飛び出してきた言葉に思わず困惑する。シンクレア大使はスコット補佐官の提げていた鞄から大きな紙を取り出す。それは地図だが、マイラスには見たこともない大陸配置だった。

 

 

「こちらを見て頂けないでしょうか?」

「これは……?」

「これは私たちの()()()()()()()()()です」

「以前いた世界?」

 

 

 メルカトル図法を使用したオーシアが元いた世界の世界地図が館内のテーブルの上に広げられ、マイラスはそれを見入る。オーシア人とマイラスの会話に耳を傾けていた資料館職員も寄ってきて、それを覗き込み始めた。

 

 

「こう言えば分かるでしょうか……我々も別世界から転移してきた転移国家なのです」

「え!?」

 

 

 絶句――マイラスも、資料館職員も、シンクレア大使の口から飛び出してきた衝撃的な告白に衝撃を受けた。

 

 

「オーシアはつい数か月前、突然この世界にやって来ました。原因は不明ですが、我々もつい最近までは別の世界に居たのです」

「そんなまさか……言われてみれば、今まで存在しなかったはずの国が突然文明圏の外に現れたのも、それなら納得できる……」

 

 

 まさか、音より速く飛べる飛行機械を持っているという話や、人口だけなら列強並みのロウリアを3日で倒すような大国が突然現れたのは、異世界から転移してきた国だからだというのか。確かにそれなら辻褄は合うが。

 

 とすれば以前、オーシア人が「オーシア戦争は1910年に終戦した」と言ってたのは、中央暦ではなく彼らの前世界における暦だろう。マイラスはいろいろ納得したが、やはり信じられない出来事に違いはない。

 

 そもそもムーが転移してきたのだってもう1万年も大昔の、文献以外には誰も覚えていないほどの大昔なので、マイラス自身も自国が転移国家であるというのには多少実感がなかったのだから、仕方のないことだろう。

 

 

「まさかそんな事が……正直、こんなことがあるとは思ってませんでした。同じ転移国家であるのなら、個人的にはぜひともあなた方と友好国になりたいものです」

「私たちも、そうなることを願っています」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日 10時50分

ムー国 マイカル市/高速道路上/車内

 

 

 一行はひと通り資料館を見学したあと、予め資料館の玄関前に待機させていた自動車へと乗り資料館を後にした。次の目的地は海軍基地だ。マイラスは列強第2位のムーが誇る海軍の姿を見せ付ける使命感に燃えていた。

 

 

(どうもオーシアには航空分野で負けているようだが、まだムーにも勝算はあるはずだ)

 

 

 先日スコット補佐官により教えられた、オーシア戦闘機は音より速く飛べるという情報。それはムーが航空技術において敗北してることを意味する。航空技術では負けたが、まだムーは完敗したわけではない筈だ。

 

 マイラスは、オーシア使節の艦船――通信情報艦アンドロメダの写真を思い出す。あの艦は小口径砲と通信アンテナらしきものばかり載せていて、あれと比べたらムーの30.5cm砲を搭載した新鋭戦艦の方が遥かに強そうだ。

 

 今回は自信満々に紹介できそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日 11時10分

ムー国 マイカル市/マイカル海軍基地

 

 

 やがて海軍基地に到着し、自動車から下りた一行は軍港内を移動する。軍港の岸壁には空母や巡洋艦など多数のムー海軍の艦艇が停泊していた。その中に1隻、巨大な30.5cm砲を誇らしげに上に掲げた戦艦の姿があった。

 

 

「ご覧下さい。あそこに停泊しているのは我が国最新の戦艦『ラ・カサミ』です」

 

 

 マイラスは軍港の一角に停泊しているムー海軍の最新鋭戦艦『ラ・カサミ』を指し示す。戦艦ラ・カサミは排水量1万5千トンの船体に30.5cm砲2基4門を載せた、俗に言う前弩級戦艦に分類される戦艦だ。

 

 

「おおっ、戦艦かぁ! やっぱり戦艦はいいですね! ロマンがありますよ!」

「そうですね」

 

 

 スコット補佐官が興奮し始める。対してシンクレア大使の方は興味がないかのような反応だ。大使の方はあれだが(軍事に無頓着な女性も多いからむしろ普通な方だ)、おそらくオーシア人でも戦艦のロマンは分かるらしい。

 

 そこでマイラスは気づく。戦艦のロマンが分かるということはオーシア人も戦艦を知っているということだ。知っているなら戦艦を持ってるかもしれない。マイラスはオーシアに戦艦が存在するか探ることにした。

 

 

「オーシアにも戦艦はあるのですか?」

「ああ、はい。我が国もかつては大量の戦艦を持っていましたね」

 

 

 質問にはスコット補佐官が答えてくれた。薄々気付いていたが、どうやらこの手の事に関しては彼が専門らしい。

 

 

「かつて、ですか? ということは今は持っていないんですか?」

「無いことはないんですけど、戦艦は今のオーシア軍の運用思想に合わないので、何年も前にほとんど売却か解体か保管艦になりましたからね。現役は少数だけです」

 

 

 スコット補佐官の言うとおり、かつてオーシア国防海軍はアイオワ級戦艦などの戦艦を多数保有してたが、現在ではそのほとんどが国内に残っておらず、残った艦も半数がモスボール保管されて予備艦と化している。

 

 戦艦は強大な大口径砲による攻撃力と重装甲による防御力により、かつては艦隊の主力として君臨していたが、ミサイル攻撃が全盛の現代においては航空機でも簡単に戦艦を沈められるようになり、主力の座から追い落とされた。

 

 分厚い装甲を持つ戦艦を倒せるのは、その装甲をぶち抜く巨砲を持った同じ戦艦だけだった。だが現在、少数の戦闘機で戦艦を沈められるようになると、戦艦は不要となり空母が艦隊の主力となった。

 

 特に実戦にて戦闘機が戦艦を沈める事例が起きるとそれは加速した。

 

 例えば2003年からの大陸戦争では2()()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、2010年の環太平洋戦争、2016年のEE戦争、2020年のオーレリア戦争でも戦艦が航空攻撃で沈められている。巡洋戦艦も含めたらさらに多い。

 

 少なくとも、現代の戦争では戦艦は完全に不要であった。

 

 そういった経緯で戦艦は時代遅れの烙印を押されてオーシア海軍から追放された。結果としてオーシアが建造した多くの戦艦は次々に現役を退き、売却か、解体か、モスボール保管されるようになった。ごく少数だけなら今も現役ではあるが。

 

 

(オーシアは艦隊の主力艦をほとんど追い出したということか? これでは海戦では大した戦力にならなそうだが……)

 

 

 もちろん、マイラスはそんな事情を知らないので戦艦を捨てたオーシアの海軍に対してそんな感想を抱いた。少なくともムーでは、実戦で航空機が戦艦を沈めた前例がないため、戦艦を沈められるのは戦艦というのが常識だ。

 

 

「この世界は弱肉強食です。強力なフネを持たない国は基本ナメられますが、オーシアは戦艦を新造しないのですか?」

「うーん、どうですかね。前の戦争で空母がかなり沈められたので、今のオーシア海軍は空母を優先して建造してますから。戦艦は優先順位が低いと思いますよ」

 

 

 スコット補佐官の返答にマイラスは考える。

 

 

(戦艦よりも空母だと? なぜオーシアは艦隊の主力艦たる戦艦を追いやってまで、()()()()()()の整備を優先しようとしているんだ? ……ますますわからん)

 

 

 マイラスの――ムーの常識では、空母や航空機が戦艦を沈めるなど不可能なことである。空母はあくまで戦艦の行動を支援する補助艦に過ぎない。後々彼もその認識の間違いを自覚するのだが、それはまた別の話。

 

 ただオーシアとの常識があまりにも異なっていただけだった。

 

 1週間後、マイラスはムーの案内を終えた後、ムー首脳陣に報告書を送った。オーシアの戦闘機が音の速さを超えてるとか、オーシアがムーと同じ転移国家であるという情報は少なからずムー首脳陣を混乱に陥らせた。

 

 だがオーシアは敵対したりせず、むしろこと経済面において友好的な態度をとってくるため、拒否する理由も無かった。またオーシアの科学技術がムーに入ってくる可能性から、ムーはオーシア連邦との国交を結ぶ事になった。

 

 

 




ニミッツ級空母相当のケストレルの艦番号が30番だったあたり、オーシアはアメリカより空母作ってないと思う(ニミッツ級の艦番号は60番以降)から、オーシアは最近まで戦艦ばかり作ってた説ワンチャンある
もしくはただエセックス級みたく月刊空母がないだけか
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