中央暦1639年7月4日 10時30分
オーシア連邦 大統領官邸ブライトヒル/首都オーレッド
大統領官邸ブライトヒルの執務室にて、大統領はいつも通り執務中であった。そんなとき大統領補佐官が執務室に入ってきて、大統領は補佐官からとある報告を受けた。その報告に大統領は困惑した。
「アルタラス王国が我が国に援軍の派遣を要請してきただと?」
「はい、何でもアルタラスはパーパルディアから滅茶苦茶な要求をされて、それを飲み込めないなら攻撃すると脅されたそうです」
「アルタラスはどんな要求をされたんだ?」
「それは、こちらの文書に書いてまあります」
パーパルディア皇国がすでにオーシアと国交を結んだ国に攻めることは予想されていた。パーパルディアとはそういう国である。だがいくらなんでもこんな早くとは思ってなかったというのが大統領の本音だ。
オーシアの言語に翻訳されたパーパルディアからアルタラスへの要求文書を大統領は補佐官から受けとり、目を通す。読み進めるうち、その文書から滲み出るパーパルディアの傲慢さに大統領は目眩を覚えた。要求は以下の通り。
アルタラス王国に告ぐ
――即時、我が国への献上を再開せよ。
――今回の我が国に対する献上停止の件について謝罪と賠償を行え。
――賠償は貴国最大の魔石鉱山であるシルウトラス鉱山の我が国への献上とする。
――これに従わぬ場合、皇国は3週間後の7月22日に貴国へ懲罰行動を開始する。
――追記:貴国の王女ルミエスを奴隷としてパーパルディア皇国第3外務局アルタラス出張所へ差し出すこと。
「最大の鉱山と王女の引き渡しか……ところでこの献上ってなんだ?」
「パーパルディアが自国影響下の国に行ってる要求です。奴隷、土地、資源を差し出す代わりに皇国から技術や工業製品を供与して貰ったり皇国の庇護を受けられるそうです」
「デメリットの方が目立つな」
「まぁ、アルタラスも我が国と交流してから献上を止めたそうです。
「だとすればアルタラスが献上を止めたのも納得できるな。それで献上を止めたらパーパルディアが怒ったという訳か」
つくづく思うが、パーパルディアという国はなんとも傲慢なものだ。
「とりあえず閣僚達を集めろ。アルタラスを救うにせよパーパルディアと戦争するにせよ、これは話し合う必要がある」
「分かりました」
ー30分後ー
同所
30分もすれば、大統領官邸の執務室には副大統領や国務大臣、通商代表大臣、国防大臣、財務大臣といった閣僚らが集まっていた。ほとんどの閣僚が集まったことを確認した大統領はさっそく口を開く。
「すでに聞いてると思うが、アルタラスがオーシア軍派遣を要請してきている。我が国はまた戦争に参入することになるかもしれない。そこでいくつか聞いておきたいことがある」
まず大統領は国務大臣に質問する。
「国務大臣、アルタラスとは安保条約は締結していたか?」
「はい、1週間前に締結しましたばかりです。両国のどちらかに危機が迫った場合、軍の派遣が出きます。ただし駐留軍の派遣はまだ出来ておりませんが」
「まぁそれなら参戦の口実はあるのだな」
「えぇ、この世界ではどうか知りませんが、少なくとも前世界なら参戦の大義名分として認められるでしょう」
すると財務大臣が質問する。
「一つ聞きたいのですが、アルタラスに味方したとして、何か我が国にとってのメリットはあるんですか?」
「考えられるのは参戦のメリットよりもアルタラスが攻撃された際のデメリットです。ムーはご存知ですよね財務大臣?」
財務大臣の質問に対し、通商代表大臣が逆に質問をする。
「この前国交を結んだ国、でしたか? 機械科学が主流の近代国家で市場として期待できると聞いとります」
「はい。ムーは工業製品の輸出先としては非常に期待されております」
「しかし、それとアルタラスと何か関係が?」
「それはアルタラスの位置が関係します」
通商大臣は、人工衛星の情報をもとに作られた第3文明圏周辺の地図を広げ説明する。
「アルタラスはここです。見ての通り、ロデニウス大陸とフィルアデス大陸の間に位置します。ここは第3文明圏の出口であり、通商航路のチョークポイントになります」
大統領は、通商大臣が財務大臣に言いたいことを何となく理解した。
「つまり……貿易中継地として使えるアルタラスの喪失は、ムーとの貿易でマイナスとなりえる、そういうことですか?」
「そうです。経済的損失を考えれば、アルタラスを救うのは妥当と思われます。それに国防的にもパーパルディアの脅威は早めに無力化すべき、でしたな国防長官?」
「ええ、その通りです」
大統領はなるほど、と相槌を打ちつつ少し考える。確かに経済的にマイナスなことが起きるのならばアルタラスを救うのは悪くないだろう。だがまだ懸念材料は残されている。大統領は国防長官の方へと振り向く。
「国防長官、一応確認しておくが、かの国の戦力は判明してるのか?」
恐らく大丈夫だろうが、相手はこの世界において『列強』と呼ばれる国であり、いくらオーシアといえど油断できない。
「ハッ、問題ありません。OIAの諜報活動や偵察機の高高度偵察によりパーパルディアの戦力は正確に把握出来ました」
「具体的にどの程度だ?」
「それに関しては私が説明します。まず――」
国防長官に代わってエドワード統合参謀本部議長が説明を始める。まずは皇国の航空戦力。ワイバーンの改良種を使用しており、改良種の最高速度は時速約350キロで全く脅威にならない。保有数は2000騎近い模様。
続いて皇国の海軍戦力、1000隻以上の戦列艦や竜母、及びそれとほぼ同数の補助艦艇を持つ。だが戦闘艦は射程2キロ程度の大砲のみ、竜母と呼ばれる空母もワイバーンロードしか載せてないので脅威にならない。
最後に皇国の陸軍戦力、主にマスケット銃で武装した戦列歩兵を中心に90万人で構成され、射程2キロの大砲を有した砲兵、機甲戦力と思われる地竜なるものを有している。いずれも不用意に近づかない限り全く脅威にならない。
魔法に関しては、通信・索敵・医療など後方支援には大々的に使用しているが、ロウリアのように攻撃部隊では使用しないらしい。そのため皇国軍の戦力は魔法を抜きにして考えても差し支えないとのことだ。
「どこでこんな情報を手に入れたんだ?」
「現地諜報員と高高度偵察機による調査活動の結果です」
「いや、そうじゃなくて、どうやってここまで詳細が分かった?」
「皇国人はプライドが高いですから。現地諜報員が文明圏外人を装って下手に出れば情報を自慢ついでに渡してくれました。一部は皇国軍兵士から聞き出せたので信頼できます」
大統領はそんなパーパルディアに呆れつつも再度尋ねる。
「つまり結論は?」
「オーシア国防軍はパーパルディアに100パーセント勝てます」
それなら戦争をしてもオーシア側に被害はほぼ出ないだろうと大統領は思った。
「……なるほど分かった。さて、では我が国は具体的にどう動くべきだろうか?」
「まず、2週間以内にアルタラスへオーシア軍を派遣、その後、安保条約を口実にアルタラスを攻める皇国軍を撃退します」
「その後は?」
「皇国に我が国の力を適度に見せつければ、皇国も高圧的には出れない筈です。その間に皇国を直接叩く準備を整えます。その後、攻勢に出て適度に皇国を叩くのです」
大統領は黙考し、しばしして口を開く。
「……分かった。では2週間以内にアルタラスへと援軍を送る。議会にもなるべく早く軍派遣の許可を取り付けてもらおう」
大統領はアルタラスを救う――というよりパーパルディアと戦争する決断をした。
中央暦1639年7月22日 07時00分
パーパルディア皇国 パーパルディア皇国監査軍連合艦隊/某軍港
複数の戦列艦からなる艦隊が南に舵を取りパーパルディアの港から出港した。皇国監査軍の艦隊である。ついにアルタラス王国に対する要求の期限となったため、アルタラスに懲罰攻撃をすべく進撃を始めたのだった。
今回、文明圏外の大国とも呼ばれるアルタラス王国への攻撃とあって監査軍は東方艦隊、北東方艦隊、南方艦隊まで戦力を総動員し、合計66隻の戦列艦を集めていた。ワイバーンロードも60騎が投入される。
戦列艦は30門級、50門級、80門級が大半を占めており、正規軍たる皇軍と比べたら飛竜を洋上で運用できる竜母も、砲火力の高い100門級戦列艦も無い。だが監査軍の結成以来最大の戦力であることに違いなかった。
「敵国ワイバーンの行動圏内に入り次第、警戒を厳となせ」
監査軍艦隊を率いる提督ポクトアールは、いくら艦隊の規模が大きくとも決して油断してはならないと自身に戒める。相手は文明圏外の大国。艦隊に被害が出るのは覚悟の上だ。まさか全滅したり壊滅するとは思ってなかったが。
中央暦1639年7月23日 11時00分
アルタラス王国 上空6000メートル
アルタラス王国上空、そこには2機の大型機の機影があった。オーシア空軍の紋章を機体に描いたそれは、C-5ギャラクシー戦略輸送機である。航続距離の長さが特徴の2機の輸送機は、ある戦力をアルタラスに運ぶべく飛んできていた。
もともと、オーシアはアルタラス王国内に駐留軍を置くことを予定していた。しかし皇国があまりにも早くアルタラスに攻めてきたので、監査軍が迫ってきた時点でアルタラス国内にオーシアの駐留軍はいなかった。
そのため監査軍の侵攻により、オーシア軍は急遽アルタラスへの援軍の派遣を決めた。しかしアルタラス国内での駐留軍向けの基地も建設の途中で、オーシア軍機の離発着と補給作業は行えないのが現状だった。
しかもアルタラスはそこそこオーシア本土から遠いので、航続距離の関係上、オーシア本土から戦闘機を飛ばすとアルタラスにつく頃には燃料切れが近く、戦闘機では満足な戦闘を行うことができない。
そのためオーシア軍は、即座にアルタラスへ展開可能であり、補給上の心配もなく活動ができる戦力をアルタラスへと派遣することにした。そうしてアルタラスへと派遣されたのは、特異であると評すべきものだった。
≪こちらAWACSスカイキーパー。敵艦隊は1時間以内にアルタラス領海に侵入する≫
アルタラス上空に展開したオーシア空軍所属のE-767早期警戒管制機がレーダーで監査軍艦隊の接近を確認する。E-767は元々旅客機から改造された機体で航続距離が長く、そのためアルタラスの援軍の一つとして派遣されている。
≪UAV全機、出撃用意。アルタラス軍とも情報共有しておけよ。主役は俺らだが彼らの顔を立てる必要もあるからな≫
≪了解。アルタラス軍に情報を共有します≫
≪UAV全機、出撃用意≫
E-767の情報は、アルタラス王国軍にも共有される。少なくとも今回の当事者はアルタラスなので彼らの顔を立てる必要があった。この情報を受けて王国内の飛竜隊基地では王国軍のワイバーンが緊急発進を開始した。
オーシア軍側も迎撃準備を急ぐ。アルタラス王国上空のC-5ギャラクシー戦略輸送機2機は後部貨物扉を開くと、機内から次々と無人機を空中へと投下し始めた。投下された無人機は空中で主翼を展開し、すぐさま飛行を開始する。
投下されたのはMQ-101無人戦闘機。技術大国ベルカの流れを汲んだグランダー社が空中空母の搭載機として開発した寄生無人戦闘機だ。超大型無人空中空母『アーセナルバード』にも搭載されてたことで知られる機体である。
即座にアルタラスへと展開可能であり、補給上の心配もなく活動ができる戦力という条件を、オーシア軍は『足の長い輸送機を空中空母として運用し、搭載機に小型の無人機を選ぶ』ことでクリアしたのである。
発進したMQ-101の数は12機。先に発進したアルタラス軍のワイバーンを亜音速飛行で追い越すと、そのまま敵艦隊に向かう。十数分も飛行を続ければMQ-101の各種センサーは敵艦隊の反応を捉え始めた。
≪バラクーダ1より各機。敵艦隊上空の戦闘空中哨戒を行ってるとおぼしき飛竜を撃墜後、任意目標を攻撃せよ≫
≪バラクーダ2、了解≫
≪バラクーダ3、了解!≫
C-5機内のキャビンからMQ-101を遠隔操作する無人機操縦者らは、MQ-101の兵装を敵に向ける。MQ-101は本来なら戦闘AIを搭載する完全自律兵器であるのだが、オーシア軍では灯台戦争後に遠隔操縦方式を採用していた。
遠隔操縦方式ではハッキングや電子戦攻撃などで無力化される危険性を孕んでる。それに自律兵器としての利点も消えてしまう。だが、灯台戦争での経験からオーシア軍はAI搭載の無人機を全く信用しなくなっていた。
≪全機エンゲージ。攻撃開始≫
無人機の群れが監査軍艦隊に襲い掛かる。
・MQ-101
オーシアのグランダーIG社が開発した全翼機型の寄生無人戦闘機。
寄生の名の通り輸送機や爆撃機などの大型機の機内に収納可能で、武装は20mm機関砲M197や各種のミサイル、最高速度はマッハ0.9、機動性も高く有人機に劣らぬ性能を有する。
・アーセナルバード
テロ攻撃に脆弱な国際軌道エレベータの防衛を目的に、オーシアが主導して各国が共同で2機開発した超大型無人空中空母。
全翼プロペラ機型の形状で、重量約10万トン以上かつ全幅約1100m以上の巨体に先述のMQ-101を80機、その他多数の兵器を搭載する。
灯台戦争ではMQ-101や軌道エレベータもろともエルジア軍に接収されて2機が運用されてたが、最終的に破壊されている。
・C-5MAマザーギャラクシー
オーシアがC-5Mスーパーギャラクシー戦略輸送機をベースに造った空中空母。
先述のMQ-101無人機を6機搭載し、無人機の遠隔操縦から発進と収納、補給作業まで全て飛行しながら行うことができる。
元はエストバキア軍の空中艦隊構想に影響を受けて試験的に開発されたもので、2機の本機と1機のE-767空中管制機、1機のAL-1B対空レーザ機で空中艦隊を構成予定だった。
最終的にAL-1Bの開発の遅れと軍縮の煽りを受けてオーシア版空中艦隊構想は頓挫したが、C-5MAで得られた試験データは後にアーセナルバードの開発にて活かされている。
――
C-5MAは本作オリジナルです。エスコンには登場しないのでご注意下さい。C-5MAの説明にあるAL-1BはエスコンINFで「セリフ内のみ」なら出てきます。
あとアルタラスに派遣する戦力、普通に空中給油受けた戦闘機でも十分だったり。でもなんかオーシアの超兵器的なやつ出さないといけない気がしたので許して…