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中央暦1639年7月23日 11時05分
パーパルディア皇国監査軍連合艦隊
昨日にパーパルディア皇国の軍港より出港、海上を南下しつつあるパーパルディア皇国監査軍の連合艦隊は、アルタラス王国への懲罰行動を行うべく進撃する。彼らはその最中にオーシア軍無人機の攻撃を受けた。
監査軍の中で最初に攻撃を受けたのは、上空を警戒飛行中のワイバーンロード8騎だった。提督ポクトアールは空気を切り裂くような音と、遅れて何かがはじけるような炸裂音が鳴り響いてきたことに気づいた。
「ん? 何の音だ?」
提督ポクトアールは音のする方向が上であることを認識すると、空を見上げる。
「なっ!?」
彼が見たのは、上空を警戒中のワイバーンロード8騎が突如としてバラバラに粉砕されて幾つもの肉片になる光景だった。襲撃者は当然ながらオーシア軍無人機が遠方より発射した8発の空対空ミサイルである。
「な、何だ!?」
「ワイバーンロードがやられた!!」
「攻撃か! 敵はどこだ!」
ワイバーンロードと竜騎士が瞬く間に物言わぬ肉片と化し、肉の焼ける香ばしい臭いと赤黒い血と共に雨のように落ちてくる。無敗と言われるワイバーンロードが撃墜される光景を目にした監査軍艦隊の面々は狼狽える。
提督たるポクトアールですらも、第3文明圏内では敵なしであり、無敗とさえ言われているワイバーンロードの敗北の光景に狼狽えてしまう。だが、直後に彼の耳に飛び込んできた見張り員の叫びを聞いてハッとした。
「西方! 敵飛竜およそ10騎! 急速接近!」
「艦隊各艦、対空戦闘用意! 僚艦との距離を開けて回避行動に専念せよ! 通信士、本国のワイバーンロード隊に出撃要請! 8騎を簡単に殲滅されたのだ、全力出撃させろ!」
腐っても艦隊を指揮する立場にあるポクトアールはすぐに指示を出す。ポクトアールの指示は魔信を通じて監査軍艦隊の全艦に伝えられた。だがそれが完了する前に艦隊の上空を襲撃者が航過した。それは空を一瞬にして通過する。
それはポクトアール、いや、監査軍艦隊に随伴している全ての人間にとって全く見たことのない物体だった。生物らしさをいっさい感じさせない無機質な見た目、白色のそれは少なくともワイバーンの類いではなかった。
「何だ、アレは……!?」
ポクトアールが呟きを漏らした瞬間、艦隊前方を航行していた30門級戦列艦パオスがいきなり爆発した。MQ-101の投下したXSDB小型誘導爆弾は戦列艦パオスに命中、艦内の魔石や弾薬を誘爆させて轟沈せしめたのだ。
「ぱ、パオス轟沈!」
「バカな! 30門級とはいえ装甲付きの戦列艦が一瞬で轟沈だと!?」
その間にも、艦隊最前列の戦列艦、艦隊最後尾の戦列艦が無人機の攻撃を受けて轟沈する。艦隊の前方と後方を塞がれたことにより逃げ場を失った監査軍艦隊は、無茶な回避運動を取ろうとして衝突事故を多発させる。
完全にパニック状態に陥った監査軍艦隊に向けて、無人機の群れは再び襲い掛かった。無人機は逃げ場のない戦列艦に向けてXSDB小型誘導爆弾を降り注いだ。正確無比な命中率でXSDBは戦列艦を次々狩っていく。
風魔法を付与した対空用の魔導弩弓や、戦列艦の魔導砲の仰角をとり対空射撃を試みる戦列艦もあった(皇国軍の戦列艦は対空目的で砲に仰角をとれる)が、ワイバーンの何倍も高速な無人機には絶望的に当たらない。
「提督、艦隊後方に友軍騎――味方ワイバーンロードです!」
「おおッ、ついに来たか!」
ようやく監査軍ワイバーンロード52騎が艦隊の上空に到着したことに、ポクトアールら監査軍は歓声を上げる。先ほどは8騎が瞬殺されたが、50騎以上の大群で挑めば敵騎を捻り潰せるはずだ。彼らはそう思った。
艦隊上空の敵飛行物体も翼を翻してワイバーンロード隊と対峙する。52対12。数の差で圧倒できるだろうとポクトアールは思った。ポクトアールは希望を見いだすが、次の瞬間その希望は簡単に捻り潰された。
ポクトアールは見た。敵騎が
「なっ!?」
「そんなバカな……」
一瞬にして味方ワイバーンロードが20騎以上は叩き落とされた。監査軍の面々はその光景に顔を青くする。敵騎はさらに距離を詰めると、高速に加えて信じられないほどの旋回機動を発揮し、ワイバーンロードを翻弄する。
ワイバーンロードが敵騎に向けて火炎弾を放つが、敵騎は生物では決して不可能としか思えない急旋回機動を連続してそれを回避する。ワイバーンロードの攻撃はまるで当たらず、逆に敵騎の攻撃は必中である。
数分もせず、味方ワイバーンロード隊は全滅してしまった。監査軍の混乱と絶望に構うことなく敵の飛竜は空を飛び回り、再び戦列艦への攻撃を再開する。絶望する監査軍だが、彼らはさらに絶望することになる。
「南方よりさらに不明騎!」
「今度は何だ!?」
ポクトアールは南方を見る。そしてその顔を今まで以上に青白くした。空が黒く見えるほどのワイバーンの群れが近づいてきていた。少なくとも100騎は下らない数のワイバーンの群れがそこにいたのだ。
「あれは……間違いありません、アルタラス王国軍のワイバーンです!」
「このタイミングでか……!」
「ああ、何てこと……水平線上に船影、おそらくアルタラス王国海軍!」
オーシア軍無人機隊に遅れて、アルタラス王国軍のワイバーンと戦列艦が戦闘に到着しようとしていた。アルタラス王国軍の装備は監査軍の装備と比べたらかなり劣っており、通常だったら監査軍が勝てただろう。
だが艦隊に打撃を受け、エアカバーを喪失した今の監査軍艦隊にこれを退けるだけの力は残されてないのだ。エアカバーがない状態で敵飛竜の攻撃を受けるので一方的に叩き潰される可能性すらあるだろう。
「て、撤退だ!全艦反転し本国に帰投せよ!この作戦は……失敗だ!」
監査軍艦隊は轟沈艦の残骸を避けながら撤退を始める。その時点でアルタラス軍ワイバーンも攻撃を開始し、すでに残存艦は20隻も残されていない。ポクトアールの乗る艦も艦の能力を最大限発揮して急反転を開始する。
だが次の瞬間、ポクトアールの乗る旗艦は大きく揺れ、ポクトアールは甲板上で姿勢を崩して転倒した。アルタラス軍ワイバーンの放った火炎弾が命中、それが何らかの可燃物を爆発させたのだ。火の手は艦全体に広がる。
「ま、まずい」
ポクトアールは海上に飛び込もうと立ち上がるが、次の瞬間、炎上した監査軍艦隊の旗艦は魔石が誘爆、盛大な火柱を立ち上らせて轟沈した。もちろんのことだが、ポクトアールはこの旗艦から脱出できていない。
オーシア軍無人機は、遅れて戦闘参加したアルタラス王国軍の戦列艦45隻、飛竜120騎と共に監査軍を執拗に攻撃して撃退、戦闘はオーシア側の圧勝で終わった。監査軍艦隊の残存艦は66隻中、僅かに5隻だけだった。
同日
アルタラス王国
パーパルディア皇国監査軍の撃退に成功したことに関し、アルタラス王国はこの件を大々的に世界へと報じることとなった。その目的は国際的に文明圏外国が列強に勝ったという事実を知らせることにある。
また、これはオーシアからアルタラスへの依頼でもあった。これはオーシアが自らの強さを皇国に示すことで、しばらくの間は皇国に下手な行動を起こさないように牽制し、その間に皇国への攻勢準備を整えるという目的もある。
アルタラスは魔信ラジオを通じてこの件を世界中に報道し、特にパーパルディアにより実質的に支配されてる第3文明圏各国、そしてパーパルディア本国にまでこの件に関しての情報を拡散したのである。
オーシアも近日中にアルタラス国内に駐留軍を派遣し、突貫工事で駐留軍向けの基地施設を整える予定である。オーシア本国から陸軍部隊を載せた揚陸艦がアルタラスに向かっており、これに遅れて空母艦隊も向かう予定だ。
もちろん監査軍を撃退したMQ-101無人戦闘機とそれを搭載するC-5も一度本国に帰還して弾薬と無人機用の燃料を満載してから、今度はC-5を4機に数を増やして再度アルタラス上空へと飛来し展開する。
これを同時に報道してしまえば、まず普通の国であれば再度の侵攻を躊躇する筈だろう。オーシアはそれを期待していた。だが問題は、期待すべき相手が普通の国などではなく、あのパーパルディアだったことだ。
中央暦1639年7月24日 08時30分
パーパルディア皇国 第3外務局
「なんだこの報告書は……!」
第3外務局局長のカイオスは頭の血管が切れるのではないか、と思えるほど憤怒していた。普段は穏やかなカイオスがそこまで怒りを表に出して怒っている原因は、彼がアルタラスに送った監査軍の報告書にあった。
まず始めに、監査軍連合艦隊がアルタラス沖にて約10騎の未確認騎に攻撃を受けたという。上空援護中のワイバーンロード8騎は全滅、艦隊も空襲を受けたらしい。ワイバーンロードが8騎も被撃墜など前代未聞である。
この時点で既にカイオスは怒り心頭であるのだが、監査軍の悲劇はこれだけでは留まらない。その後、艦隊の上空援護のため、後援として本国待機していたワイバーンロード52騎が全力出撃したという。問題はその次だ。
『ワイバーンロード隊全滅』
第3外務局に激震が走った。52騎のワイバーンロード隊が全滅である。ワイバーンロードが文明圏外国に墜とされた事は何度かあるが、それはせいぜい1騎か2騎が限度であり、52騎、いや合計60騎が全滅など前代未聞だ。
艦隊の方も大打撃を受けて撤退したのだが、帰還したのは66隻中5隻である。他の艦はみな敵の攻撃に沈められて海の藻屑と化し、運良く帰艦できた艦達も、二度と航海できないレベルで酷くボロボロとなっていた。
一体何が彼らをここまで痛め付けたのか。帰艦した艦隊の水兵らによると、白くてブーメランのような形状の飛竜らしきものが艦隊を攻撃したらしい。だがアルタラスの有する航空戦力はワイバーンであり、その特徴に当てはまらない。
(敵は……オーシアか)
とすると恐らくだが襲撃者はオーシアの可能性がある。いや、実際にオーシアだ。先ほどアルタラス王国が魔信ラジオの放送で監査軍をオーシアと共に撃退したと公表したのである。やはりオーシアが関与してるのだ。
オーシアは文明圏外では進んだ技術力、それも列強ムーの技術を持つと考えられる彼らの事だ、おそらく今回監査軍を襲撃したのはは飛竜ではなく飛行機械だ。飛行機械ならそれほど被害を与えられるかもしれない。
だが、皇国に泥を塗った敵がどうなるかは想像に難くない。いくら旧式とはいえ列強たる我が国の戦力を下すとなると次は監査軍では無く正規軍の、最新鋭の装備を有するパーパルディア皇国軍が動くに違いないだろう。
皇国軍が出撃することはほとんどない。それこそパーパルディアを激怒させるなど相当な理由がなければ。故に彼らが動けば、例え同じ列強の軍隊であろうが大損害は免れない筈。そして相手が文明圏外国なら言うまでもない。
「カイオス局長!」
「なんだ!」
報告書を読み進めていたカイオスを、彼の部下が呼び出す。
「皇帝陛下からです! 緊急御前会議を開くので今すぐ皇宮へ来るようにと!」
「ッ……! 分かった、すぐ向かう」
おそらく監査軍壊滅の件がパーパルディア皇帝のルディアス陛下のもとに伝わったのだろう。カイオスは自らの今後の運命がせめてよろしい方向に動くよう内心で祈りながら、皇帝ルディアスのいる皇宮へと向かった。