オーシア連邦召喚   作:スカイキッド

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第22話「殲滅戦宣言」

 

中央暦1639年7月24日 09時15分

パーパルディア皇国 皇宮パラディス城/皇都エストシラント

 

 

 皇宮パラディス城は第3文明圏唯一の列強国の皇帝が住まう場所として相応しく、皇都で最大の大きさを誇っている。にも関わらず柱に至るまで繊細な彫刻が彫られ、皇国外から来た人間はその威に圧倒されるものだ。

 

 そんな第3文明圏の全てから富をかき集めて築き上げたかのようなこの宮殿に、皇帝の呼び出しを受けて第3外務局長カイオスは訪れていた。そして今、カイオスは頭を下にして、一人の男の前で跪いていた。

 

 

(おもて)を上げよ」

 

 

 カイオスは冷汗をかきながら顔をあげる。彼の周りには第1外務局長、第2外務局長、経済担当局長、臣民統治機構長、外務局監査室長、都市計画局長、財務局長、農務局長といった皇国の重臣たちが平伏している。

 

 重臣やカイオスが跪いたり、平伏する先には若い男の姿がある。しかし、その若い見た目とは裏腹に空気が張り詰めるほどの威厳を、男は解き放っていた。この男こそパーパルディア皇国の若き皇帝ルディアスである。

 

 

「カイオスよ、どうやらアルタラス王国へ懲罰のために監査軍を派遣したそうだな。して、余への報告はどうした」

 

 

 ルディアスに問われ、カイオスは口を開く。

 

 

「ははっ、監査軍派遣の報告を行わず、申し訳ございま――」

(たわ)けッ!!」

「っ……!」

 

 

 ルディアスに怒鳴られ、カイオスの全身から汗が吹き出る。

 

 

「カイオス、余は蛮国への懲罰報告が聞きたいわけではない。余が聞きたいのは監査軍が蛮国に敗北したことについてだ。監査軍が敗北したというのは事実だな?」

「は、はい、事実で御座います」

 

 

 カイオスは慎重に、かつ言葉を選びつつルディアスの問いに答える。

 

 

「聞いたぞ。何でも監査軍は相当な被害を出したそうだな。旧式装備の監査軍とはいえ、各国はこの皇国が文明圏外国に敗れたと見るだろう。そんな事があってはならん!」

 

 

 ちら、とカイオスが視線を上げると、ルディアスの顔は怒りに染まりつつある。これは非常に不味いとカイオスは直感した。怒りは人の判断力を鈍らせる。下手なことを口走れば速攻で処刑されるかもしれなかった。

 

 

「我が国に土をつける国には、必ず責任を取らせる必要がある。皇国に逆らうという事がどういうことか、きっちり教養せよ」

「も、もちろんでございます」

「してカイオス、相手はどこの国だ?」

「はい、アルタラス王国と、恐らくですがオーシアかと思われます」

「ふむ……オーシアは聞いたことがないが、アルタラスか。我が国もナメられたものよ」

 

 

 ルディアスは頬杖をつくと、そのまま軍の最高司令官アルデに問う。

 

 

「アルデよ、皇国軍の出撃は可能か?」

「はっ、陛下の御命令あらば近日中に全軍の出撃が出来ます。陛下の御言葉一つで全軍に対し出撃を命じられます」

 

 

 監査軍と異なり、正規軍の皇国軍。彼らは本来であれば(第3外務局の意思とは別に)アルタラス王国へ侵攻し、同国の魔石鉱山を国ごと奪うべく戦争の準備を行っていた。そのため近日中の出撃が可能だったのだ。

 

 

「では、命ずる」

 

 

 ルディアスは一度言葉を区切る。

 

 

「監査軍を退け調子に乗ってる蛮族……アルタラス王国と、オーシアとか言ったな? まずはアルタラスに対し皇軍の派遣を命ずる。皇国に逆らう国がどうなるか、今一度知らしめよ」

「ハッ!」

 

 

 これでアルタラスはもう終わりだ、と会議参加者の誰もが思った。事実、皇国の正規軍たる皇軍が動いて無事で済んだ国など、ここ百年存在しないのだ。するとここで、外務局監査室に所属する皇女のレミールが挙手する。

 

 

「陛下、少しよろしいですか?」

「どうしたレミールよ」

 

 

 ルディアスやカイオスらが、レミールへと視線を向ける。

 

 

「はい、外務局監査室に属する身として、監査軍を退けたオーシアに関する第3外務局の報告書を拝見しました」

 

 

 カイオスがギョッとしたようにレミールへと視線を向ける。外務局監査室はその名の通り外務局の不正や対応の不手際を監査する部署であり、その性質上、外務局の纏めた報告書などを勝手に見る事ができるのである。

 

 

「何でもオーシアという国は、列強ムーから高度な技術を得て、それを我が皇国配下の蛮国に輸出することで蛮国を皇国から離反させようとしているそうです」

「なに? それは本当か、カイオスよ」

「は、はい。推測ではありますが、その可能性が非常に高いです」

 

 

 不味いことになったとカイオスは思った。ここでレミールが変なことを口にすればカイオス自身の首が飛ぶ。

 

 

「ふむ。それでレミールよ、何が言いたい」

「陛下、我が皇国への内政干渉にも等しい不遜な行いをする蛮国の民は早急に滅ぼした方が良いと思うのです。私は蛮国オーシアに対する殲滅戦の実施を具申します」

 

 

 殲滅戦――その名の通り相手国の全ての人間を殲滅する民族浄化を行うのだ。人一倍愛国心が強く、プライドが高い良くも悪くも列強パーパルディア皇国民の模範的な存在のレミールだからこその具申であった。

 

 

「……確かにその通りだな。よかろう、余はオーシアに対する殲滅戦を宣言する。ただしまずはアルタラスからだ。地理的にも近場のアルタラスの方を先に落とした方が良かろう」

 

 

 ルディアスもレミールの提案に理解を示し、オーシアに対する殲滅戦を宣言する。こうしてオーシアとパーパルディアの全面衝突は始まるのだ。するとルディアスは思い出したかのようにカイオスに視線を向ける。

 

 

「そういえば、カイオスよ」

「は、はい。何で御座いましょうか」

「監査軍全滅の件と、オーシアの内政干渉の報告を怠った貴様の責任は大きい。貴様にはさしあたり謹慎と減俸を命じる」

「は、はい。分かりました」

 

 

 とりあえず自身の首が物理的に飛ばなかったことにカイオスは安堵した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央暦1639年7月29日 18時00分

オーシア連邦 大統領官邸ブライトヒル/首都オーレッド

 

 

 オーシア軍がアルタラス王国軍と共同でパーパルディア皇国軍を撃退してから、1週間が経過しようとしてた頃。オーシア軍は皇国への直接攻撃の準備を進めていた。皇国が行動するのはまだ先。そう思われてた最中だ。

 

 どういう訳か、パーパルディア皇国がこの世界の大手国際メディア『世界のニュース』を通じてオーシアとアルタラスに対し本格侵攻することを発表、さらにオーシアに対する民族浄化を行うと宣言したのだ。

 

 パーパルディアは完全にオーシア政府の思惑の正反対の行動に出てきたのだ。それと合わせて、皇国内に潜入したオーシア諜報員や偵察衛星により、皇国軍が戦争行動を開始すべく準備を行っていることが確認された。

 

 この一連の動きから皇国軍が動くのはおそらく1週間以内というのも判明し、各国を通じて集めた情報によればパーパルディア皇国皇軍は進路的にアルタラス王国を目指すらしいと見られている。そのための戦力も本格侵攻を想定したものだ。

 

 民族浄化を自国に行おうとするパーパルディアにオーシアの国内世論は沸いた。環太平洋戦争以降は比較的平和を求めていたオーシア国民が珍しく怒り狂ったのだ。これを受けてオーシア政府は緊急で会議を開いた。

 

 

「パーパルディアは下手に行動してこないんじゃなかったのか?」

 

 

 大統領は先の会議にて言われた事との矛盾に困惑していた。皇国にオーシアの力を適度に見せつければ皇国は高圧的には出れない筈――そう言われていたのに、実際は皇国から民族浄化を宣言されたのだから仕方ない。

 

 

「我々がパーパルディアの事を見誤っていたとしか言いようがありません。あの国のプライドの高さを考えればむしろこのような行動に出ることはしっかりと考慮すべきでした」

 

 

 国防長官が自身の認識の甘さを反省する。

 

 

「……すまん。今はそんな事よりも話すべきことがあったな。そのことは後回しにしよう。それでだが我々はパーパルディアの侵攻にどう対応するべきだろうか?」

「当然我が国に攻めてくるパーパルディア軍を撃退すべきです。ですがまずはアルタラスの防衛を優先すべきでしょう」

「確かにアルタラス単独では敵軍を撃退できないだろう。それに敵にアルタラスを占領でもされれば奪還が面倒になる」

 

 

 戦闘は攻めるより守るのが楽だ。もしアルタラスが皇国軍の攻勢に陥落すれば、オーシア軍はこれを侵攻して奪還する必要がある。逆に皇国軍の攻勢を乗り切ればあとは比較的楽な防衛戦をするだけで済む。

 

 

「ところで軍はどう対処する予定なんだ?」

「まずはアルタラス王国の防衛へと全力を注ぎます。本来王国へ駐留予定だった部隊は、揚陸艦を急行させて先日アルタラスへの配置を完了しました。空母艦隊も近海にいます」

「アルタラス防衛後は?」

「オーシア本土に迫る脅威を制圧後、皇国本土を叩きます。詳細は後回しとしますが、偵察で判明した皇国軍施設への戦略爆撃、および皇国本土への上陸作戦を想定してます」

「本土上陸、か」

 

 

 オーシア軍は環太平洋戦争のとき、ユークトバニア連邦共和国へと本土上陸作戦を敢行、同国首都の近郊まで進撃したことがある。200個以上の現代的な陸軍師団を擁するユークと比べたら皇国への上陸など容易いだろう。

 

 

「はい。少なくとも敵国本土上陸にはしばらくの準備期間を必要とします。それまでは防戦を続けるしかありません」

「それで……戦略爆撃で攻撃する目標はどうするんだ。いくら野蛮な相手とは言え流石に民間を攻撃したりしないよな?」

「勿論ですとも。それは野蛮人のやる事です。主に皇国軍の陸上施設や工場などの生産施設を攻撃して皇国の継戦能力を奪います。ですがこれの開始は最短でも1ヵ月後とします」

「1ヶ月? なぜだ?」

 

 

 国防長官が示したその期限の意味を、大統領は最初理解できなかった。

 

 

「すべてのGPS衛星の打ち上げが完了するのがちょうど1ヶ月後なのです。GPS網が整えば精密かつ効果的な爆撃ができます」

「なるほど。GPSか」

 

 

 大統領は最後に一つ聞きたいことを問う。

 

 

「で、戦争はどう終わらせる?」

「我々の力を見せつけて皇国の降伏を待つ、と言いたいところですが……今回の失敗からしておそらく不可能でしょう。よって本土上陸した陸軍を敵国首都まで進撃させます」

「それで無理やり降伏させるという訳か。少し手間が掛かりすぎな気がするが、あの国が相手ならそれしか方法はないな」

 

 

 ひとまずオーシアの行動方針は決まった。

 

 

 




次話から本格的にパ皇戦、といきたいところでありますが、少し展開の整理等で次の投稿まで時間が掛かります。
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