オーシア連邦召喚   作:スカイキッド

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追記:2020/11/26、一部文章を修正
 


第4話「会談」

 

2022年/中央暦1639年1月25日 14:20

クワ・トイネ公国 経済都市マイハーク

 

 

 クワ・トイネ公国の首相カナタ、外務卿リンスイの2名は従者らと共に、オーシアという国の外交官たちと話を交えるためにひとまず顔合わせをすることとなった。

 会談場所はマイハーク市内のとある商館で、2人は商館にある応接室の椅子に座り、オーシア外交官の到着を待つ。

 

 応接室の窓からはマイハーク港を見ることができ、その沖合いの海上には見慣れぬ5隻の巨大な船が停泊している。

 カナタは遠くの巨大船を眺めながら、先ほどの政治部会での出来事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー数時間前ー

 

 

「未確認騎はロウリア軍の導入した改良型のワイバーンだろう、間違いない!」

「そうだ、それに違いないだろう」

「いや待て、私は直接あれを見たが、あれは生物なんかじゃ無かった。羽ばたいてすらいないのだからな」

「では結局なんなのだ!」

「そんなの分かる訳ないじゃないか」

 

 

 政治部会は公都中央の『蓮の庭園』と呼ばれる、水の貼った蓮の庭園の真ん中にテーブルが設けられた存外メルヘンチックな場所にて行われる。その日の政治部会も先日同様、マイハークに飛来した2騎の未確認騎に関する議論でいっぱいいっぱいだった。

 

 そんな政治部会の場に突如として乱入者が現れる。それはマイハーク港の海軍司令部を管理するノウカ司令であった。

 

 

「む? 第2艦隊司令!? 何事か、今は政治部会中であるぞ!!」

 

 

 政治の場に突然現れた乱入者に対し、外務卿リンスイは声をあげる。

 だがそれを首相のカナタが制した。

 

 

「おやめなさい外務卿。急務の案件とお見受けします。何事でしょうかノウカ司令?」

 

 

 リンスイはぐぬぬと唸り声を上げて引き下がり、対するノウカは促されて落ち着いた低い声で報告を始めた。

 

 

「はっ、緊急事態につき参上しました。つい先ほど、第2艦隊所属の軍船ピーマが5隻の超大型船と接触、超大型船は自らの国籍をオーシアと名乗り、外交交渉を求めています。現在ピーマが同船団をマイハークに先導中です」

「それがどうかしたのか?」

 

 

 あまりピンときていないらしい軍務卿がノウカに尋ねる。オーシアという国に聞き覚えはなかったが、別にアポを取らずに外交交渉を求めて軍船がやって来る、というのはこの地域の国々では良くあることである。

 

 

「超大型船の全長は300メートルを越えています」

「300メートルだと!?」

「はい。もしかしたら先日のマイハークに飛来した未確認騎と関係があるかもしれません。300メートルほどの巨大船舶を造れる技術がオーシアにあるのであれば、ワイバーンを易々と振り切れる竜種を有する可能性も否定できないかと」

 

 

 政治部会参加者らは顔を見合わせる。先日のマイハークに飛来した未確認騎を引き合いに出されては、どうしようにもなかった。

 

 

「しかし、もしオーシアが未確認騎を飛ばしてきたのなら、明らかに敵対行動だぞ!! どういう了見だ!?」

「それにオーシアだと!? そんな国聞いたこともないわ、追い返してしまえ!!」

 

 

 一転、会議場が怒号で包まれる。仕方あるまい、領空侵犯という明確な敵対行動を取り、しかもその数日後に外交交渉を求めてきたのなら無理難題を突きつけてくる可能性もある、敵である可能性が高い。

 

 

「とは言いますが、我が国を取り巻く状況を考えていただきたい。隣国であるロウリア王国が武力圧力をかけている中、これに加えてワイバーンを凌駕する速度で飛翔する飛竜と、超大型船を有するような国を相手取る余力など我が国にはありませんよ」

 

 

 口調は強めだが、彼のいっていることは確かに正しい。南の隣国である同盟国のクイラ公国は飛龍を持たない貧しい国であり、むしろ昔から関係が長く仲が良いので、脅威ではない。

 

 しかし西の隣国ロウリアは戦争をしようとでも言うのか、近年軍船を大量増強し、さらに大量の兵士を動員して国境付近に圧力をかけている。そんな中でオーシアという正体不明の国家との戦争をする余力はクワ・トイネにはない。

 

 

「首相、ご英断を」

 

 

 ノウカは首相に迫る。

 カナタは少し考えたが、やがて口を開いた。

 

 

「そうですね……ひとまずここは、オーシアと会談をもつことにしましょう。少なくとも何を目的にやって来たのか、調べなくてはなりませんから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今に至る。

 

 そろそろやって来るだろうか、とそんな予想がカナタとリンスイの脳裏に過ったとき、エルフの女性公務員が扉を開けて応接室に入ってくる。

 

 

「首相、外務卿、オーシアの外交官が来られました。……どうぞ外交官殿。首相と外務卿がお待ちです」

 

 

 公務員が呼び掛けると、応接室にパリッとした奇妙な服装をしたヒト種の男性が数名入ってくる。カナタとリンスイは席を立ち、オーシア側の代表であろう人物が挨拶する。

 

 

「初めまして、オーシア外交官のヒューズです」

「クワ・トイネ公国首相のカナタです」

「公国外務卿のリンスイです」

 

 

 ようやく2か国の間に――オーシア側からすればこの世界で初めての――会談が始まった。早速オーシア側の外交官ヒューズが口を開く。

 

 

「さて……このような場を早急に設けて頂いたこと、感謝いたします」

「こちらこそ、わざわざご足労頂きありがとうございます。早速で申し訳ありませんが、我が国は貴国オーシアのことをあまり存じ上げません。出来れば貴国の説明をお願いしたいのですが」

 

 

 実際カナタはもちろんリンスイも、というかクワ・トイネの人間の中にオーシアという国名は聞いたことがある人間はおらず、国旗も国の所在も知らないし、聞いたことがない。

 

 

「我が国を貴殿方が知らないのは当たり前です。何せ我々は、この世界の住人ではありませんのですからね」

「……? それは一体どういうことでしょうか?」

 

 

 リンスイの問いかけにヒューズは率直に告げる。

 

 

「荒唐無稽と思われるでしょうが、我が国は元々は別の世界に存在していました。それが数日前なにが起きたのか……突如、この世界に転移してきたのです」

 

 

 カナタとリンスイはヒューズの返答に顔を見合わせた。が、すぐにリンスイが続ける。

 

 

「貴国が、本当に異世界から転移してきたという証拠はお持ちですか?」

「証拠という程のものではありませんが、我々が以前いた世界の世界地図があります。これを……」

 

 

 ヒューズの随行員が鞄から空中投影ディスプレイを取り出す。地図をカナタらの方向を正面に、世界地図の画像を写し出す。

 

 カナタとリンスイは空間上に魔写を写し出すような機械に驚くが、そんな事よりも今はその内容の方が大事だ。

 

 写し出されたのは驚くほど精巧な地図であった。

 クワ・トイネにも世界地図は存在するが、それはパーパルディアから購入した、まるで16世紀地球で作られたような概形だけの大雑把すぎる地図である。

 しかしこれは素人でもかなり正確であると判断できるような形の整った地図であり、そこには(読めない文字だが)地名が書かれていた。

 

 ただそこに写された地図は、少なくともそのパーパルディア製の大雑把すぎる地図とも形が大きく異なっていた。

 

 

「地図の中央にあるのが北オーシア大陸、そしてここがオーシア連邦で、西のセレス海を挟んだ先にあるのが我が国と同じ超大国のユークトバニア連邦共和国です。……ご存知ありませんか?」

「いえ聞いたことがありません」

「私も、外務卿という仕事は長らくやっていますが、ユークトバニアという国名は聞いたことがありません」

 

 

 超大国であるオーシア連邦とユークトバニア連邦共和国を知らない、転移前の世界の人間なら普通あり得ないことだ。

 

 

「ではベルカ公国、エルジア王国、エメリア共和国、エストバキア連邦、ノルデンナヴィク王国、ベルーサ、ノルトランド、中央ユージア連合、どれか聞いたことは?」

 

 

 ヒューズの質問に二人は頭を横に振る。

 

 

「どれも聞いたことがないですな」

「やはりですか……すみません、これではこちらが納得するだけでしたね」

「いや、その空間に地図を写す機械と、貴殿方が載ってきたあの超巨大船、あんなものを造れる国を私たちは知らない。まぁ、神聖ミリシアル帝国とムーなら出来るかもしれませんが、むしろ異世界の国が造ったと言われた方が納得できます」

 

 

 ヒューズはリンスイの言葉のなかで、ミリシアルとムーという国が自分たちと同じ技術力を持つかもしれない、ということを記憶に留める。

 

 

「ところで先日、我が国は未確認騎に領空侵犯を受けたのですが、あれはやはり……?」

「はい、間違いありません。あれは我が国がやりました。我が国としても突然このような事態になって混乱していましたので……この場で謝罪させて頂きます」

「いえ、仕方がないでしょう。我々が貴国と同じ立場なら、我々も同じことをしたでしょうし」

「ありがとうございます」

 

 

 ここに来てようやくカナタとリンスイは、オーシアがロウリアのような危険な国ではないと判断する。

 

 

「我が国、オーシアとしては貴国と友好的関係を結びたいと思っています。そこでですが……我が国は一つ貴国に求めたい事があります」

「……何でしょうか」

 

 

 危険な国ではないと判断したが、ここでヒューズが無理難題を突きつけてきたら、カナタもリンスイも懇切丁寧にお断りするつもりである。だがヒューズの口から飛び出た言葉は、心配には遠く及ばなかった。

 

 

「……情報です。我々はこの世界の情報が欲しいのです。答えられないものは答えなくて結構です。ですが情報を提供して頂ければ、我が国は貴国に相応の対価を支払うつもりです」

 

 

 カナタとリンスイは再び顔を見合わせる。情報というものはそれなりの戦略的価値を伴う。だがその情報を提供するだけで、対価が返ってくるという、中々においしい提案である。

 

 

「即答はできかねますが、出来る限りのことはしようと思います。近日中に実務者協議を行いましょう」

「ありがとうございます。良い返事を期待しています」

 

 

 こうしてオーシア連邦とクワ・トイネ公国の初の会談は幕を閉じることとなった。

 

 

 

 

 

 後日、オーシアとクワ・トイネの間で実務者協議が開かれ、その2週間後、両国は正式に国交を結んだのだった。

 




 
スカイアイがオーシア軍所属だったってマ?
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