早く戦闘回に持っていきたい…
中央暦1639年3月22日
クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ
オーシア連邦がクワ・トイネ公国、クイラ王国と国交を結んでから、2ヶ月が経とうとしていた。それはクワ・トイネ公国にとって、今までの歴史上最も変化した日々でもあった。
オーシアはクワ・トイネに対し、この世界の情報を輸出するように求め、クワ・トイネはそれに応じた。またクイラ王国の方には、オーシアによると地下資源の宝庫があるらしく、クイラ王国は情報の代わりに大量の資源をオーシアに向けて輸出している。
一方、オーシアはこれらをもらう変わりに、両国における国内開発を提案した。大都市間を結ぶ高速道路、国家間を結ぶ長距離鉄道、数百メートルサイズの大型船が入港可能な港湾施設などなど。
それらは両国の物流を、まるで詰まり物の取れたパイプが濁流を流すかのような勢いで活発化させた。またオーシアから入ってくるインフラシステムは、クワ・トイネとクイラの生活様式を根底から変えるものばかりであった。
それらは魔法を必要としない。発展した水道技術、各種の動力となる電気技術、手元をひねるだけで火を起こせるプロパンガス。それらのサンプルを見た経済部の担当者は驚愕し、国がとてつもなく豊かになる、と言い残して卒倒したとの話もある。
「すごいものだな、オーシアという国は。明らかに文明圏国家のレベルを超えている」
クワ・トイネ公国の首相カナタは興奮冷めやらぬ様子で、傍らに立つ自らの秘書に語りかける。カナタはオーシアと関わってからというもの、ここ最近ずっとこの調子だ。
「もしかしたら我が国も生活水準において文明圏内国家を超えるかもしれんな」
「辺境の我が国が文明圏内国を超える生活水準を手にするなど今も考えられないことですが、使節団の報告書……何度読んでも信じられません。ですがこれが本当なら……我が国は大きく変わります」
カナタと秘書は、この国の行く末を見据えて期待に胸を躍らせていた。つい先月、国交締結のための実務者協議としてオーシアに使節団が派遣され、彼らはオーシアからさまざまな情報を持ち帰ってきていた。
「しかし、彼らが平和主義で助かりました……彼らの技術、国力で覇を唱えられていたかと思うとゾッとします」
「少なくとも表向きはな。まぁでも、オーシアもつい2年前に戦争をしていたらしいが、それでも平和的に我々と交流してくれるのはありがたい。もっとも、今の我々には別の脅威があるのだが……」
「ロウリア、ですね……」
カナタは秘書の言葉に深刻そうに頷いた。
同日
オーシア連邦 首都オーレッド/大統領官邸ブライトヒル
「転移から早2ヶ月か……」
オーシア大統領は執務室のテレビで、オーシア最大手のテレビ放送局『OBC』のニュース番組を視聴しながらひとりごちる。
1ヶ月前、オーシア連邦が異世界に転移し、同時にクワ・トイネ公国と国交を締結したことを政府が公式発表したときマスコミは連日お祭り騒ぎだった。
だが1週間もすれば、話題が尽きたとばかりにそれらは今やなりを潜めている。大統領が見ているこのOBCのニュース番組も、今は地元の事件や犯罪に関するニュースばかり報道していた。
「大統領、貿易計画等のご相談に参りました」
テレビを眺めていた大統領のもとに外務大臣がやって来て、数枚の資料を差し出しながら大統領に発言する。大統領は資料に目を通す。
「ご存知の通り我が国はこの世界で2か国と国交を結びました。クワ・トイネ公国と、その後に国交を結んだ隣国のクイラ王国です。クワ・トイネ公国は食料自給率3000%越えの農業大国、クイラ王国は地上に流れ出るほどの大量の地下資源を埋蔵しております」
「……地下資源はともかく食料は必要ないな」
大統領が呟き、外務大臣も頷く。
クワ・トイネの食料自給率の桁がおかしい――人口300万人の国だが大地への加護とやらで1億人分は余裕で食料が作れるらしい――が、もはや聞きなれたことであり、大統領は驚かない。
「まぁ確かに食料自給率の高い我がオーシアに食料は必要ないでしょう。現状かの国から輸入しているのも“情報”だけですし。ですが今後の為に備蓄として輸入しておくのもよろしいのでは? 食料輸入国が物理的に消えた今、いつ我が国が凶作になったとき備えるべきです。また石油についても同様の理由で、備蓄として輸入しておくべきだと思います」
「悪くないな。他には何かあるか? 例えば、他の国と接触した、とか」
大統領が資料を眺めながら外務大臣に聞き返すが、返答がない。何だろうと大統領が顔をあげると、目を泳がせる外務大臣の姿がそこにあった。
「……実は先日、ロウリア王国というロデニウス大陸西方の国に接触を試みたのですが……追い返されました」
「何だって?」
大統領は眉をひそめる。
「どういうことだ?」
「はっ、現地に赴いた外交官からですが……『敵対国のクワ・トイネ・クイラと国交を結んでいる国とは国交を結べない』……との事です」
「敵対国? ……あぁ、前にクワ・トイネ経由でそんな情報も届けられてたな」
まぁ仕方ない、と大統領は割り切る。クワ・トイネ公国から輸入している“情報”の中に、少なからずロウリアに関する情報も含まれていたからだ。
曰く、ロウリア王国は国家指針として亜人の殲滅を掲げており、亜人の人口比率が高いクワ・トイネとクイラ王国はどうしても分かり合えないのだと言う。
この世界には神話とかノースポイントのアニメとかに出てくる、エルフやドワーフといった空想上の亜人が実際に存在している。しかも後々に分かったが『魔法』もあるらしく、つくづく面白い世界だな、と大統領は感じていた。
「もしクワ・トイネにそのロウリアが侵略してきたとして、対策は?」
大統領がその議題を外務大臣に向けて発したが、それに答えたのは、いつの間にか執務室に入室していた国防長官だった。
「それに関しては私から説明させて頂きます。我が国は非常時に備え、既にマイハーク市、公都クワ・トイネ市、王都バルラート市に、緊急時には滑走路に使える厚さと直線距離を持った直線道路を建設。また、マイハーク市に小規模ではありますが港湾施設と備蓄倉庫を建設しつつあり、燃料弾薬をすでに多数両国に持ち込んでいます。両都市間を結ぶ鉄道も建設済みです。いざとなればオーシア軍の主力部隊が長期間行動可能です」
思ってたよりもだいぶ戦争の準備が整っていることに大統領は驚く。これでは部隊さえ派遣すれば、いつでも戦争が出来てしまうではないか。
「そうか……まぁ、ほどほどにな」
「そこはご安心下さい。軍の進駐そのものは未だ行っていませんので。ですがお忘れなく、情報によれば間もなくロウリアは戦争を始めるものと見られます。その時は……お願いしますぞ」
「分かってるさ。だがせめて戦争が始まらないことを祈ろう」
同日 19:00
ロウリア王国 王都ジン・ハーク/ハーク城
月の綺麗な夜、春とはいえ若干冷え込んだ空気のロウリア王国の王都ジン・ハーク。3重の城壁で囲まれた街の中心にある、ハーク城の一角にある会議室には、多数の人影が集まっていた。
「ロウリア王、準備はすべて整いました」
立派な椅子に腰かける壮年の男性に、鎧を着用した筋骨隆々の中年男がひざまずいて話しかける。彼の名はパタジン。ロウリア王国軍の総司令官である。
「2か国を同時に敵に回して、勝てるか?」
椅子に座った、威厳のある壮年の男性がパタジンに尋ねる。彼こそが現ロウリア王国国王、ハーク・ロウリア34世である。
「ご安心を、1国は農民の集まりであり、もう1国は不毛の地に住まう者、どちらも亜人比率が多い国などに、負けることはありませぬ」
「宰相よ、1ヶ月ほど前接触してきたオーシアという国の情報はあるか」
ロウリア王は宰相に尋ねる。
「はっ……クワ・トイネ公国から北東に約800キロの所にある、新興国家です。800キロも離れているので軍事的に影響があるとは考えられません。それに奴らは我が国のワイバーンを見て、初めて見たと驚いていました。ワイバーンも存在しないような蛮族の国かと思われます。クワ・トイネと国交を結んでるのは気になりますが……あまり脅威にはならんでしょう」
「うむ、そうか」
オーシアが脅威になることはないという結論を聞き、ロウリア王は頷いた。彼の先々代の王からの願いである、亜人を殲滅しロデニウスを統一することが、ようやく果たされようとしていることに、彼は歓喜を隠せない。
「ついにロデニウスが統一され、忌々しい亜人どもが根絶やしにされる日が来ると思うと……余は嬉しいぞ」
「大王様、ロデニウス統一の暁には、あの約束もお忘れなく。クックックッ……」
「わかっておるわ!」
真っ黒のローブを着た男が王に向かって気持ち悪い声でささやくと、王は怒気をはらんだ声で言い返した。
(ちっ、文明圏外の蛮地と思ってバカにしおって。ロデニウスを統一したら、フィルアデス大陸にも攻め込んでやるわ)
ローブの男はパーパルディア皇国から派遣されてきた使者である。パーパルディアは列強国であり、ロウリアは皇国から支援を受けて、今回の戦争の準備を整えた。王は気をまぎらわせるため、パタジンに説明を求めることにする。
「パタジン、今回の概要を説明せよ」
「はっ! 今回の作戦用総兵力は50万人、本作戦では、クワ・トイネ公国に差し向ける兵力は、40万、残りは本土防衛用兵力となります。クワ・トイネについては、国境から近い都市ギムを強襲制圧します。なお、兵站については、あの国はどこもかしこも畑であり、家畜でさえ旨い飯をたべておるとのことで、現地調達いたします。ギム制圧後、首都クワ・トイネを一気に物量をもって制圧します。かれらの航空兵力は、我が方のワイバーンで数的にも十分対応可能です。それと平行して海上からは軍船4400隻の大艦隊にてマイハーク北岸に上陸し、マイハークを制圧します。なお、食料を完全に輸入に頼っているクイラ王国は、クワ・トイネからの輸出を止めるだけで干上がります。奴らの抵抗も、圧倒的物量の前では意味をなしません。六年間の準備が実を結ぶことでしょう」
パタジンの説明が終わる。ふとパタジンが王の方を見てみると、彼が微かに身体が震えていることに気がついた。一瞬何事かとパタジンは思ったがすぐに気づく、ロウリア王は喜んでいるのだ。
「ふっふっふ……はーっはっはっはっはっは!!」
ロウリア王が満足そうな笑い声を上げた。
「今宵は我が人生で一番良い日だ!! 世はクワ・トイネ、クイラに対する戦争を許可する!!!」
「「「ウォォォーッ!!」」」
会議室は喧騒に包まれた。
戦争が始まろうとしていた。