両親と昼ご飯を一緒に取るのは恥ずかしいからと断ったのはいいけれど、我が母は気合を入れて私の弁当を作ってくれるそうで時間が掛かるからと、昼休憩の時間に渡す約束を交わしていた。
ちなみに体育祭の昼休憩は保護者が来場していることもあり、通常六十分のところを九十分と今日だけは特別に時間を割いていた。保護者用のスペースは狭く、外に出て食べる人たちも居るだろうとの学園側の配慮だろう。昼休憩のチャイムが鳴って少し、そろそろ頃合いかとテントを抜け両親の下へと行くかと自席を立った瞬間。
「きゃあ!」
「うそっ!」
令さまがウチのクラスのテントにやってきた時以上に周囲のボルテージが凄い。テントに残っている人や隣のテントの人たちも、一様に同じ方向を向いて黄色い声を上げている。誰が来たのか予想がついてしまうのは、良いことなのか悪いことなのか。とはいえ私に用という訳でもないのだから、気にする必要はないかと逆方向へと歩き始めた。
「樹ちゃん」
ぎぎぎと首を声の主の方へと向き直る。嗚呼、悲鳴にも近い黄色い声の原因は、やはりは貴女でしたかと項垂れる。一年生の下へ三年生が訪れるのは珍しいから、この騒ぎも理解できなくはないけれど、やはり騒ぎ過ぎだろう。口々に『ごきげんよう、紅薔薇さま』とテントの下に残っていた子たちが囲い込むような形で挙って挨拶をしており、蓉子さまも律義に笑顔で対応しているのだから大変だ。
「ごきげんよう、蓉子さま。何かありましたか?」
蓉子さまに自ら近寄れば周囲に居た子たちは空気を読んでくれたのか、私たちを伺うような形で一旦離れていった。
「ごきげんよう。樹ちゃんのご両親を紹介して欲しいのだけれど、今日はご来場されているかしら?」
「ええ、保護者席に居るのは見ましたし、これからお弁当を受け取るので母に会うつもりですが……」
「なら一緒に行っても構わないわね」
「大丈夫ですが、何故ウチの親に挨拶なんてするんです?」
「大事な娘さんを山百合会の手伝いに引き込んだもの。挨拶くらいしておいてもいいでしょう」
「それなら志摩子さんのご両親が先ですし、そんな面倒なことをしなきゃならないなら、最初から部外者を引き込まなければいいじゃないですか」
確かに人手不足で大変だろうけれど、生徒会役員は姉妹の絆を結んだ者を入れるというルールがあるのだし。
というかこの事実、歴代の薔薇さまのなかで妹が出来なかった人の立場が危うそう。でもまあ役に立つ子だからと貴族や武家みたいな政略婚のように絆を結んだ人たちが居てもおかしくはないか。効率優先の人だっていただろうし、不思議ではないし、表面上取り繕っていれば問題はないのだから。そう考えると姉妹制度なるものは突然に夢も希望も無いものに変わってしまうのは実に世知辛いものだ。
「志摩子のご両親は今日来られないそうだし、電話でもう済ませてあるの。それに、これが私の性分なのだし仕方ないわ。そんなことより樹ちゃんは私とご両親を引き合わせたくないの?」
「へ?」
「貴女、割とあっさりしてるから理由さえ話せば快諾してくれると思っていたのだけれど」
肩を小さくすくめて笑う蓉子さまに、周囲の子たちが沸き上がる。んー、ライブにいって演者のギターパフォーマンスに酔いしれる客のようだと感じてしまうのは失礼なのだろうか。けれど本質は変わらないような気もする。
「あまりそんな実感はないですが、この年になって親を先輩に紹介するって……恥ずかしいですし」
つい、と蓉子さまから視線を外した。うん、本当に高校生にもなってこんなことをしなくちゃならないのだろうか。生徒会の手伝いに関しては親に許可を貰ったのだから、気にせず精々私をこき使えばいいのだし。
「ふふ、それが一番の理由なのね、なら尚更ご両親にご挨拶しなきゃ駄目ね」
「――面白がってませんか?」
「あら、失礼ね。江利子じゃあるまいし。でも、楽しみではあるわ」
「それ、言葉は変わっていますが意味合いは一緒じゃないですか」
面白そうに不敵に笑う目の前の先輩は、何を考えているのやら。まあ真面目な蓉子さまのことだから、ウチの親にはお礼を述べるだけだろうし、そう心配はしていないのだけれど。
「細かいことは気にしないの。さ、行きましょう」
肩をすくめた私の背中に右手を添えた蓉子さまにそそくさとテントの外へと出され、仕方ない腹をくくるかと蓉子さまの隣に並んで保護者席へと向いながらウチの両親について話しておく。なんの情報もないまま接触するのも話題に困るだろうし、蓉子さまがどう話題を振るかでフォローも必要になるだろうから。
平日開催だというのに来場している人が多く、人込みを掻き分けながら周囲をキョロキョロと見渡せば、父と母はテントから外に出ておりわざわざ私を待っているようだった。ちょっと先に行ってきますねと蓉子さまに断って、両親が居る場所へと近づいていく。
「父さん、母さん」
「樹」
「樹ちゃん」
オーダースーツに身を包み朗らかに笑う父とゆったりとした服装を纏い品よく穏やかに笑う母。背の高い父と背があまり高くない母が並ぶと随分とちぐはぐであり、周囲の父母の方々よりも一回り程年齢が上である。兄と姉とは年が離れているのだから当然なのだけれども。
「はい、これ」
いつもより一回り大きい弁当箱を受け取る。朝が苦手なはずの母が作ってくれたものだから残すわけにはいかないと、謎のプレッシャーがかかるが兎にも角にも蓉子さまが後ろで待っているのだから。
「ありがとう。あと紹介したい人が居るんだけれどいいかな?」
「うん?」
「あら、あらあらあらあら」
何故このタイミングで私がこんなことを言ったのか理解できていない父。母はによによと笑っている。まさか私が姉妹の契りでも交わしたと勘違いしているのだろうか。以前から良い先輩は居ないのかとか、誰か先輩に目を掛けられていないのかとか学園の話題を持ち出すと、ここぞとばかりに聞いてくる母だったけれど。
私の性格を知っていれば、そうそう契りを交わすことなんて無いと理解できるだろうに。ただ母は甘いところがあるし夢見がちな部分もあるからそう考えてしまうのは必然かも知れないが。後ろを振り向けば出てくる機会をうかがっていたのだろう蓉子さまが微笑みを携えて、私たち三人が居る場所へとやってきた。
「ごきげんよう。はじめまして、三年の水野蓉子と申します。樹さんには山百合会の仕事を手伝って頂き、いつも助かっております」
「ご丁寧にありがとう」
「それじゃあ、蓉子さんは薔薇さまなのね?」
「はい、紅薔薇さまを拝命しております」
「まあ、素敵っ!!」
身長も小柄で未だに若い容姿の母と蓉子さまのやり取りに、父は目を白黒させて。まあ、専門用語を使われると訳が分からないよねと、父の横でこっそり補足しておく。母が若干暴走気味なので父とアイコンタクトを取りながら、二人して静観する。こういう時、落ち着き払ってこういう立ち位置についてしまうのは父譲りなのだろうか。純粋なリリアンで培養された母は『薔薇さま』というものに憧れを抱いて、年を経てこうして憧れの物に触れる機会がやってきたのだから舞い上がるのも理解できるけれど。
「――水野さん、うちの樹がお世話になっているようだね。迷惑を掛けることが沢山あるかもしれないがよろしく頼むよ」
「そうね。高等部からの編入で馴染めるかどうか心配だったから……本当なら初等部から通わせるつもりだったのだけれど、この子ったら珍しく嫌だって我が儘を言うんだもの」
ああ、その時のことがリアルに頭の中で再現される。どうすればいいか分からなくて『お嬢様学校になんて行きたくない』と言い残して自分の部屋に引きこもりご飯も食べないまま外へと出なかったから、かなり家族を困らせた。蓉子さまと父と母で、私の昔話で盛り上がっているのだけれど、もういい加減にして欲しい。
「……母さん、お願いだから昔の話は止めて」
「あら、いいじゃない」
片手で顔を覆い項垂れる。お願いだから昔の話を掘り返すのは止めてください、マジで恥ずかしいので。確かに子供らしくなかったし、可愛げなんて皆無の幼少期は正直思い出したくはない。というかここに編入することになった理由も今となっては随分と恥ずかしい話になる気がするので、恥の上塗りはもう勘弁してほしい。
「母さん、水野さんも樹も昼ご飯を取る時間がなくなってしまうし、僕たちも昼を食べ損ねてしまうよ」
「はあい」
苦笑いをしながら母を嗜める父。大学を卒業して社会人になったけれどその時間が短かった母の思考は良い意味でも悪い意味でも若いままで、父もそれを理解している。母よりも私の方がしっかりしているというのが家族の総意でもある。母は不本意そうだったけれども。
「それでは失礼いたします。樹ちゃん、行きましょうか」
「あ、了解です。母さん、お弁当ありがとう。また後で」
軽く一礼する蓉子さまと両親に手を振る私は、保護者席のテントから去りグラウンドを抜け校舎が立ち並ぶエリアへとさしかかる。
「良いご両親じゃない」
「ええ、恵まれています。けれどまさか母があんなに盛り上がるなんて……」
身内にも熱狂的な薔薇さまファンがいるとは。世代が違っても憧れるものなのだなあと考えを改める。
「顔、赤いわよ」
「赤くならない方がおかしいですよ」
他人ならまだしも身内が盛り上がれば、なんだか恥ずかしいのだ。いい年をした中年の女性が若いアイドルに懸想しているみたいだし。いや、まあそれも自由だけれど。やれやれと母が作って渡してくれた弁当の包みを見る。さて、少し時間も経ってしまったので食事を取るにふさわしい場所は目敏い生徒たちに占領されている事だろう。
「樹ちゃん。お昼ご飯を一緒に食べる約束をしている人は居るの?」
「いえ、いませんよ。誘われれば一緒に食べますが、気ままに一人適当な場所を探してそこで食べます」
上級生が多く利用しているミルクホールとか入り辛いし、弁当持参の私が売店を利用することもない。クラスメイトもエスカレーター式の学校故に入学式当日からグループ分けは終わってたので、無理矢理割り込むのも不躾なので、こうなった訳だのだけれども。
「なら、薔薇の館で一緒に食べましょう。良い場所はもう無いでしょうし、急用が入るかもしれないからって山百合会のみんなが集まっているのよ」
「良いんですか?」
薔薇さまである蓉子さまがそう言ってくれるのだから、遠慮する必要もないけれど念を押す。
「ええ、勿論。それに樹ちゃんに聞きたいことが出来たのだし」
「……やっぱり遠慮します」
くすくすと笑う目の前の蓉子さまに嫌な予感が走り、半歩距離を取った瞬間に私の腕をがっちりと握ったその人の瞳は絶対に逃がさないという強い意志を灯していた。――楽しそうだから、という意味を多分に含めて。
「駄目よ。さ、行きましょう」
「うぇ、ちょっ、センパイ!」
逃げられずに追い込まれ、目を細めてくつくつと笑っている蓉子さまになされるがまま引っ張られて薔薇の館へと向かう。これで私の隣に江利子さまでもいれば『捕まった宇宙人』のようにドナドナされる光景になっているのだろうなあと、現実逃避をしながら。
「ごきげんよう」
「……ごきげんよう」
嬉々として私の腕をずっと引っ張っていた蓉子さまは、薔薇の館に入るとようやくその手を離してそのまま会議室へと向かう。ここまで来たのだし逃げるのも変だし、食べる場所を確保するのに時間が掛かるだろうから、大人しく使わせてもらおう。部屋へと赴くと山百合会のメンバー全員が本当に集まっており、この場には志摩子さんも居る。全員が集まる必要もないはずなのに、はて、何故だか。突然やってきた私を気にする人も居ないから、気にしても仕方ない。
「ごきげんよう。遅かったわね、蓉子」
「ごめんなさい、少しやっておきたいことがあったのよ」
蓉子さまと江利子さまのやり取りを横目で眺めながら、自分の指定席となっている場所へ座る。私の横は由乃さんでいつもの挨拶を交わして、お弁当を広げた。
「何かあったかしら?」
「樹ちゃんのご両親にご挨拶をね」
「ああ、なるほど。蓉子らしいわ」
そうして一旦会話は止みお弁当に集中する。ぽつりぽつりと会話があるものの、騒がしさとは無縁の静けさを保っていて、開けた窓から入る風が心地よい。隣に座る由乃さんから視線を感じて横を見れば、私のお弁当をのぞき込んでいた。人の家のお弁当の中身は案外気になるもので、興味深そうにのぞき込んでいる由乃さんの気持ちは理解できる。
「何かつまんでみる?」
「え、いいのかしら?」
「うん、構わないよ。母さんが作ったんだけれど、体育祭だからっていつもより大きい弁当箱に詰めてくれたから」
「ありがとう」
少し恥ずかしそうにはにかみながら箸を伸ばす由乃さんに、取りやすいように弁当箱を横に寄せる。由乃さんのお弁当箱のサイズは随分と小さく、正直その量で足りるのだろうか疑問だった。食欲があるのなら少しでも食べた方が良いだろうし、仲良くなる切っ掛けにもなるだろうと、どれを食べようか迷っている由乃さんの微笑ましい姿に癒されていたのだけれど。
「ああ、そうだわ。樹ちゃんはどうして初等部からリリアンに通わなかったの?」
――爆弾が投下された。
蓉子さまの言葉は私にとって衝撃的なものだ。なんにせよ私の過去を語らなければならなくなるのだから、黒歴史の披露なんて誰だってしたくないだろう。そして蓉子さまの言葉に興味を持つ人が確実に一人は居る。江利子さまだ。目敏く私が渋い顔をしているのを見て、微かに笑っている。
「あら、そうなの?」
「ええ。樹ちゃんのお母さまがそう仰ったの。珍しく駄々を捏ねたのですって」
「樹ちゃんにもそんな可愛らしい時期があったのねえ。それで、どうして初等部から通わなかったの? そうした方が楽だったでしょう」
他の人はこの会話に興味があるのかないのか分からないけれど、薔薇さまである上級生の会話に割って入るようなことはしないみたい。誰か助けて欲しいと願っても、助け船が出されることはなさそうだった。
「確かにそうした方が楽だったとは思いますよ。余りはっきりと覚えてないんですが、敷居高いじゃないですか、ここ。幼いなりに何か感じるところがあったんだと思います」
「そうかしら? 私は幼稚舎から通っているから外のことは余り分からないけれど」
「まあ同級生に『さん』をつけて、上級生に『さま』をつけて呼ぶことなんてリリアンに来ない限りは縁がないものかしらね。私も最初は知らなかったもの」
不思議そうに語る江利子さまと、納得したように語る蓉子さまはどうやら編入組のようだ。馴染んでいるからずっとリリアンに在籍していたのだろうと勝手に思っていたのだけれど、思い込みは危ないから気を付けないと。
「それならどうして外部受験を受けたの?」
江利子さまの疑問はもっともか。嫌だと蹴っている場所に来ているのだから。
「……まあいろいろとありまして」
「それって?」
「なにかしら?」
やっぱり逃れられないかと、ため息が漏れる。全てを話すべきか否か。とはいえ今ここに居る人たちが好き勝手に吹聴するようにも思えないし、構わないかと諦めた。まあ話の一興だろう。さして面白くはないけれど阿呆な行動を起こして、自業自得を見る羽目になっただけだし。
「中二の夏にピアスホールを開けたんですよね。そしたら家族が騒いじゃって家族会議が開かれたんです」
伸ばしている髪を耳にかけ見えるようにする。ピアス自体は付けていないけれど、穴が開いているのは確認できるだろう。リリアン女学園の編入試験を受ける経緯を洗いざらい喋れば、何故だか少し引かれているような。
「随分と思い切ったことをしたものね」
「そうですか? ピアスくらい誰でも開けてますよ。でも今思えば高校を卒業してからで良かったかも知れませんねえ」
「でもご両親が心配するのは理解できるかしら。アルバイトをしながら高校通いたいって子はなかなか居ないでしょうし」
前世ではそれが当たり前だったから私にとっては違和感のないことだけれど、ここに通う人は違うのか。確かに学生で親の庇護下にあり、金銭に余裕があるのなら勉強に打ち込んだ方が将来は明るいとは思うけれど。
「樹ちゃん、もう少しご両親を頼りなさいな。学校に通いながらアルバイトをしたいだなんて、親は当てにならないって言っているようなものよ」
苦笑いをしながら蓉子さまは私にアドバイスをし、他の人も頷いているから何も言えなかった。改めて考えてみると的を射ているのかもしれないと、考えさせられる言葉で何故かずっとその言葉が頭をぐるぐる駆け巡る。家族との距離感を掴みかねている私には、蓉子さまの言葉は重いもので。
「そう難しい顔をしないで頂戴。大丈夫、いつか受けた恩を返せば良いだけよ」
「ですね。いつか返せるといいんですが」
そうこうしているうちに昼休憩の時間が過ぎようとしていた。少し早めに全員が薔薇の館を後にして、グラウンドへと戻っていく。生徒用のテントの下にはそれぞれ休憩を終えた生徒たちがまばらに戻ってきており、仲の良い子たちとお喋りに興じている。私もテントへと戻って午後からの競技を確認する。私が出場するものはほぼ全て終わっており、残すところは学年別クラス対抗リレーだけだ。
得られる点も高いから花形競技のような位置づけで、盛り上がるらしい。さて練習の成果がでるといいのだけれど、と考えていれば昼の部を告げるアナウンスが流れて。そうして部活動対抗リレーや三年生の短距離走を経て、最終競技学年別クラス対抗リレーが始まろうとしていた。
「あれ、樹さん眼鏡は?」
「あ、今だけコンタクトだよ、いいんちょ」
眼鏡仲間の学級委員の子が不思議そうに声を掛けた。流石に本気で走るのなら眼鏡は邪魔で、開始前にコンタクトに変えたのだ。
「そうだったのね。リレー頑張ってくださいね」
「うん。展開次第だけれど、どうせなら勝ちたいよね」
いいんちょの運動神経はキレているからリレー選手には選ばれていない。体育の授業ではなかなかに微笑ましい光景を広げてくれる人である。そんないいんちょに手を振って入場を済ませれば、一年生からのスタートなので直ぐに出番はやってきた。
乾いたスターターピストルの号砲と共に第一走者が一斉に走り出し、トラックを一周すれば第二走者へとバトンが渡り。各クラスの代表者を鼓舞しようとテントからは声援が響いていた。ちなみに私は最後から二番目になる第五走者でアンカーは藤組で一番足の速い運動部の子。
今のところ下から二番目を走りながら、前を追い抜こうと必死になっているが追い付く気配のないまま第三走者へ。そうして一進一退をしながら第四走者へとバトンが渡る。トップを走る松組の走者は少し余裕そうな顔をしており、勝利を確信しているのだろう。
「樹さん、いける?」
「どうだろう、全力は出すつもりだけれど難しいかなあ」
私に声を掛けたのはアンカーを走る運動部の子。第四走者の子が必死に食いついているけれど、順位は下から三番目と振るわない。
「令さまと走っていた時は随分と速かったから期待してるわ」
「はは。良い形で貴女にバトンを渡せるといいんだけれどね」
とんとんと二回肩を軽く叩かれてスタートラインへと第五走者全員が並び、軽く足を動かしながら順番を待つ。そうこうしているうちに松組の子たちがバトンを渡して交代し、スタートラインを過ぎていく。少し間が空き二位を走る子たちがを皮切りに、間を開けず走り出していく。
「お願いっ!」
苦しそうな顔で私の前の子がバトンを差し出してそう言ってバトンを受け取る。練習した成果があったのか随分とスムーズにバトンパスは終わった。ならあとは何も考えずにアンカーの子へとバトンを繋げるだけだ。地面を蹴り上げて踏み出して前へ、前へと加速する。流れる景色は随分と速く。聞こえるはずの声援も歓声も私に耳には届かず、己の心臓の音だけが耳に届いて。遠かった小さな背がはっきりと目が捉え、なるべくギリギリのぶつからないスペースを取り、抜いた。
せめてあと一人と更にギアを上げれば直ぐに捉えてまた抜いた。けれど一位を独走状態の松組には追い付ける気がしない。それでも一秒でも速くバトンが渡るようにと己の足に力を入れて、グラウンドの土を蹴る。そうして目に入ったのは大役を任されたアンカーの子の姿。
「――っ!!」
声にならないままラストであるアンカーの子に無事にバトンが渡った。あとは松組の子に追いつくようにと祈るのみである。肩で息をしながら、自分が二番目でここにたどり着いたことにようやく気付くと、歓声が沸き上がる。
どうやら運動部の子が松組の子に追いついたようでデットヒートしているようだった。走り終えたリレーのメンバーも必死に彼女を応援している。
「よっしっ!」
流石運動部、足速いと納得しながら最後の短い直線で松組を抜き去りそのままゴールへなだれ込んだ。藤組のテントの下は大盛り上がりで、大きな歓声があがっている。一位に貢献出来てよかったと安心していたらアンカーの子が私の下へとやってきて片手を上げた。
「お疲れ様」
「樹さんもね。ありがとう、一位になれたわ」
上げた手に私の手のひらを当てると小気味よい音が鳴る。そうして一年生のクラス対抗リレーは終わり、二年生へと移る。二年生の出場者の中には令さまが当然のように居て、走っているときには黄色い声援をこれでもかというほど浴びて一位をかっさらって。ラストの三年生は一年と二年の比ではないほどに悲鳴に近い声が上がる。よく見れば薔薇さま全員出場という有様で、みんな浮足立っている。
――足、速っ。
令さまが一番速かったけれど、薔薇さま三人も速く盛り上げに貢献していた。人気者は大変だなと他人事で済ませていれば、直ぐに三年生もリレーは終了して。さあ、あとは表彰式と閉会式を行うだけだと藤組のテントへと戻ると運動部の子と一緒に揉みくちゃにされ、いいんちょの『そこまで』の言葉でようやく解放されたのだった。
こうして高校最初の体育祭は幕を閉じた。
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すみません、最後めっちゃ雑!
マリみてのキャラって保護者との関係に難がある家庭が多くないですか? 祥子さましかり、志摩子さんもしかり、ドリルもだし、背後霊もか……。話を掻き回すキャラがいろいろと背負いすぎぃ!(キャラ付け大事だからしかたないけれど)
ふと思い出したのですが、生徒のいる場所にもしかしてテント……なかった? いかんせん記憶が古い。
アンケート数がn=100↑になってて作者、テンパる。沢山の投票有難うございます!(n=30くらいだろうと思ってた)
脳髄から 脳髄から 脳髄から分泌~♪(作者は妙な電波を受信したようです。日間ランキングにまた入りました。有難うございます。┏○))ペコ)
追記:いつの間にかアンケート数がn=240↑になってました。有難うございます!が、差がついてなくて余計に悩むというw
聖さまは今後オリ主をどう呼ぶと思いますか?
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ちゃん付け
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呼び捨て
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作者がきちんと考えて!
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どちらでもOK