②タグに『日常』『独自設定』『独自解釈』を追加しました。アニメだけの情報だと補完がしにくく作者の考えが反映され始めたので、急遽追加です。申し訳ありません。なるべくアニメに沿うつもりではありますが。
体育祭も終わり早数日。山百合会の仕事も落ち着きをみせたようで、ここ数日は簡単な作業をちょこちょこと手伝って直ぐ家に帰るという事繰り返していた。
体育祭が終わってからというもの学園内を歩いていると、令さまと一緒に走ったことで私の顔が少々売れたようで視線を多く感じるし、仲の良い子同士で何やらひそひそと言葉を交わしている。私を見た所で山百合会の人が振り向いてくれる訳じゃないから、勇気を出して話しかけた方が一気に距離が縮まるはずなのだけれど、どうやらお嬢さまたちには難題らしい。私を切っ掛けにして話が出来ればこれ幸いだろうし、仲良くなるチャンスも生まれる。だというのに私に話しかけることすら躊躇っているのだから、道は遠いだろう。
「樹さん、樹さん」
昼休み、後ろから名前を呼ばれて、足を止め声が聞こえた方向に体を向ければ、首から一眼レフのカメラを提げて眼鏡を掛けた子が笑って立っていた。
「ごきげんよう。突然呼び止めてごめんなさい。写真部一年の武嶋蔦子と申します」
そういえば二年生の借り物競走で写真部の腕章を付けて写真を撮っていた子にそっくりだけれど、名前も知らないし確証もないのだから妙なことは口走らない方が良いか。
「ごきげんよう、初めまして。一年の鵜久森樹です」
「少しお話したいことがあるのだけれど、お時間いいかしら?」
「もうお昼も食べ終わっているし構わないんだけれど、蔦子さんは平気なの?」
「ええ。その為にパパっと済ませてきたんだもの、もちろん大丈夫」
にと笑ってカメラを大事そうに軽く掲げ、彼女は歩き出した。人の往来がある廊下のど真ん中では流石に立ち話は憚れるとの配慮だろう。いったいどこに行くのだろうと彼女の後をついていくけれど、終わりは案外早く訪れて廊下の最奥、使われていない特別教室の前だった。
「さて、樹さん」
「うん?」
「先日の運動会で写真部の一員として走り回っていたのだけれど、ようやく全ての現像が終わったのだけれどね」
交代制だろうけれどまだ日差しが強い中、大変だっただろうに。現像にどれほど時間を割かなければいけないのか知らないけれど、体育祭という大きいイベントだから枚数も膨大になるだろうに。
「お疲れ様」
「ありがとう、でも大変だけれど苦ではないの。私にとって写真は生活の一部で、撮った人の一瞬の瞬間を切り取って思い出や記憶以外の方法で現実へ残す手段なの」
なるほど。携帯もスマホも普及していない今の時代、写真を手に入れる為には結構な手間がかかる。大昔よりは随分簡単になったものの写真屋さんに行き現像を依頼しなければならないし、データで
「はは。蔦子さんが江戸時代末期に生まれなくて良かったよ」
「?」
髪を揺らしながら小さく首を傾げた彼女は、私の言葉の意味が分からなかったようだ。写真を撮る事が好きなのか、カメラ自体を好きなのかで、こういう事には差が出てしまうのかもしれない。
「まあ、与太話程度になんだけれど。日本に写真機が入ってきた頃は三十分くらいかかったそうだから、一瞬ってのは難しいだろうなって」
「ああ、そういうこと。面白いことを聞いたかもしれないわ。確かに私がその時代に生まれなくてよかった」
首から提げたカメラをひと撫でして笑う蔦子さん。
「おっと、本題からずれる所だった。――この写真を見てもらっても良いかしら?」
そうして手に持っていた写真を受け取って、見てみる。そこには運動会の借り物競走で令さまと一緒に走りゴール間際の一瞬が切り取られていた。
「うわ、令さまはいつも通りだけれど、私が本物より奇麗……」
何この魔法。令さまは写真も本物どちらも変わらずカッコいいのだけれど、私の容姿が三割増しくらいで写っているのだ。盛り過ぎだろうと突っ込みを入れつつ、彼女の実力が本物であることを確信する。父も趣味の一環でカメラを掲げて私たち兄妹を撮るけれど、ここまで生き生きとした表情を撮ることは滅多に、いやほぼ皆無――父には失礼だけれど――で。腕でこうも違うものなのかと、しげしげと写真を見ていた。
「ええ、今回の私の自信作。それでね、学園祭で写真部の展示を行うのだけれど、そこでこの写真のパネルを飾っても良いかしら?」
「私は構わないけど、令さま次第だろうねえ」
少し恥ずかしくはあるけれど、せっかく奇麗に撮ってもらえたのだから否はない。
けれど被写体には許可が必要だろうと、主役の名前をあげておく。私よりも令さまが目立っているし、見た人が目に行くのは私ではなく確実に令さまだ。
「あれ、でも学校行事なら学園祭よりも前に展示販売があるんじゃないの?」
規模の大きい行事では終わった後に廊下に写真が張り出されて、欲しい写真の番号を書き込んで販売されるのだけれど、その時にこの写真はどうなるのだろうか。先に公表してしまえば学園祭での価値が下がり、発表物としての鮮度も下がってしまうだろうに。
「それなら心配は無用ね。気に入ったものがあれば、こうして当事者の人に交渉することを約束してコンテストや展示会に応募って約束を学園側と交わしているの」
「なるほど。納得したよ」
ちゃっかりしているのはカメラマン故の矜持なのだろうか。
「あと、樹さんにお願いがあるのだけれど、良いかしら?」
「無理難題じゃなければ」
「この件について、令さま――黄薔薇のつぼみに渡りをつけて欲しいのだけれど……」
困ったような顔で私を見つめて手を合わせてる蔦子さん。私を祈っても何も出ないし出来ないけれど、膨大に撮ったであろう写真の中から己が満足のいくものを選んだのだから、選定作業だってかなり大変だったはず。だというのに体育祭から数日でこうして仕上げて、令さまや私の下まで訪ねる熱意は尊敬できる。なら令さまにこの話をするのはお安い御用というもので。
「そんなことでいいの?」
「本当に?」
言い辛そうに私に話していた蔦子さんは何処へやら。今は嬉しさで嬉々とした顔をしているのだから、現金なものである。
「嘘は言わないよ」
「ありがとう、樹さん。流石の蔦子さんでも山百合会の敷居は高くて」
「そうかなあ? というか、ここの人たちって上下関係を重くとらえ過ぎじゃないかなあ」
頭の後ろを手で掻きながら苦笑いをしている蔦子さんに、ぽつりと零れた言葉。確かに大切なものだし、年下の子が年上の人に軽い態度を取っていれば不信感や不快感を覚えるけれど、時と場所と場合さえ心得ていれば問題ない。
「ああ、樹さんは外部からの人だったわね」
「うん、だからかなあ。山百合会の人たちにみんなが敬意を払っているのは良いことだけれど、ちょっと過剰じゃないかなーって」
「仕方ない部分もあるのよ。初等部から在籍している子たちは高等部のお姉さまたちのことは随分と憧れをもって見てきただろうから。その中でも特に薔薇さま方は特別視されているんだもの」
彼女の言う通り小学生と高校生では随分と年の差があり、自分が小さな頃にみた高校生なんてとても大人びて見えるものだけれど。それでも年齢を重ねて自分が同じ年代になってみれば、体が成長しただけで心はそんなに成長なんてしてなかった。理想と現実は違うものなのだと実感するだけだったのだが。私が特殊過ぎるだけなのか。
「まあ私の個人的な考えなんてどうでも良くて。令さまなら今日は部活に行くみたいだから、そこで待ち伏せか呼び出して貰ったら早いかなあ」
山百合会での仕事は落ち着いているから今日は休みと言われている。令さまも仕事が忙しくない限りは部活動の方を優先させているし、昨日そんなことを話しているのを薔薇の館で小耳にしていたのだ。
「なるほど。なら授業が終わり次第、剣道場で落ち合というのはどうかしら」
部活の名前は言わなかったのに、令さまがどこの部活に所属しているのか彼女は知っていたようだ。有名なのも大変だなあと令さまの顔を思い出す。背が高く中性的な顔立ちに髪が短いが故に男の人に見られることが多々あると、本人は気にしていたようだけれど、リリアン生からの評価はまさしく男性アイドルとして見られている。自己評価と外からの評価が噛み合っているのかいないのかは令さまが決めることだ。山百合会で仕事をするようになって数週間、彼女たちのことを理解するにはまだ遠く。
「わかった。それじゃあ放課後に」
「ええ。お手数をおかけして申し訳ない」
「気にしないでいいよ。それじゃあまた後で」
そう言ってそれぞれの教室に戻って五限目と六限目の授業を無事に終えて、私はいそいそと剣道場に向かったのだった。
「蔦子さん、ゴメン、待ったかな?」
「あ、良かった来てくれた。いえ、私も今来たところだから」
剣道場のすぐそばで少し落ち着かない様子でキョロキョロと周囲を見ていた蔦子さんの名を呼べば、ほっとした様子で深く一つ息を吐いていた。確かにちらほらと部活動へと赴く生徒が歩いているので、立ち止まっている蔦子さんが落ち着かないのは仕方ないのかもしれない。
「令さま、見た?」
「いいえ。まあホームルームが終わって時間が経っていないから、上級生の方はまだ来ていないかもしれないわね」
「んー、じゃあちょっと待ってみよう。誰かそのうち来るだろうし、まだ始まっていないなら呼んでもらえばいいだろうし」
「そうね、そうしましょうか」
剣道場前の邪魔にならない場所で剣道部に関係のない一年生が居ると目立つ。少し視線を感じながら二人で待つこと暫く、噂をすればなんとやらで令さま本人が目の前にやって来たのだった。
「ごきげんよう。珍しいね、樹ちゃんがこんな所に居るだなんて」
「ごきげんよう、令さま。令さまとお話したいことがあって訪ねたのですが、少し時間を頂いてもいいですか?」
「構わないけれど、あまり時間は割けないかな。もうすぐ練習が始まるから」
なるほど、と理解して蔦子さんを見れば彼女は一つ頷いて、例の写真を手に取った。
「写真部一年の武嶋蔦子と申します」
「ああ、あの有名な一年生だね」
蔦子さん有名人だったのかと今更ながらに驚く。リリアンの情報に疎いことは理解しているけれど、こうして事実を突きつけられるともう少し敏感になった方が良いのではと考えてしまう。
「お見知りおきとは幸甚の至りです。黄薔薇のつぼみ」
随分と難しい言葉を使って感情を表現した蔦子さんは、令さまに写真を差し出しながら私の時と同じようにこう言った。
「カメラを片時も離さない子だって有名だからね」
令さまは蔦子さんとしっかりと向き合って話しているし、蔦子さんも口下手という訳ではないだろうから私の出番はなさそうで半歩下がる。
「突然になって申し訳ないのですが、学園祭での写真部の展示コーナーで撮ったその写真のパネルを飾る許可を頂きたいのですが……」
「へえ、良く撮れてるね」
写真を見ながら目を細め小さく弧を描く口元。でもそれは一瞬で。
「――でも、ごめん。少し事情があって許可は出来ないかな」
「っ。――そう、ですか残念です」
そうして令さまは手に持っていた写真を蔦子さんへと戻して。
「樹ちゃんもごめんね。せっかくの写真なんだけれど、ちょっと事情があって」
眉を八の字にしながら困ったようにそう紡ぐ令さまの顔は、無理矢理に笑っているようで。何故駄目なのか理由を探してみれば、すごく簡単なものだったと合点がいく。
「あ、いえ。私も突然訪ねてきましたし、急な話でしたから」
「本当にごめんね」
「いえ、お気になさらないでください。無理を言い出したのは私の方ですから。お時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした」
私の代わりに蔦子さんが口を開いてくれた。
「ううん、大丈夫だよ」
「すみません令さま」
「それでは失礼します。ごきげんよう黄薔薇のつぼみ」
蔦子さんが一礼をしたのでそれに倣い私も一礼する。そうして剣道場から去って、少し古びた温室へと辿り着いた。
「まあ、密談をするなら適当な場所かな」
きい、と錆びた金属音が鳴らしながら扉を開き中へと入る。少し蒸し暑い温室は薔薇の花で満たされていた。
「ごめん、蔦子さん。令さまが断るなんて思ってもいなかったから……」
「ううん。良い写真なのに日の目を見れないのは残念で仕方ないけれど、お蔵入りね」
ふっと笑って蔦子さんは写真を仕舞う。
「でも事情って何かしら?」
「何となく察しはつくけれど、令さまは言わなかったから。多分、蔦子さんなら直ぐ答えに辿り着けると思うよ」
私よりも学園の内情を知っているし、奇麗な写真を上手く撮る彼女なのだ、答えは直ぐに見つかるだろう。
「うん? ――っ、ああ! 失念してた」
「だよね」
二人して苦笑いをしながら、お互いに抜けていたことを今更ながらに頭を抱える。蔦子さんは写真を飾ることを優先して見えていなかったし、私も私で令さまの大切なものが見えていなかったのだ。お互いにどうしようもないなと笑いながら、後日令さまへともう一度謝罪を行ったのは令さまと蔦子さんと私しか知らない出来事である。
◇
写真騒動から数日後、天候も穏やかで気持ちよさそうという気楽な感情でぷらぷらと広い学園を散策していた時だった。
「お待ちになって」
人気の少ないこの場所で、どこからともなくそんな声が響いてきた。流石に私以外誰もこの周辺には誰もいないので、念の為に左右に首を振り確認をしてみれど誰も居ない。もちろん私が進む方向の前もである。なら残るは後ろのみだと振り返る。するとそこには見知らぬ人が立っており、手には何かを持っていた。
「私ですか?」
「ええ、そう。――鵜久森樹さん、私の妹にならない?」
突然現れた上級生であろう人から、爆弾が投下されたのだった。
5558字
言い訳:平日投稿だと文字数が減るし、文章も雑い。申し訳ありません。完結したら手直し決行ですね。
そろそろアンケートを閉じようかと思います。8/17日の投稿時間にしようかと。沢山の投票有難うございました。┏○))ペコ
聖さまは今後オリ主をどう呼ぶと思いますか?
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ちゃん付け
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呼び捨て
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作者がきちんと考えて!
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どちらでもOK