マリア様はみてるだけ   作:行雲流水

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第十七話:人助けと噂と噂【後】

 きいと蝶番が軋む音と共に、疲れがどっと押し寄せる。

 

 「――はあ」

 

 生徒指導室に呼ばれ、昨日のバスの中での出来事を聞かれたまでは良かったのだけれど、これからどうなるのやら。一応、感謝状の授与は代理が叶ったから、私が出張る必要がないのが救いだけれど。長い溜息は誰にも聞こえることがないまま、空に溶けて消えていく。

 

 「樹さんっ」

 

 「由乃さん、志摩子さん、どうしたの?」

 

 床へと向けていた視線を上げるとそこには由乃さんと志摩子さん、二人の姿があった。あまり見たことのない表情で立ち尽くして私の名を呼んだけれど、なんでこんな場所に居るのだろうか。周囲にも生徒が何人か居て、私たちの様子を遠くから見ている。

 

 「どうしたもこうしたもないじゃないっ、生活指導室に呼ばれたのよ。樹さんが!」

 

 確かに指導室と名がついているから、この部屋の主な用途はその名の通り、問題のある生徒が呼び出され指導することが主となっている。

 今回のような場合もこうして使用されるようだから、おそらく生徒に何らかの話がある場合も使われる部屋なのだろう。

 

 生活指導室の扉の前に立っていた私の下に、由乃さんはつかつかと歩いて対面し、私の腕の制服をぎゅっと握りしめて、強張った顔で言い放った。どうやら心配でこの場へと駆けつけてくれたようだ。彼女の横に静かに佇んでいる志摩子さんも、由乃さんほどではないにしろ、珍しく顔を歪ませているのだから。

 

 「心配させてごめん。でも、何かやらかして指導を受けたとかそんなんじゃないから、大丈夫だよ」

 

 「本当に?」

 

 「うん、本当。――ありがとう、由乃さん、志摩子さん」

 

 事情を知らない彼女たちが、こうして心配して駆けつけてくれたことと、迷惑を掛けてしまったことに礼を述べると、由乃さんは肩の力を抜いてようやく笑って、志摩子さんもいつもの様に微笑んだ。

 

 「ねえ、樹さん」

 

 「ん?」

 

 「生徒指導室にお弁当持ち込んだの?」

 

 「だって、昼一呼び出されてすぐ終わるかどうか分からなかったから。食いっぱぐれたくないから念の為に持ってたんだ」

 

 「……」

 

 「……」

 

 「いや、二人とも黙らないでよ」

 

 呆れた顔と苦笑いの顔をして沈黙する二人だけれど、なんでもいいからコメントは下さい。沈黙は辛いのです。こうも食い意地が張っているのは、前世での幼少期時代に刷り込まれたトラウマのようなものが原因である。経営状態があまり良くなかった保護施設。育ち盛りの子供に与える食事量が滅法少なく、よく腹を空かせていたものだから、食える時には食っておけと記憶がそう命令するのだ。今では随分と鳴りを潜めたけれど、こうして予防線を張っておくのを忘れないのは、コレが原因であることは明らかで。まあ、過去のことなど笑って済ませれば良いだけの話だから、今は関係ない。

 

 「ところでお二人さん、お昼ご飯は?」

 

 「樹さんが心配だったから――」

 

 「まだね」

 

 二人の顔を見やると苦笑しながら答えてくれた。どうやら本当に心配してくれていたようだ。

 

 「由乃さんも志摩子さんも、今日はお弁当?」

 

 「ええ」

 

 「そうね」

 

 「なら、どこかで一緒に食べない?」

 

 持っていた弁当箱を掲げると、由乃さんと志摩子さんは顔を合わせて一つ頷き、私の方に向き直って了承とばかりに私にも頷いてくれた。さて、どこで食べようかと悩み始めたら、志摩子さんがいつもの所に行きましょうと提案してくれて。由乃さんの頭の上には疑問符が浮かんでいて、ああそうかと納得する。

 お昼ご飯は大抵教室で済ませている由乃さんが、知っている訳がないのだから。それならばと由乃さんの教室までくっついて行き、いつもの場所まで案内することを私が。志摩子さんは自身の教室にお昼ご飯を取りに行き合流しようと分かれてそれぞれに歩き始めた。

 

 「……なんだか視線が痛い」

 

 「それはそうよ。生徒指導室に呼ばれるなんてこと、滅多にないんだもの。――みんな気になるのよ」

 

 口元に手を当ててくすくすと笑いながら静かに歩く由乃さんは、随分と楽しそう。でも『気になる』と言った瞬間、ほんの刹那ではあるけれど、目を細めた理由は何だろうか。由乃さんによる黄薔薇のつぼみの妹効果で、私たちに詰め寄る人は居ないけれど、これ私一人で歩いていたら取り囲まれそうだと苦笑してしまう。とにもかくにも助かった。自分のクラスに戻れば問いただされることは確定だと覚悟していたけれど、まさかこうも視線を集めてしまうだなんて想像の埒外だったから。

 謹慎処分や停学処分を受ける生徒を見ていただけに、リリアンでは珍しいことだとは考えていなかったし、生徒の呼び出しなんて茶飯事だろうと思い込んでいたのが間違いだったのだ。みんな、真面目過ぎるからもう少し息を抜いてもいいのではと思いつつも、伝統を守る保守的なこの学園では難しいことかもしれない。

 

 「はあ」

 

 「溜息を吐くのはまだ早いんじゃないかしら。白薔薇さまと志摩子さんが姉妹の絆を結んだでしょう?」

 

 「うん。今朝クラスの子が騒いでて、それで知ったよ」

 

 山百合会の人たちとはそれなりに仲が良いと自負しているのだけれど、流れてきた噂で事実を知るとは。ま、全てを見ているわけでもないのだから仕方ない。

 

 「でも、その事と私に何の関係があるの?」

 

 「鈍いわね、樹さんは」

 

 「んー、そうかなあ」

 

 「ええ、とっても。――だって、祥子さまの妹候補じゃない」

 

 「なんでそうなるかなあ。私はただのお手伝いに過ぎないのに」

 

 聖さまと志摩子さんが結ばれた裏で祥子さまはフラれたと噂が流れているのに、その事を差し置いてなんでそんなことになるのだか。

 

 「樹さんがそう思っていても、周りはそう見てくれないんだもの。諦めましょう」

 

 由乃さんは、儚げな見た目と違ってこうして語り合うと、割と竹を割ったような考え方をしている。時代小説の勧善懲悪ものを好んで読んでいるみたいだから、理解は出来なくはない。そんな彼女を苦笑しながら見て、今朝いいんちょからも同じことを伝えられているのだから、あまり楽観視はしない方が良いのかもしれない。

 面倒なことにならなければいいと願いながら、片手で頭の後ろを掻いていると一年松組の教室に辿り着く。廊下の片隅でお弁当を自席に取りに行った由乃さんの後ろ姿を眺めながら、どうか平穏無事に過ごせますようにと願うばかり。そうこうしないうちに由乃さんは直ぐに戻ってきて、いつも人気のない例の場所へと二人で赴くのだった。

 

 「志摩子さんの方が早かったか」

 

 「樹さん、勝負をしている訳じゃないんだから」

 

 いつもの場所へと着いてそうそう、そんな言葉が漏れ、遅くても早くても良いじゃないと由乃さんが呆れた視線を向けてきた。

 

 「お昼休みの時間も少なくなっているから、食べましょう」

 

 私たち二人のやり取りを見ながら、志摩子さんはやんわりと微笑んでお弁当を広げる。こんな感じが最近の三人でのやり取りとして定着していた。

 

 「――それでどうして生徒指導室になんて呼ばれたの?」

 

 ある程度お弁当に箸をつけたところで、口火を切ったのは由乃さんだった。少し前に心臓の病気だと彼女自身から教えてもらった。そのせいで無茶はできないけれど興味津々といった感じで私の顔を覗き込んでいるのだから、これが彼女本来の姿なのだろう。

 

 「ん、気になる?」

 

 別段、秘密にすることではないけれど、自分から語るには正直恥ずかしいことこの上ない。どうにか誤魔化せないものかと思いつつ、追及するのが由乃さんなので逃げ道は少ない。志摩子さんならば、私が躊躇う姿を見せればそれ以上は踏み込んでこないのだけれど。

 

 「もちろん。志摩子さんも気になるわよね?」

 

 「私は特には……」

 

 「じゃあなんであの場所に居たの?」

 

 由乃さんの遠慮のない突っ込みに、志摩子さんもたじたじである。由乃さんがあの場に居たのは、心配と好奇心。志摩子さんも心配してくれたのだろうけれど、彼女の性格上なにもなければそれでいいという感じなのだろう。

 全く違う性格でありながら、こうして三人でご飯を食べていることが面白い。半年後には志摩子さんは『白薔薇』の称号を持つ人になるのだし、由乃さんも遅れて『黄薔薇』の称号を持つこととなる。『紅薔薇』の椅子に誰が座るのかは、まだ謎であるけれどきっと良い生徒会となるだろう。

 

 「……それ、は」

 

 「まあまあ、由乃さん」

 

 珍しくたじろぐ志摩子さんに、ここぞと言わんばかりに由乃さんの攻めが始まるのを止めた私をみて、頬を膨らませる由乃さん。その可愛らしい姿を見て、吹き出したのは仕方ない。

 

 「樹さんは、志摩子さんに甘くない?」

 

 「そうかなあ。でも甘い理由があるのなら、まだ短い付き合いだけれど山百合会の下っ端仲間だし、一番一緒に居たし、美人だし」

 

 うん。最初こそぶつかって迷惑を掛けて、その縁が切っ掛けで山百合会の手伝いをすることになったけれど、こうしてこれたのも志摩子さんのフォローがあったからだ。最後はまあ照れ隠しだ。外部受験組でまだリリアンに詳しくない私に、丁寧に根気よく教えてくれた人なのだから。もちろん由乃さんもなのだけれど、黄薔薇のつぼみの妹という役職持ちだから、少し意味合いが違ってくる。

 

 「志摩子さんばかりズルい」

 

 「え」

 

 「なんでそうなるの」

 

 突然の由乃さんの嫉妬に驚いた顔を見せる志摩子さん。そんな顔を見せる志摩子さんは珍しいなとにやにやしつつ、ズルいと言い放った由乃さんには苦笑が漏れてしまう。

 

 「私、由乃さんにも甘いつもりなんだけれどね」

 

 相手によって踏み込んでいい距離や保つべき距離は異なってしまうから、こうして差が出てしまうのは仕方のないことだ。まあ、私がそう思っているだけで本人にそれが伝わっているかは分からないから、不満が湧くのだろうけれど。なら、言葉にするしかない訳で。少し恥ずかしくはあるけれど、勘違いで人間関係が拗れてしまうことなんてよくあることだから。とはいえ、まだ履行されてはいないけれど遊びに行く約束もしているのだから、そこまで言われてしまうのも不思議ではあるが。

 

 「同じクラスじゃないのも仕方ないよねえ。どうしても過ごす時間は減るから」

 

 「むう」

 

 「拗ねないでよ。ところでもう時間が無くなるけれど……」

 

 あ、と由乃さんが気が付いたのか呆けた顔になる。脱線して違う方向に話が行っていたから、割と時間を食ってしまった。それを思い出したのか、からりと表情を変えた由乃さん。そんな彼女を見て志摩子さんとお互いに顔を合わせて、肩を小さくすくめあう。

 

 「そうだった。それで樹さん、どうして生徒指導室に呼ばれたの?」

 

 「――まあ、誰かに語るには恥ずかしいんだけれど」

 

 そう言って私は昨日起こった出来事を、少しぼかして話すことにした。流石に心臓が止まって倒れた人が居たと、由乃さんに伝えるのは心苦しい。肝心な部分をぼかすことになるけれど、話の筋は変わっていないからきちんと伝わるはずだ。

 私の話を聞きながらころころと表情を変える二人に、初々しい微笑ましさを感じながら凄い凄いと手放しで喜んでくれる由乃さんに、静かに畏敬の念を込めて見つめる志摩子さん。そんなに大した人間じゃないから照れるし、経験を積めばある程度出来てしまうのだから、あとは度胸とその場に出くわす運があれば駒は全て揃う。ただドラマや映画の様に毎回ドラマチックな結果になるとは限らないから、懸念事項もきちんと伝えて。

 

 そうして話し込んでいれば予鈴の鳴る五分前。これ以上話すと五限目の授業に遅れてしまうからと、解散となった。藤組の教室に戻ると、残念そうにするクラスメイトの姿に苦笑いをしながら、いいんちょを見ると左右に小さく首を振る。

 おそらく諦めてくれ、という意味を多分に含んでいるのだろうと予想できる。生徒指導室に呼ばれた私を、クラスメイトは何があったのかと騒いでいただろうから、それを窘めることが出来なかったという意味も込められている。そんな優しく生真面目ないいんちょに、私は小さく肩をすくめて余り気にしないで欲しいと視線を向けたけれど、伝わったかどうかは謎で。

 

 五限目の本鈴が鳴るころには静かになっている教室で、これが終われば取り囲まれること間違いなしだと、一人外を見ながら笑う私だった。

 

 ◇

 

 どうやらバスの中に私の他にもリリアンの生徒がいたようで噂の広まりは言わずと知れず。その数人が感動的に尾ひれと背びれを素敵に付けてくれて、感動的な話が仕立て上げられ余計に噂が広まった。どこへ行っても視線を感じるし、何故だか目をキラキラと輝かせながら私を見ているのだ。その噂と共に同じタイミングでまことしやかに広がっているのが『紅薔薇のつぼみがフラれた』『白薔薇さまが志摩子さんと姉妹の絆を結んだ』ということだ。

 

 ――おや、あの後ろ姿は。

 

 校内をあてもなくウロウロとしていると、体操服に身を包んだ志摩子さんの姿が見えた。重そうな荷物を一人で持っている所を見るに、無茶をしているようで私はプリーツのスカートを乱さない程度の速さで走り出す。

 

 「志摩子さん、荷物半分持つよ」

 

 もう少しで追いつくところで、先に声を掛けて私の存在に気付いてもらう。

 

 「樹さん、大丈夫よ。これは委員会の仕事だもの」

 

 「はいはい。それはそれ、これはこれ。重そうに持ってて見てられないし気になるから、そういうことなんで半分貸して下さいな」

 

 冗談めかしながら半ば無理矢理に荷物を奪い、隣に並んで歩きだす。どうしてそんなに遠慮をするのだか。委員会だろうと山百合会の仕事だろうと、重いなら誰かに声を掛ければいいのに。彼女自身に身についたものとはいえ、誰かを頼ればいいのにとも愚痴を零しそうになるけれど、割と頑固な部分を持ってて決めたことは曲げない性格の彼女には難しいことなのかもしれない。

 

 「ありがとう、樹さん」

 

 「どういたしまして。――てか、誰かに声掛ければいいのに」

 

 彼女には難しいことなのだろうと理解しながらも、つい口に出してしまった。そんな自分に呆れつつ苦笑しながら志摩子さんを見ると、彼女も困ったように笑う。

 

 「これは私の仕事だもの」

 

 「真面目だなあ」

 

 無理に彼女の意思を曲げてしまうこともないだろうと、この話題はもう終わりにする。

 

 「志摩子さんが所属してる委員会って何だっけ?」

 

 「環境整備委員会ね」

 

 「へえ。そんな委員会があったんだ」

 

 「樹さん、四月の初めにホームルームで所属委員を決めたはずだけれど……」

 

 「あー、あれよあれよという間に決まっていったから、あんまり覚えていないんだよね」

 

 目立つところで学級委員、保健委員、体育委員、図書委員くらいだろうか。そこから後に続く委員会活動ってどんなものがあったかはっきりと覚えていない。真面目に聞いていないのが悪いのだけれど、難航することなくするすると決まっていったものだから、あまり印象に残っていないというのが私の本音だった。手を頭の後ろに回して掻いて、場の空気を誤魔化した。志摩子さんも仕方ないかといった感じで、それ以上に責める気はないようだ。

 

 そうして歩くこと少し、人気のない場所の一角の花壇に志摩子さんは荷物を下ろす。それに倣って私も横に荷物を下ろして、きょろきょろとしてしまう。こんな場所があったのかとしみじみしながら目を細める。まだまだ学園について知らないことが沢山ありそうだ。随分と涼しさを含む風が、私の髪をひと撫でして去っていく。園芸用のスコップを手にしゃがみ込んだ志摩子さんの横に、私も一緒にしゃがみ込む。仕事の邪魔になりそうだけれど、少し興味が湧いてきたからもう少しここに居たい。

 

 「制服が汚れてしまうわ」

 

 「家に替えがあるから、少しくらい汚れたって平気。邪魔になるかもしれないけれど、横で見てても良いかな?」

 

 「ええ、それは構わないけれど楽しくはないと思うわ」

 

 「いいの、いいの。そうなったらそそくさと退散するから」

 

 にっと笑って志摩子さんに顔を向けると、優しく微笑んでいた。ざくっという硬い土にスコップの鉄が小気味よく突き刺さる音。遠くからは合唱部の歌っている声が響いているし、少し離れた所から楽しそうにお喋りをしている学園生の声も聞こえてくる。人気のない場所ではあるけれど寂しさは感じない、そんな学園の一角をこうして志摩子さんは一人で整備をしているようだった。

 ほかにも委員会の人が居るはずだけれど、聞くのは野暮かもしれないと黙っておく。運んだ荷物の中には花の苗がいくつかあり、どうやらこの花壇に移植するらしい。大事そうに手に抱えて、掘り広げた穴に丁寧に移していく志摩子さん。その右手首にはロザリオが巻かれていた。

 

 「あれ、志摩子さんそれって」

 

 「あ……」

 

 「ごめん、ごめん、咎めるとかそんなんじゃなくて、おめでとう、が一番しっくりくるのかな?」

 

 そういえば聖さまと姉妹の絆を結んだことを祝っていなかったなあと思い出して、ここぞとばかりに伝えておく。聖さまに言えばきっと嫌がりそうだから、彼女には言わないけれど。

 

 「樹さん、ありがとう」

 

 右手首に提げているロザリオを左手で優しく触れた志摩子さんは、随分と嬉しそうだった。なんとなくではあるけれど、聖さまと志摩子さんの間には独特の空気が流れていたし、そうなるのだろうと感じていたけれど随分長い時間を掛けたようだ。蓉子さまが発破を掛けていたような気もするけれど、最終的にその決断を決めたのは祥子さまなのだろう。山百合会の外から見ればフラれたと噂されているけれど、実際の祥子さまの行動は随分と漢前な行動だった。

 

 「学園祭まで山百合会の仕事は手伝うことになってるけれど、その後は私もお役御免だねえ」

 

 「え」

 

 きょとんとした顔で志摩子さんが、立ち上がった私を見上げる。

 

 「だって、二学期最大のイベントは学園祭でしょ。それが終わればほとんど仕事なんてないはずだし、理由もなくあの場所に出入りするのは、ねえ……?」

 

 うん。祥子さまの妹は決まっていないけれど、学園祭が終われば確実に暇になるだろうから、さっきも言った通りお役御免だろう。

 

 「でも黄薔薇さまは樹さんのことを気に入っているし、紅薔薇さまも目を掛けているわ。お姉さまも、まんざらではないみたいだし……」

 

 江利子さまと蓉子さまが私を便利屋扱いしていることは知っているけれど、少しづつではあるけれど会話が増えているとはいえ、聖さまが気にかけているなんてことはないだろう。でも周囲をよく見ている志摩子さんの言葉だ。疑うつもりはないのだけれど、信じられないのは今までの聖さまの雰囲気の所為だろう。志摩子さんと同じで独特の雰囲気を醸し出しているからなあ、あの人。

 

 「ないない。これ以上、私を仕事に引っ張る理由はない筈……」

 

 あの人たちなら適当に理由をでっち上げそうだなとか、一瞬でも思った自分を全力で否定しておく。今回のバス事件で私の知名度が、山百合会の手伝いの一年坊から人助けをした一年生と少し評価が変わっているのだ。平穏な学生生活を送る為にも、これ以上の面倒ごとは避けたい所である。

 

 「どうかしら?」

 

 頭を抱えている私を見てくすくすと笑う志摩子さんに、がっくりと項垂れると更に笑みを深めた志摩子さんだった。

 




 7586字

 聖さまと志摩子さんが姉妹の絆を結んだことを祝福してくれた人って限りなく少なそうなので、オリ主に無理矢理言ってもらいました。書いた私の自己満足です。
 二十話くらいで終わるだろうなとこの話を書き始めた頃にアタリを付けていたのですが、まだまだ続きそうです。アニメ一話の時間軸にもなってないよ、どうしたものか……w だらだらと続いていくので起伏が欲しい人にはつまらないかも知れません。書いている本人が言うなと言われそうですが(苦笑 よくよく考えれば、今まで投稿した作品に起伏なんてものは存在してなかったorz
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