マリア様はみてるだけ   作:行雲流水

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 すみません、予約投稿の日付を間違えて投稿して慌てて修正したのですが十七時過ぎていたので十八時投稿でお許しを……


第二十六話:クラスメイトと噂の子

 山百合会での仕事も終わり帰る用意をしようと教室へと戻ると、珍しい人が居てつい声を掛ける。部活動で忙しい彼女が本来いる場所は体育館であり、この場所に居るはずがないのだから。

 

 「あれ、今の時間に珍しいね」

 

 「忘れ物をしたから取りに来ただけだよ。また体育館に戻らなきゃ」

 

 私の言葉に苦笑いをしながら答えてくれたのは、体育祭のクラス対抗リレーでアンカーを務めた子だ。あの時以来体育の授業でなにかと張り合ったり、面倒見がいいのか私の世話を焼いてくれて、割りと良好な関係を築いているので気楽に話が出来る相手となっていた。通学鞄をごそごそと漁りながらまだ何かを探しているようで、私は自席へと行き帰り支度を始める。

 

 「ああ、樹さん。同じ部活の子たちが、講堂で黄薔薇さまと貴女が一緒に踊っていたって噂をしてたんだけれど……」

 

 「山百合会の劇にちょこっとだけ出るからトチらないようにって、江利子さまが練習相手になってくれただけだよ」

 

 何故か既に噂をされている事実に驚きつつ、肩をすくめて笑うと彼女も片眉を軽く上げ苦笑いをし『そっか』と短く言葉を零して私に向けていた視線を自身の鞄へと戻す。

 

 「二学期に入ってから、何かと大変ね」

 

 「あはは。なんでこんなに目立つようになったのかよく分からないんだけれどね」

 

 本当に不思議である。一学期なんて、上級生に呼び止められることなんて一度もなかったし、クラスメイトに囲まれるようなこともなかった。たかだか生徒会の手伝いとして出入りしているだけなのに、なぜか姉妹にならないかとか、仲が良すぎるのではないかと詰め寄られたり。仕舞には引っ叩かれたりと、なかなかに面白いことになっているし、噂が流れるのは爆速で蓉子さまと自習室で勉強をしたあとに傘を貸したこととか、それに聖さまも加わったこととかが翌日には知れ渡っているのだ。そうして今日も今日で、どうやら江利子さまと一緒に踊ったことが生徒の目に留まり、こうして噂となっているようだった。

 

 「みんなが憧れている山百合会の人たちと、あんなに仲良さそうにしていれば、この学園だとそうなるわね」

 

 「普通だし、私以外の人付き合いもあるだろうから、妙な話なんだけれど……」

 

 「薔薇さま方は同級生で仲が良い人はもちろんいるけれど、下級生となると珍しいもの。それこそ妹と山百合会の関係者くらいしか見たことがないのに、そこにいきなり樹さんが入ってきたからみんな大騒ぎ。――大変ね」

 

 「うわー、他人事だ」

 

 「樹さん、棒読みになってる」

 

 丸投げとか他人事とかって台詞をよく言うようになってきたのだけれど、きっと気のせいだ。少しゲンナリしつつ、そんな私を見た彼女は笑い目当てのものが見つかったのか、手に持っていた。

 

 「なんだかねえ」

 

 「苦労するわね。――ああ、そうそうフクザワユミさんだっけ。紅薔薇のつぼみをフッたって子」

 

 「うん、一応そうなってるみたいだね」

 

 祥子さまをフッたことには違いないけれど、事情を知っている身とすればどうにもその言い回しが好きになれないまま今に至る。噂が流れて数日が経ちはしたが噂が収まる気配を見せることはなく。それどころか私の下に訪れてまで真意を聞き出そうとする人たちには辟易しているのだけれど。彼女が私の気持ちを知らない筈はないし、何故そのことを今更聞くのか不思議だ。

 

 「さっき樹さんのことも話題にあがっていたけれど、その子はフったのに祥子さまと一緒に居て、尚且つ山百合会の劇の練習にも顔を出したって」

 

 その後の言葉は続くことはなかった。ただ単に続けるのが面倒だったのか、伝えることを躊躇ったのか分からないけれど。

 

 「……」

 

 「そんな顔しないでよ」

 

 「どんな顔してた?」

 

 「嫌そうな顔してた」

 

 どんどんと眉間にしわが寄っていくのが分かっていながら、彼女の前でならば構わないかとそのままにしておいたのだけれど、どうやら気になったらしい。右手を眉間に当てて揉み解してどうにか皺を取る私を、何も言わずに彼女は見ているだけだった。

 

 「あら、みなさん、まだ帰っていらっしゃらなかったので?」

 

 茜色が差し込む人気のない教室にトップの子がそんな言葉を零しながら、中へと入ってきた。どうやら彼女も帰り支度をする為に戻ってきたようで、自分の席へと座りゆっくりと教科書を鞄の中へと仕舞い込んでいる。

 

 「私は忘れ物を取りに来ただけだから、まだ帰らないよ」

 

 トップの子の言葉に先ほどまで一緒に喋っていた彼女が答え私を見るので、どうやら先程の質問に答えろということらしい。

 

 「今日はもう帰る所」

 

 荷物を掲げて家に帰ることをアピールする私に、それじゃあ途中まで一緒に行こうと彼女が誘ってくれたので快諾して。

 

 「ごきげんよう」

 

 「ごきげんよう」

 

 「ええ、ごきげんよう」

 

 それぞれに挨拶を交わし、トップの子を残して教室を出る。しばらく無言で歩いていると私の隣を歩いていた彼女が、じっとこちらを見ていることに気が付いた。

 

 「どうしたの?」

 

 「私の考えすぎだといいんだけれど……」

 

 「うん」

 

 「あの子には気を付けて。――特に白薔薇さま関係」

 

 内容が内容だけに最後の方はかなりの小声だった。誰が聞き耳を立てているか分からないから、彼女なりの気遣いなのだろう。それにしたって彼女の言葉には頭を抱えたくなる。トップの子が白薔薇さま、聖さまのファンだということは周知の事実であるのだけれど、以前に上級生との……特に薔薇さま方との距離感を考えろと注意されたことがあるのだ。そのあとはなるべく山百合会の上級生に仕事以外で会わないようにと、学園内をウロウロすることは止めているので大丈夫だと気楽に考えていたのだけれど。

 

 「わかった。教えてくれてありがとう」

 

 気掛かりがあり過ぎる為に、素直に忠告は受け取っておく。少し緊張した面持ちから一転、私の言葉を聞くと少し深い息を吐いて彼女は力を抜いたのだった。

 

 「なにもないと思うけれど、彼女ちょっと突っ走っちゃうことがあるから……。学園祭の出し物を決めるときも、山百合会の方にって樹さんのこと勝手に決めたし」

 

 「あー……」

 

 「止めたかったんだけれど、何も出来なくてごめんね」

 

 歩いていた足を止め後悔の表情を浮かべる彼女は、あの時のことを気にしてくれていたようだ。何も出来なくてと謝ってくれているけれど、こうして心配をしてくれるだけでも有難い。

 

 「ううん、気にしないでいいよ。そのおかげなのかどうかは分からないけれど、山百合会の仕事多めに渡されてるし」

 

 「え?」

 

 「そのことを薔薇さまに話したら、遠慮なく仕事をふれるわねって笑顔で言われて、学園中走り回る羽目になったよ」

 

 薔薇さまのイメージを彼女がどう持っているのかは知らないけれど、もしかしてイメージを壊してしまっただろうか。リリアン高等部のみんなの憧れである薔薇さまの夢を壊して申し訳ないと思いつつも、事実なので誤魔化すのも憚られる。

 

 「樹さん……いろいろと頑張って」

 

 「いや、助けてくれると嬉しいんだけれど」

 

 「私には無理ね」

 

 なんだか憐みの視線を受けつつ歩みを再開させ分かれ道へと差し掛かり『ごきげんよう』と言葉を交わして彼女と別れたそのあと。広い学園内を歩いていると見知った背中を見つけ、その背をしばらく眺めていたのだけれど、その子のトレードマークであるツインテールに元気がない。講堂を飛び出していったことと、すでに流れ始めている噂になにか関係があるのだろうかと、少し足を速めその背を追う。余計なお世話かも知れないけれど、このまま見過ごせば気になってしまうのは確実だ。それならば声をかけて例え嫌な顔をされても、声をかけなかったことを後悔するよりは良いはずなのだから。

 

 「祐巳さん、さっきぶり」

 

 「ふえっ」

 

 「驚かせてごめん。なんだか元気がなさそうだったから声を掛けてみたんだ」

 

 いつもよりも謙虚な驚きを見せた祐巳さんの目元は少し赤いような気が、横に並んで歩くこと暫く。こりゃあ何かあったのだろうとアタリを付けるけれど、その理由までは分からず。苦笑いが出てしまうのを理解しながら、何故私が彼女に声をかけたのか全く分からないといった表情で見ているのだけれど、さてどうしたものか。

 

 「何かあった?」

 

 何も思いつかず、結局気の利いた言葉なんて出てこずにストレートに質問したのだった。

 

 「な、なにもないよっ」

 

 あーそんな驚いたような顔をした後で直ぐに表情を取り繕ってそう言われてしまうと、何かあったと言っているようなものなのだけれど無理に突っ込んでも仕方ない。

 

 「そっか。――ま、吐き出したいことがあるなら遠慮なく言ってよ。いつでも聞くし、私じゃ頼りないなら誰か適当に巻き込むから」

 

 リリアンのお嬢さまたちの悩みは、私だと解決できない可能性がある。一人で無理なら二人、三人と増やせばいいことだし、幸いなことに話を聞いて欲しいと願えば、聞いてくれる人は幾人か居るのだから。

 

 「うん、その時はお願いするね」

 

 「祐巳さんはもう帰る所だよね?」

 

 「そうだけれど……」

 

 「一人だと寂しいから途中まで一緒に帰っても良い?」

 

 一人だと考え込んでしまうし、余計なことまで思いついて心の底まで気持ちが下がってしまうこともある。そんな時に誰かの存在は邪魔かもしれないけれど、助かることもあるから。祐巳さんの家がどこにあるのかも知らないし、通学方法も知らないけれど最低学園の正門までは一緒だ。そこまではまだ少し歩かないといけないし、このまま気落ちしたままで歩くよりも良いだろう。

 

 「もちろん」

 

 「やりいっ!」

 

 ぱちんと指を鳴らして、祐巳さんの横へと並ぶと彼女は静かに歩き始めた。出会って数日ではあるけれど、ころころと表情の変わる百面相は鳴りを潜めていて。ぽりぽりと後ろ手で頭を掻いて、よしと気合を入れて。――にっと笑って他愛のない話を始めるのだ。昨日観たテレビやドラマ、最近読んだ漫画に家族のこと。どうやら祐巳さんは庶民派らしく、私が観たテレビの話題もついてきてくれて、少しだけではあるけれど笑顔が見え始めた。心の中で良かったと安堵しながら、正門を抜けてバス停へと辿り着き『またね』と言って別れたのだった。

 




 4073字

 どこまで関わるか考えていたら、どん詰まって筆が進まず文字数が少ないです。申し訳なく。アニメ沿いなので大きく逸脱するつもりはないですし、祐巳ちゃんが乗り越えるべきことだからなあ……。バランス難しいのですが、オリ主に降りかかることは着々と進んでる(笑
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