後から聞いた話になるけれど花寺の生徒会長である柏木さんが祥子さまの婚約者と知り、親同士の決めた契約で人生を左右される上流社会の住人は大変だなと遠い目をしてから幾日が経ち。山百合会主催の劇の立ち稽古に参加すること数度、もう学園祭は目の前に迫っていて。書類仕事やら関係各所との取次に劇の練習と鬼のように忙しい日々が過ぎている。今日もこれから学園中を駆け回らないとならないらしく、薔薇の館で仕事前のお茶で気合を入れている最中で、上級生たちはまだ来ていないから下っ端である一年四人だけだった。
「樹さんは学園祭、誰を誘うの?」
こてんと首を傾げると彼女のトレードマークであるツインテールも一緒に揺れ。
「あ、すっかり忘れてた。入場制限設けているんだっけ、リリアンって」
お嬢さま校らしく不特定多数の人間が学園内に入ることは良しとせず、在校生に入場券を配布し名前を記入させるという徹底っぷりで。そのチケットにプレミアムがついて高く売れるだなんて実しやかな噂もあるけれど、お金持ちの親が多いこの学園でそういうことをする生徒は限りなく少ないだろう。
姉がリリアン女学園在学時に、両親と一緒に連れられて学園祭に参加していたことをふと思い出す。あの時は姉の友人たちに囲まれ迫力の美人オーラに縮こまっていた記憶があり、住む世界が違うとまざまざと見せつけられ驚いていたのをしっかりと覚えている。私が初等部からの入学を頑なに嫌がった原因の一端だったけれど、おそらく家族は気付いていない。
「ウチの家族がみんな欲しいって言ってたから、その分は確保しておかないと。あとは中学の時に仲の良かった子が行ってみたいって連絡寄こしてきたからその子に、かな。祐巳さんは?」
配布枚数で足りないと、クラスメイトや仲の良い子に融通してもらうそうだ。名前を記入しなきゃならないから、信頼のおける人にしか渡せないという縛りもあるから大変。
「ウチも似たようなものかなあ。家族の分は確保して、あとは弟のお友達に」
「祐巳さん、弟さんが居たんだ」
「うん、同学年なんだけれどね。樹さん御兄弟は?」
一瞬同学年と聞き双子なのかと考えが浮かぶけれど、早生まれと遅生まれだと同学年になるのも可能だなと思いなおして、聞き返すのを止めたのだった。
「十歳離れた双子の兄と姉がいるよ」
「なんだか意外。妹さんか弟さんが居そうなイメージがあったんだけれど」
「へえ、私ってそうみられるんだ」
「あ、気に障ったのならごめんなさい」
「これくらい構わないよ。てか妹とか弟がいそうなのって、由乃さんと志摩子さんのイメージが強かったんだけれどね」
「あ、それはそうかも」
今この場に居るのは一年生だけなのだし、会話を二人だけで広げるのも勿体ないだろうと輪を広げてみる。勝手な想像だけれど、話のネタにはなるだろう。
「そうかしら?」
「……そうなの?」
祐巳さんと私とで話していたのに、急に話題を振られて一瞬驚いた様子を見せた由乃さんと志摩子さんは、ティーカップをゆっくりとソーサーの上に置いて目をぱちくりさせて、由乃さんの不思議そうな声と微笑んでいる志摩子さんの声が続いたのだった。
「うん。勝手な思い込みだったけれど、二人に初めて会った頃ははそんな感じがしたかなあ。今じゃあいろいろと知っていることが増えたから、イメージで決めつけるのって良くないよねえ」
由乃さんは一人っ子で、志摩子さんにはお兄さんが居るそうだ。本当に人は見かけによらないというかなんというか。兄妹の話や家族の話で盛り上がっていると、上級生たちがようやくやってくる。彼女たちの分のお茶を淹れて、しばらくすると今日も鬼のような量の仕事を一つずつ捌いていくのだった。
◇
――ただいまより、一般入場を開始いたします。
大役を任せられたから今から緊張していると数日前にボヤいていた放送部部長の開会の合図とともに、今年のリリアン女学園高等部主催の学園祭が始まった。放送部部長のアナウンスはまだ続いていて、生徒に向けた説明と来場者へ向けられた説明が続いていたのだった。さて、これから時間まで何をしようかと教室を出る。
トップの子に言い渡された通り、一年藤組が主催する展示会に参加は殆どしていない。準備をちょこちょこと手伝っただけで終わってしまったのだ、楽で良いのだけれど少し寂しく感じてしまうのは仕方ない。クラスの主なメンバーには手伝えなくて申し訳ないと頭を下げているのだけれど、トップの子による暴走だと事情を知っているからか誰も私を責めたりはせず苦笑いを浮かべているだけだった。
「樹さん、今日の山百合会主催の劇、楽しみにしているわね」
「私は端役なので、祥子さまや花寺の生徒会長に注目した方が目の保養になりますよ。王子さまはかなりのイケメンですから」
廊下を歩いている最中に、薙刀部の部長さんに声を掛けられたのだった。各部活やクラス委員の人たちと山百合会との橋渡しをしている所為なのかどうかは分からないけれど、こうして上級生と私的な会話を交わすことが以前よりも多くなっている。数度会話を交わすとウチのクラスで出し物をしているから是非来てねと、タダでチケットを渡される。それでは申し訳ないからとお金を払おうとすると、下級生なのだから遠慮なく受け取っておきなさいとお姉さまオーラを出されて、受け取るしかなった。
薙刀部の部長さん以外にも、他の上級生たちから同じようにチケットを渡されている。回るの大変だなと苦笑しながらも、現金な私はタダで美味しい思いが出来るなと顔がニヤけてくるのが分かる。中学時代の友人と交わした約束の時間まで少し時間があるから、せっかくだし貰ったチケットを使っておこうと三年生の教室を目指す。まだ開場したばかりなので、一般のお客さんの数はまだ少ないので迷惑にもならないだろう。
「あら、樹ちゃんじゃない」
「蓉子さま、ごきげんよう」
「ごきげんよう。貴女が三年生の教室に顔を出すなんて珍しいわね」
確かにもっともな質問であるけれど、今回はキチンとした理由があるのでここにいる訳で。というかココが蓉子さまの教室だったのかと、入り口上に付けられているプレートに目をやったのだった。初めて知る事実を記憶に刻み付けながら、この人は山百合会の仕事の他にクラスの出し物にもきっちりと関与していることに筋金入りの真面目さだと改めて思いなおす。
「薙刀部の部長さんやらにチケットを貰ったんですよ。約束もありますし混まないうちに使っておかないと、せっかく頂いたものが無駄になってしまいますからね」
山百合会の劇にも参加しなくちゃならないし、中学時代の友人とも会う約束をしているし、家族とも会わなくちゃいけないので結構忙しいスケジュールとなってしまった。
「貴女、いつの間にか上級生の間で顔が広くなっているわね」
「ええ、これも蓉子さまたちが私をこき使ってくれているお陰で、部活やら委員会関係の人たちとも縁が出来ましたから」
入り口の受付で座る蓉子さまが、手を口元に持っていき笑っているのだけれど蓉子さまの横に座っているクラスメイトであろう三年生がぎょっとした顔をした。このくらいの憎まれ口なら彼女は気にしないし、時折煽ってくる場合もあるのだ。薔薇さまにこんなことを言う下級生がほぼ居ないだろうから、隣の人の驚きは理解できるけれど、そんなに驚かなくてもいいのに。
「いいことじゃない」
「それはそうかもしれませんが、色々と目立ってしまうのは遠慮したい所ですね」
体育祭の時よりも上級生と私的な会話が増えているのだけれども、この状況は好意的に捉えていいものかどうか。一歩間違えればトップの子が増えてしまいそうで怖いのだけれど、その気配は今のところ感じないのであとは私が何かを踏み間違えなければ良いだけなのだけれど、実行できるかどうかが謎。
ま、運は天に任せるしかないなと苦笑しながらチケットを蓉子さまに渡すと、丁寧に切り取り線に沿って半券を私に返してくれたのだった。そうして『初めての学園祭、楽しんでらっしゃい』と奇麗な微笑みで返され私は一つ頷く。
「ああ、劇の時間に遅れないようにね」
「……善処します」
聖さまや小さな子供じゃあるまいに……と感じてしまい返事がおざなりになると、それを感じ取ったのか蓉子さまが更に口にしたのは私が悪かったのだろうか。
「遅れたら、放送部の子に頼んで呼び出ししてもらおうかしら」
「迷子の呼び出しじゃあるまいし、勘弁してください」
少し意地悪さを含んだ声に片眉が上がりながらまた憎まれ口をたたく私に『冗談よ』と返してくれたのだけれど、私以外の人に彼女はこんなことを言うのだろうか。何故か不本意な思いを抱えながら蓉子さまのクラスの出し物を堪能して、貰ったチケットを消費しようと次へと向かうと江利子さまにばったり会って蓉子さまと同じことを言われたり、後で聖さまにも会いまた同じことを言われ。
部活の長である三年生と顔見知りになったのは、貴女たちが私に山百合会の雑用を押し付けるからだと苦言を呈しても、二人はどこ吹く風で。いつもの事だけれど、薔薇さまと呼ばれる人がこんな人たちでいいのだろうかと疑問だ。
とはいえ蓉子さまのお陰で成り立っているのだし、江利子さまと聖さまもやる時はやる人だし一人前以上の結果を出してしまうので教諭陣やシスターから苦言を出されていないのだから、これでいいのかも知れない。薔薇さまと呼ばれている三人に振り回されているけれど悪い気はしないのは、彼女たちの魅力に惹かれてしまっている一人であるからなのだろうか。
――いやいや、ないない。
心で軽く否定しても何処か納得している自分も居たりして。上級生から譲り受けたチケットを消費した私は腕時計の文字盤に視線をやり、頃合いだなと友人との約束を果たす為に正門を目指す為、三年生の教室から去ったのだった。
「うぐちゃん、久しぶりっ!」
人波に埋もれながら銀杏並木を歩いてきた私を目ざとく見つけて、満面の笑みを向けて私の愛称を呼び走って近寄ってくる少女が一人。鵜久森だから上の音二つを取って『うぐちゃん』と呼び始めたのは、彼女が一番最初で回りの女子たちもそれに流されて真似するようになったのは、目の前で満面の笑みを携えている彼女の人柄故なのだろうか。
「うん、夏休み以来だからね。……てか、銀杏踏んで臭くなるから気を付けて」
「うっ……、電話で先に教えておいて欲しかったよ」
臭い取り大変だなあと愚痴を零す彼女は中学時代の三年間ずっと一緒のクラスだった子だ。どうにも孤立気味だった私を一年生の時に、無理矢理輪の中に溶け込ませたという荒業をかましてくれたのだ。小柄で可愛らしい外見に人懐っこく誰とでも喋る性格であるが故に、クラス内での人気者で男子連中にも受けが良かった彼女は、当時あまり同年代の子たちと関わることを良しとしていなかった私を変えてくれた人物でもある。
「ごめん、ごめん。入場手続きは済ませたんだよね?」
会って手渡しをしたかったのだけれど、二人の都合がつかなかったので仕方なく郵送でチケットだけを彼女の家宛に届けてもらったのだ。学園まではバスを使えば迷わずこれるだろうから心配はしていなかったのだけれど、無事に入場手続きは済んだようなのでこうして学園内で会えているのだろうけれど。
「うん。まさか名前書くだなんて思わなかった。流石お嬢さま校――というかうぐちゃん、制服弄らないの?」
「この環境下でそんなことをする勇気はないかなあ。やったらやったで直ぐに生徒指導室に呼び出しされるだろうし」
「うわあ、息が詰まりそう」
肩をすくめて屈託なく笑う彼女に苦笑する。中学時代も可愛らしく目立っていたのだけれど、高校に入ってからアルバイトを始め自由なお金が手に入るようになり化粧や染髪、服飾に力を入れているようで容姿に磨きが掛かっており、随分と印象が変わり可愛いから美人へと変貌していた。沖縄出身の女性人気アーティストが好きで、真似しているようだ。街中にも同じような格好をしている若者が蔓延っているので、そういえばそんな時代だったなあと懐かしい。
「みんな真面目だからねえ。あ、何処から回る?」
「何か食べたいかな。朝、抜いてきたし」
お腹が空いているのか彼女は腹に手を充てて撫でていた。それならばと飲食を多く出しているエリアへと移動しながら、最近起きたことを彼女が面白可笑しく喋っている横で、私が聞き手に回るのはいつもの事で。あれが食べたいこれが食べたいと彼女が気になった出店に寄りつつ、色々な場所へと闊歩していた時だった。
「ねえ、うぐちゃん」
「ん?」
「なんだか視線を感じるんだけれど、気の所為かなあ……」
彼女の言葉でふと気付く。山百合会に関わることになってから視線の多さに辟易していたというのに、悪意を含まないものには随分と鈍くなっていた。だから今日も向けられる視線を一切合切無視できていたのだけれど、どうやら横に立つ友人は気になるようで。
「あーまあ、目立ってるかもね。原因は周り、見てみりゃわかるかも」
学園生は仲の良い友人同士で回っているが為にリリアンの制服を身に纏っている一方、私たちは制服姿と私服姿なのだ。それに私の横に立つ彼女は幼い容姿ながら、染髪もしているし目立つピアスも付けている。
来場者も学園の性質上、裕福な人たちが多いが為に身なりもかっちりしていて。だからこそ私たちの組み合わせは目立っていて、視線を受けやすいのだ。街中に出れば彼女くらいの見目の派手な子は沢山いるというのに、この学園内となると物珍しさからくる好奇の視線を受けるのだから、彼女の言葉は仕方ない。
「浮いてるかな、私」
「この学園内に限っては、だね。外に出ると私たちの方が目立ってるよ」
この学園の制服を着て外を闊歩すると、よく視線を受けるのだ。リリアン女学園が近い場所ならば、長年見慣れている光景として受け入れられているけれど、学園から離れれば離れるほど珍しいのか視線をもらうのだ。
「リリアンの制服って、何処にいても目立つもんね」
「だよね。せめて三つ折りの靴下とスカートの長さだけでも変えて欲しいんだけど……」
視線を下に向け、スカートをひらひらさせると横に立つ彼女が苦笑した。昭和から平成と変わってから数年が経っているというのに、いまだにこの学園は古き良き伝統として制服を一新する気配がない。在学中は無理だろうと諦めているので、いつになれば変わるのか楽しみではあるのだけれど、さてはていつになるのやら。
「お嬢さま校を売りにしてるんだから、無理じゃないの?」
「そうかなあ。ここの人たちって品が良いから所作だけでも同年代の子たちと差があるし、スカート短くして黒のハイソックスでも十分お嬢さまを演出できるはずだけれどねえ」
自分に似合うかどうかは別として、みんな似合うはずだ。というか美人とか可愛い系の人が多いから、何でも似合うというのもあるけれど。そんな他愛のない話を交わしながら視線を感じつつ食べ歩きをしながら、興味のあるアトラクション系の出し物に挑戦したり、展示物をゆっくり眺めたりと楽しんでいると、偶然に彼女たちと出会ったのだった。
「ごきげんよう、樹さん」
「ごきげんよう、祐巳さん、祥子さま」
「ごきげんよう、樹さんのお友達かしら?」
幸せそうに笑っている祐巳さんと、いつになく上機嫌な祥子さまと偶然鉢合わせ、友人を紹介する運びとなったのだった。
「ええ、中学の頃からの。ここの学園祭に興味があるって言ってたので、誘ったんです」
「そうだったの。楽しんでいらしてね」
営業スマイルなのかどうか分からないけれど祥子さまが微笑みを友人へと向けると、固まっていたので肘をついて意識を呼び起こすと、どうにか再起動して。
「は、はいっ。ありがとうございます」
ぐっと頭を下げる友人はどうやら祥子さま独特の洗練された雰囲気に呑まれたらしく、珍しく緊張している様子だった。長話をする気は元々なかったのか、言葉を数度かわしただけで直ぐに別れたのは二人の気遣いだったのだろう。先を行く祥子さまの後を追いかける祐巳さんが小さく手を振っていたので、私と友人は手を振り返したのだった。
「すっごい美人っ。あんな奇麗な人、生で初めて見たかもっ!」
「あー女優さんとかにも負けてないよね、祥子さま」
「『さま』ってなに? というか『さま』付けで呼んでるの? え、マジで? あり得ないんだけれどっ!」
「あり得るんだよね。これがまた」
彼女の反応に、四月に入学した頃の私のようだなと遠い目をしながら、リリアン独自のルールにぎょっとしている友に学園のしきたりを説明すると、驚いた顔を見せ興味があるのか根掘り葉掘り聞かれて。姉妹制度も珍しいのか興味深そうに聞いているけれど、結局最後には『うわ~、なにそれ面倒なだけじゃん』と元も子もないことを言っていた。
「あ、ごめん、もう行かないと」
ふいに腕時計の文字盤に目をやると集合時間に迫っており、遅れると本気で放送で呼び出しされかねないことに内心焦りながら、友人に告げた。
「生徒会主催の劇に出るんだっけ?」
「うん。台詞もなにもないし踊るだけだから気楽だけれどね」
「そっか。前言ったとおりバイトの時間があるから最後まで見れないのは残念だけれど、頑張ってね」
「ありがと。内容、シンデレラだし面白いかどうかわからないけど、楽しんでいって」
「うん。男装したうぐちゃん、楽しみ」
にししと笑って歯を見せる友人と別れて薔薇の館を目指そうとしたその時、一瞬黄色い声が沸き上がり二人してそちらへと視線を向けると人だかりが出来ていた。
「あれ、なんだろう? みんな集まっているけど、さっき通った時何もなかったよね……」
友人の疑問に目を細めて人だかりを注視すると、その輪の真ん中には蓉子さま、江利子さまに聖さまが囲まれていて。
「ああ、生徒会役員の人がみんなに捕まったみたいだね」
「ん? 生徒会の人があんなに囲まれたりするものだっけ。ウチの学校の生徒会の人なんて、顔も名前も知らないし興味もないんだけれど」
普通なら、確かに気にしないだろう。生徒会長や役員の人たちが行動派で目立っているのならばともかく、この学園の生徒会は一年生ですら注目され動向を見られているのだし。ああ、この学園の生徒会はやはり面倒なものだなと改めて認識しながら、頭に疑問符を浮かべている友人に説明を開始すると、お嬢さま校って大変なんだねと苦笑いを浮かべている。いまだに解ける気配をみせない人だかりが、丁度私たちのいる直線状の位置だけが偶然に解け、隙間から三人の姿がようやく見ることが出来たのだった。
「うわ……さっきの人も美人だったけれど、あの人ごみの中心に居る三人も凄い奇麗な人たちだね……」
呆れているのか羨ましいのか、どちらなのか分からない友人は苦笑を顔に貼り付けている。何故だか山百合会の人たちは美人処が多いのは不思議だ。連綿と続いているだろう歴代の薔薇さまたちも、今の山百合会のメンバーに負けず劣らずの美人なのだろう。母や姉の話でも口をそろえて、奇麗な人たちだったと答えてくれたのだし。
ぼけーと眺めていた人だかりの隙間から、私たちの視線を感じ取ったのか目敏く気付いた聖さまが江利子さまの制服の袖を軽く握り、私たちの方を指差した。
「げ」
彼女たちが私を指を指したことはまだ良いのだ。問題はそれに気付いた生徒らである。まだ一人で居たのならば問題は軽かったのだけれど、学園外の友人と居ることが不味い。
「どうしたの?」
ばっちり二人に見られているので、遠目からでも黙って去る訳にはいかず軽く頭を下げ、横にいる友人の手を握る。
「いや、なんでもないよ。行こうか」
「え、あ、うん」
向けられた視線から逃れ、ようやく人心地がつくと友人に一応の経緯を説明しておく。それを聞いて驚いた様子を一瞬見せて、のち苦笑いに変わると言い放つ言葉は、ここの所よく聞く言葉。
「なんだか大変そうだね、うぐちゃん」
そして他人事のように言い放たれるのも、もう慣れてきてしまった気がする。頑張れ、と私の肩を二度叩く友人に『助けて』と冗談を吐くと『無理』と短くあっさりとそんな返事を頂いて、お互いに再会を誓い別れるとふと立ち止まる。
――染まったなあ。
驚きだらけの入学当初にくらべ、過行くこの日々に随分と染まったものだなと感慨深く秋晴れの空を仰ぎ見たのだった。
8212字
更新ペースを落としたいと思います。毎週日曜日の十七時更新目標で。┏○))ペコ
すみません、学園祭の入場チケットの配布枚数が記憶がおぼろげなのと、生徒の名前を記入するのは覚えていたのですが、入場者の名前って必要だったのか覚えていないので誤魔化しております。あと学園祭の話はもう一話くらい消費しそうです。助長になるのはいつもの事ですが予定は未定……orz