土曜日、学園が半日で終了し家でのんびりしていた時間だった。階下と姉の部屋で鳴り響く電子音に気が付き、下に降りて取りに行こうとベッドから緩慢な動作で降りて、部屋を出ようとした途端に鳴り止んだ。母が受話器を取ったのだろうと踵を返して、勉強机の椅子へ座ると階段を昇る軽快な音が聞こえたのちに、ノックの音が二度私の部屋で鳴ったので『はい』と返事をする。
「樹ちゃん、電話よ」
「ありがとう、母さん」
差し出された受話器を受け取りながら『由乃さんから』とにこりと笑いそう言い残して部屋から出ていく母。
以前に由乃さんの家へと遊びに行った際に名前は知っているし、電話も何度か掛かってきたことがあるから、由乃さんは母の中では私の友人認識である。由乃さんの家へと赴いたことを随分と懐かしく思いながら、椅子ではなくベッドサイドに腰かけて保留になっていた通話ボタンを押し。
「もしもし」
『あ、樹さん』
「由乃さん、こんにちは」
『こんにちは。――相変わらず、ごきげんようじゃないのね』
私が学園用語を使わなかった事にからかうような声に、電話の向こうでは由乃さんは笑みを浮かべていることだろう。
「リリアンじゃあないからねえ。それで、どうしたの?」
『もしよければウチに遊びに来ない? 祐巳さんも誘っているんだけれど』
どうかしらと聞かれ、暇だから行くよと返すと待ち合わせ場所と時間を告げられる。あまり時間がないなあと時計を見つつ了解の意を告げて、そそくさと一階へと降りて母に遊びに出かけることの旨を伝えて。
そうしてマウンテンバイクに乗り辿り着いた先はリリアン女学園の校門前。祐巳さんが由乃さんの家に赴くのは初めてらしく、みんなでここに集まろうという事になったのだった。時間より前に着いた私は自転車から降り、道行く車を眺めていると一台のバスがやって来る。前方のドアが開いてから暫く、小柄な女の子が降りてくる。誰かに似ているなあと目を凝らすと、その子は祐巳さんだった。こちらに気付くとぱっと笑みに変わって、軽快な調子で私の下へとやってくる。
「ごきげんよう」
小さくお辞儀をしながらいつものように『ごきげんよう』と言葉を紡ぐ彼女は流石純粋培養組である。長年慣れ親しんでいる為なのか、自然に口から出るようだ。養殖組には無理なことだなあと苦笑いしつつ、彼女に倣い私も頭を下げた。
「ごきげんよう。――いつもと違うから一瞬祐巳さんだって分らなかったよ」
「ちょっと気分転換で結び方変えてみたんだ」
彼女のトレードマークのツインテールは消え去り、片方にお団子を作り残りは全て下ろして手の込んだものなので、お出かけ用に結び直したようだ。流石女の子だねえと感心しながら、着ている服も相まって祐巳さんの雰囲気に合っている。
「そっか。可愛いよ、似合ってる」
「えへへ。ありがとう」
少し顔を赤らめながら笑う彼女を眺めながら、由乃さんの家の方向を見ると小柄な人影が歩いてくるのが目視できた。その姿はどんどんと近づいてきて、ようやくその人が由乃さんだと分かり。
「祐巳さん、樹さん」
「由乃さんっ!」
手を振りながらこちらへとやってきた由乃さん。いつものおさげ姿は消え去り、直毛ストレートの黒髪になっていた。私の髪は少し癖があるので羨ましいなあと眺めつつ、手を振り返す。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
三人顔を突き合わせて一緒に頭を下げる。リリアンの人以外が見たら異様な光景だろうが、ここは天下のリリアン女学園おひざ元であるのだから、ご近所さんならば理解してくれるだろう。
そうして由乃さんの家へと歩き始める。静かな住宅街を、祐巳さんが履いているブーツの足音とからころと鳴る由乃さんのサンダルの音に私が押すマウンテンバイクの車輪の音が響き。
「でもよかったの? お留守番してなくちゃいけないんでしょ?」
「平気よ。そのまたお留守番を頼んでおいたから」
イマイチ由乃さんの言葉を理解していない祐巳さんに、留守番役は令さまが担っているのだろうなと苦笑する。そうして『島津』『支倉』と力強い文字で掘られた表札が掲げられた門を祐巳さんがしげしげと眺める横で、押してきたマウンテンバイクを以前停めていた場所へと置かせてもらい。
「さ、入って入って」
由乃さんの声に促され玄関へと上がり靴を下駄箱の側に寄せる祐巳さんに倣い、私も自身が脱いだ靴を下駄箱の側に置くと、由乃さんがそんなに遠慮しないでいいのにと笑い。
とはいえ人様の家へとお邪魔しているのだから礼儀は必要であるし、由乃さんの御両親が戻ってきたときにそういう目で見られてしまうのだから。それでも若いのに祐巳さんや由乃さんがこの行為の意味を知っているのだから、やはりリリアンは良い所のお嬢さんが通う学園だし、家庭での教育も確りと施されているのだろう。
「ただいまー」
「あ、おかえり」
由乃さん部屋へとお邪魔すると、部屋の真ん中に鎮座しているこたつの中へと下半身を突っ込んで寝転がり本を読んでいた令さまが、こちらを見た瞬間に飛び起きた。
「うわっ、何っ! 祐巳ちゃん、樹ちゃん!」
「びっくりした?」
えへへと笑う由乃さんにこたつから出て立ち上がって由乃さんの下へと行く令さま。
「祐巳ちゃんたちが来るなら最初からそう言いな」
由乃さんの頭に軽く手を置いて溜息を吐く令さまだけれど、怒ったというよりも呆れている感じだからいつもの事で慣れているのだろう。相変わらず仲が良いなあと眺めていると私の横で祐巳さんが驚いた顔を披露していた。私は一度島津家にお邪魔をしたことがあるし、こういう二人のやり取りは見ているのだけれど、祐巳さんは見たことがなかったのか。
「令ちゃん、私日本茶がいいな」
「はいはい」
部屋の扉を開け出ていく令さまをだらしない顔で眺めている祐巳さんは、どうやら今のシーンを祥子さまとのやり取りに変換しているようだ。ここも祥子さまLOVEは変わらないねえと笑いながら、適当な場所へ座る私。
「祥子さまにお茶淹れてもらうのは難しいと思うわよー?」
こたつの布団をめくり祐巳さんを誘う由乃さんに、ぎょっとした姿の彼女は自分の百面相ぶりに自覚はないようで。
「私ね、あれから本のこといろいろ考えたんだ」
「『いばらの森』のこと……? でも、もうそのことは――……」
以前に聖さまが話したことを由乃さんは気にしていたようで、祐巳さんもこくりと頷く。どうやら何か思うことがあったようで、今回の呼び出しの目的はその結論の末の招集のようだった。どうやら由乃さんはきちんと聖さまが『いばらの森』の作者ではないことを証明したいらしい。
「――だって最悪だと退学させられるかもしれないじゃない」
「退学!? どうしてっ!? 自分じゃあないって言ってたのに、先生方も納得してくれたって――」
「……自分が書いたって言い出すかもしれない。須加聖が久保栞さんだから」
つい先日聖さまと話をしたときは明確な答えなんて明かされないままだったので、相手の人の名前が『カホリ』ではなく『久保栞』という名が出てきたことに、祐巳さんと由乃さんには伝えたのかと一人納得しながら黙って話を聞く。神妙な顔をして自論を説く由乃さん曰く過去に同じようなエピソードが、しかもリリアンで起こった確率は低いだろう、と。自伝的小説ということを肯定して作者が聖さまではないとすれば、残りは当事者である彼女だけ。
「すごいよ由乃さん! それ本当なのっ!?」
「んーん。ただの憶測」
「…………
「どうだろ。栞さんが書いてないって信じるにしても、もし小説が栞さんの目に触れたとしたら?」
「栞さんは白薔薇さまが書いたって思うよね。――でも誤解を解くことは出来ないんだよね」
相手の人が生きているのならば、シスターになりたい人がお金を稼ぐ真似をするかなあと疑問が残るのだ。慈善活動に寄付したいとかならばわからなくもないが、まだ若いなら見習いだろうしそういうことをしている暇もない気がするし。
「で、さっきから黙り込んでいる樹さんはどう思うのかしら?」
祐巳さんと由乃さんが真剣な眼差しで悩んでいたので邪魔しちゃ悪いからと黙っていたのだけれど、話を振られて我に返る。
「ん? どうもこうもないかなあ。聖さまは自分は書いていないって否定したから解決した話だし、シオリさん……だっけ? その人が書く書かないは自由だしねえ」
「もうっ! どうして樹さんは、平気でいられるのよ!!」
「だってもう過去の話なんだしどうしようもないから、なるようにしかならないよ」
「……っ!」
「よ、由乃さんっ!?」
由乃さんが手近にあったクッションを掴んで私に投げてくる。威力は軽いし、狙ったところはお腹だったので受け止めるのは簡単だった。
驚いている祐巳さんに、大丈夫と顔を向けて笑うと苦笑いを返してくれた。
「もういいわっ、樹さんには期待しない! だからね祐巳さん」
「う、うん?」
「私たちが須加聖の正体を突きとめたらいいんじゃない? 白薔薇さまはきっと関わるのが嫌だろうし」
胸のあたりで握りこぶしを作り力説する由乃さん。
「もしかして話したいのはそのこと?」
「そうよ」
「――お待たせ」
令さまが戻ってきて話はいったん止まり。彼女から来客用の湯飲みに入ったお茶を受け取り礼を伝え、少し冷やしながら啜る。
「あ、ごめん。樹ちゃんには熱かったかな?」
「いえ、冷ませば平気なので。ありがとうございます」
私が猫舌なのはみんなが知っているが、私に合わせてしまうと他の人には温いと感じるだろうから我が儘は言えない。
「粗茶ですが」
「ありがとうございます」
話しながら祐巳さんの方へと回った令さまは、奇麗な所作でお茶を祐巳さんの方に差し出し、受け取ったお茶を飲む。よく冷まさないで飲めるなあと感心しながら見ていると祐巳さんが令さまの方へと向き。
「結構なお手前で――でしたっけ」
「どういたしまして」
くすりと笑う令さまに、先程の雰囲気が少し和んだかなと思いきや、由乃さんが思い切った行動に出るのだった。
「私、電話してみようと思うの」
「電話ってどこに?」
「コスモス編集部」
ん、と一瞬考え随分と思い切ったことをするものだと感心するけれど、門前払いがオチじゃあないのだろうか。自伝的なら顔出しすることは躊躇いそうだけれど。まあアポなしで訪問するよりも良いのかと一人納得して、由乃さんのストッパー役である令さまが居るのだからと、他人事で見守ることにしたのだった、のだが。
「こそこそ犯人捜しをするような真似はよくないよ」
「心配しているだけじゃあなんにもならないじゃない。それにこそこそじゃないもの。白薔薇さまに断ってないだけだもの」
随分と飛躍した言葉だなあと思いながら、由乃さんってこんなに行動派だったんだねえと遠い目をする。
「それがこそこそだっていうのっ!」
「白薔薇さまが関わりたくないからって、どうして私たちの行動まで制限されなきゃいけないのっ!」
確かに正論ではあるけれども、傷の癒えていない状態ならばその場所に塩を塗り込む行為になりかねない。でも、由乃さんならばそうなる時には流石に自重は出来るだろう。
「あ、あの……」
ヒートアップし始めた由乃さんと令さまのやり取りに、おろおろと祐巳さんが止めに入ろうとするけれど、二人はそれを気にする様子もなく口喧嘩を続けている。
「……どうしよう」
「そのうちに収まるよ」
ずずずと頂いたお茶を呑気に啜る私と、目を白黒させながら目の前の喧嘩をどう止めたものかと悩む祐巳さんを他所に由乃さんが限界を迎え。
「令ちゃんのバカっ!!」
ぶんと私に投げたクッションを令さまにも投げる由乃さん。慣れているのか令さまは綺麗に受け止めてる。
「いい加減にしな。せっかく祐巳ちゃんと樹ちゃんが来てくれているのに」
呆れた声を上げる令さまに、ゆらりとこたつから立ち上がる由乃さん。背負っているオーラが並々ならぬものなのだけれど、どうして彼女はこんなにも猛っているのか。
「だったらなんだって言うのよ。――大体ねえ外面が良すぎるのよ令ちゃんは!」
「由乃に言われたくないね」
また始まった姉妹喧嘩を眺めながら、祐巳さんと一緒にお茶を啜る。
いくばくかのやり取りを終えると、令さまが折れていつの間にか四人で一緒に行動する羽目になったのだった。そうしてコスモス文庫の電話番号が乗っている冊子を令さまがどこからか持ち出し、電話の子機を持ち出してさっそく連絡を取る由乃さん。行動が素早いなあと感心しながら、結局編集部からはその質問には答えられないと言われ。ぷんぷんと怒る由乃さんに、当然の対応だと令さま。
「編集部、行きましょ」
ぬらりと立ち上がった由乃さんがまた無茶を言い始めた。これ止められそうもないなあと苦笑する。
仕事をしている人たちには迷惑かもしれないが、若気の至りだし良い経験にもなるのかなと納得する私の横で、祐巳さんと令さまが慌てた様子で、どうにか止めようと小声で相談している。寒いし、交通費を掛けてまでやることなのかと令さまに問いかけられた由乃さんは、祐巳さんへと話題を振り。
「えっと宅配便は受け取らなくていいの?」
そういえば留守番を担っていたのは宅配が来るからと言っていた。令さまがナイスとぱっと笑みを見せ、由乃さんがその言葉に詰まった時だった。
――ピンポーン。
家の中に響く呼び鈴の音と共に『島津さーん、宅配便でーす』と野太い声が響くと、がくりと項垂れる祐巳さんと令さま。そしてその二人を他所に、そそくさと玄関へと向かう由乃さん。ある意味呼び鈴が天啓だったのだろう。由乃さんを止める術がなくなってしまった。
「みんな、行きましょう」
荷物を受け取り戻った由乃さんがドヤ顔でそう言い、そんな由乃さんを見た令さまが項垂れて。
「祐巳ちゃん、樹ちゃん。こんなだけどよろしくね……」
身長の高い令さまが体を縮めながら、力なくそう言い残したのだった。
◇
バスを乗り継いで数々の出版社が入っている商業エリアへと辿り着く。駄目なら受付で門前払いになるだろうなあと、遠い目をしていたのだけれど由乃さんの熱意が通じたのか受付の美人なお姉さんが折れ、編集部へとアポを取ってくれたのだった。そうして案内された先のソファーに四人ちんまりと座って編集の人が来るのを待っていると、中肉中背の男性が頭を掻きながらこちらへとやって来た。
「今日はバタバタしててゆっくりとお相手できないんだ。――申し訳ないんだけれど日を改めてまた来てもらえないかな?」
「いえ、一つだけ教えて頂ければいいんです」
そうして由乃さんは、自伝的小説である『いばらの森』の作者は久保栞さんではないのか、と問いかける。
「そういう質問、この頃多いんだけれど……」
気になったリリアン生が問い合わせでもしたのだろう。困った様子の男性にさらに喰いついて質問攻めをする由乃さんに感服しながら、これは無理そうだなあと諦め始めていた時だった。
「――由乃さん」
祐巳さんもここら辺が潮時なのだろうと判断したのか、彼女へと声を掛ける。
「いいじゃない山岸さん。――話だけでも聞いてあげたら?」
品のいい初老の女性が由乃さんと男性のやり取りに間に入ったのだった。
「すっ――春日さん……来ていらしたんですか」
後ろ手で頭を掻きながら困った様子の男性編集者。こちらを向いてにっこりと笑う女性に頭を下げる。
「こんにちは」
「ごきげんよう」
春日さんと呼ばれた女性の声に返事を返したのは祐巳さんだった。
「あら。ごきげんよう、だなんて随分と懐かしいわね」
おや、と首を傾げつつ祐巳さんも不思議に思ったのか『懐かしいって?』と疑問を投げた。
「一応、先輩ということになるのかしら」
「あっ! ごめんなさい須加先生! お待たせしちゃって! ――……あれ?」
唐突に別室から現れたまだ年若そうな女性編集者の声で、春日さん以外のみんが呆然としている。
「馬鹿……」
「いいのよ、山岸さん」
身分を隠しているようだから知られるのは不味かったのだろうけれど、露見してしまったものは仕方ない。春日さんも都合が悪いのならば、逃げるなりなんなり出来るし私たちを追い出すことも造作もないことだから心配はもう必要ないなと安堵する。
「私が春日せい子です。ご愛読どうもありがとう」
にこりと笑い落ち着いた声音で春日さんは自身が『いばらの森』作者の須加聖であると名乗ってくれたのだった。
◇
会議室のような別室へと通され、話し合いの場を設けてくれたのは春日さんのお陰だったのだろう。由乃さんの質問に嫌な顔せずに淡々と答えてくれている。自伝的小説と銘打たれていたように、実話をもとにしたようだ。多少の脚色はあれど、内容はほぼ同じ。どうやら春日さんにとってその出来事は大切な過去であり、今でも色褪せることはない、と。
「――だけどね、ラストが間違えていたの」
小説『いばらの森』のラストは二人で逃げた先で睡眠薬を飲んで自殺を図り、相手の人が亡くなったと最後を締めくくっていたが。
「佐織はね……生きていたの」
噂を聞いた本人から電話をもらい、彼女が生きていることを知ったそうだ。当時の新聞は一人死亡一人重体と報じられており名前は未成年であることから伏せられていた。
だからお互いに死んだものだと勘違いしたそうだ。そうして今回の件で新聞を再度調べてみると、後日に誤報であったと詫びと訂正記事が載せられていたと。
「今度ね、彼女に会いに行くのよ。離れ離れになった同じクリスマス・イブの日に……」
そんな奇跡のようなことがあるんだね、と世の中の不思議に目を細めながら、目の前の女性へと視線を向けると穏やかな笑みを向け、何か遠くを見つめるような瞳に吸い込まされそうな感覚に陥り。もし叶うのならば、聖さまにもそんな日がいつか訪れればいいのにと願わずにはいられなかった。
そうして私たち四人は編集部を後にする。
「またお会いしましょう、だって」
「本の中でかしらね」
編集部へと訪れた時とは違い、私たちの空気は軽やかだった。由乃さんと令さまの言葉に笑いながら、歩を進め。
「でもよかったですね。編集部でも白薔薇さまだと勘違いした人には『本人じゃない』と回答してくれるみたいですし」
「ね? ね? 来てよかったでしょう!?」
「調子に乗らないの」
これで噂の鎮静化が早くなるなあと、祐巳さんが嬉しそうに笑いながらハッとした顔になる。
「あああーー!」
「な、なに祐巳ちゃん」
「サイン貰えばよかった!」
「祐巳さんって天然ボケよね……」
くくっと笑ってそれぞれの家路へと着くのだった。
◇
こうして流れていた噂は終業式の日には収まっていた。聖さまがきっぱりと生活指導室の前で野次馬ちゃんたちに否定したことが功を奏したのか、それとも編集部が否定してくれたことが良かったのか。
理由は分からないが、一年生だけの間で盛り上がっていたことも理由の一つにあるのだろう。高校生活一年目で過去の事は知らないのだから、人気者の話題で熱を上げるのは仕方ないといえるが、やり玉になった人はたまったものではない。まあ、聖さま自身あまり気にしている様子はなかったし、直ぐ収まってしまったのだからこれでいいのだろう。
クリスマス・イブに行われる礼拝に山百合会メンバーとして強制参加となった私は、お御堂へと行き有難い説法を右から左に垂れ流しながら、ようやく終わり薔薇の館へと赴く。
「――これ、一体何なんですか?」
「何ってクリスマスパーティーでしょう」
呆れた様子で祐巳さんが蓉子さまへと問いかるのだけれど、祐巳さんの疑問は尤もである。何故かクリスマスツリーには短冊が飾られているし。何とも言えないごった煮状態で。
「パーティーの相談の時ぼんやりとしていたもんねえ、祐巳ちゃんってば」
令さまが笑いながら最後のケーキの仕上げをしている。慣れているからなのか喋りながらよく器用にできるものだ。私ならば失敗しそうだけれど、令さまならばそういう心配は必要ない。令さまが差し出したフォークで摘まみ食いをした祐巳さんは幸せそうな顔をしている。
「祐巳ちゃん、君には大事な仕事があるのだよ」
どこからともなく現れた聖さまに祐巳さんが捕まってドナドナされて行く。そんな二人を見送りながら、クリスマスパーティーの準備に追われ。
少しした後、何故か蔦子さんがカメラを携えて現れる。どうやら写真部として今回の様子を収めるそうで。ほどなくリボンを片方外した祐巳さんに、何故か祐巳さんのリボンを髪に結わえている祥子さまが薔薇の館へと戻ってきて、聖さまも遅れて戻りようやく全員が揃ってパーティーが始まるのだった。
「祐巳さん、随分と幸せそうだねえ」
「ちょっといろいろとありまして」
「そっか」
これは後で祐巳さんが話してくれて知ったのだけれど。偶然春日さんが学園へとやって来たところを祐巳さんと聖さまが居合わせ、学園長室まで案内を頼まれ聖さまが送っていった、と。何故、春日さんが学園に来たのかと考えたが、思い返せばクリスマス・イブの日に佐織さんと会う約束を取り付けたと言っていた。
そしてリリアン女学園の学園長であるシスター上村の名前を思い浮かべれば、祐巳さんのあのなんとも言えない輝いた瞳の理由に、ようやく納得が出来たのだった。
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白き花びらはオリ主視点だと書けません。なんですっ飛ばしです。
あ、あと疑問があるのでアンケ取ります。
聖さまって裸の付き合いしてくれるかな、と疑問に思うのです。祐巳さんは普通に入ってくれると思うのですが、聖さまどっちか悩む。詳しくは活動報告にて。
アンケの結果次第でお風呂話(かなり短い)に聖さまを絡ませて入るか入らないか決めます。祥子さまは一緒に入らないでしょう。お客様用の風呂なんで、家主じゃないですが接待側なので入らないかと。
2021/05/04:14:42分、アンケート〆。ご協力ありがとうございました!┏○))ペコ
聖さま、正月回の小笠原邸で一緒にお風呂入ってくれると思います?
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入る
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入らない