奇術師のヒーローアカデミア   作:ビット

3 / 3
 
 全話の前書きにも追加しましたが、ヒソカの点数付けは「僕のヒーローアカデミア」基準で行われてます。

 動き少なめな繋ぎの回です。下ネタっぽい表現あるので苦手な人は注意して下さい。


第3話

 雄英高校が始業して2日目。今日は待ちに待ったヒーロー基礎学の授業がある日だ。戦闘訓練や災害救助、個性強化など、ヒーロー活動における基礎を学ぶ授業で、オールマイトが担当する授業でもある。

 

 英語や国語など一般の高校に通う生徒が当たり前に受ける授業も当たり前に受け、そして迎えた午後の授業。他のクラスメイト達からも楽しみだ、という熱が伝わってくるようだった。

 

 「わーたーしーがー!普通にドアから来た!」

 

 「95点……!♦︎」

 

 「すげー!オールマイトだ!本当に教師やってんだ!」

 

 現no .1ヒーローにして、史上最高のヒーローと名高い彼の登場に、教室の興奮は一気にヒートアップする。ヒソカスカウターでもかなりの高得点が叩き出された。90点越えは初めてかもしれない。

 

 口角が上がり、抗い難い衝動を必死に押さえつける。油断すれば今にもオールマイトに飛びかかってしまいそうなほどだった。最早周りの声も殆ど耳に入ってこない。

 

 オールマイトが手に持ったリモコンを操作すると、教室の床から棚が現れた。そこには雄英入学前に事前に申請したコスチュームが入っており、今回の訓練ではそれを着て行うとのこと。

 

 オールマイトが教室を去ったころ、漸く身体が落ち着いた。周りも既に着替えを始めており、僕も自分の棚からコスチュームの入ったアルミ製の鞄を取り出す。

 

 上は丈の短い黒のノースリーブに、下はかなり緩めで足首で締まっている白のズボン。靴は先が上を向いたもので、腹部は紫のゴムボールのような光を放つ素材で作られている。天空闘技場編のヒソカの服装をそのままコスチュームに落とし込んだ。耐熱性・防寒性に優れ、ちょっとやそっとでは壊れないとびきり頑丈な素材で作られている。

 

 特に着替えることに苦労することもなく、寧ろかなり早めに着替え終わった。そのまま演習場へと向かうと、金髪に黒メッシュの少年、上鳴と、赤髪を逆立てた少年、切島が声を掛けてくる。

 

 「ようヒソカ!イカしてるぜ!ムッキムキだな!」

 

 「ピエロ?か?よくわかんねーけどお前のイメージにピッタリだな!」

 

 「ありがとう♠︎君たちも決まってるね♣︎」

 

 そこそこ変わったコスチュームというか、ヒーローっぽくはないと思うのだが、級友たちは手放しで褒めてくれた。素直に嬉しくて自然と表情が綻ぶ。

 

 和やかな雰囲気が流れたが、それもすぐに終わる。オールマイトが授業についての説明を始めたからだ。まだ浮ついた雰囲気が残っているが、しかしそれでも空気が引き締まった。

 

 「さあ始めようか有精卵共!戦闘訓練のお時間だ!!」

 

良いじゃないか皆、カッコイイぜ!と生徒達を褒めるオールマイトに、フルアーマーのコスチュームを着た少年が質問を投げ掛ける。

 

「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

 

 あのアーマー、眼鏡の彼だったのか。

 

「いいや!もう二歩……いやもう三歩先に踏み込む!2対2での屋内での戦闘訓練さ!」

 

 オールマイトの言葉に、疑問が首をもたげた。同じ疑問を抱いた生徒も複数いるようだ。

 

「ヴィラン退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内のほうがヴィラン発生率は高いんだ。監禁・軟禁・裏商売……このヒーロー飽和社会、ゲフン、真に賢しいヴィランは、屋内(やみ)に潜む!!」

 

 カンペを読みながら捲し立てるオールマイト。

 

「よって今から、君たちには『ヴィランチーム』と『ヒーローチーム』に分かれて、屋内での戦闘訓練を行ってもらう!」

 

「基礎訓練もなしに?」

 

「その基礎を知る為の実践さ!ただし今度はぶっ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ」

 

 猫背で蛙のような容姿の女子生徒、蛙吹がオールマイトに質問を投げかけ、オールマイトがそれに答えた。彼女の質問を皮切りに、生徒達が次々と質問を投げかける。

 

 「先生、当クラスは二十一名です。2対2での訓練だと1人余ってしまいますわ」

 

 「そこなんだよなぁ〜!今日は1チームだけ3人のチームを作ろうと思っているんだが、これから常に直面する問題だ!何か他にいい案があれば採用したいんだが」

 

 「オールマイト先生♥︎」

 

 目の前に転がってきたチャンスに、どうしても心の昂りを抑えきれずにいた。なんだね喪蝋少年と返すオールマイトに、僕は特大級の戦意をぶつける。身体から紫色のオーラが立ち昇った。

 

 「よかったら貴方と闘ってみたいな♠︎」

 

 「……む」

 

 プロヒーローの戦闘力を知るいい機会になるしね♣︎、と適当な理由を付け加えたが、結局のところボクが闘いたいだけだ。オールマイトは腕を組み思案している。その様子に可能性があるとみて、更に畳みかける。

 

 「訓練の様子を見学するなら、貴方がちょうどいいお手本になる♣︎ハンデをつければ生徒側にも勝算が生まれるかもしれないしね♦︎」

 

 単純な戦闘なら相手にもならないだろうが、これは訓練だ。内容やハンデ、個性次第では、勝ちを拾える可能性は出てくる。

 

 「……いや、ダメだ!そういう授業を行う時も来るかもしれないが、今回はあくまでチームで行うということに意味がある!」

 

 「そっか残念♠︎」

 

 身を焦がさんばかりの昂りは驚くほどあっさりと引いていった。雄英高校に在籍する限りチャンスはある。今回は叶わなかったが、また次の機会を窺うとしよう。

 

 その後オールマイトによって訓練の説明が続けられた。状況設定は『ヴィラン組織』がアジトに『核兵器』を所持していて、『ヒーローチーム』はそれを処理しようとしている。『ヒーローチーム』は制限時間内に『ヴィランチーム』全員を拘束するか『核兵器』の回収をする事。『ヴィランチーム』は制限時間まで『核兵器』を守るか『ヒーローチーム』全員を拘束する事。

 

 くじを引き終わり、同じくじを引いた生徒を探すと、衣服が浮いていた。このクラスでよく見る怪奇現象の類だ。

 

 「あっ、喪蝋くんと一緒か!私葉隠透!よろしくね!」

 

 「よろしく葉隠♠︎よかったらヒソカって呼んでよ♦︎」

 

 分かった!と元気よく返事をする彼女は透明人間の個性らしい。詳しくは知らないが、強個性だし、何より僕の個性との相性は悪くなさそうだ。

 

 「作戦たてよ作戦!私の個性は『透明』!透明だよ!ヒソカくんの個性って、防戦に向いてそうだよね。あのひっつくゴムみたいなやつって複数出したりできる?」

 

 「できるよ♣︎」

 

 部屋いっぱいにゴムとかつよそうじゃない!?と騒ぐ葉隠を見ていると、何だか微笑ましい気持ちになってくる。恐らく他人に表情が伝えられないからだろう、大袈裟な身振りでこちらとコミュニケーションをとろうとするさまは、端的にいって可愛らしいものだった。

 

 他の生徒の訓練中はモニタールームで試合の観戦を行うそうだ。しかしどうやら音声は聴こえないらしい。残念。訓練なら聞こえてもいいと思うのだけど。

 

 「おお!緑谷すげぇ!」

 

 初戦は出久、無限女子こと麗日チーム対爆豪、眼鏡の彼こと飯田チームの訓練だった。前者がヒーローチームで、後者がヴィランチームだ。

 

 目を細めモニターを見つめる。流れている映像では、出久と、くすんだ金髪の彼、爆豪が接敵し、最初に爆豪側が仕掛けた不意打ちに上手く対応してカウンターを喰らわせた形になっていた。投げ技で爆豪を地に打ち付けた出久は、ファイティングポーズをとり何やら声を張り上げている。

 

 身体が震えた。やはり彼には僕の心を熱くさせる何かがあるらしい。

 

 なんとか確保テープを巻こうと奮闘する出久に、爆破という強力な個性で圧倒する爆豪。出久はよく爆豪に絡まれていたり、冷たい態度を取られているのを見かける。何か因縁があるのだろう。

 

 いきなり籠手のピンを引き抜き、演習場を震わせるほどの大爆破を起こした爆豪は、オールマイトから厳重注意を受けていた。コンクリートでできた壁を大きく抉っている。物凄い火力だ。もしも直撃すれば並みの人間なら無事では済まない。

 

 誰かが爆豪のことをセンスの塊だと言った。確かに、爆破の反動を利用した機動力と、おそらく我流であろう体術、そして何より身体機能である個性を連続しようしても底を尽きないタフネスは、天性のものに恵まれていると言える。

 

 「青い果実……♣︎」

 

 誰にも聴こえない程の小声でそう溢す。

 

 その後も爆豪が圧倒するが、しかし粘り強く奮闘する出久。お互い何か声を張り上げ、まるで口喧嘩でもしているようだった。追い詰められていく出久。しかし余裕のない表情を浮かべているのは、寧ろ爆豪の方だった。

 

 出久が猛る。爆豪が吠える。モニター越しでもわかるほどの熱気と激情。一々声にして反応を示していた生徒たちも次第に口数が減り、彼らの闘いに魅せられていた。

 

 ああ、いい……♠︎やっぱり君はいいよ、出久♥︎

 

 身体が震える。視線と吐息に熱が篭る。爆熱と衝撃にモニターが強い光を発し、思わず目を細めた。刹那、オールマイトが告げる。

 

 「ヒーローチーム!WIIIIIIIN!!!」

 

歓声をあげる生徒たち。ボロボロの演習場の中で倒れ伏す出久に、立ち尽くす爆豪。勝者と敗者がまるで逆転したようなその光景は、生徒たちの脳裏に強く刻まれたことだろう。

 

 「凄かったねー!」

 

 興奮気味にそう話す葉隠に、適当に返事をした。まだ身体の昂りは治らない。今は崩した体勢で座っているからいいものの、気を抜くと勃っていることがバレそうになる。

 

 身体は完全に出来上がっている。戦闘に飢えた僕はいつも吊り上がっている口元を更に吊り上げ、怪しい笑みを浮かべていることだろう。

 

 他の生徒が演習を行なっている間、心を落ち着かせなんとか鎮める。面白そうな個性を目にするたび身体が反応して大変だった。

 

 「続いてヴィランチームの喪蝋少年、葉隠少女、ヒーローチームの轟少年、障子少年、尾白少年、演習場へ移動してくれ」

 

 次は僕たちの番だ。立ち上がり演習場へ移動する。相手は全国でたった4人枠の推薦入学者、轟を含めた3人チームだ。かなりの強敵といってもいいだろう。

 

 ふと轟と目が合うが、向こうは興味なさそうにすぐに視線を逸らした。

 

 「つれないな♦︎」

 

 普段なら少し落ち込むところかもしれないが、今日はかなり機嫌がいい。相手のつれない態度も、むしろ僕の心の熱を高める薪になった。

 

 「相手3人チームかー!まともに戦闘するとかなり厳しそうだよね……」

 

 「そうだね♠︎でも策はあるよ♥︎」

 

 難しそうにムムムと唸る葉隠に、そう告げると途端に元気になる。どんな策?と聞いてくる彼女に、僕は他のクラスメイトには言っていない個性の使い方を説明した。

 

 「確かに、それなら相手も騙せそう!でも3人に攻めてこられたら流石に不利だろうし、確保テープを巻かれちゃうよ?」

 

 「大丈夫、戦闘なら任せてよ♦︎」

 

 事もなげに、笑みを浮かべながらながらそう告げる僕に、葉隠は少しだけ間をおいてわかった、と返事をした。時間稼ぎにしろ相手を倒すにしろ、どちらにせよ戦闘は避けられない。その後、葉隠にやって欲しい役割について話し終えたところで、そろそろ訓練が始まるぞ、というオールマイトからの通信が聞こえた。

 

 核のハリボテを置き、更に念には念をいれて下準備をする。全ての準備が満足に終わり、いよいよ開幕の合図が聞こえる。

 

 がんばるぞー!と声をあげる透明人間。今の彼女は、言ってしまえば素っ裸だ。透明という個性上、これが1番強い!本気!と言うのも分かるが、そこは女子としてどうなのだろうか。まあ、この個性社会で人の生き方や価値観についてどうこう言うのも無駄なので黙ってはいたが。

 

 そんなことを考えていた瞬間、立ち昇る冷気を肌で感じた。僕は咄嗟に葉隠を抱え、足にオーラを集中する。

 

 “凝”

 

 生命エネルギーを集中することで、硬度や威力が上がる。凍りつく床。いや、床だけではない。壁も、天井も。建物が、全て凍り付いている。

 

 足から身体を昇ってこようとする冷気を踏み込みで振り払う。

 

 「寒い!ブーツ履かなきゃ!皮剥がれちゃう!」

 

 部屋の隅に置いていたブーツを履かせ、葉隠を下ろす。ありがとう、と告げる彼女はどことなく恥ずかしそうだったが、もはやそんな事は気にならなかった。

 

 「イイ……♥︎イイよ……♥︎」

 

 はじめて実感する圧倒的な支配力を持つ個性に、身体の興奮が収まらない。早く、早く発散させてくれと個性が喚く。

 

 「隠密性能は下がっちゃったけど……♠︎プラン通り行こうか、葉隠♥︎」  

 

 

 

 ここは最上階。登ってくるだろうヒーローチームを――真っ正面から迎え撃つ。

 

 

 

 




 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。