ガリア生まれの男ウイッチが501に着任しました!   作:喜多見 健

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会いたい

「こりゃあ運ぶのにも一苦労だな」

 

「これをどければ交通も良くなるんだが……」

 

「どけるったって……これだけの量だぞ? こんなのどこに運べば良いってんだよ」

 

 ノルマンディの市街地で、そのような問答が繰り返される。筋骨隆々の男達の前には、高さ数メートルはあろうかと言う瓦礫の山が聳え立っていた。

 

「いっそのこと発破しちまうか?」

 

「バカ、周りに散らばるだけだ」

 

「だからってこのままってわけにも行かないだろ」

 

 気軽に手を出せないその瓦礫の山を眺めて言葉を交わす男達を尻目に、カールスラント軍アフリカ熱帯仕様のロングコートに身を包み、アフリカ戦線用の規格帽で頭をすっぽりと覆っている長身の男は軽々と瓦礫の山へと登る。すると男達は見る見る険しい顔をほころばせ、男に声援を送る。

 

「おお! 大尉殿!」

 

「ヴァレリーさん!」

 

「人狼大尉!」

 

「エクスキャリバー殿!!」

 

 終に瓦礫の天辺へと到着した男、ヴァレリー大尉は太陽を背負いながら大声で指示を下した。

 

「これよりこの瓦礫を『蒸発』させる! 調整を誤ると被害が出るから退避してくれ!」

 

 その言葉が早いか、男達はヴァレリーに手を振りながら下がる。十分に安全が確認できたのか、ヴァレリーは瓦礫の山の天辺にしゃがみこむと手を置いた。

 

 一瞬だけまばゆい光が迸り、ジュッという小気味良い音と共にそれまでそこにあった瓦礫はすっかりと消失した。空中に放り出されたヴァレリーはうろたえる事は無く、身体をわずかにひねると膝で衝撃を吸収して着地した。

 

「いや、助かりました。本当に大尉殿は心強い」

 

「何、私は私ができる事をしているだけです」

 

 ぎこちない敬礼を行う男に、ヴァレリーも背筋を伸ばして「右腕」で返礼を行う。風に翻ったコートの下、左腰にはサーベルが、右腰には長銃身のモーゼル・シュネルフォイヤーが覗いている。年齢の序列を考えているのか、ヴァレリーは敬語のまま、公的な発言をするときの堅いイメージで全身を覆っていた。

 

「はは、ご謙遜なさる! とはいえ、ノルマンディの主要交通網はこれでほぼ復元できました。内陸部への物資輸送も格段に効率が良くなるでしょう」

 

「他の沿岸部――ブルターニュやペイ・ド・ラ・ロワール、それと、パ・ド・カレーの復興状況はご存知ですか?」

 

「ブルターニュは被害が少なかったおかげで順調に建築が進行中です。ペイ・ド・ラ・ロワールも復興計画が順調に進んでいるみたいですね。ただ……パ・ド・カレーは交通網の確保は終えたようですが再建築のための人手が足りないようです」

 

 その言葉に、ヴァレリーは大きく息を吸う。ガリアのネウロイの巣が消えたというのに、まだまだ元のガリアを取り戻すのは時間が掛かるようだ。

 

「……立ち止まっている時間はありません。昨日よりも少しでも良い今日をガリアに、今日よりも少しでも良い明日をガリアに表さねば空で戦っているウィッチに示しが付きませんから」

 

 帽子を被りなおし、ヴァレリーは足早に人の群れから抜け出す。何人かの女性は熱を秘めた視線でヴァレリーの事を見つめていたが、生憎その気持ちに答えてやる事は出来ない。

 

「(待っててくれよ、ペリーヌ)」

 

 ヴァレリーはまっすぐに前を見つめ、自分の住居へ向かう。パ・ド・カレーに向かうための車を取りに。

 

 

――――パ・ド・カレー地方、クロステルマン邸――――

 

 

 軍用のジープを路傍へと停め、ヴァレリーは背筋を伸ばしたまま門へと歩み寄る。口元を立てた襟で隠した長身の男が近づいてきたのならば、誰でも警戒するだろう。

 

「突然の訪問申し訳ない。ペリーヌ・クロステルマン中尉はご在宅か?」

 

 門の前に立つ女性の守衛に視線を合わせるためにかがみこむと、守衛は目を泳がせながら冷や汗を浮かべる。彼女からしたら、目の前の大男が恐ろしくてたまらないのだろう。

 

「お、お、お名前をお伺いします!!」

 

 上ずった声でそう叫ぶ守衛が面白かったのか、ヴァレリーは口元をゆっくりと吊り上げる。ヴァレリーからしたら至極普通の笑みなのだが、守衛には肉食獣に捕捉されたように思えたのだろうか。短く奇妙な悲鳴を上げると小刻みに震えだしてしまった。

 

 さすがに、ヴァレリーもショックであるのか、帽子の鍔で目元を隠すと自らの素性を説明する。

 

「……元501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズ、ヴァレリー大尉だ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、守衛は震えを止めるとあっという間に笑顔を浮かべて敬礼を行う。

 

「し、失礼しましたっ! ヴァレリー大尉のご活躍は伺っております! ええ! カールスラントの撤退戦をはじめとしていくつもの戦場を飛びぬけたガリアンエース! まさかこの目で見れるとは思ってもいませんでした! 先ほどの無礼は謝罪いたします! 申し訳ございませんでした!!」

 

 矢継ぎ早に言葉を繰り出し、ころころと表情を変える守衛に面食らったのか、ヴァレリーはたまらず一歩下がると曖昧な相槌を打つ。

 

「はっ! そういえばペリーヌお嬢様に御用でしたね! ただいま開門いたします!」

 

 会話を挟み込む隙のない怒涛のトークに付いてゆけなかったヴァレリーは、開いた門の中へ足早に歩き出す。後ろでは守衛がサインをくださいと叫んでいるが、帰りに渡すことにしようと自己完結するとすぐに思考を切り替える。

 

 門の中の邸宅は、未だに生々しい傷跡が残っている。とはいえ、庭は青々としているためそこまで深刻に考える必要は無いのかもしれない。

 

 庭で作業をしている人々の中には、「月刊、世界の航空歩兵」で見かけたウィッチが何人か混ざっているようだ。

 

「一体何の騒ぎですの守衛さん? 報告は簡潔かつ正確に、と常日頃からおっしゃって……って、あら?」

 

 邸宅の中から歩み出たペリーヌとヴァレリーの視線が交わる。ヴァレリーは規格帽を脱ぐと髪をかき上げ、右手で敬礼を作る。

 

「久しぶりだな、ペリーヌ。何ヶ月ぶりだろうか」

 

「ヴァレリー……大尉?」

 

 小走りにヴァレリーの元へ駆け寄るペリーヌに、たまらずヴァレリーは目を細めて笑う。そしてヴァレリーを見上げるペリーヌの髪の毛をくしゃくしゃとかき混ぜると、ペリーヌはくすぐったそうに肩をすくめた。

 

「大尉はやめてくれ、もう空からはなれてずいぶんと経つんだ。ノルマンディの復興が一段落したからこちらの助力に来た」

 

「事前に連絡くらいくださいまし! もし私が遠出していたらどうするつもりでしたの!?」

 

 頭を撫でる手を跳ね除け、ペリーヌは叫ぶ。手を跳ね返されたヴァレリーは脱いだ規格帽を叫び続けるペリーヌの頭に乗せる。少しサイズが大きいのか、ペリーヌは規格帽の鍔を押し上げながらも叫び続ける。規格帽を脱ごうとはしないようだ。

 

「まあ、少しなら時間がありますから、お話も出来ますけど」

 

 突然小声でそう囁くペリーヌに多少肩透かしを食らったようだが、ヴァレリーは満足そうに頷くとペリーヌの歩幅に合わせて横にならび、邸宅の内部へ向かう。

 

「積もる話はありますけれど、私が話に時間を取られていては示しが付きませんわ」

 

「その分俺が頑張れば良い。右腕もだいぶ感覚は戻りつつあるから」

 

 ぎこちなく右腕を握ったり開いたりしながら、ヴァレリーは言う。右腕が千切れて空を離れたとはいえ、リハビリは欠かさずに行ってきたのだから。

 

「貴方と言う人は、本当に良く分かりませんわね」

 

 数人の使用人とすれ違い、廊下を歩いて扉を閉める。おそらく応接室だと思われる一室に、2人だけがいた。ペリーヌは名残惜しげに規格帽を脱ぐと静かにソファに腰掛けるがヴァレリーはまだ立ったままだ。

 

「俺は俺だ。基地で皆に繕っていたヴァレリー・オデールも、今こうしているヴァレリー・オデールも、俺だ。」

 

「回りくどい表現は結構ですわ。というか、貴方は素でその言葉回しをするんですのね」

 

 呆れたように大きく息を吐き、ペリーヌは言う。ヴァレリーはくつくつと喉を鳴らしゆっくりとペリーヌの隣に座り、そしてペリーヌの瞳を見つめた。たまらずペリーヌは瞳をそらすと赤面する。

 

「どうして目をそらすんだ?」

 

「だって……そんなにまっすぐな瞳なんですもの」

 

 その言葉に、ヴァレリーは自嘲気味な、乾いた笑い声を上げる。かつては狂気の瞳、戦争狂の眼と呼ばれたこの視線が、そんなにも美しい表現になるとは微塵も想像しなかったのだろう。

 

「今の俺になれたのは、ひとえにペリーヌのおかげだよ。それだけは確実に言える」

 

 そしてヴァレリーは、年相応の笑みを浮かべる。おそらくはほんの数人しか知らないであろう、ヴァレリーの本当の笑みを。

 

 ペリーヌはヴァレリーに身体を預ける。

 

「……ずるい」

 

 ぽつりとペリーヌは呟く。ヴァレリーの耳に届いたのか分からないが、ヴァレリーはくつくつと喉を鳴らし、ペリーヌの髪を撫でるために右手を伸ばした。

 

 邸宅の入り口で行ったような荒っぽいものではなく、今度は毛繕いのように、優しく金色の髪を撫でるとペリーヌはくすぐったそうに身もだえをする。

 

「あなた、私の髪を撫でるのがお好きですわね」

 

「綺麗な金髪だから。嫌か?」

 

「とんでもない」

 

 そうしていると、ペリーヌはゆっくりと瞳を閉じる。髪を撫でられるのが心地良いようだ。

 

 ヴァレリーはペリーヌの顎に手を掛け、軽く上を向かせる。さすがにペリーヌも予想外だったのか、瞳を見開くと抗議の声を上げた。

 

「……」

 

 ヴァレリーは抗議の声も気にしないように、ペリーヌの瞳を見つめ続ける。今度は瞳をそらそうにも顎を固定されているため、瞳を動かすのが精一杯のようだ。

 

「俺は、金色が好きなのかもしれないな」

 

 互いの瞳に映る自分の顔を見つめ続けたまま、二人はゆっくりと距離を詰めて行く。

 

 轟音と共にドアが開き、数人が部屋に倒れ込んできた。守衛と、名前を知っているウィッチも何人か混ざっている。とりわけ意外だったのは、リーネがいたことだろうか。

 

 凍りついたように動きを止めたヴァレリーとペリーヌは物音の主達と視線を交えながら、床に倒れこんだ人々は顔を上げて身体を引き起こし、ドアを全開にして一目散に駆けだしていった。

 

「……リネット曹長も一緒だったか」

 

 顔を真っ赤にしながら立ち上がるペリーヌを尻目に、ヴァレリーは冷たく言い放つとソファからゆっくりと立ち上がり、コツコツと靴音を立てて歩き出す。口元を吊り上げて狂暴な笑みを浮かべると扉を閉め、ペリーヌの傍に立つ。

 

「覗かれるのは好きじゃないんだが」

 

「それは私もです! 事もあろうにリーネさんまで覗きに加わるとは!」

 

 そして叫び疲れたのか、ペリーヌはどっかりとソファに腰を落とし、大きくため息を吐く。

 

「ペリーヌは、俺の事は口外していなかったのか?」

 

「プライベートな事以外は、同じ戦場で戦った仲間としての思い出は話した事がありましたわ。あぁ、これからどんな顔をして会えば……」

 

「では、もう隠す必要もないか」

 

 ヴァレリーはペリーヌの手を取ると腕を引き、抱き寄せる。

 

「ヴァレリーさん!?」

 

 ペリーヌは声を上ずらせながら声をあげるが、ヴァレリーは意に介す事はなく、目を閉じてペリーヌを胸元に抱いていた。

 

「君の傍にいると、安心するんだ。もうすこしだけ、このままで……」

 

 ペリーヌはどうしたら良いか分からずに顔をりんごのように真っ赤にさせてヴァレリーの胸の中で小刻みに震えている。

 

 不意にペリーヌに体重が掛けられ、なすがままにソファに倒れこむ。いきなりの展開にペリーヌは眼を白黒させて非難を述べるが、ヴァレリーは規則正しい寝息を立てている。固有魔法で魔法力の半分を消費した上での車の運転に疲れたせいか、ペリーヌと会えた安心感からかは知る由も無い。

 

 なんとかヴァレリーの下から抜け出そうとはしているようだが、すっかりと睡眠状態に移行したヴァレリーを動かすのは少女には厳しいのだろうか、わずかに顔を動かすだけで精一杯なようだ。

 

「(見つかったら間違い無く勘違いされますわ……!)」

 

 この状況、非常に危ない。ソファに男女が2人倒れこんでいるなど、第三者から見たら健全という言葉とは最も遠い光景になるだろう。

 

「ヴァレリーさん! 起きてくださいまし! ヴァレリーさん!?」

 

 ペリーヌは必死にヴァレリーに声を掛けるが、覚醒する様子は無い。それどころか、その言葉に口元を緩めて笑ってさえいる。まるで、明日何をして遊ぼうか考えて眠る子供のような、無垢な笑みで。

 

「……本当、ずるいですわ」

 

 ヴァレリーの笑みには、ペリーヌはどうしても強く出られないようだ。

 

「(まったく、しょうがない人)」

 

 規則正しい寝息を子守唄代わりに、ペリーヌも眼鏡を外すと瞳を閉じる。やがて規則正しい寝息が2つ分部屋に響きはじめた。

 

 数十分後、謝りに来た守衛やリーネ達がその光景を見た悲鳴で2人が起こされ、ヴァレリーとペリーヌの関係があっという間に周囲に広まったのは言うまでも無い。

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