ガリア生まれの男ウイッチが501に着任しました! 作:喜多見 健
――――滑走路――――
「おかえりー。いやー、完敗だ。すがすがしいほどに負けた」
「ウジュー……悔しいー……」
機体を格納した四人は、言葉を交わしながら歩く。すると、テラスから降りたバルクホルンと坂本が男を呼び止める。
「お疲れのところすまないが、ヴァレリー大尉、少々聞きたいことがある」
「短く済ませるつもりだ。正直に答えてくれればな」
坂本とバルクホルンは疑いを抱いたような声色で言う。するとシャーリー、ペリーヌ、ルッキーニの三人はそそくさと基地の内部へ歩き出す。
「――率直に聞く。今回の模擬戦は正々堂々と行ったものか?」
バルクホルンが男に詰めよる。男は身動きはせず、バルクホルンの瞳を見つめた。
「もちろんだとも。ペテンをしたように見えたか?」
「なぜ背後のシャーリーとルッキーニの位置が分かった? それに弾の発射のタイミングまで分かるなんて、考えられないんだ」
坂本が険しい顔で男を見つめる。模擬戦でペテンをしたとなれば、好印象にはなりえないだろう。
「位置はエンジン音ですよ。最初、同高度で接触したときに二人のエンジン音を覚えました。背後に着かれたときの音と距離を覚えてましたから、距離もこれで測れます。弾の発射のタイミングは、わざと私が囮になることで判別できます。相棒が銃弾を撃てば、もう一人も射撃をするでしょう?」
さらりとそう言ってのける男に、二人はただただ驚くことしか出来ない。いくら魔力で常人よりも感覚が研ぎ澄まされているとは言え、こんなことは普通ではない。
「ネウロイ相手には使えない技術ですが。お二人が見ている前で失態はさらせないと、年甲斐もなく熱くなってしまいました。他にお尋ねしたいことは?」
二人は首を横に振る。その反応に満足したのか、薄く笑みを浮かべると男は一礼をし、背を向けて歩き出した。
――――ヴァレリーの自室――――
模擬戦から数時間後。夕食を摂り終え、夜闇が周囲を覆う時間、部屋には二人がいた。
一人は当然、この部屋の主であるヴァレリー・オデール大尉、もう一人は、ペリーヌ・クロステルマン中尉であった。
部屋にはいつの間にかデスクと椅子が運び込まれ、わずかに生活感の漂う部屋へと進化している。
「立っているのも辛いだろう? 掛けて良い」
男は椅子を指差し言う。男はベッドに腰掛けている。ペリーヌは言われるがままに椅子に腰掛けた。
「……今日の模擬戦、あんなに疲弊してまで何で私を守りましたの?」
その言葉に、男は呆気に取られたような表情を浮かべ、わずかに口元を吊り上げた。
「よく見ている」
「あんなに汗をかいて、四方八方に神経を張り巡らせて、私にそれほど気をかける理由がありまして?」
ペリーヌはうつむいたまま言葉を紡ぐ。
「理由? 僚機を――仲間を守るために理由が必要か?」
その言葉に、ペリーヌは顔を上げる。ヴァレリーの炭のように黒い瞳とペリーヌの金色の瞳が交差する。
「強いて言うなら……ガリアを開放してくれたことが理由だ。心から感謝している」
深々と頭を下げた男に対して、ペリーヌは眼を見開き、口を小さく動かす。
「祖国の英雄とともに空を飛べることは私にとって――否、ガリアのウィッチにとってはどんな勲章よりも価値のあるものだ。これからも、中尉とともに飛ぶ空を持ちたいものだ」
ペリーヌの心臓が跳ねる。頬が高潮する。息が荒くなる。それは彼女が坂本を思うときの現象に似ていた。
もっとも、これが何なのか、まだ彼女には分からない。
「……大尉、よろしければ――」
少しずつ、ペリーヌは言葉を紡ぐ。
「わ、私のことは、その……ただ単に、ペリーヌと呼んでくださいまし」
その言葉に男は少々驚いたようだった。何せ今まで、彼はこんなことを経験したことが無い。
「か、勘違いしないでくださいまし! 私は同じガリア出身の貴方に他人行儀な態度を使われるのが気に食わないだけです! ですから! 私も貴方には話しやすいように話させてもらいます! 良いですわね!!」
一息でそれだけ言い切ると、ペリーヌは走るような速度で歩くと、扉を開けて逃げてゆく。男は何が起こったのか、全く分かってはいない。
ただ、ペリーヌと少しでも打ち解けられたことを感じたのだろうか。わずかに笑みがうかんでいる。眉間の皺は、わずかに和らいだようだった。