やはり俺がサッカーをするのは間違っている。 作:セブンアップ
イプシロン襲来
俺こと比企谷八幡は、総武中の3年生である。学内で有名な雪ノ下雪乃と、同じクラスの女の子の由比ヶ浜結衣と3人で、今日も変わらず奉仕部という部活に取り組んでいる。今では妹の小町を含め、新奉仕部として活動していた。
「ねぇねぇお兄ちゃん」
「なんだ?我が妹よ」
「喉乾いたからなんか買ってきてよ」
「ちょっと小町ちゃん?なにお兄ちゃんをパシリにしようとしてるの?」
小町は相変わらずである。兄に対する接し方が今日も厳しい。どこで教育を間違えたんだろうか。
「大体、喉乾いたなら雪ノ下から紅茶淹れてもらえばいいだろ。小町の掛け声一つで美味い紅茶が飲めるんだぞ」
「あら?貴方いつの間に私を扱き使うようになったのかしら?武を弁えなさい。このパシリ谷くん」
いつものようにキレのある罵倒をする雪ノ下さん。今日も調子が良いですね。
「そうだよヒッキー!ゆきのんをパシったらダメなんだから!」
いつものように明るく振る舞う由比ヶ浜さん。その優しさを俺にもくれるとありがたいんですが…。
そんないつも通りの時間を過ごしていると……。
「誰なんだ、君たちは!?」
外から誰かの大きな声が部室にまで聞こえてきた。この声は……。
「今の、隼人くんたちじゃない?」
我がクラストップカーストの葉山隼人。そんなあいつがこんな大きな声を出しているということは、何かあったんだろう。
「隼人くん達に何かあったのかも!行こうよ!」
俺達は葉山達、サッカー部が練習しているグラウンドに向かった。グラウンドの周りには、放課後に部活や委員会で残っている生徒や教師陣が集まっていた。
「君たち!」
駆けつけた俺達の後ろから、平塚先生がやってきた。
「平塚先生。この騒動は一体……」
「……宇宙人だ」
平塚先生はふざけた様子ではなく、真面目な顔でそう告げた。普通なら、有り得ないと言わざるを得ない。しかし、普通ならば、だ。
「宇宙人って……最近学校壊してるっていう……」
「あぁ。この総武中に、エイリア学園が来たんだ」
全国の学校を片っ端から破壊している組織、エイリア学園。あのFF優勝校の雷門でさえ、破壊されているという。
「我々は、エイリア学園ファーストランクチームのイプシロン。我々の力を示し、愚かな人間達を平伏すために来た」
黒のサッカーボールを持った、黒尽くめの謎の長身の男がそう告げた。それに対し、葉山は。
「残念だが、俺達は君らと試合する気はない」
「断れば、この学校を破壊することになるが?」
「くっ……」
学校を守るためには、サッカーで宇宙人に勝つしかない。逃げ場はゼロである。
「……分かった。引き受けよう」
「ちょ、隼人くん!?」
「このまま学校を壊されるわけにはいかないだろ?頼む、戸部」
「……隼人くんがそう言うなら仕方ないって!」
「…ありがとう。みんな、絶対に勝つぞ!!」
葉山の一声にサッカー部は意気投合する。ベンチにいる、一色いろはを含めたマネージャーは心配そうに見ている。
「では早速試合を開始する。先行はそちらに譲ろう」
キックオフは葉山達から。戸部と葉山のツートップのようだ。ホイッスルが鳴り響き、試合が始まった。
葉山達は、パスを繋ぎながら相手陣内に切り込んでいくが、イプシロンは誰一人動かなかった。
「隼人くんッ!」
「あぁ!」
戸部と葉山は連続でショートパスを繰り返す。すると、ボールは分裂し、二人の足元に。
「デュアルッ…ストライクッ!!」
戸部と葉山の同時シュート。打たれた二つのボールは一つに戻り、それぞれの威力が合わさって黒尽くめの男に向かって飛ぶ。
だが、黒尽くめのあいつは。
「打ち返せ」
たったそれだけ。その言葉でDF二人は、デュアルストライクを軽々と返す。返ったボールはデュアルストライクより遥かな威力を放ち、戸部と葉山を吹き飛ばす。
「うあああぁぁッ!!」
そのボールを止めようと、他の選手は群がるが、威力が威力だけに彼らは吹き飛ばされてしまうだけだった。
そのまま返されたボールはキーパーごとゴールの中へ。
たった一回のカウンターが、総武中の選手を全滅させた。しかし、葉山だけは諦めなかった。
「絶対に……諦めてなるものか……!」
彼は重い足取りでボールを拾い、プレーを続けようとした。俺達は、それを黙って見るしかなかった。
葉山からのキックオフで試合再開。だが、戸部を含め誰も立てずにいる。
「つまらん。ゼル、ガニメデプロトンだ。戦術時間は3.7秒」
「了解しました」
ゼルと呼ばれる男は、ウサイン・ボルトをも超える加速で葉山から奪う。パワーが違いすぎるせいか、葉山は吹き飛ばされてしまう。
「ぐあああぁぁぁッ!!」
そのままゼルはシュートの体勢に。ボールに手をかざし、気を送る。気を送られたボールは凄まじいパワーを放つ。
「ガニメデ……プロトンッ!!はァッ!!」
所謂、かめはめ波とも呼ぶべきシュートは倒れたキーパーなどお構いなしに、ゴールに突き刺さる。
「これが……エイリア学園……」
俺は驚愕のあまり、そんなことしか言えなかった。小町は恐怖に怯えた顔で俺の腕に抱きつき、由比ヶ浜は雪ノ下にしがみついている。
「は、葉山先輩ッ!!」
そんな中、一色は倒れた葉山達に駆けつける。
「葉山先輩ッ!戸部先輩ッ!」
一色がいくら声をかけても、彼らはただ倒されて返すことすら出来なかった。
「我々エイリア学園の力を思い知ったことだろう。総武のサッカー部員は倒され、勝負は着いた」
黒尽くめのやつは、まるで演説をしているかのように、総武の人間に伝える。
「まだ…まだだ……」
それでも、葉山隼人は諦めていなかった。
「は、葉山先輩!」
「まだ……試合は終わっていない」
だが、葉山も虫の息だ。意識を保っていることが奇跡なレベル。
「まだ我々に刃向かうとはな。ならば、二度と立てないようにしてやろう。マキュア!」
「了解しました」
マキュアと呼ばれる女選手は、葉山に向けて打ち込んだ。一色は葉山を庇おうと背中を向ける。
だが、何故だろうか。俺は、気がつけば……。
「クソがッ!!」
俺は、マキュアのシュートに足を出していた。正直、バカにならないほど痛い。だが、ここでボールが後ろに飛べば悲惨なことが起きる。
「ああァァッ!!」
俺は足を振り抜いた。ボールの威力が弱まり、どこかに転がっていく。
「いってぇ……!!」
「せ、せんぱい!」
「比企谷……!?」
しかし、皮肉にも俺の身体は痛みになれているようで。以前、雪ノ下のリムジンに轢かれたことで耐性が付いたのだろうか。
「せんぱいっ!せんぱいっ!!」
「一色……お前、わりと無茶するやつなのな…」
「せんぱいこそ!なんで出てきちゃうんですかっ!?」
「なんでだろうな…。身体が勝手に動いたってやつだな…」
俺は足を震わせながらも、立ち上がる。せめてもの反発として、やつらを睨む。
「ほう……ただの人間が我らイプシロンのシュートをカットするとはな……。控えの選手か?」
「んなわけないだろ。制服姿の控え選手がいてどうすんだよ…。いってぇマジ……」
「ふっ。雷門の他にも、このような逸材がいたとは……。貴様、名は?」
「人に名前を聞くときは、まず自分からって宇宙で習わなかったか?」
「…私はイプシロンを率いる長。名はデザームだ」
「……比企谷八幡だ。覚えなくて結構だよ」
「比企谷八幡だな。潰しておくには惜しい逸材だ。……引き上げるぞ、イプシロンの戦士よ!」
そう言って、デザームの足元に黒いサッカーボールがいつの間にか現れて、禍々しい赤色の光を放つ。デザームの周りにイプシロンが集まり、赤い光が一気に光り出すと、イプシロンの戦士は消えていた。
「ふぅ……」
俺は気が抜けたせいか、その場で力無く座り込んでしまう。