やはり俺がサッカーをするのは間違っている。 作:セブンアップ
「……知らない天井だ」
意識を取り戻す主人公の定番のセリフ。そんなセリフを呟きながら、身体を起こして、周りを見渡す。何もなく、ただただ殺風景な部屋であった。
「……そういや、連れて来られたのか」
陽花戸中でジェネシスに大敗北をくらった後、俺はジェネシスに拐われてしまった。
すると、ガチャリとドアの開く音が部屋に響く。入ってきたのは、黒ずくめのスキンヘッド達だ。
「……誰だ」
「歓迎するよ、比企谷くん。我々はエイリア学園の志に賛同する者。まぁ、エージェントとでも呼んでくれ」
「…俺を連れてきた理由はなんだ。俺はサッカー歴浅いし、そこまで身体能力がズバ抜けてるわけじゃない。ジェネシスに敗北したのが何よりの証拠だ」
そんな人間をエイリアにスカウトする動機が分からん。どうやら、ジェネシスのウルビダってやつがやたら俺に固執しているようだが…。
「そんなことはないさ。確かに君はサッカーを初めて間もないし、身体能力も並程度。しかし、君の観察眼は我々も一目置いているのだよ。イプシロンの動きに付いていけるのは、君がよく動きを観察しているからだろう」
「……変に褒めてくるな。何が目的だ」
「そうツンケンするなよ。これから一緒に行動する仲間じゃないか」
「……お前らみたいなスキンヘッドの仲間なんてこっちからお断りだ」
「……まぁいい。どのみち君はここから逃げられない。我々に賛同するのは時間の問題だ」
俺が連れて来られた場所は、簡単に逃げることが出来ない場所ということか。
「…さて、ここに来たのは単なる挨拶などではない。君には、我々エイリアのことをまず知ってもらう必要がある。付いてきたまえ」
そう言われて、俺はエージェントに連行される。廊下に出ると、やけに科学技術が最先端っぽい雰囲気を醸し出している。
しばらく廊下を歩いていると、
「ご苦労。あとは私がやる」
廊下にはジェネシスのMF、ウルビダが腕を組んで立っていた。
「いえ、これは我々が……」
「二度も言わせるな」
「はっ」
エージェント達は来た道を戻っていく。戻ったことを確認し、ウルビダは俺に目線を向ける。
「さて、改めて自己紹介しよう。ザ・ジェネシスのウルビダだ。ようこそ、星の使徒研究所に」
「星の使徒研究所……?」
「ここが我々のアジトだ。これからお前には、このアジトで過ごしてもらう。勿論、我々の野望にも協力してもらう。断ることは許されない」
「……どうせ、逃げられないんだろ」
「お前は話の通じるやつで助かる。まず、先程のやつらの話を継ぐとしよう。我々、エイリア学園の正体を」
「エイリア学園の正体……」
そんな戦ったことはないが、今まで戦ってきたのに何一つエイリアのことを知らなかった。
「まず。我々は、宇宙人ではない」
「……そうか」
「その反応だと、察しは付いていたのか?」
「そんなわけないだろ。単にピンとこなかっただけだ」
確かにズバ抜けて早いスピードも、人間を吹き飛ばすパワーも、目の前から消えてしまうあのワープも、宇宙人だからという一言で済ませることが出来るだろう。
それでも、俺はその現状を受け入れてなかった。受け入れられなかった、という方が正しい。
「…ただ、宇宙人じゃないなら、やつらのスピードやパワーはどう説明する。練習したって言っても限度があるだろ」
「そうだな。そのためにわざわざお前を部屋から出したんだったな。付いてこい」
俺はウルビダに案内される。しばらく歩いていると、目の前に大きな自動ドアがそびえていた。
「ここだ」
その部屋に、俺とウルビダは入る。入ると、目の前には大きな紫色の塊があった。周りには、何やら機械やパイプなどで囲っている。
この塊はなんだろうか。この塊を見ているだけで、何やらざわついてしまう。
「……これは、なんだ」
「これはエイリア石だ」
「エイリア、石……?」
「これがエイリア学園の、力の源なのだ」
「力の源……ってことはまさか」
「そう。お前の察した通り、ジェミニストームやイプシロンはこの石を使役して強くなった、ただの人間だ」
この塊が近くにあるだけで、あれだけの力を手に入れたってのか…。しかし、一体何のために。
「そしてお前にも、これを付けてもらう」
ウルビダから手渡されたのは、小さな紫色の結晶が埋め込まれたペンダントだった。目の前にあるエイリア石と、全く一緒のものだ。
「却下だ。こんな怪しいもん、誰が付けるかよ」
「ならば、仕方ない」
するとエイリア石の目の前に、何かが映される。少女がベッドで寝ている………。
「ッ!?」
よく目を凝らしてもう一度その少女を見た。ショートの髪型にアホ毛が生えて、目は閉じているが可愛らしい顔の女の子。俺が前まで毎日顔を合わせていた人物。
「…こ、小町……なのか……!?」
俺の前の映像には、我が妹の比企谷小町が映されていた。特に縛られているわけもなく、ただベッドで寝ているという映像だけだが。
これだけでも、俺は怒りを買うことはできた。
「お前……小町にまで手を出したのか…!!」
「簡単には乗ってこないだろうと予想はしていたからな。エージェントに任せて別室で眠ってもらっている」
「お前ッ…!」
「どうする?お前がこれを付けるならば、妹には手を出さない」
「クッ……!」
正直、雷門をあまり裏切りたくはなかった。だが、それでも俺は妹を優先する。俺にとっては、雷門より妹の存在が大事なんだ。
「いや、そうだな……。エイリア石に関してはお前の意志でいい。ただこれだけは誓え。私に、そして私のお父様に絶対の忠誠を誓うということを。それだけ守れば、妹には何もしないでやろう」
「……お父様?」
「吉良星二郎。吉良財閥の者であり、我々のお父様だ」
「我々の……?」
ウルビダの言う、吉良星二郎ってやつがこいつらを束ねるボスということは理解出来たが、我々のお父様、という部分には疑問があった。
「そんなことはどうでもいい。さっさと誓え。でなければ、先程のエージェントがお前の妹に何かしてしまうかもな」
彼女は自然に、悪気なくそう言うが、そのセリフは俺を追い詰める強いパンチの効いたものだった。
「!やめろッ!!」
「ならば誓え、今すぐに。お前の居場所は雷門でも総武でもない。我々、エイリアこそがお前の居場所なのだ」
俺の心はもう、完全にへし折られていた。小町を引き出しにされては弱いことを、こいつは分かっていたのだろう。
エイリア石とかいう怪しいもの付けるくらいなら、まだウルビダに忠誠を誓っている方が幾分かマシだ。
だから俺は。
「………分かった。誓う。誓うから小町には手出ししないでくれ」
ウルビダの要求を呑むことにした。
悪い。雪ノ下、由比ヶ浜。それに雷門のみんな。恨んでも、嫌ってもいい。
きっとまた、間違えた選択を取ったんだと思う。でも、世界の平和と小町を天秤にかけるなら、間違いなく小町を選ぶ。
「…そうか。お前なら、分かってくれると思っていた。お前は今日から、比企谷八幡ではない。…"エイト"とでもしておこうか」
「…もう何でもいい」
小町を助けることができるなら、何でもいい。もし小町の代わりに命を差し出せと言われれば、間違いなく差し出す。
何があっても、小町は絶対俺が守る。例え、それが間違った選択だったとしても。