やはり俺がサッカーをするのは間違っている。 作:セブンアップ
シャワーを浴びたあと、俺は部屋で寝転んでいた。部屋には何もなく、ただ時間が経つのを待つしかない。
小町の居場所も分からないし、下手に動けば小町に危険が及ぶ。それに、この研究所内部には警備マシンがそこら辺に多数いる。怪しい動きをすればゲームオーバー。
近いのに手が届かない。こんなにもどかしいことがあるだろうか。
それとは別に。
「……腹減ったな」
そういえばここには食堂など存在するのだろうか。エイリア達がここで住んでいる以上、何かしら食糧はあるはずだ。
すると、俺の部屋に誰かがノックを叩く。エージェントか?
「…誰だ」
「ウルビダだ。出てこい」
俺は起き上がり、スリッパを履いてドアを開ける。そこには、エイリア共有の無地のシャツを着たウルビダと、目を大きく開けたちびっ子、クィールとキャバ嬢みたいな雰囲気を醸し出すキーブがいた。
「…何の用だ」
「まだお前は夜食を摂っていないだろう。行くぞ」
「あぁ、そういう……」
腹も減ってるし、丁度いい。俺は部屋から出て行き、ウルビダ達に付いていく。
しかし、こうしてみるとただの学生が寮で過ごしている風にしか見えない。どこで彼女達は、いや、あの吉良星二郎は道を誤ったのか。
「着いたぞ」
どうやら着いたらしい。自動ドアが開くと、そこにはエイリア達が食事を摂っており、周りにはエージェントが監視している。
「これ、食堂か?」
「あぁ。流石に私達も、飲まず食わずに生きていけるわけではない」
でしょうね。逆に飲んで食ってしたからどこか育ったんでしょうね。どこがとは言わないけど。
「…ていうか、なんで俺誘ったの?や、食堂の場所分かったからいいんだけどさ」
「理由はない」
理由も無いのに誘うのね。俺達はどこか座れる場所を探していると、
「あ、エイト」
隣から、ダイヤモンドダストのクララが話しかけてきた。
「おう。さっきぶりだな」
「エイトも夜ご飯?」
「ん、まぁな」
「じゃあ一緒に食べる?新しくエイリアに入ったってことで。まだエイトのこと何にも知らないし、色々教えてよ」
「いや、俺は別に……」
「おい、エイト。こっちだ」
クララと話していると、ウルビダに右腕を力強く引かれる。つーかこいつ力強ぇ。
クララとだいぶ離れた席に、無理矢理座らされた。
「いいか、お前はここに座っていろ。他所の席には行くな。お前の食事は私が持ってきてやる」
そう言って、ウルビダ達は夜食を取りに行くために食堂の券売機に向かった。
「いって……」
人間離れしてる身体能力持ってんだからもうちょい優しくしてください。雪ノ下でさえ優しいような…………いや、気のせいだな。
「お前は雷門の……」
俺が掴まれた右腕を摩っていると、後ろから誰かに話しかけられる。振り向くと、そこには見覚えのあるエイリア達がいた。
「お前らイプシロンの……」
確か、ゼル、マキュア、メトロン、クリプトだったか。クリプトだけが凄まじい敵意を向けてくる。まだ根に持ってるのね。
「何故お前がここにいる」
「それ、お前らのリーダーにも聞かれた」
とりあえずエイリアに来た経緯を軽く説明した。イプシロンのグループは、納得出来ないような表情だった。
「……まぁいい。あまり下手な真似はするなよ」
それも言われた。エイリアでは鉄板の返しなのかそれは。彼らはそう吐き捨て、他所の席に座った。
「待たせたな」
ウルビダ達が戻ってきた。差し出されたのはパンが二つ。そして
「ま、マッカン……だと……!?」
俺は幻覚を見ているのだろうか。パンの隣に、千葉県民のソウルドリンクであるマックスコーヒー、通称マッカンが置かれている。
「マックスコーヒー、だったな。お前の好物であると既に調べ済みだ」
「え、何これ飲んでいいの?」
「構わん」
久々のマッカンじゃあああぁぁ!!やっほぉぉぉぉい!!宴じゃ宴じゃあああぁぁ!!
俺は内心、狂乱している。マッカンのプルタブを開けて、一口。
「う、美味ぇ……!!」
ヤバい美味すぎる。美味すぎて涙が止まらないレベル。
「そんなに美味しいの?それ」
「ばっかお前マッカンは主食だぞ舐めんな。これが世界から無くなれば自殺するレベル」
「そ、そうなの……」
クィールとキーブは軽く引いている。ハッ、なんとでも思え。俺の好きなものは小町とマッカンだ。誰から引かれてもこれは絶対に譲らん。
「そんなに喜ぶとはな」
「サンキュー!愛してるぜウルビダ!」
「なっ…」
俺は急いで次のマッカンを補給しに行く。ここにあるマッカン根こそぎ頂こう。マッカンは誰にも渡さん。
「あ、エイト」
なんだこの忙しいときに俺の邪魔をするやつは。声をかけたのは、またクララであった。後ろには、先程いなかった仮面を付けた女と目つきが少し鋭いセミロングの女がいた。
「なんだクララ。今から俺はマッカンを補給せにゃならんのだ。悪いがお前に構ってる場合はねぇ」
「マッカン?あぁ、あの甘ったるい缶コーヒーよね」
思わぬところからマッカンの名前が出た。目つきが少し鋭い子。名前は知らん。
「あれ飲むって大概の甘党よね。あれ好きなの、アンタ」
「ばっかあれは千葉のソウルドリンクだぞ。好きとかいうレベルじゃない。無くてはならないものなんだよ」
「そんなわけないでしょ。千葉を何だと思ってんのよ。私の兄さんも、あんな甘ったるいコーヒーは身体に悪いって言ってたわよ」
「お前ちょっとそのお兄さん連れて来い。マッカンの素晴らしさを一から教えにゃならん」
「なんでよ」
っと、マッカンを布教してる場合じゃねぇや。さっさとマッカンを補給しないと禁断症状が起きる。
「とりあえずマッカン補給するから。じゃあな」
俺はダッシュでマッカンを補給しに行く。受付は警備マシンが行なっているようだ。
「ちょ、マッカン全部」
もはや何言ってるのか自分でもさっぱりだが、理解してくれた警備マシンはマッカンが詰められた箱ごと持ってきてくれた。
神かお前は。
「マックスコーヒー、ゼンゼンウレナクテコマッテイタ。ダカラ、オマエニヤル」
なんで売れねぇんだよ。こんな美味い水を誰も買わないとは損してるぜ。
俺は箱ごと運んで、さっきの席に戻る。席に戻ると、ウルビダが異様に静かにしていた。
「エイト、それ何だっポ?」
「全部マッカンだ。今日は俺の気分もいい。お前らに布教してやる」
俺はマッカンを渡す。これでマッカンを信仰する者がいれば、なお良し。
二人はマッカンを開けて、一口飲む。
「あ、甘っ……」
「甘いっポ……」
「この甘さがクセになるんだよ」
二人は同じ感想だった。しかし、ウルビダはマッカンに手を付けずに俯いていた。
「…何、どしたの?」
「…何でもない。悪いが先に部屋に戻る」
ウルビダはそう言って、食器が乗ったお盆を返却口に出して帰っていく。
「……なんだ、あいつ」
まぁいいや。マッカンマッカン。俺は2本目を、カシュ、という音を鳴らして飲み口を開ける。うん、やっぱ美味いわ。