やはり俺がサッカーをするのは間違っている。 作:セブンアップ
「練習終わった……」
しんどい。プロミネンス、というよりエイリア達の動きに付いていくだけでだいぶ体力が消耗する。
部屋に帰ってさっさと休もう。そしてマッカンを飲んで寝よう。
「エイト、勝負よ!」
勝負好きのプロミネンスMF、レアンがサッカーボールを持って俺を逃すまいとする。その様子を見たプロミネンスの面々は、そそくさとグラウンドから去る。バーンに頼るなんぞ論外だ。こちらを見もしない。
「別にもう今日じゃなくてよくね?」
「今日じゃなかったらいつするのよ」
「……気が向いたら?」
「ふざけんじゃないわ。今するわよ」
レアンとの1vs1再び。逃げ切れる気がしないため、仕方なく勝負を受けることにした。
最初、わざと負けてレアンが二度と勝負しないように仕向けるも、
「貴方、わざと負けたでしょ!ふざけんじゃないわよ!」
強いやつにずっと勝負を挑み続けているせいからか、相手の力のコントロールが見抜けるようで。手を抜けばすぐ見抜かれる。見抜かれれば、また勝負を仕掛けられる。
そんな感じで、かれこれ一時間はやっていただろうか。俺は身体に限界を感じ、その場で座り込み、肩で息をする。
「今日はこれくらいにしない?マジしんどい」
「まだよ!まだ私は貴方に勝ってない!今度は勝つ!」
「ちょ、マジでしんどいから……」
レアンの性格にも困ったものだ。プロミネンスのメンバーがそそくさと帰るのも頷ける。
「貴様、何をしている」
すると、俺の後ろから底冷えするような声でレアンに尋ねる。振り向くと、そこにはウルビダがいた。
「うるさいわね。今私はエイトと勝負してんの。部外者は出てってくれない?」
「プロミネンスごときが私に指図するか。貴様のような三流プレーヤーに指図されるとは、私も堕ちたものだ」
「あのお方に優遇されてるからっていい気になってるのも今のうちよ。ジェネシスの座は、私達プロミネンスがいただくんだから」
「弱き者の僻みは聞くに堪えないな」
あれだね。男子同士の喧嘩より、女子同士の喧嘩の方が数倍怖いよね。ちびっちゃいそう。
「まぁいいわ。エイト、勝負の続きしましょ。あんなやつ放っておいて」
「待てエイト。私から離れる気か?そんなことをすれば、あの娘はどうなると思う?」
…そうだった。今のウルビダには逆らえないのだ。少しでも逆らえば、小町に危険が及ぶ。
「……悪いなレアン。勝負はまた気が向いたらな」
「は、はぁ!?ちょっと待ちなさいよ!まだ私は貴方に……」
「エイトの答えは聞こえただろう。貴様もとっとと戻るのだ。行くぞ、エイト」
納得がいかない表情をしたレアンをグラウンドに残して、ウルビダとともにグラウンドから出て行った。
「エイト。レアンの勝負をもう受ける必要はない。私がさせない」
「それは別にいいんだが……」
一つ気がかりなのは、何故あの程度のことで小町を盾にしてまで俺を連れ行く必要があったんだろうか。俺がエイリアから抜けたり、エイリアに障害を起こす何かならば、小町を盾にするのは分かる。
だが、レアンに勝負を挑まれた程度で小町を盾にして俺を引き離す理由が見当たらない。
「いいか。プロミネンスやダイヤモンドダストのメンバーなどと親しくするな。ガイアに劣る連中などに愛想を振りまくな」
「別に愛想振りまいてないけどな。なんなら愛想じゃなく振りまいてるの敵意だけどね」
「お前は他人に甘すぎる。だからレアンも調子に乗って勝負を挑んでくるのだ」
「俺が他人に甘い?ばっかお前、俺は他人には厳しく、自分には甘く生きてる男だぞ」
「どうだかな」
ウルビダはどうやらご機嫌斜めらしい。今ここで阿波踊りでもしようなら、間違いなく殺される。
いや、多分誰でも殺すと思う。俺の阿波踊りとかどこ向けのサービスだよ。殺意しか湧かねぇよ。
まぁ女ならばそういう日はあるんだろう。ここは妙なことをせずに、黙っておくのが利口だ。
しばらく歩いていると、俺の部屋が見えて来る。
「じゃあな」
俺がドアノブを掴むと同時に、ウルビダが「待て」と静止をかけた。
「シャワー浴びたらすぐ自分の部屋に戻れ。私もシャワーを浴び終えたら、お前の部屋に向かう」
「や、もう食堂の場所も分かってんだから別にウルビダは…」
「黙れ。私の命令に歯向かうな。妹がどうなってもいいのか?」
まただ。また小町を盾に使う。
「お前、それは流石に理不尽だろ」
あまりにも理不尽なウルビダに、少し声を荒げてしまう。しかし、それは逆効果だった。
「私の気分で妹をいつでも始末出来る。私の命令さえ聞いていれば、妹は無事でいられるんだぞ」
「ッ……分かったよ。別に待たない理由もないし、いいけど」
「そうだ。お前は私の命令にだけ従っていればいい。では、後でな」
そう言って、ウルビダは去って行く。ウルビダのやつ、未だに俺に固執してる節がある。もうエイリアに入ったんだから、あいつが俺に執着する必要がないはず。
何か、あるのか?
「……考えるだけ無駄か」
疲れた時に考えても何も浮かばない。さっさとシャワーを浴びて、部屋に戻るとしよう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
やはり、エイトは私の手元に置いておくしかない。
今日、エイトの人事をお父様に意見したが、その意見は否定された。
曰く、エイトはエイリア石を使わずとも対等に渡り合える人間。ガイアと練習するのもよいが、プロミネンスやダイヤモンドダストと練習していても結果は変わらない。むしろ3チームを掛け持ちさせれば、お父様の野望にも近づくかもしれないとのこと。
ダメだお父様。エイトを私以外のところに向かわせば、間違いなく鬱陶しい女が寄り付く。
今日も、プロミネンスのレアンがエイトを独占していた。私が目を離した隙にこれだ。昨日は、クララがエイトを勧誘していた。
どいつもこいつもふざけるな。エイトはレアンのモノでもクララのモノでも、ましてやお父様のモノでもない。
私だけのモノだ。
エイトもエイトだ。私達に敵意を向けているのならば、突き放せばいい。にも関わらず、あいつは突き放さずに付き合っている。
もしエイトが正式にプロミネンスのメンバーになれば。あるいはダイヤモンドダストのメンバーになれば。ガイアのメンバーにならなければ。
私はその2チームを破壊する。リミッター解除をしても構わない。エイトだけは、奪わせん。
「エイト……」
そうだ。お父様の野望が成就すれば、褒美としてお願いしてみよう。私とエイトだけがいられる場所。そんな場所をお父様に提供してもらおう。
他の者が来ることができない、私とエイトだけの空間。
そうだ、そうしよう。その為に、早く雷門を潰そう。今の雷門など、私達には遠く及ばない。ましてや、エースストライカーの豪炎寺が不在の中で、やつらは私達に勝てるわけがない。やつがいたとしても、勝てるわけもないが。
雷門を潰して、お父様が世界を支配すれば。その支配下の中で、私とエイトは自由に過ごせるのだ。
楽しみだな、エイト。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…すっきりしたな」
汗かいた後のシャワー最高。つーかプロミネンスのユニフォーム暑すぎるんだよ。半袖にしとけよ暑いから。
頭の中でユニフォームに文句を言いつつ、俺は自分の部屋に戻った。ベッドに寝転ぶと、なお気持ちいい。
「やっべ………疲れたせいか、ベッドが超気持ちいいわ…」
もうこれ以上動きたくねぇ。このままヒモになりたい。誰か養ってくれないかな。
俺は大量にあるマッカンを手に取り、プルタブを使って開ける。
「んっ……」
俺はマッカンを豪快に飲む。シャワーの後のマッカンって最高だな。これはいい情報が手に入った。
そんないい気分をしていると、誰かが部屋をノックする。
「誰だ?」
「ウルビダだ」
ご機嫌斜めのウルビダが俺の部屋に訪れた。ウルビダは、俺の部屋に入る。夜食のパンも持ってきて。
「ほら。夜食の」
「あぁ、悪いな」
俺はウルビダからパンを受け取る。アルミニウムを破いて、パンを齧る。
「エイト」
不意に、俺はウルビダから名前を呼ばれる。視線を向けると、ウルビダの様子がおかしかった。
「……なんだ。今日はどうしたんだよ、マジで」
「……お前は私のモノだ。絶対に離さん」
「その、私のモノってなんなんだよ。何?俺ついに人間じゃなくなるの?ていうか、別に俺お前のモノになってないけど」
こないだからウルビダはこんな感じだ。確かに事実上、俺はウルビダの言う通りにしなきゃならないが、こいつの言い方はまた別の何かを感じる。
現に彼女は。
「…違う。お前は私のモノなのだ。私の言う通りに従って、私だけに尽くして、私だけを見ていればいい」
「……断れば、また小町か?ふざけんなよ」
「お前の弱き部分は妹への愛だ。………気に入らない」
「…何が?」
「……なんでもない」
ウルビダの情緒がイマイチ分からないでいる。彼女の怒りのツボが、意味不明すぎてどうしようもない。
「……明日はダイヤモンドダストと練習だったな」
「あぁ。まさか、練習に出んなとか言う気か?それならそれで大歓迎だけど」
「いや、参加しておくといい。だが、クララやアイシー、リオーネとは絶対に親密になるな。お前には必要のないコミュニケーションだ」
「…まぁあっちから話さない限り俺も話さんから言われるまでもないけど。レアンの時といい、何かあんのかよ」
「……いや、こっちの話だ。とにかく、今後は私の命令だけに集中しろ。いいな」
話を通してみたところ、こいつは妙な独占欲を持っている。しかし、その独占欲をなんで今発揮するのかが分からん。
一応、仮説として一つ立てているものの、馬鹿げた仮説だし、また黒歴史を生む可能性があるから没だ。
「…分かったよ。話は終わりか?ならはよ自分の部屋に帰るかガイアのメンバーとでも飯食ってろよ」
「いや、今日はこのままこの部屋にいる。私が離れれば、お前はまた別の女に誑かされるからな」
「そんなことねぇよ。小中で嫌ってほど女の人の怖さは知ったからな。大体、今だけだぞ?そうやって話しかけてくるのは」
「…どういう意味だ」
ウルビダが尋ねる。俺は例え話を披露した。
「転校生が来たとしよう。みんなは、その転校生が気になって寄ってくるだろ?でも数週間もすればそんなことはなくなる。何故か。もうその人と話す理由がないからだ」
「…つまり、目新しさで最初は接してくるものの、あとからそれは薄くなって最初のように話しかけてこない、と?」
「そういうことだ。レアン……は、まぁ論外として、クララとか他のメンバーが俺に話しかけてくるのは今だけだ。新しいから話しかけてくるだけで、段々と飽きてくるんだろうさ」
「……やはりお前は甘い」
……ウルビダ、か。
何が彼女をここまで変えたのだろうか。