やはり俺がサッカーをするのは間違っている。 作:セブンアップ
今日はガゼルが率いるダイヤモンドダストとの練習であった。プロミネンスの暑いユニフォームとは一転し、通気性のあるユニフォームで、それなりに動きやすい。
「知っているとは思うが、改めて紹介しよう。エイトだ」
端的に俺の紹介を済ましたガゼル。ちらほら見たことあるやつもいる。
「いいか。我々には、勝利以外許されない。ガイアとプロミネンスを退け、ジェネシスの座を頂くのだ」
ここ最近で分かったことは、3チームはジェネシスという称号を獲得するために争っているらしい。優勢なのはグラン率いるガイアらしいが、プロミネンスとダイヤモンドダストも引き下がるどころか、食ってかかる姿勢で戦っている。
「君にはMFの練習をしてもらう。ドロル、リオーネ」
ガゼルが呼びかけたのは、二人とも顔に仮面を着けたやつだった。
なんなの?君ら仲良いの?仮面夫婦なのん?
「エイトを連れて行け」
「はっ」
そう言って、俺は二人に連れて行かれる。3チームの共通点は、FWはFWの練習、MFはMFの練習と、自分のポジションの練習しかしていない。チームプレーの練習ではなく、個人技を鍛えている。雷門の様に、連携を重視するわけではなさそうだ。
「あ、エイト」
「こないだのマッカン好きじゃない」
ドロルとリオーネに連れて行かれたところには、クララと食堂で絡んできた目つきの悪い女がいた。
「マッカン美味いだろ。なんなら水分補給代わりにマッカン持って来てんだよこちとら」
「いつか糖尿病なるわよ」
「マッカンでなるなら本望だ」
そんな軽い雑談を交わして、早速練習を始める。プロミネンスの様な荒々しいプレーとは反対の、鋭く、素早い動きで掠めとったり、抜き去ったりしている。
そして数十分の休憩を挟む。俺はスポーツドリンクの代わりに、マッカンを持ってきている。これがあれば完璧だ。
「ねぇ、エイト」
一人で休憩しているところに話しかけてきたのは、クララであった。
「それ、美味しいの?」
「あぁ。これぞ千葉の水であり俺の主食だ」
「そんなわけあるか。千葉の水が甘くてどうする」
そう鋭いツッコミを入れてきたのは、メガネをかけたイケメンDF、アイキュー。因みに目つきが悪いセミロングは妹のアイシーである。
「飲むか?」
「いらん。甘過ぎて身体を壊す」
「じゃ、私貰うよ」
クララが意外と乗り気である。俺は予備のマッカンをクーラーボックスから出して、クララに渡す。
「どんなのだろ……」
クララはマッカンを開けて、一口飲む。
「……あっま……いけど、なんだろ。なんか、クセになりそう……」
「だろ?これがマッカンの力よ」
「え、嘘でしょクララ?よくそんな甘ったるいもの飲めるわね」
「うん、気に入ったかも。これ」
マッカンの同士が一人増えた。これからクララにはマッカンの歴史を教えることにしよう。
「……おい」
クララにマッカンを布教している最中、後ろからとても低い声で俺を呼ぶ者がいた。何度も聞いた覚えのあるその声に、俺は冷や汗をかく。
「…ウルビダ」
後ろにはウルビダがいた。彼女の表情を見ると、瞳孔が開き切っており、クララやアイシーに凄まじい敵意を向けている。
「昨日言ったこと、もう忘れたのか?」
昨日ウルビダが言ったこと。それは、クララやアイシー、リオーネと親密にならないこと。
「……忘れてねぇよ」
「ならば何故そのように仲良く振る舞っている」
「…単にマッカンを布教してただけだぞ」
「…話が見えてこないけど、どうしたの?」
クララがウルビダにそう尋ねると、ウルビダはクララに対して睨み付ける。
「ガイアに勝らぬ三流プレーヤーは黙っていろ」
「ちょっと、あんた達ガイアがまだジェネシスの座を獲ってないならあんた達も私達と同じじゃない」
「ダイヤモンドダストがガイアと同レベルだと言いたいのか?笑わせるな」
「何の用かな、ウルビダ」
この騒ぎにはガゼルも気付いたようで、ウルビダに尋ねた。
「貴様には関係のない話だ、ガゼル。エイト、来い」
ウルビダは俺の手を強く掴み、強引に引っ張っていくと、もう一方の手を掴む者が。
「エイトが嫌がってる。やめたらどう?」
意外にも、クララが助けに入る。しかしその行動がウルビダにとって気に入らないようであり。
「貴様……なんのつもりだ」
「エイトが嫌がってるって言ってるの。それに、今日はエイトはダイヤモンドダストのメンバー。連れて行かれると困る」
「はっ、エイトはダイヤモンドダストのメンバーではない。エイトは我がガイアのメンバーなのだ」
「ウルビダ、君はエイトのことになると感情的になるね。エイトと何かあるのかな?個人的に」
ガゼルがウルビダにそう問うた。俺に固執する理由。それは俺が一番知りたかった。束縛が激しい上に、情緒が不安定。いくらエイリアに賛同していても、理由もなしに詰められたのでは身体が保たん。
「……貴様には関係のないことだ。エイト、さっさと来い。さもないと、お前の妹に……」
「分かったよ、行くよ」
何かある度に小町を出してくる。そうまでして、俺を縛り付ける意味も分からない。いや、分からないわけではないが、俺の仮説が正しいはずがない。
ウルビダに、俺は何もしてないはずだから。
「…悪いけど、今日の練習はパスするわ」
俺はそう言って、クララの手を振り解く。先行していくウルビダに付いていく形で、グラウンドから去っていった。
どこに向かっているか分からないが、彼女は未だに不機嫌であった。
「聞いてもいいか」
「なんだ」
「お前、なんでそこまで束縛するんだよ。小町を引き出しにしてまで、俺を縛り付ける理由はなんなんだよ」
ちゃんとした答えが返ってくるとは思っていないが、とりあえずダメ元でウルビダに理由を聞いてみた。しかし、彼女から返ってきた答えは。
「お前が悪いのだ。お前が私から離れなければ、お前の妹を引き出しにすることはなかったのだ。私は言ったはずだ。私に忠誠を誓えと。よもや冗談だとでも思ったか」
確かにあの時、彼女はそう言った。小町を守るために、俺は彼女に忠誠を誓った。しかし、まさかここまで縛り付けられるとは思っていなかった。
「お前については、私の一存に任せるとお父様に命じられた。だから、お前のことは私が決める。確かにガイア以外のチームに参加することは認めたが、あの様に親しく振る舞う必要はない。同じエイリアとはいえ、やつらも敵なのだ」
「けど、それは俺を縛る理由にならないだろ。仮に、俺があいつらと親しくなっているとしよう。でも、ウルビダには何の関係もないはずだ」
「いいや、関係ある」
ウルビダはそう言い切る。言い切った後に、ウルビダは振り返る。そんなウルビダの表情は、かの魔王とも呼ぶべき雪ノ下さんより怖いものがあった。別のベクトルの怖さではあったが、その表情は戦慄させるに十分だった。
「お前は私のモノだ。私のモノに勝手に触れるなど断じて許さん。逆もまた然りだ。私のモノであるお前は、私以外に尻尾を振るな」
「………めちゃくちゃだろ、それ。ヤンデレかよ」
「ヤンデレ……というのはよく分からんが、お前がやつらに近づかれるだけで潰したくなる。お前に話しかけるやつらが気に入らない」
まさか、リアルなヤンデレが存在するとは思わなかった。
前々から、ウルビダから好意を向けられているのではないか。そう考えていた。違うなら違うで勘違いで済ませれたのだが、だいぶ重症な様だ。
こういうタイプに理屈は通用しない。いかに彼女の機嫌を損なわない様にするかが鍵になる。小町を守るためにも、下手な選択はできない。
間違った選択でも、らしくない選択でもいい。小町を守るためなら、俺は何だってやる。
「……分かった。これからはきっちりとお前に従う。小町のこともある。千葉の兄に二言はない」
「…信用ならないな。お前はそう言って、今まで何度裏切った?」
「…じゃあどうすればいいんだよ」
「……そうだな。これからは私の部屋で寝泊まりしろ。お前の行動は私が管理する。だからまず、お前の部屋にあるものは全て私の部屋に持ってこい」
まずは監禁もどきか。まぁ、エイリアのこともあるだろうから練習には出してもらえるんだろうけど。
おそらく、練習やシャワー、トイレ以外はウルビダの部屋から出られない状態になるだろうな。出たとしても、多分ウルビダが近くにいるだろう。
俺はウルビダに従い、俺の部屋に向かって必要最低限のものを部屋から漁り出した。とはいえ、研究所の中で歩き回るシャツとユニフォーム、そしてマッカンくらいしかない。だからそれほど持ち込むものはなかった。
そしてそれが終わると、ウルビダに部屋を案内される。俺の部屋からはそう遠くなく、すぐに到着した。
「さぁ、入れ」
ウルビダに招かれ、俺は部屋に入る。とりあえず邪魔にならないところに、荷物を置いておく。
「ベッドで腰でも掛けるといい」
「あ、あぁ…」
言われるがままに、俺はウルビダの部屋のベッドに腰掛ける。すると、ウルビダは真隣に腰掛ける。
「エイト、そのユニフォームを脱げ。ダイヤモンドダストのユニフォームを着ていられては不愉快なことこの上ない」
「あ、あぁ」
俺はすぐにダイヤモンドダストのユニフォームを脱ぐ。半裸状態になった俺に、ウルビダは躊躇いなく俺に抱きつく。
両腕を俺の首の後ろに回し、ウルビダの顔はすぐ目の前に。
「……私は幸せだ。お前を、エイトを私が独占しているのだからな。この綺麗な肉体も、私だけが見ることができる」
そう囁いたウルビダの表情は、恐ろしく妖艶であった。
「……あの、流石に恥ずいから離れてくれ」
「ふっ、可愛いやつだ。だが、離れるわけにはいかない」
いくらヤンデレウルビダとはいえ、女性に抱きつかれることに耐性がないため、恥ずかしい。怖さと恥ずかしさが入り混じった状態である。
「…さぁ、今日はこのまま私と共に過ごそう。今日からは、私と二人きりだ」
拗らせたウルビダに俺はどうすることも出来ず、ただただ彼女の指示に従う操り人形と化した。