やはり俺がサッカーをするのは間違っている。 作:セブンアップ
あれから数日。ウルビダに管理される毎日を送り続けている俺は、なんとか彼女の機嫌を損なわない様にしていた。
人の顔を伺って接するなど、俺の嫌いなことだったが、小町のことがある手前やるしかない。
今日も練習を終えた後に彼女と過ごしていると、部屋にノック音が響く。
「誰だ」
「…ガゼルだ。エイトに用がある」
「…いいだろう。ただしふざけた内容ならば叩き出すからな」
ウルビダはガゼルに忠告し、ドアを開く。ガゼルは「失礼する」と言って部屋に入る。
「エイト、明日に私のチームに参加しろ。試合だ」
「……ウルビダがそれ許すと思うか?」
しかし、ウルビダは少し考えた後に。
「…いや、構わん。許可しよう」
未だにウルビダの思考が読めない。この間は練習を中断してまで無理矢理連れて行ったくせに。
「…元よりエイリアの助っ人扱いとして来たからな。ガイアの戦力アップのためにも、試合は練習より経験値を得ることができる」
「……まぁウルビダがそう言うならいいけど。で、相手は?」
俺はなんの気無しに聞いた。しかし、ガゼルが答えた相手は。
「雷門だ」
「…雷門……」
ダイヤモンドダストの相手が雷門……。いつか戦うことになるとは思っていたが、思いの外早かったな。
「…相手はお前の元チームメイト。イプシロンが破れてしまった以上、我々が手を下すしかない」
前は同点で終わったってのに、ついにイプシロンに勝てるようになったのか。きっと、血の滲むような努力をしてきたんだろうな。
しかし、俺はそれでも。
「分かった。雷門だろうが関係ない。エイリアである以上、やつらを倒す」
「君ならそう言ってくれると思っていた。では、また明日。グラウンドに来てくれ」
ガゼルはそう言って、部屋から出て行く。ガゼルが出て行った後、ウルビダが俺に釘を刺す。
「……明日の試合は私はビジョンで見ている。もし、またクララやアイシーなどに尻尾を振るようであれば…」
「分かってるよ。毎度毎度小町を出されちゃ、身が持たん」
それだけではない。
彼女の異常な独占欲から来ているのか、俺の身体にキスマークを付けている。まだ互いにキスはしていないが、ウルビダのモノだとみんなに見せつけるために付けられている。
最初は怖さや気持ち悪さなど、俺は拒絶気味だったが、段々とその行為は慣れてしまった。ウルビダと一緒にいることで、少しずつ俺は壊れてしまっている。
「…さて、明日は早いのだろう。今日は早めに就寝しよう。さぁ、早く入れ」
「……あぁ」
ウルビダが端に寄って、俺が入るスペースを開けた。
狭いシングルベッドで、俺とウルビダが一緒に寝ている。狭いせいで、ウルビダと密着する羽目になり、彼女の肉体が俺にストレートで当たる。
小町とも一緒に寝たことはあるが、ここまでは流石にない。
「……ではな。愛しき私のエイトよ」
彼女は決まって、寝る前に俺の首筋に軽く噛み付く。何度も噛まれているせいで、肌が敏感になり、少しヒリヒリして痛い。しかし、ここで拒絶すれば、ウルビダの機嫌は間違いなく悪くなる。
だから、機嫌が悪くならないように、突き放さず、逆にウルビダの身体を更にこちらに寄せる。
つまるところ、抱きしめていることになる。
そうすることで、ウルビダの機嫌を抑えることが出来るのだが、その時のウルビダの顔は、もはや練習の時とは別人である。雪ノ下風に言えば、欲情した猿みたいな表情。
だが、こうすることが彼女の機嫌を損なわない唯一の方法。そして、小町を守る方法なのだ。
「…おやすみ」
そして俺は目を閉じて、意識を離した。
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翌日。
いよいよ雷門との試合の日。俺はダイヤモンドダストのユニフォームに着替えて、集合場所のグラウンドに向かった。
グラウンドには、既にダイヤモンドダストのメンバーが揃っていた。
「来たな、エイト。では、早速向かうとしよう」
ガゼル専用の黒いサッカーボールがガゼルの足元に現れ、青白い光がグラウンドで輝く。
その光は段々と収まり始め、周りを見ると大きいサッカーグラウンドが俺の目に映った。しかし、それと同時に俺の目の前には巨大な身体が立ちはだかっていた。
どうやらゴッカさんの背中の様です。ていうか君デカいよ。本当に同じ中学生かよ。
「我々はエイリア学園マスターランク、ダイヤモンドダスト」
「来たな!ガゼル!」
顔は見えないけど久々に円堂の声を聞いた。相変わらず喧しい。
「円堂、君達に凍てつく闇の冷たさを教えてあげるよ」
ずっと前から思ってたんだけど、ガゼルって色んな意味で寒いよね。色んな意味で。
「熱いも冷たいなんてどうでもいい!サッカーで町や学校を壊そうなんてするお前達を、俺は許さない!」
「フッ……中々威勢がいいことだ。だが、これを見てもそんなことが言えるのかな?」
俺はずっとゴッカの背中を見つめている最中、ゴッカは俺の目の前から退いてゆく。ゴッカの代わりに目の前に映ったのは、雷門イレブンだった。
「ひ、比企谷!?」
「比企谷さん!!」
雷門イレブンは、みんなして俺の姿を見て驚愕していた。まぁ、この間まで人間だったやつが急に宇宙人になってたら、そら驚くわな。
「…久しぶりだな、円堂」
「ひ、比企谷!なんでお前がそこにいるんだよ!?しかもその格好……」
「…まぁ、あれだ。エイリア学園の一員になったんだわ。つまりお前らの敵だ」
「そ、そんな……」
しかし、納得していない円堂はこちらに駆け寄って、俺の両肩を力強く掴む。
「お前、なんで宇宙人の仲間になったんだよ!一体、お前に何があったんだ!?」
円堂、お前の優しさは素直に嬉しい。でも、お前らを倒してでも守るべきものがあるんだ。
「……それを話したところで、お前らに何か出来るわけじゃない。俺はお前らを倒す。絶対に」
「ひ、比企谷……」
「それよりさっさと試合の準備しろよ。俺を説得する暇があるならよ」
俺は円堂の両手を振り解いて、試合の準備に取り掛かる。ストレッチを始めると、クララが話しかけてきた。
「あれが、エイトの元チームメイト?」
「まぁ、ほんの数日だけどな」
「ふぅん……」
各自がストレッチを終えた後、各自の配置に付く。バレンの代わりに俺が入る。
こちらのフォーメーションは4-4-2。DFにアイキュー、俺、ゴッカ、クララ。MFにドロル、リオーネ、アイシー、ブロウ。FWはフロストと、キャプテンのガゼル。GKはベルガだ。
対してあちらには、以前いなかったピンクの髪の毛量が多いDFと、ツンツンした頭のFWが配置に付いていた。ピンクの方は知らないが、FWのやつは、FFでも活躍していた豪炎寺修也という雷門のエースストライカーだ。
何のために今までいなかったのかは知らないが、そいつがいるってことはかなり戦力アップしたんだろう。
キックオフは雷門から。ホイッスルが鳴り響いたと同時に、俺以外のメンバーは端に寄る。
え、何これ。俺ハブられたの?
「エイト!」
ガゼルが俺を呼ぶ。
今の状況と、ガゼルのニヤリとした表情を見てなんとなく分かった。
ゴールまでの道をガラ空きにしておくことで挑発し、あいつらにキックオフシュートを打たせることだ。
シュートを打たなくても、やつらは必然的に俺に向かって突進するだろう。要するに、やつらの攻撃を止める力をやつらに見せつけろってことだ。
俺は豪炎寺を睨むと、豪炎寺もこちらを鋭い眼光で睨み返してくる。
あ、ヤバい。死ぬやつやこれ。
豪炎寺は思い切り足を振り切って、力強いシュートをこちらに打ち込んできた。俺はそのボールを真正面でトラップしようと構えた。ボールが身体に当たる瞬間。
「ぐぇっ」
……なんとかトラップした俺は、足でサッカーボールを抑える。それとともに、胸を押さえる。
普通に痛いんだよ、あいつのシュート。肺が破裂するんじゃないかって思ったわ。
「豪炎寺のシュートがあんな簡単に!?」
「あいつ、あんなにパワーあったか!?」
「しかも今、変なカエルの声出てましたよ!」
「おいコラそこに触れんな。豪炎寺のシュート普通に痛いんだよ」
本当、音無ちゃんも変わらないよね。そういう、人を小馬鹿にしてるところ。事実だからいいんだけども。
トラップした俺は、アイシーにショートパス。そのままエイリアお得意のスピードで雷門を抜き去る。
「ガゼル様!」
アイシーからガゼルにセンタリング。ガゼルはダイレクトで円堂にシュートを打ち込む。しかし、円堂はしっかりとキャッチする。
「ビリビリくるぜッ…!」
こんな状況でも、円堂は笑ってプレーしている。あれがあいつの強みなんだろうな。
円堂から壁山、財前、鬼道へとボールが繋がれる。鬼道がボールをキープしながら、こちらに駆け上がっていく。
「行かせねぇよ」
俺は鬼道からすれ違いざまにボールを奪う。
確かに、雷門は血の滲むような努力で身体能力やテクニックが上がっている。そうでなくても鬼道は、ハイスペックなプレーヤーだ。
しかし、こちとらエイリアの尋常ではないスピードを相手に毎日特訓している。それに比べれば、雷門のスピードはやや劣るように見え、ボールも奪いやすく感じる。
「くっ…!」
鬼道から奪った俺は、そのまま前線に上がっていく。FWのガゼルとフロストはマークされている。なら、このまま上がるしかない。
「行かせない!」
ゴールに向かう先に待ち受けていたのは、一之瀬と財前だった。
「比企谷!絶対に君を止めて見せる!」
「元仲間でも容赦はしないよ!」
「…そうかい」
そんな世迷言を吐かす二人の間を、さらりと抜き去っていく。しかし、抜いた先にはまだあいつがいた。
「行かせないっス!」
雷門の鉄壁を誇るDF、壁山。彼が俺の目の前で立ちはだかる。
「ザ・ウォォォォール!!!」
壁山はザ・ウォールを発動。俺は以前と同じ方法で、ザ・ウォールの頭を超すボールを蹴り上げる。そのまま壁山を抜き去ろうとするも、
「打たせねぇよ!!」
ピンク色の髪をしたDF、綱海が恐ろしい身体能力の高さを見せつけ、俺の突破をカットした。カットしたボールは、そのままグラウンドの観客席に入っていく。
審判の古株さんがボールを取りに行こうとすると、ボールはグラウンドから戻ってきた。すると、そのボールとともに一人の少年がグラウンドに舞い降りた。腰下ほどまである金髪の長髪、独特なユニフォームの上に、灰色の襷を袈裟懸けしている少年だった。あの姿に、俺は見覚えがある。
「……アフロディ」
世宇子中学のキャプテン、アフロディが俺達の目の前に君臨した。