やはり俺がサッカーをするのは間違っている。 作:セブンアップ
ウルビダの怒りのシュートによって倒れたグランに、円堂と吉良監督が駆け寄る。
「…何故だグラン!何故止めた!そいつは私達の存在を否定したんだぞ!私達はそいつの為に、辛いことも苦しいこともしてきた!強くなるその一心で…………それを今更間違っていた!?そんなことが許されるのか、グラン!!」
「……多分違う。ウルビダ」
グランへの問いを、代わりに俺が答えた。
「何が違うというのだ!!」
「…確かに、今までやってきたことを全て否定されるのは間違っている。そんなのはただの傲慢でしかない。……でも、それでもグランにとってはきっと、吉良星二郎は大事な親父さんなんだろう。だから許した。だから庇った。無茶ぶりなことも聞いてきた。…だろ、グラン」
「……その通りだよ」
グランは俺に続けて、語り始めた。
自分は本当の息子ではないこと。ヒロトという名前ではないこと。身寄りのないお日様園でのこと。
「……例え存在を否定されようと、俺達を必要としなくなったとしても……俺にとって、父さんは俺にはたった一人の、大事な父さんなんだ!」
「ヒロト……お前、そこまで私のことを……。……私は間違っていた……こんなにも想ってくれていたお前達を蔑ろにして……お前達の父親の資格などない……」
すると、吉良星二郎は自分に向かって打たれたボールをウルビダに返す。そして、グランの前で手を広げて立つ。
「さぁ打て。私に向かって打てウルビダ。……こんなことで、許してもらえるとは思っていない。だが少しでもお前の気が治るのなら……」
「父さん……」
ウルビダは吉良星二郎をもう一度睨み付けて、足を振りかぶる。だが、ボールは吉良星二郎に飛ばず、その場で転がるだけだった。
「…打てない……打てるわけない……!!だって貴方は……私にとって、大事な父さんなんだ…!!」
ウルビダは膝をついて、涙を流す。ウルビダに続けて、ジェネシスのメンバーは次々と涙を流していく。そんな様子を見た吉良星二郎は、膝をついて、酷く悔やんだ。
「……話してもらえませんか、吉良さん」
すると、吉良星二郎に話しかける人物が。ローグコートを羽織り、歳は割と老けている人物が。だが、俺はその人物の隣に目を向けた。
「こ、小町……?小町、なのか?」
謎の人物の隣には、俺の妹、小町がいた。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん!!」
「小町ッ!」
俺は思わず小町に駆け寄って、抱きしめていた。
「……良かった……無事で良かった……」
小町を久々に見たのか、助かって安堵したのか分からない。だが、俺の目からは、涙が止めどなく溢れていた。
「…君が、比企谷八幡だね?」
謎の人物は、俺の名前を確認する。
「はい……えっと、貴方は…」
「あぁ、俺は鬼瓦。刑事をやってる。数日前に総武中の平塚教員から、君の妹が行方不明だと聞いてね。エイリア学園が現れた時期だったから、まさかとは思ったが……。この施設に拉致されてると思い、エイリア石爆破と同時並行で救出したんだ」
「……あ、ありがとうございます…!!」
俺は鬼瓦刑事に深く頭を下げた。
本当に良かった。小町が無事で…。
「……話が逸れましたが、話してもらえませんか、吉良さん。何故ジェネシス計画というものを企てたのか……。巻き込んでしまったあの子達のためにも……」
鬼瓦刑事が、吉良星二郎、もとい吉良さんに尋ねる。吉良さんは、ゆっくりと話し始めた。
「……確かに、私にはヒロトという息子がいた。サッカーが大好きで、夢はプロのサッカー選手になると言っていた程だった。ある日、ヒロトはサッカーの勉強のために海外留学したのだが、そこで謎の死を遂げた……。私は真相を追及するために、警察に掛け合った。だが、事件に政府要人の一人息子が関わっていたとかで、事故死として認定されてしまった。……悔やんでも悔やみきれなかった……。息子に何もしてやれなかった悔しさ……それ以上の喪失感……。大切な一人息子を失った私の心に大きな穴が空いた時、瞳子が身寄りのない子ども達が集まるお日様園を勧めてくれたのだ……。最初は娘のためだと思い、お日様園を創設したが……いつの間にか、子ども達と関わることで、私の傷は癒えていった……。……本当に、お前達には感謝している。お前達だけが、私の生きがいだったのだ…」
「父さん……」
「……そして、5年前。富士山麓に隕石が落下。それがエイリア石だった。エイリア石の分析を始めた私達は、人間の身体能力を飛躍的に上げることができる物質が含まれていることを知った。そのエイリア石の魅力に取り憑かれたと同時に、心の奥底で抑えていた復讐心が芽生えたんだ……」
そこから先が、エイリア学園の誕生、だということか……。吉良さんは話し終えた後、今度は俺に視線を向けた。
「そして、比企谷くん。君も巻き込んで済まなかった……」
「…そういえば、なんで父さんは比企谷くんをエイリア学園に連れて行ったの?」
吉良監督が、吉良さんにそう尋ねた。そういえばそうだ。サッカーの実力云々で連れて行かれるなら、お門違いにも程がある。
「……比企谷くんを連れてきたのは、ウルビダの願いだったからだ」
「ウルビダが?」
確かにウルビダは、最初から俺にやたらと固執していた。その理由が分からずに拐われた。
「…比企谷くん。君は、ウルビダのことを覚えているかな?」
「…え……?」
吉良さんの問いに、俺は思考が遅れた。
今の言い方だと、俺は以前ウルビダに会っていた……?
「…やはり、覚えていなかったか。君はウルビダの恩人なんだ、比企谷くん」
俺は頭の中で過去の記憶を探る。すると、一つの記憶が頭に過ぎる。確か、親がいないとバカにされた女の子を助けた記憶がある。
「……まさか」
「お兄ちゃん?」
「…5年前の、5年の時同じクラスにいた………八神……か?」
「……覚えていないとは、酷いじゃないか。エイト……いや、八幡」
ウルビダはこちらにフラフラと歩いてくる。彼女は、俺に微笑みかけ、語り始める。
「……5年前のあの時からずっと、私はお前に惚れていたんだ。……あの時、私は親がいないとバカにされていた。父さんがいたとはいえ、義理の父親……。だから否定したくても出来なかった。……クラスの連中は誰も助けてくれず、泣いていた私を助けてくれたのが、お前なんだ」
「……俺が、八神を……」
「あの時、私がいじめられる前からお前はいじめられていた。私も同じクラスだったから、なんとなく覚えていたのだ。でも、全く関わりのないお前が私を助けてくれた。自分がなおいじめられても……」
確かに、俺は親がいないとバカにされていた人物を助けた記憶はある。だが話したこともないやつだったから顔も名前も全く覚えていなかった。
「チープな理由で笑えるだろう。……それでも、私はお前のことが好きなんだ」
「……そう、だったのか……」
「…でも、私はお父様の計画のために、余計なことは忘れたかった。遂行するためには不必要だと。だが、大阪でのイプシロン戦。お前の戦う姿を見て、私はいてもたってもいられなかった。八幡もエイリアに参加すれば、お前とずっといられるのではないか。私だけのモノになるのではないか。そのために、お前やお前の妹を連れ去ったのだ」
ウルビダが固執する理由も、小町が拐われた理由も解明された。全ては、5年前にあったのだ。
「……済まなかった。今まで私の無茶振りに付き合ってもらって。こんな女、嫌いになっただろう……?」
「………別に、嫌いじゃねぇよ」
そう。嫌いではない。小町の建前があったとはいえ、ウルビダが俺を求めるときに、俺は明確な拒絶をしなかった。ずっと、小町のためと、自分の中で言い訳をしていたが、もしかすればウルビダの行為を容認していたのかもしれない。むしろ、俺はウルビダが落ち着くならと思って抱き返したくらいである。
アホか俺は。なんだそれ恥ずかしい。
「……結局は小町にも手を出さなさかったわけだしな。被害は何も出ていないし、何よりエイリア学園に来たことでマッカンがただで手に入った。それに、全て終わったことだ。気に病む必要はねぇよ」
「…八幡………」
すると、凄まじい爆音が研究所に響いたとともに、研究所が少しずつ崩れ始めた。
「なんか分からんけど、このままここにいるのはヤバそうだな……」
「みんな出口へ!」
だが、出口は大きな瓦礫が降り注いで閉ざされてしまった。すると、逆側から車の走行音が聞こえてくる。振り向くと、そこにはイナズマキャラバンが現れた。
「みんな!早く乗るんだ!」
「古株さん!」
え、何あれ古株さんカッコ良すぎだろ。
俺達は一目散にキャラバンに乗り込む。俺も乗り込もうとした時、グランと円堂と、逃げる気配を見せない吉良さんがまだ乗り込んでいなかった。
「ちょ、何してんだ。早く乗れよ」
「そうだよ父さん!一緒に逃げよう!」
「………私のことはいい。私はここで、エイリア石の最後を見届ける。それが、お前達に対してせめてもの償いだ……」
「…ふざけんな」
俺は、吉良さんの言葉を否定した。
「償い?バカかあんたは。そんなもんあんたの自己満足だろ。ここであんたが死んで、ウルビダやグラン、残されたあいつらはどうすんだ。あいつらに寂しい思いをさせるのかよ。本当にこいつらのために償いたいと思うのなら、まず生きることが前提条件だろ」
「……行こう、父さん」
「……私はお前達に酷いことをした……そんな私を、ヒロト、お前は許してくれるというのか……?」
「…うん」
俺達は強引に吉良さんをキャラバンに連れて行き、乗り込んだ。全員乗り込んだことを確認した古株さんは、全速力で元来た道を走っていく。爆風がキャラバンに追いつきそうになるも、なんとかキャラバンは研究所から脱出した。
脱出した後、みんなはキャラバンから降りていく。しばらくすると、警察の護送車が何台かやってくる。一人の警察官が、鬼瓦刑事に報告していた。
「ジェミニストーム、イプシロン、プロミネンス、およびダイヤモンドダストの子ども達を全て保護しました」
「ご苦労。では、行こうか。吉良さん」
吉良さんは小さく頷いて、連行されていく。
「父さん!」
「…ヒロト…?」
「俺、待ってるから!父さんのこと、ずっと待ってるから!」
「………ありがとう…」
吉良さんはパトカーに乗せられ、連行されていった。
「……君達も行こう」
ジェネシスのメンバーは鬼瓦刑事の指示に従って、護送車に乗っていく。だが、彼女は護送車の方に行かず、俺の方に歩いてきた。
「……お前とは、もう会えなくなるな。……私は、寂しい」
「…別に、今生の別れってわけじゃねぇだろ。またどっかで会うんじゃねぇの」
「…それもそうだな。……八幡」
「なんっ……」
俺はウルビダに聞き返す暇もなかった。何故なら、俺の口は彼女の口によって塞がれたからだ。彼女と俺の顔が離れたとき、彼女の頬は少し赤くなっていた。
「……お前が初めてだ。八幡は?」
「……そんなもん、何度もあってたまるか」
「ふふっ……ならばこれで、お前は正真正銘、私だけのモノになったな。お前の初めてをもらったんだからな」
俺は彼女の言葉に、何も返せずにいた。キスをされて、それどころじゃなかったからだ。
「…ではな、八幡」
「あぁ…」
ウルビダは、いや、八神はそう別れの挨拶を告げて、護送車に乗っていく。グランも、吉良監督と共に護送車に乗っていく。
曰く、彼らのそばに寄り添ってあげていたいとのこと。グラン達が乗り終え、鬼瓦刑事と共に目の前から護送車が去っていった。
「……終わったんだね、お兄ちゃん」
「……そうだな。……さて、これからどうしようか……」
このまま千葉に帰ることが目的となるが、未だにここは富士山麓。護送車で送ってもらった方が良かったか…。
そんな考えをしている間。
「比企谷!」
円堂がこちらに来た。円堂だけではない。雷門イレブンのみんなが、俺のところに寄ってくる。
「比企谷!これからどうするんだ?」
「……まぁ千葉に帰るけど」
「ならさ、折角だしキャラバンに乗って行けよ!俺達、風丸達に勝利報告するために雷門中に戻るからさ!」
「……いや、別に途中で下ろせば良くない?敵に寝返ったやつだぞ、一応」
「そんなの関係ないさ!比企谷は今も、これからも俺達雷門イレブンの仲間だ!」
すると今度は、マネージャー達が雷門のユニフォームを持ってこちらに来る。
「……なんだこれ」
「貴方のユニフォームよ。いつ戻って来ても大丈夫なように、貴方のユニフォームをしっかり保管していたの」
「……マジかよ」
たった数日しか一緒にサッカーしてなかったやつのユニフォームをしっかり保管してたのかよ。
…本当、お涙頂戴にも程があるわ。
「…ありがとな」
「良かったね、お兄ちゃん!」
「……あぁ」
こんな俺にも嫌な顔一つせず、迎えてくれる。お人好しの集まりだよ、雷門イレブンは。