やはり俺がサッカーをするのは間違っている。 作:セブンアップ
翌日。一日の練習が終わり、宇都宮、飛鷹、不動を除いた俺達は音無に招集を受け、食堂に集まった。
「それで、一体どうしたんだ?音無」
「久遠監督のことで、少しお話しがありまして……」
「久遠監督のこと?」
「はい。昨日、比企谷先輩とネットで久遠監督のことを調べたんですけど……該当無しってなっていまして」
「……変ね。日本代表の監督に選ばれるくらいなのだから、何かしら掲載されていてもおかしくはないはず…」
「それで今日、目金さんとサッカー協会に忍び込んだんですけど……」
ちょっと待て全然安心できないんだけど。何さらっととんでもないことを言ってんの?何お前、スパイか?
「…それで、サッカー協会で何か見つけたの?」
「はい。実は久遠監督、10年前まで桜咲木中の監督をしていたんです。桜咲木中はその年のFFを大差で勝ち進んだ強豪校なんです。でも、決勝戦になって久遠監督が事件を起こしてチームは棄権……」
しかし、一つ解せないことがある。それが事実なら、尚更記事にされていてもおかしくない。大事にしたくないあまり、金でも握らして事を済ましたのか?
「…詳しくは、記述が無くって分からなかったんですけど……。後、桜咲中の監督に関する情報を調べていたら、変な噂が流れていたんです。……久遠道也は、"呪われた監督"だって」
呪われた監督、な……。まぁ流れからすると、久遠監督がいるせいで試合に負ける、あるいは試合に出れなくなる、とかなんだろうけど。
10年前に何があったのか……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いよいよ今日はFFIアジア予選の組み合わせ抽選会の日。1日の練習を終えた俺達は、テレビを点けてその模様を見ていた。
「FFIは5つのエリアに分けて予選を行い、各エリアの優勝チームがFFI本戦の場、ライオコット島に集結します。アジア予選は日本を含め、8ヵ国が参加しています」
まず最初に壇上に上がったのは、韓国代表ファイアードラゴン。解説者曰く、アジア最強との呼び声が高いとのこと。
「ファイアードラゴン。3-A」
3-Aの空白の部分に、韓国代表の文字が表記される。韓国に続いて壇上に上がってきたのは、オーストラリア代表ビッグウェイブス。韓国と並ぶ強豪チーム。
「ビッグウェイブス。1-B」
ビッグウェイブスは1-B。続いてカタール代表、サウジアラビア代表と抽選を始める。
そして次は、日本代表の抽選。相手はどこになるのだろうか。
「イナズマジャパン。1-A」
「決まりました!イナズマジャパン、FFIアジア予選一回戦の対戦相手はオーストラリア代表ビッグウェイブスとなりました!これは熱い試合が期待されます!」
いきなり優勝候補とはな……。
だが、決まった以上は自分の役割を果たすだけだ。
「よーし!みんな、オーストラリア戦に向けて、明日からも特訓だ!!」
「「おぉ!!」」
明日からより一層厳しい練習が始まる。とっとと寝て身体を休めよう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……と、思っていた時期がありました。
「練習禁止か……」
久遠監督の指示で、俺達はオーストラリア戦までの二日間、合宿所から出ることを禁じられた。部屋の行き来は勝手だが、外には一歩たりとも出るなとのこと。
久遠監督が優れた指導者なら、これがオーストラリア戦に向けての唯一の特訓だと言えるだろう。だがもしチームを潰す気なら、これは最適な潰し方だろう。
なんせ、グラウンドでサッカーが出来ないのだ。チームプレーなんて出来るわけがない。ベッドで寝転んでいると、俺の部屋にノック音が。
「私だ。入るぞ」
ガラガラと引き戸を開けたのは八神だった。八神は俺のベッドに腰掛ける。
「比企谷くん。失礼するわね」
続いて雪ノ下が入ってくる。その途端、八神は雪ノ下に向けて敵意を向ける。
「…貴様、何の用だ。私と八幡の部屋に踏み込んでくるな」
「別に貴女の部屋でもないでしょう?……比企谷くんはどう思う?久遠監督の指示」
「……単にチームを潰す気か、オーストラリア戦に向けて何かを伝えたいのか……」
とはいえ、二日間もサッカーしなけりゃ少しは鈍る。けれど外には出れない。
「比企谷先輩、いますかー?」
俺の部屋に、音無がやってくる。
今日は来客が多いな本当。
「どうした?」
「比企谷先輩に用があるって人が……今食堂で待たせているので、来てください」
俺に用…?小町か由比ヶ浜辺りでも来てくれたのか?そう思い、食堂に向かうと。
「あ、エイト」
「……お前らかよ」
食堂にいたのは、エイリア学園ダイヤモンドダストのクララとアイシー、そしてプロミネンスのレアンが来ていた。
「貴様ら……一体何しに来た」
「何って、陣中見舞いみたいなものよ。それよりエイト!私と勝負よ!」
「来て早々に勝負仕掛けないでよ……」
エイリア石があろうがなかろうが、こいつらは相変わらずの様だな。
「…そういえば、なんで今日は練習してないの?おやすみ?」
「あぁ……実は…」
俺は事の顛末を簡潔に述べた。
「練習禁止って……その監督大丈夫なわけ?」
「オーストラリア戦まで二日でしょ?練習しなくていいの?」
「……さぁな」
決まったことを後から言っても仕方がない。これからどうするか。それを考えなければならん。
すると、クララが何かを思い出し、それを俺に聞き始めた。
「あ、そうだ。エイト、ガゼルとバーンがどこに行ったか知らない?」
「ガゼルとバーン?いや、知らんけど……」
「ここ最近、ガゼルとバーンがどっかに行っちゃって。それだけじゃなくて、デザームとか一部のエイリア学園の選手もいなくなっちゃって」
「……なんじゃそりゃ」
エイリア学園の人間が突如失踪か…。変な事件に巻き込まれてなければいいが。
「まぁ、あいつらなら大丈夫でしょ」
「…だといいけど」
「それより!二日後のオーストラリア戦、しっかり頑張りなさいよね。試合に出てないとかだったら、貴方を燃やし尽くしてやるわ」
「それ監督に言ってくれ」
彼女達は少しすると、去っていく。彼女達なりの応援を残して。
「……比企谷くんには、沢山の女性が応援してくれるのね。あれだけ自分をぼっちだとか言っていたわりには」
「…まぁ、あれは成り行きで……」
「…別に、言い訳なんてしなくていいのよ?貴方がどんな人脈を持とうが私には関係ないことなのだから。けれど、女性に現を抜かして下手なプレーをすれば、貴方の居場所はないと思いなさい」
おっと、雪ノ下様がどうやらお怒りの様です。あぁおそろしやおそろしや。
俺はとりあえず部屋に戻り、何をするかを考えていた。最初は受験勉強でもしようかと思っていたが、たった二日しかない中で勉強してもあまり意味がない。コツコツとやることに意味がある。
結局何もせずに、何をするのか考えているとお昼時になる。再び食堂に向かい、昼飯を食べることにした。
「あーあ……練習したい……」
「俺もっス!練習しないから、食欲が沸かないっス!」
いや壁山、既に君俺の倍以上食べてるよね。どうなってんだこいつは。カービィか己は。
「みなさーん!!」
そんな中、目金が急いで食堂に駆け込んできた。右手には、見せびらかす様にディスクを持っていた。
「オーストラリア代表の情報を入手しましたーっ!!」
マジか。他国の選手の情報なんて、そう簡単に手に入らんだろ。どっから仕入れたんだよ。
目金はディスクをDVDデッキに入れて、モニターの電源を点ける。モニターに映るのは、ストレッチを始めている選手達。こいつらが、ビッグウェイブス…。
「どんなプレーをするんだ……?」
キックオフはビッグウェイブスからだ。ホイッスルが鳴り、図体のデカいFWがパスをしたところで画面が切り替わる。
そこに映っていたのは、ビッグウェイブスの試合状況ではなく、ビッグウェイブスが海で遊んでいる様子だった。
「め、目金……なんだ、これ?」
「流石に国と国との試合……代表チームの情報を手に入れることは難しくなっています。ですがこの目金!それで諦める男ではありません!プレーは無理でも、海で遊ぶシーンを手に入れてきましたーっ!」
諦めない結果がこれかよ。むしろ諦めろよ。何で諦めないんだそこで。
「……見る意味ねェじゃん」
「…それって役立たず…?」
久遠さん、それオーバーキルや。大人しそうな雰囲気なのになんてこと言ってんだ。
目金が落ち込んでるのを傍らに、雪ノ下がビッグウェイブスの情報について話し始めた。
「…ビッグウェイブスは、海の男と呼ばれているそうよ」
「海の男?」
沖縄きってのサーファー、綱海がいち早く反応する。
「彼らはサッカーだけでなく、マリンスポーツに触れることで、精神力と身体能力を鍛えているの。そしてこれがビッグウェイブスの特徴なのだけれど……彼らは特に守備が手強く、相手の攻撃を完全に封じる戦術もあるそうよ」
「……ってことは、その守備による戦術を崩すことが勝利の鍵となりそうだな」
「えぇ。そうなるわね」
流石ユキペディア。で、その情報のソースはどこなんだよ。
「うぅー!!聞いてたら益々練習したくなってきた!!」
円堂は外でサッカーをしようと試みるが、一瞬で蹴散らされた。俺達は、結局部屋に戻ることになる。
「……外で練習すんなっつってもな……」
俺はしばらく考えていた。相手の攻撃を完全に封じる戦術を、どう破るか。やはり、突破力やキープ力が必要不可欠になる。そんな時に外で練習するなってのは…。
「…………あ」
……もしかすれば、俺達は思い違いをしていたのかも知れない。確かに、久遠監督から外出禁止と言い渡された。現に、外には出られないし、外で練習は出来ない。
そう。それが
復習しよう。問題は問題にしない限り問題にはならない。つまり、中での練習も問題にはならない。
そう考えた俺は、ウォーミングアップで部屋の中でリフティングを始める。リフティングくらいならば、部屋の中でも出来る。
「………まさかな」
それを気づかせるために練習禁止をしたのならば、流石に遠回しにも程がある。杞憂だったな。
しばらくリフティングしていると、八神が部屋に入ってくる。
「…何をしているのだ?」
「見りゃ分かるだろ。練習だ。あの監督は外出禁止しか言っていない。けど部屋の中で練習禁止なんて誰も言ってないだろ?」
「……確かに。言われてみれば、そうだな」
俺はリフティングを止める。
「…八神。今からドリブルの練習するんだが、お前が嫌じゃないならちょっと相手になってくれ」
「……いいだろう。私も、久々にサッカーをしたくなったしな。それに、八幡に頼まれたなら聞かないわけにはいかない」
俺はサッカーボールを持って、廊下に出る。廊下の幅の広さなら、人一人を躱すこともできるし、逆に狭いところでの練習は却って経験になる。
俺は八神を相手に、ドリブルの練習を始めた。ハイソルジャー云々の力が失ったとはいえ、八神は強力なプレーヤーだ。練習相手として、うってつけである。
ドリブル音に気付いたのか、みんなが部屋からぞろぞろと出てくる。サッカー好きの円堂が真っ先に聞いてきた。
「比企谷!なんで練習してるんだよ!」
「なんでって……流石に二日も練習しなきゃ鈍るだろ」
「で、でも練習禁止って……」
「それは語弊があるな。監督は練習禁止とは言っていない。外出禁止とは言っていたけど」
「た、確かに…」
俺の言葉に、みんなは納得し始める。
「外出禁止になれば練習が出来ない。だからいつの間にか、練習禁止って思い込んでいただけだ。けど、実際は外出禁止なだけ。中で練習するなとは一言も言っていない。チームプレーは出来なくても、個人プレーくらいは鍛えることは出来る」
「……でも意外ね。比企谷くんが自分から練習するなんて。いつもなら、面倒くさいとか言ってそうだけど」
雪ノ下が少し拍子抜けした様な顔をしてそう言った。
「……まぁ一概に間違いではない。けど、小町や由比ヶ浜達に応援されたんだ………アジア予選の一回戦で躓いてられるかよ」
「…比企谷くん……」
そう。こんな俺を、嫌な顔一つ見せずに送り出してくれた小町や由比ヶ浜、それに総武中の連中の期待を裏切りたくはない。いつもならば、勝手な期待に困っていたところだが、今回はそんなことも言っていられない。
「……獲るんだろ?世界」
「…あぁ!!みんな、目指すは世界一だ!!アジア予選で躓いちゃいられない!!優勝しようぜ!!」
「「おぉ!!」」
円堂の一言で、みんなが活気付く。みんなは部屋に戻り、それぞれが今出来ることを果たしていた。
因みに、さっきの俺のセリフ。後々から思い出して、恥ずかし過ぎて死にたくなったのはここだけの秘密。
合宿所の中で二日間、オーストラリア戦に向けての練習を続けた。
なんとか、アジア予選で躓かないようにしないとな。
エイリアの失踪は別に何かの事件とかではないので。