やはり俺がサッカーをするのは間違っている。 作:セブンアップ
オーストラリア代表ビッグウェイブスを破った俺達は、今度はちゃんと外で練習することになった。俺個人としては、部屋の中でも良かった。
なんせ、最近異様に気温が高くなっているからである。季節はもう夏だから、当たり前と言えば当たり前なんだけど。夏はエアコンが効いた部屋でゴロゴロするのが至高だ。
朝の練習も終わり、俺達は食堂でミーティングすることになる。
「アジア予選二回戦の相手が決まった。カタール代表デザートライオン」
「デザートライオン……」
確か、一回戦でタイ代表サザンクロスと戦っていたところか。
「どんなチームなんスか?」
「このチームの特徴は、疲れ知らずの体力と、当たり負けしない足腰の強さを備えていることだそうです」
「このチームと戦うには、基礎体力と身体能力の向上が必要不可欠だ。この二点を試合までに徹底して鍛えること。いいな?」
「「はい!!」」
並外れた基礎体力に身体能力か……。確かにカタールの気温は日本に比べて長期的に暑いし、所々に砂漠地帯もある。そんな暑い中で育ったカタール代表に対抗する基礎体力と身体能力をどうやって身につけるかだな。
「……とは言ったものの、どうやってその二つを鍛えたらいいんだろ……?」
「そんなもん、走り込むしかねぇだろ。走って走って走りまくって、強い体力と足腰を身につけるんだよ」
なんて単純な練習なんだ……。
いやまぁ、綱海の言うことも一概に間違っているわけじゃない。このクソ暑い中で走り込めば、そこそこ体力は付くだろう。
「あ、あの……すいません。俺、これで失礼します」
宇都宮は申し訳なさそうに言って、帰って行った。
「あいつまたでやんす……」
「なんであいつだけ途中で帰るんだ…?」
まぁこないだ言ってた、自分の部屋じゃないと寝られないという理由は嘘だろうな。本当にそんな理由なら、この間の外出禁止の時に帰れるわけがない。ということは、家に帰らなきゃならない理由があるということだ。
「…みんな、虎丸くんの早退が気になってる…」
「このままでは、チームの指揮に関わりかねません。ここは調査すべきかと!」
目金が喋ると碌なことにならねぇから黙っててくんないかな。あとその探偵の服装と虫眼鏡どこから出した。
「分かりました!任せてください!」
と、目金を押し除けて意気揚々と言う。だからその探偵グッズどこから出したの?
「キャプテン!虎丸くんのことは私達が調べてきます!何か分かったら連絡しますね!さぁ行きましょう先輩達!」
「わ、私も…?」
「は、離せ!私は八幡にッ…!」
音無は強引に木野と八神、そして雪ノ下を連れて行く。あいつの力めっちゃ強いじゃん。
宇都宮の件は彼女達に任せて、午後の練習は全て走り込みとなった。しばらくは、走り込みの練習となるだろうな。
「よーし!今日の練習はここまでだ!」
練習を早く切り上げたものの、みんなの体力はかなり消費している。夏の東京の暑さの中で走り込み。エアコンの効いた部屋でゴロゴロばっかりしている俺や、北海道出身の吹雪などが一番消耗している。
「…疲れたわ」
そういや、ハマってるラノベの最新巻がもう発売されていたんだっけ。今まで色々と忙しかったし、軽くシャワーを浴びて着替え直して、本屋に見に行こう。
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「行くか」
俺はシャワーを浴びて着替え直し、ラノベが売っていそうな本屋を探すために雷門中を出て行く。正門から出て行くと、木野と円堂、そして豪炎寺がいた。
「…何してんの?」
「おう比企谷!俺達、今から虎丸の所に行くんだけどさ!一緒に行かないか?」
そういえば音無が調査するとか言ってたね。もう突き止めたのね。
とはいえ、別に宇都宮の早退は気にしてないしな。家の事情とかなんだろうし。
「…遠慮しとく。俺本買いに行きたいし。」
そう言って俺は円堂達の誘いを断って去っていく。グーグルマップで近くの本屋を探していると、思いの外早く見つけられた。
「…あったあった」
目的の本も見つけて、俺は元来た道を辿っていると。
「あれ?比企谷じゃないか!」
このエンカウント率の高さは一体なんなの?
俺は円堂とその愉快な仲間達に出会した。なんか久遠もプラスされているんですけど。
「比企谷くん、もう本は買ったの?」
「ん。まぁな」
「じゃあ、ついでに私達と一緒に来ない?」
「や、俺は……」
俺が断ろうとすると、
「可愛いじゃん彼女達ィ〜」
俺の後ろからなんか出た。
バイクの様に改造されたデコチャリに乗ってきた黒いパーカー、フード、紫色の短ランが特徴の男とその取り巻きらしき者達がやってきた。
「そんなやつとつるんでねェでさァ、俺達とかっ飛ばそうぜ?こいつでよ」
見た感じ不良っぽいが……どう考えても俺より年下だろ。高校デビューならぬ中学デビューしちゃった痛い人達かな?
まぁとにかく、面倒ごとは避けたいな。
「…円堂。ここで揉めて面倒ごとになるのは……」
「あぁ。…俺達、急いでるんだ。みんな、行こう」
俺達は不良達をスルーしていく。だが、
「キャッ!」
不良のリーダーが久遠の手を掴む。
「いいから付き合えよ」
「手を離せ」
豪炎寺が睨みを利かせる。しかし不良のリーダーは物怖じしていない。
「あァ?痛い目見たくなかったら引っ込んでなァ」
「………ダメだわ、もう限界だわ」
俺は腹を抱えて笑ってしまう。今まで我慢していたが、耐えられねぇわ。そんな様子を見た不良は、今度は俺を標的にした。
「なんだテメェ」
「…いや、まぁ何?古いナンパの仕方にデコチャリでやって来て?更にはお約束みたいなセリフを吐いて?これを笑うなって言う方が無理だわウケる」
「…なんだと?」
いいぞ。あの不良は久遠から目線を逸らして標的を俺にしている。見た感じ、本当に厄介そうなのはリーダーくらいだろう。だが、それでも彼らはまだ中学生だ。
だから、現実を教えてやる。
「…今ここでボコれば俺は確実に警察に通報する。女子を無理やり連れて行こうとした挙句に俺達をボコれば、お前らの居場所はなくなるだろうな。…見たとこ中学生だろ?もし通報がバレて学校側にも連絡がいけば、お前らは後ろ指を差されながら学校生活を送らなきゃならない。親にも連絡がいって、近辺の人間はお前らを白い目で見るだろうな。お前らのこの先の人生は転落人生と言っても過言じゃない」
こちとら代表選手の上に、まだ手を出してはいない。突っかかってきたのはあいつらだ。代表選手が不良にボコボコにされて出場出来ないとなれば、その事実は日本どころか世界中に知れ渡る。
それほどのリスクをやつらは受け入れられるわけがない。それに、警察を盾にすれば、大抵は萎縮するからな。
「…何をしている」
すると、聞き覚えのある声が不良達の背後から聞こえる。そこにいたのは、飛鷹征矢だった。
「飛鷹サン!」
どうやら不良達と知り合いな様だ。イナズマジャパンに入る前に一緒にいたのだろうか。
「お前ら、チームのオキテを忘れたのか?」
「うっ……」
「オイオイオイ。アンタはもうリーダーじゃないんだぜェ?飛鷹サンよォ」
「カラス……お前が新しいリーダーってわけだな。…鈴目はどうした」
「鈴目ェ?あァ、あいつは目障りなんで追い出したよ……ボコボコにしてねェ」
「テメェ……!」
「アンタの時代は終わったんだよ飛鷹サン!……やれ」
不良のリーダー、カラスが取り巻き達に指示を出す。取り巻き達は飛鷹に突っ込んでいく。
「バカ野郎どもがァッ!」
飛鷹は足を勢いよく振るうと、周りに荒々しい風が巻き起こり、取り巻き達を倒していく。
……なんて風だ。あの蹴り、あの風…。選考試合でシャドウのダークトルネードを止めた時と同じだ。
「……チッ。役に立たねェやつらだ。じゃァ今度は俺が…」
「やめろ!」
カラスが手をパキパキ鳴らしながら飛鷹に向かっていくと、円堂が飛鷹の前に立って庇おうとする。
「飛鷹は、俺の大事なチームメイトなんだ!殴るなら俺を殴れ!」
「き、キャプテン……」
「お前もだ飛鷹!どうしても喧嘩するっていうなら、俺が相手をする!」
……流石は円堂。仲間の揉め事となればすぐに介入する。
「……チッ、萎えちまったぜ。今日のところはこれで帰りますよ。でもこの借りは必ず返しますよ。飛鷹サン」
カラスはそう吐き捨てて、デコチャリに乗って去っていく。飛鷹は、先程吹き飛ばした取り巻き達に話しかける。
「…手荒なことをしてすまなかった。……だが、どうしてあんな真似をした?」
「……仕方がなかったんです。自分の敵になりそうな相手を大勢で潰すのが、新リーダーのやり方なんです」
「俺達も、カラスさんのやり方が間違ってるのは分かってます。でも、歯が立たなくて……」
「お願いです飛鷹さん!チームに戻ってきて下さい!」
どうやら取り巻き達はカラスという不良より飛鷹に余程の信頼を寄せている。新リーダーがカラスになったといい、チームに戻ってきてくれといい、飛鷹は不良チームのリーダーをやめたのだろう。やめた先が、イナズマジャパンだったということなんだろう。
「……悪いが、これはお前達の問題だ。俺にはどうすることもできねぇ」
飛鷹はそう言って、取り巻き達はトボトボと帰っていった。そして、飛鷹は謝罪をする。
「…昔のダチが迷惑をかけました」
「…どういうことなんだ?」
「…すみません。昔の話は勘弁してください」
そう言った飛鷹の表情は、後悔した様な表情だった。となれば、これ以上聞くのは野暮というものだろう。
「あぁ!分かった!」
飛鷹は軽くお辞儀をして、その場から去っていった。
「……昔の話、か。虎丸のことも、これ以上突っ込まない方がいいのかな?」
「円堂。俺はチームメイトとして虎丸のことが知りたい。苦しいことも辛いことも一緒に乗り越えていくのがチームメイト。それを教えてくれたのはお前じゃないか」
……苦しいことも辛いことも一緒に乗り越えていく、か。生憎、俺の人生でそんなお人好しなやつはいなかったけど。なんなら俺に人脈なんて皆無でしたテヘペロ。
「…どうしたの?比企谷くん」
木野が心配そうにこちらを見る。こうやって心配される場合、大体は目が死んでいっている証拠だと小町に言われた記憶がある。
「なんでもねぇよ。…宇都宮のところに行くんだろ?」
「おっ、来てくれるのか?」
「……まぁ、色々と気になるからな」
宇都宮の家事情なんてのはこの際どうでもいい。俺が知りたいのは、シュートチャンスなのにシュートを打たないプレーのことだ。
もしかすれば、それが分かるかもしれない。俺は円堂達に付いて行き、宇都宮がいる商店街の虎ノ屋に向かうことにした。
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商店街にやっと着いた。目的地の虎ノ屋の前には、音無達が待っていた。
「……ここに虎丸がいんの?」
「はい!確かに、入るところを見ました!」
「…何かご用かしら?」
俺達の後ろから、栗色の髪のポニーテールに大きなリボンを付けている年上の女性に声をかけられる。
「あの、俺達虎丸のチームメイトの…」
「虎丸くんの?」
「何騒いでるんだよ乃々美姉ちゃん。俺今から出前に……」
すると、虎ノ屋の中から宇都宮が出前箱を持って出てきた。
「キャプテン……それにみなさん……」
俺達は店の中に入り、宇都宮の事情を教えてもらった。
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「…まさか、この店を一人で切り盛りしてるとは…」
宇都宮がここにいるのは家も含めてなんだが、宇都宮がここで働いているのは身体の弱い母に負担をかけない様に、お弁当屋の乃々美さんと共に働いている。しかも、練習が終わった後でだ。
「私の身体が弱いせいで、あの子には苦労をかけて……本当は目一杯サッカーをしたいはずなのに…」
宇都宮の母が一通り話し終えた後、宇都宮が出前から帰ってきた。帰ってきて早々、宇都宮は母を労る。
小町もこれくらい俺を労ってくれたらなぁ……。
「虎丸!」
「は、はい!?」
「なんでこんな大事なことを黙っていたんだ!」
「えと、す、すみません……」
すると、円堂は出前箱を持ち始める。
「これ出前だろ?手伝うぞ!」
そう言って円堂は店から飛び出していく。いや、お前出前先の場所分かるの?
するとすぐに円堂が戻ってくる。
「……これ、どこに運べばいいんだっけ?」
「…アホかあいつは」
俺達は虎ノ屋の店を手伝うこととなる。
俺の役目は皿洗いです、はい。まぁホールに出て注文承ったり、出前に行って怖がられるのもあれだし。
出前や料理を運んできたのがゾンビとか何それどこのホラゲー?
そういうことで、俺達は営業終了まで手伝った。
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「…疲れた」
俺達は店を後にして、雷門中の合宿所に帰ることになった。
確かに、宇都宮が早退する理由は分かった。でも、あいつのプレーは結局、何一つ分からなかった。そんな謎を残したまま、俺達はカタール戦を迎えることになる。