やはり俺がサッカーをするのは間違っている。 作:セブンアップ
開会式も終わり、正式に世界大会の開幕となる。開会式の次の日、俺達は改めて大会のルールやグループ分けについて話を聞くことになった。
「世界各地の予選を勝ち抜いてきた10チームで争われ、5チームごとにグループAグループBに分かれて、まずはグループ内で総当たりを行なってもらいます。各試合ごとに勝った場合は3点、引き分けは1点、負けたら0点と勝ち点が加算され、最終的に各グループから勝ち点の多い上位2チームが決勝ラウンドへ進出。合計4チームで決勝トーナメントが行われます」
「私達イナズマジャパンはグループAよ。他にはイタリア代表オルフェウス、アルゼンチン代表ジ・エンパイア、イギリス代表ナイツオブクィーン、アメリカ代表ユニコーンがいるわ」
それなりに強豪揃いのグループだ。それに、一ノ瀬達アメリカ代表が同じグループA。みんなは一ノ瀬達と対決したくて楽しみにしていることだろう。
「私達の初戦は二日後。相手はイギリス代表ナイツオブクィーン。ヨーロッパの中でも強豪と言われるチームよ」
「正直、初戦で当たりたくなかった相手ですね……」
「…面白そうじゃねぇか!」
目金のネガティブな言葉に、綱海はポジティブな言葉で返す。
「折角ここまで来たんだしよ!どうせやるならそれっくらい強ぇ相手じゃないと面白くねぇからな!」
「……どうせやるなら、強いやつ、か」
綱海の言葉に少し笑う。強豪と聞かれて怖気付くようなやつはこのチームにいない。常勝思考もここまでくると清々しいわな。
「よーしみんな!全力でぶつかっていくぞ!!」
「「おう!!」」
俺達はイギリス戦に向けて特訓を始めた。新たなメンバー、染岡と佐久間を加えた初めての特訓。彼らの動きは選考試合の時とは見違える様だった。
アジア予選の間にかなりレベルアップしたのだろう。緑川や吹雪が抜けたのは痛いが、戦力としては申し分ない。
しばらく練習していると、木野が招集をかけた。
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「「親善パーティー!?」」
「ナイツオブクィーンからの招待よ。試合をする前に親睦を深めたいから、今日の18時にロンドンパレスに正装して来て欲しいって…」
超絶的に面倒だ。親睦を深めるなんて建前に決まっている。何か狙いがあって招待を出しただろう。
「……にしても正装か…」
以前、川崎が働いていたバーに行くために正装はしたけど、お世辞にも似合うとは言い切れない格好だった。
「……面倒だし行かんとこかな」
「あ、比企谷先輩そういうの無しなんで。無理矢理にでも連れて行きますから」
こっわ音無の笑顔こっわ。単なる笑顔なのになんでこんなに怖いんだよ。
「私達の正装は全部イギリス街にある店で用意されてるって。パーティーが始まるまでには取りに来てくださいだって」
「へェ、随分準備がいいこって」
「だから今日の練習はこれまで。片付けが終わったらキャラバンでイギリス街に向かいましょう」
そんな通達を受けて、俺達は早めに練習から上がる。そしてキャラバンでイギリスエリアに向かって発進した。
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イギリスエリアに到着。パーティーまでまだ時間があるらしく、パーティーの準備も兼ねて少しの間自由行動にしていいらしい。
「比企谷先輩は私達と一緒に行きますよ。先輩、隙を見て逃げかねないですから」
「そうね。比企谷くんは存在感を消すのが得意ものね。流石の私も存在感を消されてしまっては見つけるのは困難になるわ」
「八幡の隣には必ず私もいるのだ。どこにも逃げさせはしない」
みんなが俺に厳しいよ。自由行動なのに自由に動けない俺はマジ可哀想。
戸塚来てくれねぇかな……。戸塚の正装姿を見たかった。なんなら写真に納めたかった。納めて自室に飾りたかったな。
「じゃあどこから回ります?」
「…そうね。私個人としては、紅茶が気になるわ」
そんな雪ノ下の提案で、まずはイギリスエリアにある紅茶専門店に向かった。本場のイギリスを再現しているとはいえ、しっかりと紅茶専門店を構えているんだな。
「なるほど……ハロッズやウィッタードまで置いてあるのね。中々興味深いわ」
「雪ノ下先輩って紅茶が好きなんですか?」
「えぇ。イギリスでしか売っていない紅茶もあるから、来てみたかったの。けれど今は荷物になるから、また今度にしましょう」
そう言って紅茶専門店から出て行く。その後俺達は行くあてもなく、少しの間イギリスエリアを歩き回った。
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指定された時間前にパーティーの準備を終えた俺達は一度集まって、用意されている正装に着替え始めた。
「うへぇ……なんでこんなもん着なきゃなんねぇんだよ…」
綱海は嫌な顔で着替え始める。まぁ、イギリスって言ったら紳士の国だからな。仕方ないっちゃ仕方ないわな。
とはいえ分かるぞ綱海。その気持ち。パーティーが終わり次第即行脱いでやるからな。
男性陣は着替え終わり、集合場所でマネージャー達が着替えるのを待っていた。
「みんな、用意は出来た?」
するとマネージャー達がドレスに着替え終え、脱衣室から出て来る。その姿に一部のメンバーは見惚れていた。
「わぁ、可愛いです!」
「き、綺麗でやんす!」
普段のマネージャー達の姿から考えれば、ギャップがあって見惚れてしまうのも仕方がない。
「へぇ、思ったより似合ってんじゃねぇか」
「「え、思ったより?」」
綱海今の完全に自爆したな。綱海の言葉に反応したマネージャー達は、ジト目で綱海を睨んだ。
「悪い悪い!ついつい思ったこと言っちまってよ!」
「フォローになってないぞ……」
ものの数十秒で綱海の好感度が少し下がった瞬間でした。
「あれ?円堂くんは?」
木野が周りを見渡すが、円堂だけがいなかった。
「…サッカーの特訓でもしてんじゃねぇの知らんけど」
「全く、円堂くんったら……、私、円堂くん呼んでくるね」
「…いや。俺呼んでくるわ」
「えっ?いいの?」
「別に俺一人抜けても、あっちは多分気にしないだろうしな。それに、流石にそれで走らせるわけにはいかんだろ」
いくらバス使うっつってもジャパンエリアのバス停から宿舎まで少し距離があるからな。そんな距離をヒール履いたやつに走らせるのは気が引ける。
「おぉー!比企谷先輩って意外に気遣いが出来るんですね!」
意外ってなんだ音無。普段から俺気遣ってるからな。気遣ってるから、誰とも話さないようにしてるんだろうが。
そういやいつだったか同じことを誰かに言った気する。…まぁいいや。
「じゃ、行ってくるわ」
俺は急いでジャパンエリアに戻って行った。
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ジャパンエリアのバス停から降りると、まず宿舎のグラウンドへと走っていった。
宿舎のグラウンドに到着すると、案の定円堂がいた。だが、円堂だけでなく、イタリア代表とアメリカ代表、およびアルゼンチン代表の中心人物ばかりがグラウンドでサッカーをしていた。
何やってんのあれ。みんな寄って集ってボールを奪い合っている様だが、本当に何しにジャパンエリアに来たのよ。
そんな疑問は後にし、当初の目的を果たすことにした。俺はゴール前で仁王立ちしている円堂に声をかける。
「おい、円堂」
「あれ?比企谷じゃないか?どうしたんだその格好」
こいつパーティーに呼ばれてること忘れていやがった。
「お前パーティーのこと忘れてんじゃねぇよ。イギリスから招待状が来てただろ」
「あ、あああぁぁっー!!忘れてたああぁぁーっ!!」
円堂のその叫び声に彼らはプレーを中断しこちらに注目する。円堂を見てすぐさま俺に注目する。
そんなに熱い視線を向けないで恥ずかしい。
やっべ気持ち悪い。
こんな時、海老名さんならキマシタワーって言って勢いよく鼻血を吹き出すんだろうな。
「悪いみんな!俺パーティーに呼ばれてたんだ!」
「パーティー?」
「じゃあ俺行くから!またな!」
円堂は最後に楽しかったと告げて勢いよくダッシュしていく。俺も円堂に続いて走っていく。
「今の時間なら、イギリスエリア行きのバスが出てるはずだ」
「急ごうぜ!」
俺達はイギリスエリア行きのバス停に向かって走っていくが、無慈悲にもバスは発車されていった。
「ま、マジかよ……」
だいぶ遅刻してる。こんなのが久遠監督の耳に入ったら何言われるか分かったもんじゃねぇ。
そんな途方に暮れているとき、まるで俺達を呼ぶようにクラクションを鳴らす車がやってきた。窓を開けると、運転席から陽乃さんが顔を出していた。
「比企谷くんじゃない。どしたの?」
「…イギリスエリア行きのバスに乗り遅れたんですよ」
「じゃあ私の車に乗っていく?一々止まるバスよりは早くイギリスエリアに着くと思うけど」
「本当ですか!?」
「うん、いいよ。どうせ私も暇だったし」
「ありがとうございます!やったな比企谷!」
「…そうだな」
何か借りとか作られそうで怖いけど、この際仕方がない。俺と円堂は後ろの席に乗ろうとすると、
「比企谷くんは助手席ね」
ほーら最初から何かおかしい。魔王が隣で運転するとか恐怖しかねぇよ。
俺は陽乃さんの言う通りに助手席に座る。みんなが乗り込んだことを確認し、陽乃さんは車を発進させる。
「そういえば私の名前言ってなかったね。私は雪ノ下陽乃だよ。よろしくね」
「俺は円堂守です!…ってあれ?雪ノ下って……」
「君が思ってる通りだよ。マネージャーの雪乃ちゃんは、私の妹」
と、陽乃さんは運転しながら円堂と会話を始めた。流石陽乃さん。コミュ力がズバ抜けていやがる。
「円堂くんだったね。君、凄いよね。試合の中でどんどん進化していって、シュートを止めていく。きっと、血の滲む努力をしてるんでしょ?」
「はい!小さい頃から俺サッカーが大好きで……」
「その気持ちは大切だね。サッカーに限らないけど、スポーツは楽しんだ人が勝つってよく言うでしょ?」
陽乃さんからそんな言葉が出てくるとは。
なんだろう。気持ち悪ぃ。
「今失礼なこと考えてたでしょ、比企谷くん」
「…気のせいです」
なんで俺の周りは俺の思考を読み取れるの?そんなに表情に出てるのん?
陽乃さんと円堂がしばらく会話をしていると、トンネルが見えてきた。
「おっ、そろそろイギリスエリアに到着するよ」
そのトンネルを潜ると、ジャパンエリアから一変してイギリスエリアに変わった。
パーティー会場から少し離れた駐車場で、陽乃さんは車を停める。
「乗せてくれてありがとうございます!」
「いいよそんなの。その代わり、次のイギリス戦にはちゃんと勝ってよ?お姉さんとの約束だよ?」
「はい!絶対に勝ってみせます!」
円堂はそう言って車から降りて、パーティー会場へと走っていった。俺も助手席から降りようとすると、陽乃さんに右腕を掴まれてしまう。
「…なんですか」
「折角イギリスエリアまで乗せてあげたんだから、お姉さんに何かご褒美があってもいいと思いまーす」
「褒美って………直球に一つ貸しだからって言えばいいじゃないですか」
「じゃあ貸し二つね」
「おかしいでしょ」
なんで一つ増えてんだよ。その一つは一体どこから来たんだよ。
「比企谷くん、ケータイあるでしょ?出して」
「はぁ……」
俺はケータイを陽乃さんに渡す。陽乃さんは自分のケータイと俺のケータイを同時に素早く操作する。
「はい。私の連絡先登録完了」
「え」
「ふふっ、嬉し過ぎて言葉も出ないでしょ?」
「違いますよ。絶望を露わにしてて声が出ないんですよ」
あんた何してくれてんだ。
陽乃さんの連絡先とかいらねぇよ。俺のケータイが魔王の配下と化してしまったよ。
「私の貸しは一つだけ。私が呼んだらすぐ来なさい」
「いや、俺練習あるんですけど……」
「大丈夫だよ。そこはちゃんと考慮してあげる。流石に練習中に来いまでは言わないよ。……とはいえ、私もそんなに暇じゃないんだけどね」
「単にサッカー観戦に来てるだけじゃないんですか?」
「失礼だなぁ。これでも私、この島でやることがあるんだから」
「じゃあなんで呼んだらすぐ来いなんて貸しにしたんすか。呼ぶこともそんなにないんですよね?」
「…暇つぶし?」
だと思ったよ。本当、この人自由人過ぎだろ。
そんな陽乃さんに、俺は溜息を吐いた。
「まぁとりあえず、貸し云々はまた連絡するからね」
「…はぁ」
俺はようやく車から降りる。
俺が一番の遅刻者じゃねぇか。
「じゃあね比企谷くん。雪乃ちゃんのこと頼んだよー」
陽乃さんはそう言って、俺の前から去って行く。俺もパーティー会場へと、急ぎ足で向かって行った。
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「遅いわ」
会場に到着早々、雪ノ下からそう厳しく言われた。
「円堂くんの方が先に来てたけど、貴方何をしていたの?」
「…お前の姉に捕まってた」
「姉さんに?」
ここまで来る経緯を雪ノ下に軽く説明する。説明を聞き終えた雪ノ下はこめかみに手をつく。
「全く……姉さんは……」
大変な姉を持つと妹は苦労するんだな。小町も俺みたいな面倒な兄を持つと苦労してるんだよなぁ。小町に悪いな本当。
少しすると、タキシード姿の円堂が現れた。
「…何か変なんだよなぁ…」
「円堂さーん!」
「こっちだこっち!」
「おう!」
円堂が風丸達のところに向かおうとすると、
「ふ…ふふっ…ふふ……」
ネイビー色の長髪で右目が髪の毛で隠れている長身の男、エドガー・バルチナスが不気味に笑い始めた。
「いや、失礼。あまりにも似合っていたものだから……」
要するに円堂のタキシード姿はダサいと。まぁ分からんでもないぞエドガー。
だが俺からしてみればタキシード以前のメンバーに向かってダサいと言ってあげたい。西洋騎士風の鉄兜を被る者もいれば、スポーツを履き違えたのかボクシングのグローブとヘッドギアもいる。円堂より余程ダサいと思うのは俺だけなんだろうか。
「冬花さん。向こうに行きましょう。デザートもありますよ」
「あ、あの……」
「ちょっと待ってくれませんか?」
エドガーがその場から去ろうとすると、目金が引き止める。
「今のうちのキャプテンに失礼じゃないですか」
「失礼?…困るなぁ、誤解してもらっては。私は褒めたんですよ」
「褒めた?」
「えぇ。だから言ったじゃないですか。似合ってるって…」
どうやら俺達はナメられている様だ。まぁイギリスからすれば日本なんて勝って当然の相手だからな。格下と見るのも無理はない。
「お前なぁッ…!」
「やめろ、綱海」
「けど円堂…このままじゃ…!」
「キャプテンを馬鹿にされて黙ってられないでやんす!」
「その思いはグラウンドでぶつけたらいい。俺達のサッカー見せてやればいいんだ。だって俺達は、サッカーをしに来たんだろ?」
自分が馬鹿にされても尚、そんな強い言葉が言えるなんてな。流石円堂。
「ってことだ。楽しみにしてな。コテンパンにやっつけてやるからよ」
「…だったら、やってみますか?今ここで。私のシュートを君に止められるかどうか。……嫌とは言わないですよね?」
「いいだろう。受けて立つ」
円堂を止めようとした鬼道を、不動が止めた。
「円堂ッ…!?」
「いいじゃねェか。やらせてやれよ」
俺達はイギリスエリアのグラウンドに集合し、円堂vsエドガーの勝負を見届けることにした。両者共に、ユニフォームに着替えていた。
「ルールは簡単。一本勝負。私は君に向かってシュートを打つ。それを止められれば君の勝ち。……では、行きますよ」
「よし、来い!」
エドガーはボールを蹴り上げて、すぐに空中へとジャンプして前方に一回転。
「エクス……カリバアアアァァーッ!!」
右足から魔方陣と巨大な剣が出現し、そのまま大剣を振り下ろす様にかかと落とし。
地面を抉りながらボールは低い弾道で円堂に向かって飛んでいく。
「いかりの……てっつい!!」
韓国戦でカオスブレイクを粉砕したいかりのてっついをエクスカリバーにぶつける。
しかし、円堂のいかりのてっついは簡単に破られてしまい、ゴールへと突き刺さった。カオスブレイクでさえあれだけの威力なのに、エドガーのエクスカリバーはそれ以上ってことかよ。
流石プロチームが注目するストライカーだ。世界レベルは伊達じゃない。
「さぁ、余興は終わりです。パーティー会場に戻りましょう」
「これが……」
「ん?」
「これが世界レベル……!ボールのパワーが身体全体にズシンってきて……!凄いなエドガー!あんなシュートが打てるなんて!」
いかりのてっついを簡単に破られているにも関わらず、円堂の表情は笑っていた。
「みんなも見ただろ!?今のシュート!これが世界レベルのサッカー!そして俺達はその世界と戦える!こんな強い相手と戦えるんだ!」
ここまでのサッカーバカだと、本当清々しいわ。まぁこういうところが、円堂の強みだと言えるけど。
「…俺達も負けてらんねぇな!」
「あぁ!みんな、明日からまた特訓だ!」
「「おう!!」」
世界レベルを目の前で感じ取ることが出来た。
イギリス戦までの二日間。気合を入れて特訓しないとな。
エクスカリバーを初めて見たときこいつどうやって蹴ってんのって思いました。