やはり俺がサッカーをするのは間違っている。 作:セブンアップ
アルゼンチン戦に向けて俺達は特訓を開始した。アルゼンチンが誇る鉄壁の守りをどう崩すかが課題となる。
変わらず普段通りの特訓をしていたとき。
「比企谷先輩!少しいいですか?」
音無がこちらに駆け寄って声をかける。
「どうした?」
「あの、立向居くんの必殺技完成に比企谷先輩も手伝ってくれませんか?」
「立向居の必殺技?」
俺は必殺技を目指す理由を音無から聞いた。
どうやら立向居は、円堂の完コピじゃイナズマジャパンにいる資格がないと卑屈になっており、円堂の技ではなく、自分だけの技を完成させたいとのこと。
ムゲン・ザ・ハンドも、元は円堂が習得するべき技だったそうで、それも自分の技ではないと言っていた様だ。
それを言い出したらキリないけど、必殺技のきっかけになったのならそれはそれでいいんだろう。
「……まぁ、別に構わんけど」
「本当ですか!?」
どのみち、アルゼンチン戦に向けてオフェンスと並行で必殺技のシュートも強化しておきたかったしな。立向居の練習を手伝おうが手伝わまいが、俺のやることは大して変わらない。
俺は音無に連れられて、立向居達が特訓しているところに俺も合流した。
「お、比企谷じゃねぇか!手伝ってくれるのか?」
「ん、まぁな」
「比企谷さんがいれば心強いでやんす!」
そんな歓喜されても困る。
「ありがとうございます、比企谷さん!」
「お、おう」
そんなこんなで、立向居の特訓に付き合うこととなった。ムゲン・ザ・ハンドを超える必殺技、魔王・ザ・ハンド。
無限を超えるのが魔王っていうのは何言ってるか分からんが、ネーミング的に強そうな名前である。
「じゃあ行くぜ!立向居!」
「はい!お願いします!」
俺達は立向居にシュートをしばらく打ち続けた。10本、20本、30本。いや、下手すれば100本以上は軽く打ち続けた。
「…これ、きっついな……」
みんなの疲労も見え始めている。100本以上シュートを打ち続ければ、流石に疲れてくる。止めている立向居も、流石に身体にきている。
「まだよ!打って打って打ちまくるのよ!」
俺達は尚もシュートを打ち続ける。
「まだまだぁーッ!必殺技は一日にして成らずよ!こんなもんじゃ終わらないわ!さぁもう一度、打てぇーッ!!」
俺達はもう一度シュートを打った。だが、シュートを打ったのは二人だけだった。
「あれ?」
どうやら俺と綱海以外の一年生は、バテて座り込んでいる様だ。
「ち、ちょっとみんな!」
「もう100本以上打ってるっスよ……」
「疲れて動けないでやんす……」
「こっちの身にもなってくれよ……」
特に足が悲鳴を上げていることだろう。ずっと足を酷使して打っているわけだからな。
「…ま、流石に休憩するか……」
「ダメダメダメダメぇぇぇーーッ!!」
「ふぁッ!?」
音無の喝が入る。びっくりして変な声出たんだけど。
「立向居のためにみんなで協力して必殺技を作るって、あの夕日に誓った約束を忘れたの!?」
一体何を見せられているんだ俺は。夕日に誓うってスポ根漫画かよ。
「必殺技が出来るまで、立って立って立ち続けるのよ!」
俺もしかしたらヤバい特訓に参加したかも。こんな鬼軍曹がいるとは思わなかった。音無じゃなくて、やかましじゃねぇかよ。
「綱海さん、何か言って下さいっス……」
「…ここまで言われちゃ、やるしかないわな…」
「えぇ〜!」
「比企谷さんからも何か言って下さいでやんす!」
俺をあてにするなよ。
とはいえ、流石に5分10分の休憩は必要だろう。そう思い、俺は音無に説得を試みた。
「…なぁ、やかま、違うわ音無」
今完全に名前を間違えかけた。
「今、何を言おうとしましたか?」
「…な、何でもないよ?…そ、それよりだ。流石に休憩がなかったらさ……」
「は?」
「ごめんなさい何でもないです」
無理だ俺に音無の説得は無理だ。あいつの目ヤバいもん。眼力だけで人を殺せる可能性があるわあれ。
「さぁみんな立ちなさい!立って打ちまくるのよ!」
音無軍曹の支配下に置かれた俺達は、再び立向居に向かってシュートを打ち続けた。
「行くぞ立向居!」
「はい!」
俺は立向居に向かってシュートを打つ。
「うおおおォォッ!!」
すると立向居の雄叫びと共に、背中から紫色のオーラが竜巻状に発生するが何も起きず、立向居はボールに当たって倒れてしまう。
「大丈夫か立向居?」
「…あと少しで出来そうなのに……何が足りないんだろう…」
「…そんなもん、熱さだ!情熱だ!心の底から湧き上がってくるもんをもっと、全身で表すんだよ!そこから必殺技が生まれるんだ!」
「…でもどうやって表現するんスか?」
「ノリだよノリ!ノリでなんとかなる!」
そんなノリで必殺技が生まれるんなら誰も苦労はしないよ?
……しかし、心の底から湧き上がってくるもの、か……。
「いい方法があるよ」
木暮が閃いた様にそう言う。俺達は持ち場に戻り、再びシュートの体勢に入る。
すると、木暮が大きく息を吸って、大声でこう叫んだ。
「このへなちょこキーパー!!」
「むっ…!」
そういうことかい。中々ひん曲がった方法だわ。
要するに悪態吐いて立向居の心の底から燃え上がらせるってことか。
木暮の方法を理解したみんなは、木暮に続いて悪口を言っていく。
「ドジ」
「ノロマ」
「根性無し」
「おたんこなす」
なんか、聞いていたら可愛い悪口だな。普段俺が雪ノ下に言われていることに比べれば、まだまだだな。
つーか、これ雪ノ下を出してきた方がよくね?雪ノ下の得意分野じゃねぇか。
そう思って、俺は何の気無しに雪ノ下を見ると。
「ひっ」
雪ノ下からの冷たく鋭い視線が俺に突き刺さる。
やっべ殺される。まだ俺何も言ってないんだけど。
「弱虫毛虫!小者!卑怯者臆病者!ゴミ!クズ!間抜け!穴の空いた鍋!ゴムの伸びたパンツ!」
木暮も木暮でよくそんな悪口が次から次に思いつくな。中々のボキャブラリーの豊富さだ。言ってることはクソガキみたいだけど。
「な、何をォォォーッ!!」
すると先程より強烈なオーラが、立向居の背中から湧き上がってくる。魔王の姿も若干現れたものの、すぐに引っ込んでしまう。
「…何も…そこまで言わなくても……」
立向居は本気で落ち込んでしまった。まぁあそこまで言われたら誰だって落ち込むわな……。
しかし落ち込んだものの、すぐ立ち上がって気を取り直した。
「お願いします!」
「よし!行くぜ立向居!」
綱海はツナミブーストの体勢に入った。
「ツナミブーストッ!!おおおおォォッ!!」
「ゴッドハンドッ!!うおおおォォ!!」
立向居はツナミブーストをゴッドハンドで止める。
綱海の次に、今度は俺がシュートを打った。
「アストロゲートッ!V2!!」
立向居はマジン・ザ・ハンドの構えに入るが、途中で構えをやめた。
「おいおい。まさかマジン・ザ・ハンドまで出せなくなったわけじゃないだろうな?」
立向居は綱海の声に反応せず、ずっと自分の右手を見つめていた。そして、何か閃いたのかハッと顔を上げる。
「お願いします!」
「何かよく分かんねぇけど、行くぞ」
再び俺達は、立向居へとシュートを打ち続けた。魔王・ザ・ハンドの完全のために。