やはり俺がサッカーをするのは間違っている。 作:セブンアップ
「終わった……」
夕方となり、今日の特訓が終了した。しかし、円堂を筆頭に鬼道や佐久間、そして不動が姿を消していた。
練習中に消えたらしいが、どこへ行ったのか誰も知らないらしい。
妙な不安を頭の隅に置いて、俺はさっさと宿舎の自室に戻った。自室に戻ると、その瞬間に陽乃さんから着信が入る。
「……もしもし」
「あ、比企谷くーん。すぐ来れる?ていうか来て」
…相変わらずの破天荒っぷりでした。
場所を伝えられ、俺は陽乃さんに会いに行くために宿舎から出て行こうとしたところで、雪ノ下に引き止められる。
「待ちなさい。もう夕方よ。どこへ行くつもりなの?」
「…陽乃さんに会いに行ってくる。俺の分の夜飯は抜きにしといて先に食べててくれ」
「……比企谷くん。別に、姉さんの言うことを聞かなくていいのよ?姉さん、どうせ比企谷くんに迷惑をかけるに決まってるわ」
「…ま、そうなったら仕方ねぇよ。それに、あの人に借りを作ったからな」
「そう……」
俺はそう言って、宿舎から出て行った。陽乃さんに指定された場所へと急いで足を運んだ。指定の場所、なんてことのない喫茶店の入り口の前に陽乃さんが待っていた。
「比企谷くんおっそーい」
「これでも早く来たんですけど」
本当人使いが荒いわ。魔王直々に呼び出しをくらう辺り、今日が俺の命日だったりするのかな。
陽乃さんからの呼び出しで気が滅入りながらも、彼女と共に喫茶店の中に入り、テーブル席に着いた。
「それで、何の用なんですか?俺疲れてるんですけど」
「……比企谷くんの耳に入れておきたい情報があるの。今度ばっかりは真面目な話」
いつものらりくらりとしている陽乃さんが、妙に真剣な表情でこちらを見る。
「…どうしたんすか」
「実は、この島の情報屋から話を聞いてね。先日、イタリア代表の監督が失踪したらしいの」
「イタリア代表の監督が失踪……?」
「うん。とはいえ、初戦の時にはいたらしいんだけど。どうやら初戦が終わってから違う監督に代わったの。その監督の名は、"ミスターK"」
陽乃さんはケータイを操作して、こちらに画像を見せてくる。遠目からだから顔は見えないが、長身であり金髪のロング。そして白いスーツを纏っている。
というかこの人。ついこの間、エントランスエリアで買い物をした時にぶつかった男性じゃねぇか。
「…それで、この人がどうしたんですか?」
「ミスターKの正体を調べていたら、とんでもない人物だったことが判明した。ミスターK………その名は影山零治。帝国学園を40年間優勝に導いた総帥だと分かったの」
影山って言ったら、円堂の祖父をバスで轢き殺したっていうあの影山か。一時的ではあるが、鬼道や佐久間の総帥だったそうだ。
「影山零治は数々の罪を犯してきた人なの。バスに細工して人を殺したり、手抜き工事を命令してグラウンドに鉄骨を落としたりね。エイリア事件の際に潜水艇と共に亡くなったって記録されていたけど」
「…そんなやつが、イタリア代表の監督に……」
「比企谷くんのチームには、円堂くんと、ゴーグルとマントを身につけてる子いるでしょ?恐らく影山はその二人を、ひいては日本代表を狙っている」
「…注意しろってことですか」
「ま、そういうこと。それと、もう一つ。ブラジル代表も監督が代わったの」
「ブラジルもですか?」
いくらなんでも監督代わり過ぎじゃね?
「ブラジル代表の監督は、ガルシルド・ベイハン。FFI大会運営委員長で、オイルカンパニーの社長でもある人物。世界大会が始まってすぐ監督が代わったらしいんだけど……そこはまだ調査中」
「…この間言ってたやることって、そういうことですか?」
「まぁね。……このFFIには何か裏がある。もし私の大事な妹の雪乃ちゃんや比企谷くんを傷付ける可能性があるなら、さっさと排除しなきゃね」
彼女は一人で大きな闇と戦っていた。魔王だなんだと揶揄していたが、味方になるとここまで心強いとは。
「…凄いですね。改めて陽乃さんの凄さが分かりました」
「そうでしょそうでしょー?もっと褒めてくれてもいいんだよー?」
「いやホント。陽乃さんには頭が下がります。その、なんて言ったらいいか分かりませんけど……とにかく凄いです」
言ってしまえば、この人は俺と雪ノ下を、ひいては日本代表を守るために戦っている。そんな彼女になんと言葉をかけたらいいのか分からないけど、凄いとしか言いようがない。
「…比企谷くんがそこまで褒めてくれるなんて。お姉さん照れちゃうなー」
「…これくらい、別に普通ですよ」
「ま、ありがとね。そう言ってもらえて嬉しいよ」
陽乃さんはそう微笑んだ。仮面での笑みか、それとも本心なのか。それは判別できないが、少なくとも俺は陽乃さんが本心で笑っているように見えた。
「…さて、お姉さんはぼちぼち行かなきゃ。比企谷くんも宿舎に帰らなきゃならないし」
「そうですね」
俺達は会計を済ませて、喫茶店から出て行く。
「…あの、陽乃さん」
「ん?どうしたの?」
「陽乃さんのことだから大丈夫なんだと思いますけど………もし、その、調査とかで躓いたら、雪ノ下や俺に言って下さい。絶対に力になれる……とは言い切れませんけど。……流石に俺達の問題を、陽乃さんだけに背負わせるのは違いますから」
「比企谷くん……」
影山とかいう危険人物が日本代表を狙っているなら、俺達が危険に晒されることになる。俺達のことは俺達でなんとかしなくちゃならない。陽乃さんだけに、背負わせるのは違う。
「…そうだね。どのみち比企谷くんには逐一報告はしておくつもりだったし、もしかしたら君の意見は聞いたりするよ。…ありがとね、比企谷くん」
彼女はそう感謝を告げて、俺の頭を撫でる。
「……やっぱり雪乃ちゃんには勿体ないなぁ……」
「え?」
「ね、比企谷くん。もしお姉さんが君達の助けになれたのなら、代わりにお姉さんの言うことを聞いてよ」
陽乃さんはそう言った。
恐らく、この先も陽乃さんのお世話になってしまうだろう。俺達は特訓に集中してFFIの裏事情なんて調べる暇がない。だから、流石に一つくらい言うことを聞くのが人情ってものだろう。
「…流石に死ねとかくたばれとかはやめてください」
魔王に死刑宣告とか破滅の道しか見えない。
「こんな時でも比企谷くんは悲観的なんだね。お姉さんそういうところ好きだよ。……そうだなぁ。私の言うことはただ一つかな。…比企谷くん、私だけのモノになって」
「…は?」
陽乃さんの突飛的な言葉に目を丸くした。そんな俺に構わず、陽乃さんは話し続ける。
「お姉さん、なんだかんだで比企谷くんのこと気に入ってるからさ。雪乃ちゃんには勿体ない。当然、ガハマちゃんやあの睨んできていた青髪の子にもね」
俺は蛇に睨まれたように硬直してしまう。この人が何故こんなことを言ったのかにも正直驚きではあるが、それより彼女の表情だ。
今の彼女の表情に、俺は全てを支配されてしまう。そう錯覚する程の表情だった。その表情を見ただけで、鼓動が早くなるのが分かった。
もはや微笑んでいるのか、それとも睨み付けているのか、一体なんなのかは分からない。
そんな陽乃さんは、両手で俺の頬に触れる。
「…私のモノになったら君が求めている本物を、お姉さんが教えてあげる」
「…本、物…を…?」
「うん。だから……契約だね」
すると陽乃さんは、自身の唇を俺の唇に無理矢理当てた。不意を突かれてしまった俺は、避けることが出来なかった。
「…君の初めては私かな?」
「……それは」
俺は答え切ることが出来なかった。人生で初めてキスをした相手は、八神だからだ。
だから陽乃さんが初めてではない。しかし、答えきれない俺を察したのか、陽乃さんは。
「…ふうん。もしかして、あの青髪の子が初めてだったりするの?」
だが、陽乃さんの表情はさっきと違い冷酷な表情に変わる。それこそ、魔王の表情といったところだ。
「何も言わないってことはそういうことなんだ。……気に入らないなぁ」
陽乃さんは再び俺に向かってキスをする。さっきの様な優しいキスではなく、俺の全てを支配しようとする激しく、そして深いキス。
「…っんぁ……れろっ……んっ……ちゅぴ……」
逃すまいと俺の顔を両手で固定し、見境なく俺の口内を犯し尽くす。舌と舌が絡み合い、いやらしい水音が俺達の耳に入ってしまう。
やがて俺の意識は、陽乃さんに支配されていく。
しばらくキスを行うと、陽乃さんは俺の顔から離れる。彼女の甘い息と共に、舌から糸が引いていた。
「……これも初めてじゃない?」
「……流石に、中学生同士がやってたらヤバいでしょ……」
「そう。なら良かった」
とはいえ、身体中にキスマークを付けられたことはあるのだが。果たしてあれは中学生がやることなのだろうか。
「もう一度言うね。もし私が君や雪乃ちゃん、日本代表の助けになったのなら、その代わりに君は私だけのモノになるの。分かった?」
「……はい……」
俺は力なく、陽乃さんに返事した。まるで魔王に魅了されて、操られたかのよう。
「よし。契約成立だね。じゃあお姉さんは行くから。比企谷くんも早く帰りなさい」
そう言って、陽乃さんは目の前から立ち去る。依然、俺の意識は陽乃さんに支配されていた。陽乃さんの表情、言葉、全てが頭から離れなくなってしまっていた。
「……もう帰ろう」
俺は宿舎へと戻っていった。
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「遅いですよ、比企谷先輩!」
「…八幡、何をしていた。答えろ」
宿舎に帰るなり、音無と八神が俺に詰めてくる。俺は事細かく答える気力がないため、
「……なんでもねぇよ」
そう言って部屋に戻ろうとした。しかし、八神は俺を逃すまいと腕を掴む。
「……お前の身体から不愉快な匂いがするのだが。……まさか、私を放って他の雌に会っていたのか?」
陽乃さんといい八神といい、なんですぐ分かるんだよ。エスパーかよあんたら。
「…音無。お前は食堂に戻っていろ。あとで私が八幡を連れて行く」
「は、はい。じゃあお願いします…」
音無はその場から立ち去り、食堂へと戻っていった。この場にいるのは、俺と八神だけだ。
「…お前の部屋に行くぞ。洗いざらい吐いてもらう」
俺と八神は、俺の部屋へと足を運んだ。
到着するや否や、八神は俺の肩を力強く握りしめて、俺の顔だけを見つめていた。
「……お前の身体から他の雌の匂いがするのは何故だ。答えろ」
「…別に、お前に関係ないだろ」
「関係ある。お前は私だけのモノなんだ。お前を穢されて、黙っていろと言うのか」
もし仮に陽乃さんのことを言ったとしても、八神には何も出来ないし、陽乃さんのやっていることを邪魔することになる。
八神の言葉に、俺は何も返さなかった。
「……答えないか。なら、こうしてやるまでだ」
すると八神は、陽乃さんと同様に、キスを交わしてしまう。八神は俺の口内に舌を忍ばせ、俺の舌諸共、口内で掻き混ぜる。
「んっ…れろっ……ちゅぱっ……んぁっ……」
彼女の舌や歯、肉がストレートに当たるのが分かる。拒絶しなければならないはずなのに、俺は何も出来ずにいた。
八神は満足したのか、俺から顔を離す。
客観的に見て時間はものの十数秒だったが、俺からすれば長い長いキスだった。
「……この際お前にはもう何も聞かない。だが、もし他の雌に穢されたと私が判断したら、こうして上書きをしてやる。お前の身体に他の雌は必要ない。私だけがお前の身体を満たせばいい。だから他の雌のことを考えるな。絶対にな」
俺の頭は混乱している。陽乃さんのことだったり、八神のことだったり。今の俺は彼女達に支配されてしまっている。
「では行くぞ、八幡」
「……いや、先に行っててくれ。後で行くから」
「…分かった。だが早く来い」
八神はそう言って部屋から去って行く。
「…はあ……」
大きく、深い溜息を吐いた。肉体的にも精神的にも酷く疲れた一日だった。
このまま陽乃さんのことや八神のことに意識を持っていかれたら、アルゼンチン戦に集中出来ない。俺は心を落ち着かせるために、マッカンを開けて一気に飲む。
「…はぁっ……」
揺らいだ心が、少し落ち着くのを感じる。やはり、疲れた時には甘いものが必須だ。
陽乃さんのことも八神のことも、そして俺のことも、全部FFIが終わってからにしよう。試合に集中出来ずにベンチに下がってしまったら、小町や由比ヶ浜に申し訳が立たない。
「……だいぶ落ち着いたな」
あれこれ理由を付けて落ち着かせた。俺は部屋から出て行き、食堂へと向かうことにした。
今は、アルゼンチン戦のことだけに集中しよう。そう気を引き締め直した。
陽乃さんのキャラが原作と違うと思いますが、そこは流して下さい。彼女のキャラ中々に難しい。
正直この話投稿しようか迷った。