やはり俺がサッカーをするのは間違っている。 作:セブンアップ
あれから雪ノ下の束縛が激しくなった。八神みたいに、私以外誰とも話すなとは言って来ない。しかし、どこへ行くにも何をするのにも必ず雪ノ下が付いてきたり、わざわざ聞いてきたりする。
答えあぐねると、彼女の普段のお淑やかな表情が、一転して冷徹な表情になる。それに加えて、八神までもが更に束縛を激しくする。
「どうしたんですか、比企谷先輩?なんだか疲れた様な顔してますけど……」
「……なんでもねぇよ」
少し病みつつあるそんな俺に、音無が気を遣ってくれた。正直、音無が俺の今一番の救いである。
次また八神や雪ノ下姉妹があんな風に迫ってくると、こちらまで本当に病みそうになってしまう。
俺はそんな状態で、特訓していた。すると、監督がいきなり招集をかける。監督は招集をかけると、練習試合を行うと言い始めた。
「相手はスペイン代表レッドマタドールだ」
確か、ブラジルやドイツがいるグループBの強豪国だった筈だ。キャプテンのケラルド・ナバルを中心とした攻撃的なチーム。
「予選を突破出来るのはグループ上位2チーム。我々は残り一試合。しかもその相手は、現在1位のイタリアだ。他のチームの勝敗次第だが、おそらくこの試合に勝たなければ予選突破はないだろう。同じくレッドマタドールも、次に勝たなければ決勝トーナメント進出が難しくなる状況下に置かれている」
監督が現在のグループ争いの状況を説明していると、俺達の後ろからスペインの国旗の色である赤と黄色のユニフォームを纏った集団がやってくる。
こいつらが、レッドマタドール。
「よって、互いの戦力アップのために練習試合を行うことにした」
俺達はすぐに、レッドマタドールとの練習試合の準備に取り掛かった。
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FWは豪炎寺と染岡、基山。MFは鬼道、不動、佐久間。DFは俺、飛鷹、綱海、壁山、GKは円堂。
試合が始まり、すぐ俺達が攻め上がっていく。ボールは鬼道に渡り、レッドマタドール陣内を深く切り込んでいく。その鬼道に、佐久間と不動が追随。
「次の試合にはあの技が重要になる!」
「あァ!レッドマタドールには、踏み台になってもらうぜ!」
三人は大きく空に向かって飛んでいき、鬼道が空中で指笛を高らかに吹く。指笛に呼応して現れた紫色のペンギンと共に、ボールを中心にして陣を組む。
「皇帝ペンギン…3号ッ!!!」
紫色の強力なエネルギーを纏ったボールを三人がかかと落としで蹴り落とす。蹴られたボールは、凄まじい威力を放ちながらペンギンと共にGKのフェルミンに向かって低空に突き進む。
「ぐおおおォォッ!!」
自身の巨体を使って皇帝ペンギン3号を止めようとするフェルミンだが、必殺技なしでは流石に止めることが出来なかった。
1-0で、イナズマジャパンが先制する。
あれが皇帝ペンギンの最終進化系とかいう皇帝ペンギン3号……。確かに、最終進化系と誇れる素晴らしい技だ。
先制したイナズマジャパンの勢いは止まらず、再び攻め上がる。ボールは俺に渡って、前線へ攻め上がっていく。
しかし、前からDFでありキャプテンであるケラルドが向かってくる。
「ウェルカムバック!」
ケラルドが右足を振り上げると、風が巻き起こり、その風が俺からボールを巧みに奪ってケラルドの足へと引き寄せられる。
「しまったッ…!」
ボールを奪ったケラルドはそのまま攻め上がっていく。続いて、染岡がケラルドに向かって走っていく。
ケラルドは不適に笑って、どこからか赤い布を取り出し、相手を誘うように布を振る。
「マタドールフェイント!」
それを見た染岡は、冷静さを欠いて大きな唸り声を上げながらケラルドに突っ込んでいく。闘牛士の様に、軽やかに突っ込んできた染岡を躱した。
ケラルドはFWのサムエルに繋ぎ、サムエルはゴール前まで走っていく。同時にFWのダビもゴール前へ。そして二人の後を追う様に、ケラルドもオーバーラップ。
すると、サムエルとダビはボールを勢いよく踏み付ける。そのボールに向かって、ケラルドがスライディング。
「スリング……ショットッ!!」
ボールはおもちゃのパチンコの様に弾かれ、円堂に向かって飛んでいく。
「イジゲン・ザ・ハンドッ!!」
しかし、イジゲン・ザ・ハンドはあえなく破られてしまい、スリングショットがゴールに突き刺さる。
すぐさま1-1の同点に追いつかれてしまった。
流石はスペイン代表。ブラジルやアルゼンチンに続いて強豪国と言われることはある。だが、今の段階では互角。ここで勝つことが出来れば、大きな自信に繋がるだろう。
イナズマジャパンのボールになり、再び鬼道にボールが渡る。そして、皇帝ペンギン3号の体勢に入りつつあった。
「もう1点取るぞ!皇帝ペンギン3号だ!」
だが、佐久間と不動を置いて鬼道だけがレッドマタドールのゴールに突き進んでいく。DFのラファエルとアントニオが鬼道の行手を塞ぐが、スピードに乗った鬼道は突破して、フェルミンに向かってシュート。
フェルミンは鬼道のボールに向かって闘牛の様に突っ込み、ボールを大きく外へと弾き飛ばした。
「お前、何焦ってんだよ」
さっきの鬼道のプレーに不動が注意する。しかし、不動の言葉に耳を傾けずに自分のポジションに戻る。
おそらく、鬼道の頭を支配しているのはミスターKこと影山のことなんだろう。鬼道の恩師だと言うらしいし、影山に対して思うところはあるのだろう。
そのまま試合は終盤戦まで互角の展開となり、最終結果は1-1の同点で試合を終えた。
試合を終えた俺達は整列する。円堂とケラルドが試合後の握手を行う。
「決勝トーナメントで会おうぜ!」
「あぁ!今度は勝負をつける!」
すると、拍手が聞こえてくる。
「すごい!本当にどちらもすごかった!」
「本当、練習試合とは思えないくらい!」
マネージャー達が試合を終えた俺達に拍手を送る。
今日の練習試合はいい特訓となった。やはり、実戦に勝るものはないということだろうか。
俺は、試合の疲れで地面に重く座り込んだ。
「お疲れ様、比企谷くん。タオルとドリンクよ」
「いい試合だったぞ、八幡」
雪ノ下と八神が同時にタオルとドリンクを渡そうとやってくる。
しかし。
「貴女は必要ないのよ、八神さん。そうやって自分の気持ちを押しつけて、比企谷くんを困らせていることにそろそろ気づけないのかしら?」
「貴様こそ、イナズマジャパンのマネージャーになったのなら他所の者を労わるがいい。八幡には、私だけがいればいい」
「そういうところが比企谷くんを困らせていることに気づかないなんて、もはや哀れとしか言いようがないわね。同情するわ」
「雌豚が図に乗るな。八幡、あちらに行こう。こんな雌豚など放っておけばいい」
「待ちなさい比企谷くん。私が言ったこと、もう忘れたの?国語三位が聞いて呆れるわ」
彼女達の会話を聞いているだけで、心が病みそうになってくる。八神から、雪ノ下から、俺は逃げることが出来ない。俺が一人になれるのは風呂と就寝の時だけ。
それ以外は八神、あるいは雪ノ下が絶対に近くにいる。
加えて陽乃さんの存在も俺に影響を与えてくる。この場にいないからいいものの、俺のケータイには陽乃さんの連絡先が登録されている。
俺に逃げ場などない。完全なチェックメイトである。
結局この争いは終わらずに、八神と雪ノ下共々、俺はずっと一緒にいることとなった。
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レッドマタドールとの練習試合から2日後。
明日はいよいよイタリア戦。明日に備えて、俺は早めに寝ようと自室に戻る。流石の雪ノ下と八神も、就寝の際に部屋に入ってくる様なことはないのだ。
一番自分が落ち着く時が、就寝時間である。
「……はぁ…」
俺は電気を消そうとすると、部屋にドアに対して叩いたノック音が響く。
まさか、八神か雪ノ下か?
「比企谷先輩、ちょっといいですか?」
俺の部屋に訪れたのは、音無であった。八神や雪ノ下ではないことに、少し安堵した俺はドアを開く。
「どうしたんだ?」
「比企谷先輩と話したいことがあって……入っていいですか?」
「…別に構わんけど。あんま騒ぐなよ」
ここで騒がれたりでもしたら、八神や雪ノ下が来るに決まっている。本当ならここで追い返すべきなんだろうが、音無の真面目な表情を見てその気はなくなってしまった。
音無は静かに部屋に入る。
「適当に寛いでくれ」
音無は、俺のベッドに腰掛ける。その後、俺と音無の隣を交互に見る。どうやら隣に座れというサインなんだろう。
俺は音無の隣に腰掛ける。
「それで、どうしたんだ?」
「……比企谷先輩、最近何かあったんですか?」
「…何の話だ」
「惚けないで下さい。アメリカ戦が終わってから、比企谷先輩変ですよ」
流石、マネージャーといったところか。幾人の選手を見てきたからか、人の様子が大まかに分かるようになってきている。
つまるところ、洞察力や観察眼が鍛えられているということだ。
特に、マネージャーの中では音無がそれがダントツだ。
「…俺が変なのはいつもと変わらんだろ。大体、人間どこか変な部分がある。逆に変な部分がない人間はアンドロイドみたいなやつってことだ。つまり変な人間は一周回って普通の…」
「…やっぱり。比企谷先輩って、何かあった時口数が多いってこと気が付いてますか?」
「ッ……」
小町にも似たようなことを言われた記憶がある。何かあった時、普段よりもどうしようもないことを言うという。
「…この間も言ったろ。何もねぇよ」
「教えてくれるまで私部屋に帰りませんから」
「居座るのはやめて?君のお兄ちゃんに色々怒られそうだから」
なんだかんだで鬼道ってシスコンな気がするんだよなぁ。知らんけど。
「…どうしても教えてくれないんですか?」
「だから、何もないってさっきから…」
「私、そんなに頼りないですか?」
「…は?」
「比企谷先輩が嘘ついてまで隠し事をしてるのは見て分かります。先輩って顔に出やすいですから」
音無が見抜いた様にそう言う。ポーカーフェイスが得意だと思っていたんだが、どうやらそうでもなかったらしい。
「この数日、比企谷先輩を見ていてなんとなく分かりました。雪ノ下先輩や八神先輩のことを考えてたんでしょ?」
俺は核心を突かれ、そのことに対して何も言い返せなかった。言い返せないのは、音無の言う通りだったからだ。
「三人の間で何があったのかは私にも分かりません。でも、比企谷先輩があんな辛そうな表情をしてたの初めて見ました。だから、少しでも比企谷先輩の力になりたいんです」
「…たとえ音無の言うことが正しいとしても、お前がそこまでする必要はないだろ」
そう。彼女が首を突っ込んでくる必要がない。突っ込んできて、彼女まで心を病んでしまったら元も子もない。
しかし、彼女は引かなかった。
「ありますよ!だって、私はイナズマジャパンのマネージャーですから!選手のケアはマネージャーの仕事なんです!」
こいつはきっと、本気の善意で俺のために動こうとしてくれたのだろう。それは十分嬉しいことだ。
でも。
「……悪いが、お前には頼らない」
「えっ…」
「お前の言う通り、今の俺には悩んでいることがある。けどそれは俺が招いた問題なんだ。だから俺が解決しなきゃならない。無関係のお前に頼るわけにはいかねぇよ」
とっとと音無を言いくるめて帰ってもらおう。これ以上首を突っ込まれると色々困る。
しかし、音無は。
「…無関係じゃありません!たとえ無関係だったとしても、私は比企谷先輩の力になりたいんです!」
音無は声を荒げて、俺に向かってそう言ってくる。いつの間にか、彼女は俺のジャージに力強くしがみついていた。
「だから、別にお前を頼る必要なんて……」
「いやッ!嫌だッ!私は絶対比企谷先輩の力になるんだからッ!先輩に何を言われても、力になるんだからぁッ!」
「お、おい音無……」
荒ぶる音無を俺はなんとか宥めようとするが、一向に収まる気配がない。
「なんで頼ってくれないのッ!?私ってそんなに頼りないの!?」
「…別にそうは言ってないだろ。お前がいたから立向居の魔王・ザ・ハンドだって完成したようなもんだ。そんなお前が頼りないわけないだろ」
立向居の様子を見抜いた音無がいたから、綱海や栗松達が集まって魔王・ザ・ハンドの特訓が出来たんだ。久遠が調子を崩した時も、木野が一之瀬のことで悩んでいた時も、音無が一番頑張ってマネージャーの仕事を貫いていた。
「じゃあなんで頼ってくれないの!?」
「確かに音無は頼れるマネージャーだ。だけど、無関係のお前を巻き込むわけにはいかない。だから…」
「巻き込まれてもいい!!辛くなっても、苦しくなってもいい!!それでも私は比企谷先輩の力になりたいのッ!!絶対…絶対に役に立つから……!!だから……私を頼ってよぉッ!!」
すると、彼女は涙を流していた。悲痛な表情で懇願している最中に、涙を流してしまったのだろう。それほどまでに、俺の力になりたかったのだ。彼女の真っ直ぐな気持ちは、もはや疑う余地がない。
だが、本当巻き込んでしまっていいのだろうか。彼女はああ言っているが、もし彼女になんらかの危害が加わってしまったら。
そう考えると怖くなる。鬼道に申し訳立たないし、何より俺のせいで誰かが傷つくのは許されない。
しかし、それでも音無の思いを無碍にしていいものなんだろうか。
彼女がここまでかなぐり捨てて自分の本音をぶつけてきた。それを否定していいわけがない。
迷いに迷った末に、俺が彼女にかけた言葉は。
「……分かった」
「えっ……!?じ、じゃあッ…!」
「…特段何かをして欲しいことはおそらくない。…ただ、話を聞いて欲しい。今は、それだけでいい」
「はいっ……はいっ!!私、絶対比企谷先輩の力になりますから!!これからずっと、私に頼らなきゃならないって思えるくらい頑張りますから!!」
「…あぁ。頼むわ」
彼女の悲痛な表情が一転し、晴れやかな表情になった。そんな表情に、俺は少し笑みを浮かべた。
「比企谷せんぱーいっ!」
泣いていた彼女はもうどこかに去り、子どもみたいに急に戯れついてきた。そんな彼女の表情は、とても幸せそうな表情だった。
「……ありがとな、音無」
彼女は立派なイナズマジャパンのマネージャーだ。少し病みつつあった俺の心は、音無のお陰で和らいだ。
「はいっ!比企谷先輩っ!えへへっ」
これなら、明日のイタリア戦、少しは集中出来そうだ。
音無が一番ヒロインしてる。
人って頼って欲しい人に頼られないってのは、割とショックだったりするんですよね。
あと、なんだかんだこの話で初めて皇帝ペンギン3号が出ました。チームKの時はカットしましたから。