やはり俺がサッカーをするのは間違っている。   作:セブンアップ

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吹雪とデザーム

 イプシロンは雷門に10日ほどの猶予を設けたらしい。そして時は経ち、9日目。

 ついに明日、イプシロンが来る。

 

 みんなはトレーニングにトレーニングを重ねて、パワーアップをしていく。俺も俺で、サッカーの基礎、身体能力を向上させた。

 

 しかし、一つ気になることがあった。

 

 雷門のエースストライカー、吹雪士郎のことである。イプシロン戦が近づくたび、彼は焦りを見せ始める。情緒が不安定と言っても過言ではない。

 だから、それを聞くために今は練習を休んでいる。

 

「……何の用かしら?比企谷くん」

 

 至っていつもと変わらない表情をした吉良監督。彼のことを聞くには、チームを率いる監督から聞くのが一番早い。

 

「まぁ用っちゃ用ですね。……吹雪の攻撃と防御の時の雰囲気の変わりよう……あれ、なんですか?」

「……成る程。私が一人になるときに聞いたのは、そういうことなのね」

「吹雪本人に聞くのはタブーです。でも、音無達も雰囲気の変わりように関してあまり知っている様子じゃなかった」

「それで私に聞いたのね」

「…まぁ、チームを率いる監督なら、せめて選手のことくらいは知ってるんじゃないかと」

 

 地上最強を目指すために全国を回る旅にしてるんだ。監督として、選手のことを知ってるのは当然であろう。

 

「……そうね。比企谷くんには先に教えておくわ。実は吹雪くんは……」

 

 そこから先は、悲惨な話だった。

 吹雪が二重人格を持っているのは、俺の推測通りだった。防御時が吹雪士郎、攻撃時が吹雪アツヤと人格を変えていたようだ。

 

 小さな頃、吹雪兄弟はサッカーをしていた。士郎がディフェンス、アツヤがアタック。完璧なコンビネーションで、とても強かったらしい。

 だがある日、吹雪兄弟を乗せた車は雪崩で事故。士郎は無事だが、両親とアツヤがそのまま亡くなったそうだ。

 

 そしていつしか、吹雪の中にアツヤの人格が生まれた。エターナルブリザードは、アツヤの必殺技だそうだ。

 

「……それ、だいぶヤバいんじゃないすか?」

「……何が言いたいの?」

「人格を使い分けたことないから分かんないですけど。普通に考えて、それって精神的疲労が凄いんじゃないですか?」

 

 それだけじゃない。今の吹雪は、何かに対して焦っている。日が経つたびに焦っているあたり、多分イプシロンと何かあったのだろう。

 

「……エイリアを倒すとはいえ、この選択は正解だったんですかね」

「……それが私の使命だからよ。話が終わりなら、早く練習に戻りなさい」

 

 吉良監督はそのままどこかへと去っていく。俺も明日のイプシロン戦に向けて、軽めな練習で上がることにした。

 

 そして決戦当日。

 ナニワの地下修練場のさらに地下のグラウンドにて。

 

「時は来た。10日ほどの猶予をやったのだ。どれだけ強くなったか見せてもらおう」

 

 イプシロンが再び現れる。

 いつ見てもおっかなそうな連中ばかりだ。

 

「我々エイリア学園の力を、改めて地球の民達に知らしめる時が来た。この試合を通して、我々に歯向かうことの愚かさを噛みしめるがいい。愛するサッカーで、自分の弱さを否が応でも知ることになる」

「そうはいかない!俺達は、お前達に必ず勝つ!」

「フッ……そうこなくてはな」

 

 俺達は試合の準備をする。まぁ、今日はベンチ入りかな。

 

「比企谷くん、君はMFのポジションをお願いするわ」

「…いいんですか?この一戦、大事かも知れないのに素人を入れて」

「大事だからよ。君の才能は、エイリア学園にも通用する」

「……あんまり買いかぶりすぎないで下さい。…まぁやれと言うならやりますけど」

 

 どうやら最初からレギュラー入りになっちゃった。あと因みに、浦部もキャラバンに参加しました。一之瀬への愛ゆえに。

 

 FWは浦部のワントップ。MFには、鬼道、一之瀬、俺、財前。DFは、壁山、風丸、木暮、土門、吹雪だ。GKは勿論円堂。

 

「…なんか悪いな栗松。いつでも変わって欲しかったら言ってくれ。即変わるから」

「大丈夫でやんすよ!それより、イプシロンを倒してきて欲しいでやんす!」

「……強いな、お前」

 

 きっと自分も入りたかったろうに。俺なら陰でめっちゃ言ってるからな。

 

 位置についた。間も無く試合が開始する。キックオフはイプシロンから。ホイッスルが鳴り、試合開始。

 ボールを持ったマキュアが攻め込んでくる。

 

「メテオシャワー!!」

 

 飛んだマキュアが下にボールを打ち込む。打ち込まれた衝撃がまるでメテオのように次々と雷門を襲う。浦部、財前、鬼道はダウン。

 

「行かせるかッ!」

 

 風丸が徹底したディフェンスでマキュアに着く。マキュアもそう簡単には攻め込めず苛立つ。吹雪と木暮も風丸のフォローに入る。

 しかしこういう時は……。

 

「マキュア!」

「必ず他のFWにパスするよな」

 

 マキュアはゼルにパスするも、それを俺がカット。予測を立てれば、なんてことはなかった。

 

「いいぞ比企谷!そのまま攻め上がれ!」

 

 目の前からMFのクリプトが襲いかかる。とりあえず牽制含めての必殺技。

 

「ライアーショットッ!」

 

 クリプトが自分の防御に入った隙を狙って抜き去る。

 

「宇宙人って言ってもやっぱボールを当てられることに抵抗はあるんだな。お可愛いやつだ」

 

 そう皮肉げに言い捨てると。

 

「…ぶっ潰す」

「……やっべ」

 

 先程抜き去ったクリプトが、敵意満々でこちらに加速してくる。激おこぷんぷん丸だよ。いや古いな。

 

 誰かにパスをしようにも、しっかりマークが付いており。

 

「ぶっ潰す!」

 

 クリプトは死角から俺のボールを奪って雷門陣に攻め上がる。

 

「ゼル!」

 

 クリプトからゼルへのセンタリング。ゼルが必殺技の体勢に。

 

「ガニメデプロトンッ!はああァァッ!!」

 

 何度見てもかめはめ波だと思われるシュートが円堂に襲いかかる。円堂はマジン・ザ・ハンドの体勢に入る。

 

「マジン・ザ・ハンドッ!!うおおおォォッ!!」

 

 ガニメデプロトンをガッチリ止める円堂。そのキャッチに勢い付いた雷門は攻め上がる。

 

「ツインブースト!!」

 

 一ノ瀬と鬼道の連携シュート。しかしデザームは片手で止める。

 

「…最高だ」

 

 雷門が攻めればイプシロンが守り、イプシロンが攻めれば雷門が守る。両チーム互角と言える試合である。

 それに、これは俺個人の感想であるが、この前とは違いやつらのスピードに少し着いていくことが出来ている。イプシロンと対等に戦えている。

 

 しかし。

 

「…いつまで守ってんだよ!」

 

 吹雪の雰囲気が変わり、イプシロンからボールを奪う。吹雪、もといアツヤが表に現れ、イプシロンのゴールへと突き進む。

 

「吹雪、パスだ!」

 

 鬼道からの呼びかけも無視する。まさにアツヤのワンマンプレー。

 吹雪の攻撃を止めようとするタイタンとケイソンだが、

 

「打たせろ」

 

 デザームはディフェンス陣に道を開けろと言う。

 

「こいつが今日のメインディッシュだ!」

「ざっけんな…!!くらいやがれェッ!!」

 

 アツヤはデザームの言動に苛立ち、至近距離からの必殺技の体勢に。

 

「エターナルブリザード!!うおおおォォォッ!!」

 

 力強い氷を纏ったボールがデザームに飛んでいく。対してデザームは怪しげな笑みを浮かべながら必殺技を繰り出した。

 

「ワームホール!」

 

 アツヤのエターナルブリザードはデザームが繰り出す空間に吸い込まれ、そのまま空間移動して下に叩きつけられた。

 

「この程度では物足りんぞ……。もっと魂を熱く滾らせるようなシュートを叩きこめェ!!」

「ふざけんな…!!」

 

 デザームが前線に大きくスローする。

 

「攻撃せよ!戦術時間は7.4秒だ!」

「了解!」

 

 デザームの指示によりイプシロンが攻め上がる。ボールはファドラに。

 

「ギャヒヒヒィ!!そこをどけェッ!!」

 

 俺はファドラの前に立つも呆気なく抜かされる。

 

 つーかあいつやべぇよ。クリプトや陽乃さんより怖いよあの人。

 

 ファドラが一気に攻め上がり、ゼルにパス。

 

「ガニメデプロトンッ!!はあああァァ!!」

 

 もう一度ガニメデプロトンを放つゼル。

 

「マジン・ザ・ハンドッ!!うおおおおォォッ!!」

 

 ゼルのガニメデプロトンを再び止める円堂。円堂がシュートを止めたところで、前半終了のホイッスルが鳴る。

 0-0。互角と言える戦いだろう。しかし、奴らはまだ何かを隠してる。単なる勘だが、このまますんなり終わりはしないはずだ。

 

 ハーフタイムになり、後半に向けての作戦を練る。

 

「吹雪くん」

「……はい」

「攻撃に気を取られすぎよ。ディフェンスに専念しなさい」

 

 吉良監督はそう言い放つ。確かに、苛立ちや焦りが見えている以上、攻めても意味がないだろう。

 

「…監督。吹雪をFWに上げてください」

 

 反対に、鬼道は吹雪を今のままにしておくと意見する。

 …俺は吹雪の事情を知ってる。このまま、吹雪を放置しておけば、いつしかとんでもないことになる。

 

 二つの人格が存在している以上、俺にできる選択肢は。

 

「……吹雪をベンチに下げる、ってのはどうだ」

 

 俺の意見に、誰しもが驚く。吹雪本人も。

 

「…吹雪をベンチに下げたんじゃ攻撃も防御も大きく減るんだ。その提案は却下だ」

「……一つ聞いていいか?」

 

 鬼道の反論に俺は疑問を投げかける。

 

「……サッカーってのはチームプレーだろ。確かに攻撃も防御もできるプレーヤーなんてそういない。だからベンチに下げれば戦力ダウンなのは分かってる」

「なら…」

「…けど、それって遠回しに言えば吹雪に頼りきってるってことになる」

 

 誰かを頼ることは別に悪いことじゃない。俺だって小町に、由比ヶ浜に、雪ノ下に頼ることなんてある。

 でも、最初から頼る気満々なのは、あまりにも無責任にも程がある。吹雪の二つの人格を知らずに頼りきるっていうのは非道である。知らないから仕方ないじゃダメなんだ。

 

「…大丈夫だよ、比企谷くん。僕は全然平気」

 

 彼は笑って答えた。

 しかし吹雪の表情は、言葉のように平気そうではなかった。

 

 

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