やはり俺がサッカーをするのは間違っている。 作:セブンアップ
天使と悪魔の大騒動が終わって、私達は決勝トーナメントに集中することになった。みんなはあんなことがあった後なのに、変わらず楽しみながら特訓していた。
なのに私は、みんなの特訓に集中して見ることが出来ずにいた。ずっと、
私の言うあの人は、キャプテンでもなければお兄ちゃんでもない。私が見つめている先にいるのは、クセ毛をボサッと伸ばして、頭にアホ毛ぴょこんと可愛らしく生えていて、目が周りのみんなより腐っていて、体の姿勢が悪い男の子。
比企谷八幡。
昨日の件から、私は片時も目を離せずにはいられなかった。
あの人を最初に見たときの印象は、変な人という一言のみ。目が腐ってるのは先程も言った通りなんだけど、性格も捻くれてるし面倒くさがり。
ナニワランドの地下修練場で、リカさんの差し入れで様々な料理が出てきた時、先輩だけが一人で何も食べずに座っていた。
まだ馴染めないのかなって思って、私は勇気を出して声をかけた。私は、なんで一人でいるのかを聞いてみた。返ってきたのは、こんな答えだった。
「まぁ、別に理由はない。これがいつもの俺だからだ」
そう言っていた。先輩はその後、更に目を腐らせていった。
本当によく分からない人だった。それでも、サッカーの実力は文句の付け所がなかった。サッカーを始めて数ヶ月で、雷門のみんなと同等にプレーしているから。
変な人だけど、凄い人なんだって思った。
けど、先輩と一緒に戦えたのはほんの僅かな期間だった。
陽花戸中に、エイリア学園マスターランクのザ・ジェネシスが現れた。雷門に勝負を挑み、勝った暁には先輩を連れて行くと言い出した。
結果は惨敗。先輩は、私達の前から連れて行かれた。それだけではない。吹雪さんも無理して倒れて、ジェネシスのリーダーはキャプテンの友達であるヒロトさんだと判明。
みんなは挫折してしまいそうになったけど、諦めない心で、私達は再びエイリアと戦う気力を取り戻した。
豪炎寺さんも迎え入れてイプシロン改を倒したものの、ダイヤモンドダストという新たなチームが現れた。
私達は沖縄から東京に帰るも、ダイヤモンドダストからの挑戦を受けてFFスタジアムに向かった。そこに向かうと、ダイヤモンドダストに連れ去られた先輩が一緒にいた。
私達は、なんでエイリア学園の味方に付いてるんだと思った。それでも、負けるわけにはいかないので、私達はダイヤモンドダストと試合を行なった。アフロディさんが助っ人にやってきて、引き分けで試合が終えた。
私達の前からダイヤモンドダストが消えるけど、まさかの先輩だけがスタジアムに取り残されるということが起きた。私が先輩の名前を呼ぶと、
「ひ、ひゃいっ」
噛みながら返事した。あ、普段の変な先輩だって分かって、少し安堵した。
お兄ちゃんが、何故エイリアの味方をするのかと聞いた。けど、先輩は教えてくれず、そのまま後から現れた八神さんと共に姿を消した。その後、ダイヤモンドダストとプロミネンスが合体したチーム、ザ・カオスが現れる。そのチームにも、先輩はいた。
試合はジェネシスのグラン、もといヒロトさんと八神さんが現れて中断した。アフロディさんが離脱したその後、私達の監督である瞳子がエイリアと繋がっているという疑いが出た。
監督曰く、エイリアには秘密があるから自分と富士山麓にいるあるアジトに向かって欲しいと。
最初、一之瀬さんや土門さん、リカさんはアジトに向かうことに消極的だったけれど、結果的にはみんな揃って向かうことになった。
富士山麓にあるエイリアのアジトに忍び込むと、そこでジェネシスのユニフォームを身につけた先輩がいた。誰かと通話していると、私達をとある場所に案内すると言って案内し始めた。
「なんでマップ見ながら案内してるんスかねぇ?」
「単に道音痴なだけじゃねーの?うっしっし」
「おいコラ聞こえてんだよ。ここの複雑さ舐めんな。もはやダンジョンなんだよ」
壁山くんと木暮くんがそう揶揄うと、先輩は普段通りの様子で返してくる。エイリア学園にいても、やっぱり先輩は変わらず先輩なんだと思って、クスッと笑ってしまった。
私達は瞳子監督の全てを聞いて、その上でジェネシスと戦うこととなった。エイリア学園最強というのは伊達でなく、陽花戸中で戦った時より強く感じた。
それでも、みんなは諦めずに必死に食らいついて、最後の最後には雷門がジェネシスを倒した。
そして、私達は先輩の事情を聞かされていた。どうやら、先輩は昔八神さんと会っていたらしく、その時八神は助けられて先輩のことを好きになったらしい。
その好意が段々と抑えられなくなって、エイリアへと連れて行ったらしい。ただ、それだけの理由ではなくて、実は先輩の妹さんがエイリアに監禁されていた様で、エイリアに、八神さんに逆らえば妹がどうなってもいいのかと脅されていたらしい。
先輩は妹さんを守るために、エイリアの味方に付いたということだった。
エイリア学園は無くなり、先輩は再び雷門の仲間となった。
その後、風丸さんや染岡さん達、怪我で離脱した雷門のみんなが操られて戦うことになったけれど、キャプテン達の強い思いで無事に助け出すことが出来た。
数ヶ月後には、FFIの日本代表の選考試合で先輩と出会うことになった。先輩は代表入りを果たして、アジア予選では先輩は活躍していた。世界大会に入っても、先輩は活躍していた。
その頃から私は、変な人という印象から、捻くれてるけど優しい人という印象に変わって、好感が持てる様になった。
イギリス戦の後では秋さんや冬花さん達も連れて、一緒に買い物に行ったし、立向居くんの新必殺技完成に手伝ってもらった。
なんだかんだで、人に優しくするんだ、あの先輩は。日に日に私は、先輩といて居心地がいいな、と思い始めていく。
そんなある日。
イナズマジャパン第二試合の相手、アルゼンチン代表ジ・エンパイアの一戦の当日に、キャプテンとお兄ちゃん、佐久間さんに不動さんがいないという状況に陥る。
試合の時間は迫るけど、お兄ちゃん達は帰って来ない。それどころか、監督達も出かけていて帰ってきていない。それでも試合に遅れるわけにはいかないので、お兄ちゃん達抜きでスタジアムに向かって戦った。
相手は鉄壁の守りを誇るチームで、最初は手も足も出なかった。けど、そんな時先輩が、いつものお兄ちゃんの代わりに司令塔になって、みんなに指示をしていく。
そのおかげで、みんないつも通りのプレーが出来る様になった。けれど、ジ・エンパイアのキャプテンのあまりに強いディフェンスの前に、私達は破ることが出来なかった。
それどころか、反撃をくらって0-2。3点目になるというそんな土壇場で、立向居くんが魔王・ザ・ハンドを完成させて止めた。
これでこれ以上簡単に点を取られることはない。後は、あのディフェンスを破れば勝機はある。
そう思っていたけど、ジ・エンパイアの必殺タクティクスが非常に手強かった。何度攻めても点が取れない。やっぱり、キャプテンやお兄ちゃん、監督がいない状況で勝てるわけがなかった。
誰もが諦めかけたそんな時。
「…じゃあ諦めるのかよ。このまま」
比企谷先輩が、みんなにそう言った。
「試合はまだ残っているんだぞ。もう終わりにするのかよ」
「でも、あのディフェンスが破れないんじゃ……」
「だからなんだ?だから勝手に試合放棄するつもりかお前らは」
先輩が、先輩だけが、こんな状況になっていても諦めていなかった。
「俺はお前らとサッカーをして学んだ。逆境に立っても、諦めない精神力を。…最後まで何がなんでも諦めない……それがお前らイナズマジャパンのサッカーじゃなかったのかよ。俺が見てきたお前らのサッカーは、全部偽物だったのかよ」
先輩はみんなにそう訴えていく。先輩なりに、彼らを奮い立たせるために。
「諦めなかったからアジア予選を勝ち抜いて、ナイツオブクィーンを倒すことが出来たんじゃなかったのかよ」
先輩に言われて、改めて思い知らされた。まだ試合の時間が残っているのに、諦めちゃダメなんだ。私達は、先輩に続いて応援した。私達に出来ることは応援するくらいだけだから。
みんなは先輩の言葉で立ち上がり、必殺タクティクスを打ち破る作戦に出た。試合は負けてしまったけど、それでも必殺タクティクスを破って、無失点を誇るジ・エンパイアから1点を取り返した。
この展開を作り出したのは、紛れもなく比企谷先輩のおかげなんだ。
私はこの時、この場の誰よりもカッコよく見えた。本人はものすごく恥ずかしがっていたけど、本当にカッコよかった。
それから私は、先輩の姿を目にすることが多くなった。特訓をしている時も、多分、他の人達よりずっと多く視線を向けていた気がする。意識して見ていたわけではなく、無意識に先輩の姿を捉えていたんだ。
第三試合のアメリカ戦も終えて、次はイタリア戦だけだった。そんな時、先輩の様子がおかしかった。何かを抱えている様な、何かに怯えている様な……とにかく、様子がおかしかった。
私は気になって、先輩に尋ねるけど。
「……なんでもねぇよ」
ぶっきらぼうに言って、特訓を始めた。
絶対何かあったに違いない。八神さん、もしくは雪ノ下さんのことだと、私の勘がそう言っていた。
その時、スペイン代表レッドマタドールとの練習試合が行われた。影山のことで意識しているお兄ちゃんも気になったけど、本当に疲れている様な表情をした比企谷先輩も気がかりだった。
試合終了後、お兄ちゃんは未だに表情が固いし、先輩は八神さんと雪ノ下さんに詰め寄られてる。それはいつもの光景だけど、先輩の表情はいつもとは違った。
そしてイタリア戦の前日に、私は何かあったのかと聞いた。案の定、先輩は誤魔化そうとする。雪ノ下さんと八神さんが関係していることだったんだろうけど、実際に何が起きたのか知らなかった。だから気になって、先輩に尋ねた。先輩に、私を頼って欲しいとお願いした。
「……悪いが、お前には頼らない」
私は、ショックだった。ショックというより、嫌だった。先輩が嘘をついてまで悩んでいることを隠していることもそうだけど、それ以上に私を頼らないって言われたことが嫌だった。
挙げ句の果てには、無関係と言われて突き放される。
嫌だ。そんなの嫌だ。
たとえ無関係だとしても、私は先輩の力になりたかった。それが私に辛い目に遭っても、苦しい目に遭っても、余計なお世話だと言われたとしても、私は先輩の力になりたかった。
先輩に、頼って欲しかった。
どんな些細なことでもいい。私を頼って欲しい。先輩が辛そうな表情をしているのは、私も見たくない。
私は、涙を流しながら懇願した。すると、先輩は折れて、分かった、と言った。特段何かをして欲しいことはないけど、話を聞いて欲しいとのこと。
私の感情は有頂天になる。先輩の力になれることが、そのことがとても嬉しかったから。私はこれから、先輩のために頑張る。
先輩は絶対弱音を吐かない。普段は弱音だらけだけど、あんなのは本当の弱音じゃないって分かってる。
だから、先輩に弱音を吐かせたい。きちんと悩みごとは、誰かに相談して欲しい。出来るなら、一番先に私に悩みを打ち明けて欲しい。
そしてイタリア戦が終了した後。リカさんと塔子さんが貰った伝承の鍵の片方を、私は付けてしまった。とても魅力的で、カッコよかったから。
先輩に似合うって言われると思ったけど、先輩の反応はイマイチだった。私は外そうとするけど、取れなかった。私はそのことを、あまり気にしなかった。
どうせレプリカだろうし、リカさんの言う通り人間が作った物だしいつかは取れるんだろうって。
でもそれは大間違いだった。レプリカではなく、本物の伝承の鍵だった。伝承の鍵を付けた私やリカさんのところに、天使と悪魔が現れた。
私は怖くて動けなかった。お兄ちゃんや先輩が立ち向かうけど、吹き飛ばされてしまう。心配して駆け寄ろうとしても、悪魔に強引に手を掴まれてしまい、悪魔の目を見ると気を失ってしまった。
目を覚ますと、私の後ろには崖だった。下には溶岩が。変な衣装を着させられ、鎖に繋がれて動けなかった。
周りには悪魔が沢山いた。私は何をされるんだろうと。きっと、悪魔に酷いことをされてしまうんだと。
そう考えただけで、私はまた怖くなって涙を流してしまう。
そんな時、お兄ちゃんや先輩達がやって来てくれた。私を助けるために、来てくれた。
けれど、悪魔達の力は強大だった。後半戦になっても、スコアは0-2。時間だけが過ぎていく。
私は段々怖くなってきちゃう。私、もうここで終わりなのかなって……。
「……いい加減にしろよ」
その時、耳を疑った。酷く冷たく、低い声色でお兄ちゃんにそう言った。
それが、あの先輩だったんだ。
「…お前はあいつの兄だろッ!お前が助けなくて、誰が音無を助けんだよ!」
「比企谷……」
「妹が困っていたなら、兄は手を差し伸べて助けるもんだろ!それがどんだけ恥ずかしくても、惨めになっても、傷付いても!それが、兄としての役目だろうが!」
あんな感情剥き出しな先輩を初めて見た。アルゼンチン戦の時でさえ、あそこまでじゃなかった。
「俺は絶対に音無を助ける…!あいつには、色々と世話になってんだ……汚かろうがラフプレーだろうが、そんなもん知ったことじゃない……!あんなコスプレ軍団に、音無取られてたまるかっつの…!」
その瞬間、私は完全に恋に落ちた。
試合結果は3-2でお兄ちゃん達のチームの勝ち。私は堪らず、まず真っ先にお兄ちゃんのところに飛び込んだ。恐怖を紛らすために、お兄ちゃんの温かさを得るために。
お兄ちゃんに飛び込んだ後、私は次に先輩に向かって飛び込んだ。先輩は挙動不審になっていたが、関係ない。
先輩の声。先輩の温かさ。先輩の匂い。
私はそれだけで、とても安心した。お兄ちゃんと同等の、いや、それ以上の安らぎや温かさを、私は得た。先輩は離れろと言うが、私は先輩から離れたくなかった。
ずっと先輩と一緒にいたい。もう先輩から離れたくない。
比企谷先輩の優しさは、言ってしまえば猛毒だ。先輩は捻くれてるくせに、自分の周りにいる人間には酷く優しい。
その優しさは、他人を病ませてしまうほどまで変えてしまう。その毒に侵されてしまえば、先輩とずっといたくなる。そんな毒だ。
八神さんの言うことが、少しは理解出来たかもしれない。
先輩の優しさを、独り占めしたい。優しさだけじゃない、先輩の全部を独り占めしたい。先輩の声を聞くのは私だけがいい。先輩の目を見るのは私だけがいい。先輩の身体に触れるのは私だけがいい。他の人に譲りたくない。
次から次へと、そんな独占欲が私を支配していく。このまま独占欲に身を任せたら、多分先輩は困っちゃう。だけど、私は先輩と一緒にいたい。
どうしたらいいんだろ……。
「…どうしたの、音無さん」
「へ?」
ずっと比企谷先輩のことを考えていると、不意に木野先輩に声をかけられた。突然のことで、変な声が出ちゃった。
「ずっと比企谷くんのこと見てたけど……何かあったの?」
「い、いえ!なんでもないんです!」
「?…そう?ならいいんだけど」
私は再び、比企谷先輩の方に目を移してしまう。ここまで言って、今更だとは思うけどはっきり言う。
比企谷先輩のことが好き。捻くれてるけどみんなに優しくする先輩が好き。恥ずかしいくせにみんなのために行動する先輩が好き。腐った目だけどそれが却ってカッコよく見えて好き。蕩けるような先輩の声が好き。あの可愛らしいアホ毛を生やした先輩が好き。
全部好き。大好き。
もし比企谷先輩とこれから先もずっと一緒にいれたのなら、とても幸せなんだろうなぁ…。
「…よし!」
決めた。
私は、比企谷先輩にアタックする。あの人の人格上、人の好意には慣れていないと思う。どんどんアタックして、私を意識してもらおう。
幸い、比企谷先輩は私に対して嫌悪感はないと思う。それに、おそらく悩みごとがあったら頼ってくれる筈なんだ。このアドバンテージを、活かさないわけにはいかない。
先輩、大好きです。
いつか、この私の想いが。
先輩に、受け取ってもらえたらいいな。
人の感情とかを表すのは難しいですね。