やはり俺がサッカーをするのは間違っている。 作:セブンアップ
イプシロンとの試合は引き分けで終わり、次の試合までナニワランドの修練場で特訓を続けていた。そんなとき、吉良監督から号令がかかる。
「みんな。今すぐ、福岡の陽花戸中学に向かうわ」
「陽花戸中?なんでそこに行くんですか?」
「俺のじいちゃんのノートが発見されたんだってさ!」
「円堂のじいさんのノート……イナズマ落としや炎の風見鶏が書かれてたあのノートか」
え、何そのノート。私全く知らないんだけど。俺は近くにいる音無にノートのことを尋ねる。
「円堂のじいさんのノートってなんだ?」
「そういえば比企谷先輩は知らなかったですよね。キャプテンのおじいさん、円堂大介さんが様々な必殺技を書き残したノートのことなんです。マジン・ザ・ハンドも、キャプテンのおじいさんが残した必殺技なんですよ」
「そうか…」
円堂のじいさん凄ぇな。様々な必殺技を思いつくインスピレーションがズバ抜けてる。それで完成されてるから、大した人なんだろうな。
「あとで見せてやるよ!じいちゃんのノート!」
そんなこんなで、大阪から福岡に行くことに決まった。俺達はイナズマキャラバンに乗り、ナニワランドから出て行く。
大阪を出てしばらくすると、
「ほら、これがじいちゃんのノート!」
円堂が大量に持ってくる。見た感じ、だいぶ古くなってボロボロである。
「比企谷……覚悟して見ろよ」
「え、何?開けたら死ぬの?そんなファンタジーな本なのこれ」
隣にいた風丸が俺に忠告する。俺は覚悟してノートを開くと……。もはや形容し難い何かが俺の目の前に広がった。
「……風丸、これはなんだ」
「だから言っただろ………これが、円堂のじいさんが残した必殺技なんだ」
「え、必殺技?これが?俺にはぐちゃぐちゃの落書きにしか見えねぇんだけど。何これ」
「これはイナズマ落としの秘伝書なんだ!」
「……因みにこれ、なんて書いてんの?」
「イナズマ落とし。一人がビョーンと飛ぶ。もう一人がその上でバーンとなって、くるっとなってズバーン!これが、イナズマ落としだ」
……頭痛くなってきた。ビョーンとかズバーンとかばっかじゃねぇか。由比ヶ浜とどっこいどっこいかよ。
「…円堂返すわ」
「もういいのか?まぁ、また読みたくなったら言ってくれよ!いつでも貸すからさ!」
「…そうだね。そうするね」
字が汚いし擬音語ばっかりだし。円堂のじいさん、国語の成績ヤバかったんじゃないのか。まぁ何がしたいのかはある程度予想はできるけど。
俺はイヤホンを付けて、眠りにつく。福岡に着くのは、おそらく夕方になるだろう。
そして数時間後。目を覚ますと、派手派手しい大阪とは一転し、何か懐かしい様子を思わせる景色が広がっていた。
「……もう着いたのか?ふぁ…あ…」
俺は欠伸をしていると、隣の風丸、前の席にいる財前などに笑われる。
「…え、何?何か人の顔に付いてる?」
「ひ、比企谷……これ……ぷ、くくくっ……」
風丸から手鏡を受け取る。手鏡で自分の顔を見ると、無残に落書きをされた跡が。
「…え、まさか風丸?」
「ち、違うよ。木暮だよ…くくくっ……」
木暮は後ろでしてやったりみたいな顔をして笑っている。
ほほう。人様がすやすや寝てる間に落書きするとは、だいぶヤンチャなことだ。
「そろそろ着くぞ。陽花戸中だ」
円堂大介が残したノート……か。まぁ円堂にしか読めない魔法書みたいなもんなんだろうけど。そんなものが、なんで今の今まで発見されなかったんだろうか。
陽花戸中に入ると、グラウンドには杖をついてスーツを着たおじいさんと、周りにサッカー部員らしき者達が集まっている。
「…なんだこの迎えは」
「遥々遠いところからよう来んしゃった。私は、陽花戸中の校長ったい。そして周りにいるのは、陽花戸中のサッカー部ったい」
校長の挨拶とともに、円堂とはまた違うバンダナを巻いた男が挨拶をする。
「ようこそ、陽花戸中へ。俺は陽花戸中キャプテンの戸田だ。会えて嬉しいよ、雷門のみんな」
「よろしく!俺は円堂守だ!」
「知ってるよ。FFを優勝したんだ。陽花戸中みんな、雷門中のファンさ!」
まぁその時俺いないけどね。ファンになったの、多分初期メンバーだよね。
「そっかー!なんか嬉しいな!みんなよろしく!」
「よろしくお願いします!」
陽花戸中のみんなが声を合わせて挨拶をする。凄え人望だ。俺には今後一生ない縁だわ。
「おい立向居!何してるんだ?」
「え、あ、あの……」
戸田は立向居という人物に声をかける。その立向居は、サッカー部員の後ろに隠れて何やら緊張している。
「お前円堂くんに会ったら絶対話すって言ってただろ?」
「は、はい!」
立向居は緊張しながら、円堂の前に歩いて行く。
「お、俺、陽花戸中1年、立向居勇気っていいます!円堂さんに会えて、俺感激してます!良かったら、握手してもらえませんか?」
「おう!いいぞ」
何を見せられてるんだろうか俺は。その後、一頻り陽花戸中と話し終えたあと、校長が、吉良監督と雷門と円堂を連れて円堂大介のノートについて話すということで一旦離れた。
その間、みんなは合同で練習を始めていた。
「?比企谷先輩は練習しないんですか?」
「俺、イプシロン戦でもあんま役に立ってなかったからな。チームワークとかよりサッカーの基本からまだ学ぶ必要がある」
「でも、もう比企谷くん立派にサッカー出来てると思うけど……」
「ま、あれだ。念には念をってやつだ」
そう言って、俺は離れて木陰で練習をする。確かに俺は練習をしたかったが、もう一つ気になることがある。
吹雪のことだ。
イプシロン戦ではあいつが大活躍だった。だが、デザームにエターナルブリザードを何発も止められたことが精神的疲労をより蓄積していたに違いない。
ただでさえ人格を使い分けるなんてあり得ないことをやってる上に、エースストライカーの責任。デザームに止められる悔しさ。そして、デザームから点を取れるのが吹雪なのだとみんなが信頼している。
吹雪は、もうきっと限界に近い。キャラバンを辞めさせた方が、吹雪の為になるのかもしれない。
しばらくそんなことを考えつつ、一人で練習していると円堂達が戻ってきており、何やら騒がしくなる。
とりあえず木陰から離れてみんなのところに集まる。
「…何の話してんの?」
「今から陽花戸中のみんなと練習試合するでやんす」
「あぁ…。じゃ、栗松。あとは頼んだ」
「えっ?比企谷さんは出ないでやんすか?」
「こないだお前の代わりに出ただろ。俺は今回パス」
そう言って、俺はまた一人で練習を始める。みんなは配置に着いて、試合を開始しようとした。
誰もが平和な光景だと思った。そんな中。
「ッ!?」
誰かに視線を向けられていると思い、俺はその方向に振り向く。
「どうしたんですか?比企谷先輩」
「……ちょっと抜けるわ」
……もしさっきのがエイリアなら、また面倒なことが起きるに違いない。確か、裏門の方から視線が感じたはずだ。
俺は裏門に走り、裏門の外に出て周りを見渡す。しかし、誰一人としていない。
「……気のせい、だったか…」
「気のせいではない」
「ッ!?」
俺の後ろには低い声をした女の声が聞こえる。振り向くと、どう考えても一般的な服ではなく、まるでエイリアが着こなしそうな服を着た、青髪の女がいた。
「……誰だ、お前」
俺は警戒を高める。さっきまで周りに誰一人いなかったはずなのに、急に現れたこの女。
「…そんなことは時期に分かる。それより、比企谷八幡。お前を我がチーム、ザ・ジェネシスに迎え入れる」
「ザ・ジェネシス……?やっぱお前ら、エイリアのやつらか」
「この間のイプシロンの試合を見たぞ。我々ならばお前達のような貧弱なチームなど容易に叩き潰せる。しかし、お前は他のやつらより素質がある」
「だから買いかぶりなんだよ。ただの人間に、そこまで求めてんじゃねぇよ」
「…フッ。まぁいい。しかし次会う時は、お前の答えは関係なく、貴様を連れて行く」
そう言って、彼女は眩い光を放ちながらその場から去っていく。
「はぁっ……はぁ……」
彼女が去った途端に、俺はその場で座り込む。
名前は知らないが、あいつのあの目……俺は寒気がした。敵意ではない………だが、その形容し難い何かが、俺に圧迫感を押し寄せた。
「比企谷先輩!?どうしたんですか!?」
「お、音無か……何でもねぇよ……」
さっきのやり取りを聞かれていたのなら、きっと音無にも被害が行くし、そうでなかったとしても、音無達に話すのは違う。
「何でもないわけないですよね!?一体、何があったんですか!?」
「いや、そんな大声出さないで。何事かって思われちゃうよ?」
「でも、比企谷先輩の顔青いですよ!?」
…思ったよりぐいぐい来るなこいつ。騒ぎになりかねないし、とりあえず。
「あれだあれ。あの、蜂の大群が来たんだよ。だから陽花戸から離れてダッシュで逃げてたんだよ」
「……本当ですか?」
「嘘ついてどうすんだよ」
「……わかりました。比企谷先輩がそう言うなら、私も納得します」
音無はまだ納得いかないという表情だったが、ひとまずは落ち着いたようだ。
「じゃ、早く戻りましょう。陽花戸中との試合、まだ始まったばかりなんですから」
そう言って、俺達は陽花戸中グラウンドに戻っていった。