やはり俺がサッカーをするのは間違っている。 作:セブンアップ
陽乃さんとの契約は保留となった今、俺が集中しなければならないのは決勝戦だ。
オルフェウスを圧倒したリトルギガントの実力は未知数。加えて、円堂の爺さんの完璧な采配と雷門の鋭い洞察力。
だから危険視していたのだが……。
「今日からイナズマジャパンのマネージャーとなった、雷門夏未だ」
雷門中の制服を着て、監督から紹介を預かった雷門。雷門がイナズマジャパンのマネージャーになるということに、みんなは少なからず疑問を抱いている。
昨日までリトルギガントのマネージャーだったやつが、急にイナズマジャパンに来たんだから。
「いいのかァ?あっち行ったりこっち行ったりするやつなんかチームに入れてよ」
不動の言い分は分かる。
正直、雷門が何を考えているか読み取れない。だからこそ、最終的な判断をするのは、円堂だ。
円堂は雷門の前に一歩を踏み出し、右手を差し出す。
「よろしくな!夏未!」
円堂は迷いなく、雷門をチームの一員として受け入れた。
「…えぇ。こちらこそ」
雷門は微笑み、円堂の右手を握り返した。
「よろしく頼むぞ!」
「お願いしますっス!」
「えぇ。よろしくね」
ま、これがイナズマジャパンなんだよな。本当、どいつもこいつもお人好しなことで。それが、このチームのいいところではあるんだけど。
「よし!練習開始だ!」
「「おう!!」」
雷門を迎え入れて、俺達は練習に励んだ。
準決勝では、ロニージョ達がガルシルドに縛られていたことが幸いして勝利した。もしガルシルド抜きで、最初からザ・キングダムのサッカーを見せつけられていれば、負けていたのは俺達の可能性がある。
それに、ブラジル戦やチームガルシルド戦では、俺はあまり役に立てていない。
このままじゃ、完全な力不足だ。
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そして時は深夜になる。
「……寝付けないな」
妙に目が冴えてしまった俺は、気分転換に宿舎の外に出る。周りは誰もおらず、そして深い暗闇と化している。せめてもの灯りは、電灯だけ。
「…自販機で何か買うか」
そう思い、俺はジャパンエリアにある自販機を探した。
自販機を見つけ、何にしようか迷っていた。
「…つか、パンさん売ってんならマッカンも売っとけよ…」
そんな皮肉を一人で呟いていると。
「……お兄ちゃん……」
「…は?」
今、聞き間違いでなければ、我が妹の小町の声が聞こえてきた。周りを見渡してみるが、俺以外誰もあるいていない。
「…幻聴か?」
よく考えてみれば、そもそも小町がこんなところに来るわけがないし、たとえ来たとしても、こんな深夜に一人では出歩かないだろう。
それにしても、我が妹の幻聴が聞こえてくるとは。それほど小町成分が足りなくなってきたということだろう。
小町ぃ、早く会いたいよぉ。
「…お兄ちゃん…」
「……また?」
小町成分はさておき、いくらなんでも幻聴が聞こえてくるほど俺はそこまで落ちぶれてない。
いや、もしかすれば小町じゃないかもしれない。迷子の可能性だってある。
「……誰か、いるのか?」
「…お兄ちゃん……。小町だよ……」
「ッ!?」
今はっきりと、一人称を小町と名乗った。迷子ではなく、小町の声だ。
「…小町?どこだ?」
「…後ろだよ。お兄ちゃん」
「は?」
俺が後ろを振り向くと、そこには本当に小町がいた。ショートカットで俺と同じアホ毛を生やし、八重歯が特徴の小町がそこにいた。
「こ、まち……?」
「うん、小町だよ。お兄ちゃん…」
「…なんで、ここにいるんだ?つか、こんな深夜に何を……」
俺の問いに、小町は遮る。
「お兄ちゃん」
「…どうした?」
「……サッカー、楽しい?」
小町が唐突に尋ねてきた。
何故急に、こんなところで、こんな時間に、そんなことを聞いてくるんだ…?
「…なんで、そんなこと聞いてくるんだよ」
「…だって、サッカーは危ないスポーツなんだよ?そんな危ないスポーツに、お兄ちゃん達は必死になって大会で戦ってる……。いつ怪我するか分からないのに……」
「…おい、どうしたんだよ」
「お兄ちゃん。サッカー、やめよう?」
「急に、何を……」
小町がいきなりそんなことを言い放った。小町は悲しげな表情をしながら、話を続けていく。
「忘れたの?サッカーなんてものがあるから、小町達の学校を壊されたんだよ?サッカーなんてものがあるから、小町は悪いやつらに拐われたんだよ?」
「…それは……」
確かに。
言われてみれば、サッカーに関わってきてから奉仕部にいた時以上の面倒ごとが俺にのしかかってきている。
「…それに、お兄ちゃんはきっと無茶をする。その無茶のせいで、また怪我するの。サッカーなんてものが無かったら、怪我することなんてない筈なのに…」
「…まるで、決勝戦で俺が怪我するかも知れないって口ぶりだな」
「…だって、今までお兄ちゃん無茶してきたでしょ?エイリア学園の時も、世界大会の時も……小町、これ以上傷つくお兄ちゃんは嫌だ。だから、サッカーやめよ?サッカーやめて、また雪乃さんや結衣さん達と奉仕部で楽しく過ごそう?」
「………」
小町が俺に向けて、手を差し伸べる。
そんな差し伸べられた手を俺は………。
「えっ……」
パシィっと、引っ叩かれた音が静かな街中に響き渡る。
そう。小町から差し伸べられた手を、俺が勢いよく払って。手を払われた小町は、驚きの表情に変わる。
「……お前、誰だ」
俺の言葉に、小町は慌て始める。
「な、何言ってるの…?小町だよ?お兄ちゃんが好きな、妹の小町だよ…?」
「確かに、小町は兄想いで、俺が無茶した時も心配してくれたり、相談に乗ってくれたりする可愛い妹だ。……だがな」
俺は小町に、目の前の人物を睨み付ける。
「俺の知っている小町はそんなことは言わない。必ず最初に、"小町に話してみて?"って決まり文句があるんだよ」
「……あ…」
「そんで俺が話した時、あいつは、"ごみぃちゃんのことだから、仕方ないな"って呆れながら許容してくれるんだよ。で、最後になんやかんや応援してくれる。……俺のことを、一番理解してくれているからな」
小町は何も言葉を発しなくなる。ついには、顔すら俯かせてしまう。
「…もう一度聞く。お前は誰だ」
「……チッ」
すると小町と思われる人物は、顔を上げてこちらを睨み付ける。そんな敵意を向けながら、目の前から忽然と姿を消した。
「…なんだったんだ……今のは……」
一体誰だったのだろうか、今のは。言葉を交わして分かったことは、妙にサッカー嫌いだってことくらいだ。
小町からしてみれば、サッカーを嫌いになっても仕方ないかも知れないが……それでもあいつは笑顔で、俺を世界大会に送り出してくれた。
つまり、小町がサッカー嫌いという説は少なからずない。
小町の偽物……にしてみれば、中々似せてきている気はする。
ガルシルド………ではないだろうな、多分。
「…夜に出歩くもんじゃないな」
俺は自販機で缶コーヒーを買って、そのまま宿舎へと戻っていった。偽小町の言葉を頭の片隅に残しながら。
『サッカー、やめよう?』
小町の言う通り、サッカーをしてから碌なことがなかった。
エイリア学園に学校破壊されて、小町共々連れ去られてしまう。よく分からん犯罪者に危うく手を出されるところだったし、天使と悪魔が俺達を襲ったりするし。
だが、サッカーが危ないスポーツだと言うならば、野球もバスケもラグビーも危ないスポーツだろう。そんなことでビクビクしているようならば、そもそも最初からサッカーはしていない。
それに、意外と悪くないものだったりするのだ。サッカーというスポーツは。ぼっちでも出来るスポーツだしね、テヘッ。
「…まぁ、サッカーアンチなんているだろうし。そこまで気にする必要はないよな」
そんなことより、決勝戦に集中しなければならない。一々気にして戦っていられるほど、今の俺に余裕はない。