やはり俺がサッカーをするのは間違っている。 作:セブンアップ
オルフェウスとの試合が終えたその夜。
「それじゃ、繋ぎまーす!」
モニターを点けると、その瞬間に大歓声がモニターから響き渡る。
「な、なんだ?」
「おーい!イナズマジャパンのみんなー!こんにちはー!!」
「「こんにちはー!!」」
モニターに映し出されたのは、雷門中サッカー部の半田や松野などの面々だった。
「見てくれ!みんな雷門中サッカー部なんだ!」
モニターがズームバックされると、体育館には数え切れないくらいの雷門中の生徒が集まっていた。
「「えぇーッ!?」」
雷門出身のみんなは、特に驚いている様子だった。
「うちの学校から、イナズマジャパンに沢山選手が行ってるだろ?おかげで、サッカー部の人気が上がったんだ!」
「アジア予選の時から、どんどん部員が増えてきてるんだよね!」
「毎日入部希望者が来てるんです!一年から三年まで、こーんなにいるんです!」
凄ぇな。たった十数人しかいなかった部活が、あんなに増えるなんてな。まさに圧巻。
すると、そんな時。俺のケータイが震え始める。
「誰からだ…?」
ケータイを取り出すと、着信先にはハートとかキラキラした絵文字が並んで表示されている。しかし、その絵文字の間に、平仮名で"ゆい"と表示されている。
つまり、これは由比ヶ浜からの電話だ。
「雪ノ下。ちょっと来てくれ」
「?」
俺達は一度部屋から出て、俺の部屋に連れ込んだ。連れ込んだって表現がなんかヤバいが、まぁそこは置いといて。
スピーカーをオンにして、電話に出る。
「あ、ヒッキー!やっはろー!!」
「由比ヶ浜さん…」
「ゆきのーん!超久しぶりだね!」
「…えぇ。久しぶりね」
なんだか由比ヶ浜と話すのが懐かしく感じる。たった2ヶ月程度会っていないだけなのに、なんだか懐かしい。
「私もいますよー!」
「お兄ちゃん、雪乃さーん!」
「一色に小町まで…」
あざとい小悪魔こと一色と、我が妹の小町まで一緒にいる。
「せんぱーい!私がいなくて寂しかったですかー?」
「全く。むしろ清々したよ」
「なんでそんな反応になるんですかぁー!」
相変わらずあざといな小娘よ。
「…それで、どうしたのかしら?」
「あ、うん!ヒッキー、ビデオ通話に変えてくれない?」
「え?おう」
俺はビデオ通話に変える。すると、小さい画面の中には由比ヶ浜と一色、小町がいた。
「久しぶりに、二人の顔を見た気がする」
由比ヶ浜ははにかんで、そう言う。
「まぁ、久しぶりではあるな。それで、どうしたんだ?」
「明後日、決勝戦でしょ?だから電話かけたの!それに、実はここにいるの小町達だけじゃないんだよ?」
「え?」
由比ヶ浜達が一度退き始めると、次に画面に映し出されたのは…。
「八幡!久しぶり!」
「戸塚あぁぁーッ!」
待って戸塚出てくるとか八幡聞いてない。すっぴんのままで電話しちゃってるわ恥ずかしい。
「バカじゃないの、アンタ…」
「川崎さんまで……」
「知り合いが世界大会の決勝戦に出るってなるなら、一応応援はしとく必要があるでしょ」
「うん!八幡が活躍する姿、みんなで見るからね!」
よし任せろ戸塚。戸塚のためにハットトリックかましてやるぜ。戸塚のためなら俺頑張れる。
「…まぁ、頑張りなよ。大志やけーちゃんも応援してんだから」
「ありがとな。戸塚、川崎」
「頑張れ、八幡!」
二人はそうエールを残して、画面外へと消えていく。次に画面に映し出されたのは、平塚先生だった。
「久しぶりだな。比企谷、雪ノ下」
「平塚先生…」
「お前の活躍は見ているよ。決勝戦まで、よく上り詰めたな。だが、泣いても笑っても次が決勝戦だ。私がお前に言えることはただ一つだけ。……悔いを残すな。自分が納得出来る、最良のプレーをしてこい」
「…本当、カッコいいっすね。あんた」
なんでこんなカッコいい人が結婚出来ないのかなぁ。このままだと俺が貰っちゃうよ?いいの?
「今度、二人が帰ってきたら一緒にラーメンでも食おう。イナズマジャパンでの、手土産話を持ってね」
「…そうですね。楽しみにしてます」
「ではな。頑張れよ」
平塚先生はカッコよく言い残して、画面から消えていく。
「まだまだせんぱい達に話したい人が沢山いるんです!次どうぞー!」
「え、まだいるの?」
戸塚に川崎に平塚先生来たら十分じゃない?
材木座?そんなやつ俺の知り合いにはいないよ?気のせいだよ?
次に画面の中に入ったのは、葉山だ。
「葉山……」
「比企谷、雪ノ下さん。久しぶりだね」
「…珍しいな。お前がこういうのに参加するなんて」
「川崎さんの言う通り、知り合いが世界大会の決勝戦に出るなら応援しないわけにはいかないだろ?」
義理堅いことで。別に嫌ならしなくてもいいんだけどね。
「ヒキオ!隼人が応援してんだから、絶対に優勝しろし!」
「三浦さん…」
葉山や、あの三浦までがエールを飛ばしている。対して仲がいいわけでもないのに、わざわざ時間を割いてまでこんなことをするとは。
「ヒキタニくん!俺達、めっちゃ応援してっから!」
「あ、帰ってきたらジャパンの話も聞かせてね。男の子がいっぱいいるでしょ?特訓や試合中に、ヒキタニくん達が不可抗力で絡み合って………キマシタワーっ!!」
「ちょ、海老名擬態しろし!」
相変わらずのやかましいグループなことで。
「…比企谷。決勝戦、勝てよ」
「…おう」
葉山達はそう言い残して、画面外から消えていく。
「次!城廻先輩です!」
小町がそう言うと、画面には城廻先輩が映される。
「こんにちはー。久しぶりだね、二人共」
「お久しぶりです、城廻先輩」
「比企谷くん、次は決勝戦だね。きっと、比企谷くんにとっては大きい思い出になる。平塚先生も言ったように、悔いだけは残さないでね?」
「…分かりました」
「じゃあ比企谷くん。決勝戦、頑張ってね。ふぁいとー!」
城廻さんはそう意気込みながら、可愛らしく応援する。何これ可愛い。流石マイナスイオン放出する城廻先輩。
城廻先輩と入れ替わって、由比ヶ浜が再び映される。
「ヒッキー。次に出てくる人には、ちょっと驚くかも知れない。けど、ちゃんと聞いてあげてね」
由比ヶ浜が神妙な面持ちでそう伝える。由比ヶ浜がまた画面外から消えると、入れ替わって映し出されたのは、驚きの人物だった。
「……相模さん」
画面に映し出されたのは、相模南だ。しかし、対峙したあの時の様なてきいはなく、今はただ悔恨の表情だった。
「……珍しいな、お前も。まさか、相模まで参加するなんてな」
「ウチが参加するって言い出したの。ずっと言いたいことがあって……」
すると相模は、突然頭を下げ始めた。
「ごめんなさい!」
「相模…?」
「……あの屋上の時のこと、謝りたかったから。ウチの我が儘で、みんなに迷惑かけて……それに、あんたにも悪いことしちゃったから…」
相模が謝っているのは、文化祭の時のことだろう。本番のプレッシャーに潰された相模は、文化祭実行委員長でありながら仕事を放棄した。由比ヶ浜や雪ノ下が即興ライブで時間を稼いでいる間、俺は相模を連れ戻すことになった。
しかし、俺は葉山の様に優しく言うことも出来ないし、何より葉山がただ単に連れ戻せば、雪ノ下がやってきたことが無意味になる。
だから、俺は俺なりに。
相模を徹底的に追い込んだ。結果的には、相模も戻り、相模の依頼も、雪ノ下の努力も無にならなかった。
自身の評判と引き換えに。
「…最初、イナズマジャパンのサッカー観てた時、あんたの姿を見てこう思った。あんたみたいなやつは場違いだって。どうせ足を引っ張るに決まってるって」
まぁあながち間違いではないけどね。
「…でも。アジア予選や世界大会じゃ、あんたは活躍してた。足を引っ張るどころか、みんなから頼られるやつだった。だから、ウチは思い返してみたの。…なんで、あんたがあんなことしたのかって」
「…相模…」
「みんなから頼られるやつが、なんであんなことするんだって。だからずっと考えてた。それで、分かったの。………全部、我が儘なウチが悪かったんだってこと」
相模の表情は、段々と暗くなっていく。気づけば、彼女の目には微かな涙が流れ始めている。
「…ウチの我が儘で、比企谷や雪ノ下さん、それに城廻先輩や、みんなに迷惑をかけたんだって分かった。あの時、あんたがあんなことを言ったのは、私の評判を悪くしないためだったんでしょ?」
相模は本気で悔やんでいた様子だった。あれだけプライドの塊の様なやつが、一変してちゃんとした人間になっていた。
だが、一つ違うことがある。
「…ウチって、本当に最低だよね。ウチのせいで、比企谷が…」
「それは違う」
「えっ…?」
相模が言っていることは違うのだ。確かに、色々迷惑はかけられた。だが、あの屋上での一件は違う。
「別にお前を助けたくて助けたわけじゃない。あれが、俺が思い付いた最善の策だっただけだ。結果的にお前が助かったのかは知らんけど、お前が謝る必要も悔やむ必要もない。それに、嫌われていたのは文化祭前からずっとだ」
「それでもっ!ウチがサボらなきゃ文化祭はちゃんと回った!結衣ちゃんや雪ノ下さん達が時間を稼ぐ必要がなかった!…全部、全部ウチが悪いんだよ……。……ウチなんて、死んだ方が………」
こういう時、葉山ならば「そんなことないよ」って、気の利いたことを言うのだろう。
しかし、相模がサボって迷惑をかけたのは事実だ。そんなことをないと言っても、今の相模は納得しないだろう。
「…確かに最低だよ、お前は。あれだけ我が儘に、やるだけやって色んな人に迷惑かけてんだから」
「っ……だよね……」
「だが、それを自覚して、後悔してんなら上出来だろ。少なくとも、俺からしてみれば今のお前は最低じゃねぇよ」
「比企谷……」
「だからこの話はこれで終わりだ。過去を清算出来てんならそれでいい。自分を最低と言う必要も、死にたくなると思う必要もない。堂々と、プライドのお高い相模南をしていればいい」
そう。終わりだ。
一々過去を引っ張ってくる必要はないし、相模自体はちゃんと反省して、成長しようとしている。
「…ぷっ。何それ」
相模は少し吹き出す。暗い表情をしていた彼女は、段々と晴れやかになっていく。流していた涙を拭い、目を赤くしながら、彼女はこう言った。
「…ありがとっ。比企谷」
「……おう」
相模に感謝を伝えられる日が来るとは思わなかった。俺は思わず、短く返してしまった。
「…あ、ごめん。折角の決勝戦前に、ウチの面倒な話しちゃって…」
「別に気にしてねぇよ」
「比企谷。ウチ、応援してるから。帰ってきたら、色々聞かせてくれる?」
「…気が向けばな」
「…うん。頑張りなよ、比企谷」
そう言って、相模は清々しい表情で去っていった。再び、由比ヶ浜や一色が画面に映る。
「ヒッキー、頑張ってね!帰ってきたら、今度ハニトーの店に連れてってよ!」
「お前はそれ以前に受験勉強頑張れ」
「…そうね。私達が帰ったら、きっちり教えてあげるわ」
「ううう……」
「じゃあせんぱい!私受験生じゃないので、どこかに連れてってください!」
「俺は受験生だから無理だな」
「ぶーぶー!」
「あざとい」
リアルでぶーぶー言うやつなんて初めて聞いたよ。赤ちゃんですらばぶーなんて言わんぞ多分。
「…じゃ、雪乃さん。お兄ちゃんのこと、お願いします」
「えぇ」
「お兄ちゃんも!決勝戦、頑張ってね!優勝したら、帰ってきた時小町のハグで迎えてあげるから!今の小町的にポイント高ーい!」
「そうだな。小町にハグされるなんて、八幡的にポイント高い」
「最後までシスコンだぁ………。とにかく、頑張ってね!ヒッキー!」
「…あぁ。じゃあな」
そう言って、通話が切れる。
みんなの思いが詰まった時間だった。葉山や三浦、相模までもが俺を応援してくれている。
勝手で過度な期待だ。
それでも、俺はそれに応える必要がある。それが、イナズマジャパンの一員である俺の役目だからだ。
俺はケータイをポケットに入れて、俺はドアノブに手をかける。
「…比企谷くん。由比ヶ浜さん達の思いに、応えましょう」
「……そうだな」
俺は戸を開けて、部屋を出る。そのまま宿舎の出口へ向かい、戸を開ける。目の前に見えるグラウンドには、ナイターの中でみんなが練習している姿だ。
「…すっげ」
15分ハーフだったとはいえ、オルフェウスと試合した今日の夜に、あんな嬉々として練習している。雷門からの動画を途中から観ていないから知らんけど、きっとみんなも日本にいるやつらからのエールで刺激を受けたのだろう。かくいう、俺もそうなんだけど。
俺は一足遅くに、グラウンドに足を踏み入れた。
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翌日。
いよいよFFI世界大会決勝戦前日。今日は総仕上げであり、明日に向けて調整する日である。
前日だけあって、やはりみんな気合が入っている。
だが。だがしかし。
必殺技思いつかなくてマジやばい。
シュート技は止められるし、オフェンス技もブロック技も通じるか分からん。せめて決勝戦では見せ場一つくらい残さなきゃ、気が悪い。
「難しい顔してるね、比企谷くん」
「ん?」
俺が悩んでいると、吹雪が声をかけてくる。隣には、鬼道も。
「明日は決勝だ。難しい顔をするな」
「つってもな……」
「心のその七。ユルスツヨサ」
「え?」
吹雪が唐突にそう言い始めた。確か、円堂の爺さんが書いた最後のノートだったっけ。
「あのノートで、一番心に響いたのがそれなんだ。僕は、ずっと完璧という言葉に囚われて、それが出来ない自分を許せなかった。僕は僕なんだって思えなかった」
吹雪といた時間は短いが、それでも彼が背負っていた心の闇は知っていた。イプシロン戦以降、相当思い詰めていたからな。
「…でもみんなのおかげで、強さも弱さも、間違いなく僕自身だと気づいたんだよ」
吹雪は拳を胸に当てる。
「あのノートは、自分自身を見つめ直すものなんだ」
「見つめ直す……か」
俺の今まで見つめ直しても碌なもんじゃないぞ。エイリアに拐われているわけだし、そもそも最初からサッカーやる気じゃなかったわけだし。
でも、今はそれほど悪くはないと思えるのだ。サッカーなんて、やるにしてもずっと一人でやってきていたからな。誰かと一緒にサッカーするなんてことは、今までなかった。
体育でサッカーがあってもサボってるわけだし。
「自分が分かれば、心の奥底に眠っていた力を引き出せる。僕にとってそれが、心のその七。ユルスツヨサ」
「…まぁ、強くなるきっかけが出来て良かったんじゃねぇの」
「うん。……鬼道くん。それに比企谷くん。力を貸して欲しいんだ」
「…俺は円堂と会って、サッカーへの思いを見つめ直し、変わることが出来た。比企谷はどうだ」
「俺は……」
別に俺は何も変わっちゃいない。この捻くれた性格も、ペシミストでどうしようもないところも変わっていない。集団でいることの良さなんて全く感じない。
だが。
雷門に、あの円堂というサッカーバカに出会って。サッカーをすることの楽しさや、こいつらと同じ目標を背負って戦うことに、不思議と嫌悪感は抱かなくなっているのだ。
もとよりサッカーは好きじゃないし、団体行動も苦手だ。諦めちゃならないとかいう言葉も、傲慢じゃないのかと思っていた。人間諦めてもいい時だってある。それを強要することに、俺は気に入らなかった。
けど、それでもこいつらと一緒にいることに嫌な思いはしないし、ピンチになっても、最後まで諦めちゃいけないとかいう考え方にも嫌な思いはしない。むしろ、自分はそうしたいのではないかと、無意識にのうちに思い込んでいたのかも知れない。
要するに、円堂と出会って、自分の中で何かが変わり始めていたのだろう。それがいいかどうかは分からんけど、嫌な思いはしないことは確かだ。
「……あのサッカーバカとずっといりゃあ、嫌でも何かは変わるだろ」
「…比企谷らしい答えだな」
「そんな僕達だからこそ、手を組めば大きな力を手に入れられる。やってみようよ。新しい技を」
「なるほど、連携技か……。やってみる価値はあるな」
「うん!やろう、鬼道くん!比企谷くん!」
「…そうだな」
吹雪と鬼道はボールを持って、円堂がいるゴールに走っていく。
改めて思った。
こいつらとサッカーするのは、案外悪くないのだと。