俺は、俺たちは、死んだ世界戦線から卒業した。また会えると信じて、1人、また1人と人生の未練を断ち切って、俺たちは卒業したんだ。
そして俺、音無結弦は、どういうわけか記憶を持ったまま新しく生を授かった。
記憶は最初からあった訳じゃない。1番最初に自分が音無結弦としての記憶を思い出したのは4歳のとき、極めて平凡な家庭で、でもその平凡が恵まれた環境だということを噛みしめ、今日18歳になるまでを生きてきた。
そして何の偶然だろうか、何故か名前は弓弦、だったのだ。もちろん苗字は変わっていて、鷹原、ではあったのだが、もしかしたら神様がわざと同じ名前にしたのかもしれない。もう一度みんなと出会いやすくするために。
それだけじゃない、何故か見た目も、髪の色は黒に変わっていたものの、ほとんど前と遜色ないレベルだ。全く違う自分に違和感をだくよりは良いのかもしれない。
とはいえまだ死んだ世界戦線のみんなとは1人も出会っていない。奇跡というのはそう簡単に起こるものでもなく、俺は半分みんなと出会うことを諦めていた。
別に今の生活に不満があるって訳じゃない。色んな人を助けたいという思いで、俺はそこそこ有名な大学の医学部に入ることが出来た。
今日はその入学式、てわけだ。慣れもしないスーツに身を預けて、少し前世の出来事を思い出して気分が悪くなって、でも新鮮な気持ちで電車に揺られる。
かなでもいるかもしれないな、なんて、そんな馬鹿なことを思いつつ、でもそんな期待も捨てきれなくて、なんとも言えない気分でうずうずしながらも大学に到着した。
大勢の新入生であろう人達がみなそれぞれ違った期待を持った様子で門をくぐっていく。かく言う俺もその1人。なんとなくそわそわ、きょろきょろしてしまう。知り合いなんているはずもない。アパートを借りて遠くの大学まできているから、友達と登校、なんてことも出来なかったのだ。
きょろきょろしていると、ふと、そんなはずは無いのに見た事のある、とても馴染み深い顔を見つけた。
まさか、そんな、そんなことってあるのか。
そこには髪の色こそ違うものの、死んだ世界戦線元リーダー、仲村ゆりとそっくりの人物が緊張した面持ちで佇んでいた。
☆
「まさかそんなことあるはずないよな…」
思わず独り言が出てしまう。周りはガヤガヤしているので特別目立ちはしなかったが、近くを通っていく人には少し見られて、気まずい気分になった。
声をかけてみたい衝動に襲われた。というか、意志とは無関係に、俺はゆり…いまは分からないがゆりかもしれない人物の後を追っていた。
良くない考えがよぎる。
そもそも、他人の空似ということもあるんじゃないか、ほら、リーダーだった時はもっと凛としていたしな、みてみろ、今はなんだかオドオドして緊張しているみたいだ、ゆりはそんなたまだったか、嫌でも、卒業式のときは普通の女の子らしい雰囲気になっていたじゃないか。
……記憶は、あるんだろうか。
もし向こうも記憶があるのなら、声をかけて、俺の今の姿を見せれば、すぐに気づくだろう。不審かもしれないが、とりあえず声をかけてみるしかないんじゃないだろうか。
でも、もし知らない、て態度をとられた時俺は、穏やかでいられるのか?
怖い。そんな感情が俺を襲った。目の前にいるのにとても遠い。
「でももしゆりだったら…」
いや、違う。記憶がもしなくても、あれはきっとゆりだ。髪の色以外何も違いはないじゃないか。俺だって見た目はほぼ前世と変わらない。奇跡はもう起きてる。疑う余地なんてない。
勢いよく近づいて、セクハラかもしれないと迷いつつも、ゆり、かもしれない彼女の肩を掴んだ。
「ひゃっ!?!!??」
「うわあ!!???!?」
びっくりされすぎて、俺も変な悲鳴をあげてしまった。
「な、だ、だれ!!!………て、え………」
ゆり、かもしれない誰かは、振り返って俺の顔を見るなり固まってしまった。
緊張が走る。ただ驚きすぎて不審に思っているだけかもしれないし、でももしかしたらこの反応は…。
「もしかして、音無くん…なの…?」
ゆりは、あっけに取られた表情をして、そのままの表情で涙を流した。
「今は音無じゃないけど…、ゆり、なんだな」
「うん…うん…!私よ!ゆりよ!音無くんっ…!」
ゆりは泣きながら俺の胸に飛び込んできた。おれはそれを拒否せずそのまま抱きしめた。
「わたし、もう誰にも会えないと思って!だってもう18年も誰とも会わなかったんだものっ!」
「そうだな、俺も実は諦めかけてたんだ。そしたら、ゆりっぽい?子がいたからさ、もしかしてって思って。」
「うっ…、ひぐっ、……ぐすっ、会えて嬉しいわ、音無くん…」
「俺もだよ、ゆり。まさかこんなところで会うなんてな」
その存在を確かめるように、強く、強く抱きしめた。ゆりはここにいる。なら、かなでや、他のみんなだってきっと…。
ゆりはしばらく俺の胸で泣いた。周りから好奇の視線をあびせられるのがちょっと恥ずかしかったが、それよりも会えたことが、本当に嬉しかった。