今日から授業が始まり、次の授業にまで時間があるので、図書館に向かっていた。
それはそうと昨日の話だが、アパートを解約していたとゆりは言っていたが、それは嘘だったらしく、
『そんなすぐ解約出来るわけないじゃない。あの時の流れ的にそう言っといただけよ。』
まあそれはそうだが、いくらなんでも男の感情を弄びすぎじゃないだろうか。あれで結構重大な決断をしたつもりだったんだが、それを嘲笑われた気がする。
「ゆりは別の意味で強かになったなぁ」
とため息をつく。
「何か言ったかしら?」
「うおお!??!!?」
ゆりだ。狙ったかのようなタイミングでやってきた。
「別の意味で何って?」
「ははは、まあいいじゃないかそれは。」
思わず冷や汗が出る。別にすごく悪いことを言っていた訳では無いのに、何故か意味もなく焦ってしまう。
ゆりは少し不満そうだ。
「ふーん、恋人の私に隠し事するって言うのね。まあもちろん、恋人だからってなんの隠し事もないとは言わないけれど、改善して欲しいこととか、そういうのは悪いと思ったら直すから言って欲しいわ。」
「あ、ああ。分かったよ。なら言うけど、昨日みたいな騙し討ちみたいなのはこれっきりにしてくれないか。ちょっと傷ついた。」
ゆりは少し考え込むようにして言い放つ。
「…まあ、そうね…。あのときは必死だったっていうのもあるけど、、悪いとは思ってるわ。でも後悔はしてない。」
「後悔はしてないって…。まあいいよ、改めてくれるんなら。」
少し溜息が出るが、まあ歩み寄ろうとしてくれている、という訳でもある。そう無碍にできたものでもない。
「ところで、今はどこに向かってたの?講義は?」
「あー、一限空いてるから図書館で暇を潰そうと思ってな。ゆりは?」
「奇遇ね、私も暇してたの。」
と、髪をくるくるいじりながら、何かを期待した目を向けてくる。なんだ、何がのぞみなんだ。まあ分かってはいるが…、
「図書館、一緒に行かないか?暇なんだろ。」
「違うわ。」
「何が!」
つい反射的に大声で返してしまう。なにか間違っただろうか。今の流れ的には一緒に行くんじゃないのか?
「そんなことじゃだめよ、ゆづるくん。講義の時間までまだまだ時間があるのよ?図書館だと話しにくいでしょ。ここはカフェなんかに行くべきじゃないかしら。」
「まあ、そういうなら…」
そういうとゆりは満足そうに頷き、それじゃ、行くわよ。とずんずん歩き出した。
分かりやすく機嫌が良い。まあ、はっきり言われないよりはこうやってしっかり主張をしてくれた方がこっちもやりやすいな。
俺はひとつため息をはいて、ゆりの後に続いた。
☆
カフェにつき、コーヒーを頼み一口飲んで一息つくと、ゆりが口を開いた。
「それで、どうしようかしら。二人暮らしもとい同棲するにしても、アパートの方には私のものも結構あるし、流石に全部は入り切らないわよね。」
わざわざ同棲って言い直すなよ…。まあ実際問題、どうせ…、同居するにしても、お互いの家のものを把握して、共有するもの、必要なものをわけないといけない。
なんせアパートだからな。流石に2人分の荷物ともなると入り切らなくなる。
「まずゆりが俺の家に来て、自分の家から必要なものをピックアップすればいいんじゃないか?そんで、どうしても持ってきたくてでもスペース的に無理なら、俺の部屋のものなにか捨てるなりして調整すればいい。」
「……それって、お、お泊まりかしら。」
「なっ…!そうとは言ってないだろ!」
ゆりの顔は真っ赤だ。やけに積極的だった割に、めちゃくちゃ照れてるじゃないか。というか、なんでお泊まりという発想になるんだ!
「お泊まり…、ダメかしら…。」
「同棲するから泊まりくらいなんでもないかもしれないけど…、でもさすがに照れる…!」
すると、ゆりはハッとした表情で俺を見てモジモジし始めた。
「…そう、わたしとやる気まんまんなのね。最初は優しくしてね、ゆづるくん。」
「ちょっと待て、なんでそうなる!俺はそこまで野蛮じゃねえよ…。」
ゆりは目をぱちくりさせると、こてん、と首を傾げた。
「別に私はいいけど、ゆづるくんはいや?」
「いや、、てわけじゃないけど、そう、あれだ…その……。」
少しゆりの表情が曇る。
「かなでちゃん、かしら……。」
「…別にゆりが嫌いってわけじゃない。女の子としても魅力的だ。だけど、俺はまだ気持ちが変わったわけじゃないんだよ。」
「そう…。」
ゆりは少し俯いてしまう。ゆり自身俺がそうである分かってはいるのだろうが、いやしかしそもそも、
「そもそも、恋愛的な感情とは少し違う、て話じゃなかったのか?今のゆりは、それこそ、その……、」
「恋してるみたい、て思った?」
俺が全てを言い切る前に、ゆりが先手を打った。
「……ああ。」
そうだ。そういうことをするとかしないとか、それは前提から話しが変わってくることだ。
「そうね、矛盾してるとは思う。けど、私自身も分からないの。ゆづるくんに恋しているのか、そうじゃないのか。」
「どういうことだ?」
ゆりは足を組み直し、真剣な目で俺を見る。
「あのときはたしかに恋愛的な意味じゃない、て思ったけど、でも今はそうなのかも、とも思ってる。まだ自分の感情がよく分からないの。」
真剣だったゆりの眼差しは、すこし伏し目がちになる。
「……まあゆりも、そんなことにかまけてる暇、あんまり無かっただろうからな。特別疎いのかもしれない。」
ひと口コーヒーを飲む。苦味が広がる。ゆりは言葉を続けた。
「まだゆづるくんのことをどういう意味での好きなのか分からないの。でももし、男の子として結弦くんが好きなら、もし気づいた時には遅い気がして…。」
「ゆりの言いたいことは分かった。まあそういう理由なら、百歩譲らんことも無い!」
と、ニカッと笑う。とにかく、ゆりは今俺に出会って少し不安定なんだろう。それが落ち着いてきたら、この変な感じも収まるかもしれない。
「何よそれ。まあ、ちょっとでも分かってくれたのなら、いいわ。」
そう言ってゆりもひと口コーヒーを飲む。そんなゆりの様子を見て思う。
なあゆり、もう答えは決まっているんじゃないか。
そもそも渡したくないって思ってるだけで、ゆりは、きっと俺のことが好きなんだ。自惚れだと思われるかもしれないけど。
俺はこれにどう答えればいいんだろう。まだ会えてないかなでを思いながら、少し思考が微睡んだ。