――だが、そんな絶望の中。
あの声が、聞こえた。
――貴方は、一人じゃない。
「……そうだな」
その声に、急に現実に引き戻される。
俺はかつてとは違う――全てを一人で耐え忍んでいた頃とは違って、ISがいる。
こちらに手を差し伸べてくれた『打鉄』が、今も俺の身体を暖かく包み込んでくれている。
一人でなら諦めてしまうことでも、二人ならば。
夢を諦めていた俺に、『打鉄』という翼が宿る。
空の彼方まで一瞬で駆け抜けられる翼なら――この程度の障害は、跳ね飛ばして行ける。
「――行くぞ、打鉄」
唸る背後のブースターが、響きに重みを増していく。
両腕の盾をしっかりと握りしめて、ぐっとそこに力を籠める。
見定めたのは、囮代わりのビットが落ちてくる――直上。
そこへ目掛けて、俺は勢いよく飛び出した。
「いまさら、そんな無駄な足掻きをしたところで――」
――無駄なんかじゃないさ。
俺はまっすぐ上へと向かいながら――その腕に握る盾を、ビット目掛けてぶん投げた。
盾はそのままふらつくビットに直撃し、粉砕にまでは至らなかったがその軌道を僅かにずらした。
その隙間を潜り抜けて、俺は自身を覆う包囲網を抜け出した――!
「なぁっ!?」
これでもう、俺を引きとどめるものは何もない。
驚きに銃を向けることすら忘れたオルコットの横を駆け抜けて、俺はアリーナの天井を突き抜けて青空へと駆ける。
ぐんぐんと近づく、成層圏の限界点。
その先へ向かって、俺は飛び立った。
やがて、ハイパーセンサの視界の中で大気の抵抗を受けて失速したミサイルが落下していく。
それを見た時点で俺は減速を開始し――もはやIS学園が豆粒に見えるような高度へと達したくらいで、ゆっくりと静止する。
「――そこまでだ。時間が押している。天宮、オルコット。この勝負は引き分けだ」
そんな織斑先生の呆れたような声が、通信を介して耳に届く。
それを受けて、俺はようやく気を抜くことが許された。
「……ふぅー……」
煮え滾っていた体の感覚が、ゆっくりと冷めていく。
勝利した――目的を達成したことに、興奮よりも先に安堵が訪れる。
思い返せば、なんとも馬鹿馬鹿しい作戦を立てたものだ。
相手の油断や感情の揺れ動きにも大きく左右された、稚拙な計画。
それでも俺は、その計画を貫き通して――勝ったんだ。
その実感は、俺の身体に圧し掛かる疲労を吹き飛ばして余りある。
――見渡せば、俺は今、見上げるばかりだった空に漂っている。
かつては俺を押し潰すだけの重石のようだったこの世界が今は、優しく揺り籠のように俺とISを包んでいる。
それはまるで、俺たちの新たなる羽ばたきを歓迎してくれるように見えた。
――これからも、俺たちの先には様々な障害が立ちふさがることだろう。
今回の戦いは、なんてことはない始まりの一戦に過ぎない。
だけど、このISという翼と一緒ならばどこへだって飛んでいけるに違いない。
そんな確信と共に、俺たちはこの無限の空を駆ける――。
これにてこのお話は完結となります。
短い物語ではありましたが、ここまで読んでくださる方がいらしたならば幸いです。