私がVになった一週間のお話   作:シャケ@シャム猫亭

4 / 7
文章雰囲気類似作品に拙作はありませんでした。
文字数以外の原因として、本作の形式上、会話文が多く、他の拙作と雰囲気の乖離があるのではないかと推測。
そのため、以降は文章特徴量も見ることとします。





木曜日:振り回された日

「コラボ~ぉ?」

 

 病院の一階にあるコンビニで。

 二人並んでお菓子を選んでいると、桃華から思ってもいなかったことを切り出された。

 

「うん。同期が柚華と一緒にゲームしたいって」

「えぇ……」

 

 桃華ではなく?

 なんでど素人とコラボしたいなんて思ったんだろう。

 桃華の妹だから?

 それだったら、なんだかなぁ……。

 

「……断っておいて」

「えー、なんで!?」

「気が乗らない」

 

 それと何だか悪い気がする、その同期のファンたちに。

 

「でももう告知しちゃってるよ?」

 

 ほら、と桃華が見せてきたのは、その同期とやらのツイッター。

 そこには次回配信の予定として、私とのコラボの旨が描かれていた。

 しかも、このために書き下ろしたであろう告知イラストと共に。

 

「は、はぁっ!?」

「いやあ、実は柚華が代役OKしてくれたときに、冬ちゃんにコラボどう?って話してたんだー」

「あ、ん、た、の仕業かっ!」

 

 桃華の両頬を摘み、怒りに任せて引っ張る。

 

「いひゃ()いいひゃ()い!!」

「モデリングの件といい、どうしてアンタはそう勝手なのよ!」

「柚華やひゃ()って言いそうひゃ()ったんひゃほ(だも)ん!」

「わかってるなら何で進めるのよ!」

ひゃ()って、ひゃ()って柚華と遊ひひゃ(びた)かったんひゃ()もん!」

 

 思わず手を離した。

 赤くなった頬を痛そうに撫でる桃華の顔をじっと見る。

 

 いつから、いつから私は桃華と遊ばなくなったんだろう?

 

「……柚華?」

「…………ねえ桃華。アンタと最後に遊んだの、いつだっけ?」

「桃がVTuberになってすぐ」

 

 ということは2年前?

 そんなに?

 そんなにも私は桃華のことを──てたの?

 

「だから、また柚華と遊びたくて……切っ掛けになればなぁって…………迷惑だった?」

「……あんなに周りの人巻き込んで、迷惑じゃないとでも思ったの?」

「ぅ……ごめん………」

「あんなことしなくても、素直に遊びたいって言えば……」

 

 …………そうじゃない。

 素直に言えなかったのは、私のせいだ。

 だから、そうじゃないんだ。

 

「ごめん、桃華」

 

 私は桃華に深く頭を下げた。

 

「言えなかったよね。だって、私が聞こうとしてなかったもん」

「う、ううんッ!? 柚華は悪くないよ! 桃が勇気が無かっただけでっ──」

「違う、桃華は悪くない。悪いのは私!」

「柚華じゃないよ、桃!」

「だから──っ!」

 

「はーい、そこまで。二人ともコンビニで何やってんの」

 

 気づいたら二人とも、母さんに首根っこ掴まれていた。

 そのまま無理やり引きずられて、コンビニからロビーの隅へと連れて行かれる。

 

「まったく、あんな人の多いところで喧嘩して……迷惑でしょうが」

「「ごめんなさい……」」

 

 至極まっとうに怒られ、二人して素直に謝った。

 

「で、何で喧嘩したの? 二人が喧嘩なんて珍しいじゃない」

 

 どうしよう、なんて言おう……。

 桃華も同じように考えたのか、ちらっと横目で見たときに目が合ってしまった。

 

「黙ってても(らち)が開かないわ。まずは桃華、あんたの言い分を聞く」

「待って母さん、私が悪いの!」

「柚華は黙ってなさい。順番に聞くわ」

 

 キッと母さんに睨みつけられ、喉まで出ていた言葉がそこで詰まった。

 ヘビに睨まれたカエルという言葉がぴったりだ。

 結局、桃華が全部を話して、私の番になるまで何も言えなかった。

 

「アンタたち、馬鹿でしょ?」

 

 全部を聞いた母さんの第一声は、それだった。

 

「桃華の方は前から馬鹿だなぁって思ってたけど、柚華も馬鹿だったとはね」

「お母さんひどい!」 

「安心しなさい、桃華の方は少なくとも三十万人は知ってるから」

 

 まああれだけ配信で馬鹿さらせば、そうだろうな。

 

「柚華はアタシに似て、そうじゃないと思ってたのだけど……アタシとパパを足して2で割った馬鹿さ加減ね」

「それって、遠まわしに父さんを馬鹿にしてない?」

「いいのよ。パパはそれがイイんだから」

 

 うぁ、真顔で惚気けて来た。

 やっぱり母さんには勝てなそう……。

 

「判決を言い渡します。桃華、アンタは柚華をVTuberにしようと画策(かくさく)してるのを止めなさい」

「かくさく?」

「外堀埋めようとしてることよ。VTuberみたいな芸能活動はね、好きじゃなきゃ続かないの」

 

 私がやりたいと言ったときに、改めて計画するよう咎められ、桃華は渋々ではあったが頷いた。

 

「柚華。アンタはいい加減、桃華に劣等感抱くの止めなさい」

「…………」

「無理に髪型変えたり服を変えたり、成績で上回ろうとしたり。それが自信になって昔みたいに仲良くなるかと思ってたけど、ずっと桃華のこと避けてるじゃないの」

「…………そんなこと」

「自覚あるくせに気づかない振りも止めなさい」

「…………」

 

 母さんの目を見ていられなくて、黙って目をそらす。

 そのまま目を合わせていたら、奥底の黒いモノまで見られてしまいそうだったから。

 

「柚華、VTuber代役の最終日までに答えを出しなさい。今回が柚華が桃華になれる最後のチャンスよ。しっかり考えなさい」

 

 そういうと母さんは桃華の病室へと戻っていった。

 後に残された二人は気まずくて。

 結局、私は何も言わずに家への帰路に付いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆おまたせー、今日の配信始めるぞー!」

 

コメント:冬ちゃん待ってました!

コメント:こん冬

コメント:わこつ

コメント:開始から結構いるな

 

「今日はね、告知の通りコラボ配信だよ。え、誰と? もう、せっかちだな!」

 

コメント:せっかちはホモ

コメント:BダウンのSアップ

コメント:両刀型かな?

コメント:ポケモンってわかってるのに最初のコメのせいで別の意味に取れちゃうwww

 

「でもご期待に応じてオープニングトークもそこそこに、早速呼んじゃおう! 『李 柚子』ちゃんです、どうぞー!」 

「あー、はじめまして。李 桃の皮を被った柚子です」

 

コメント:柚子ちゃんいらっしゃい!

コメント:桃の皮?

コメント:あれ? ぴょんはどうしたの?

 

「知らない人のためにも説明すると、桃ちゃんは今入院中なので、双子の妹である柚子が一週間代役で配信してるの」

 

コメント:マジ!?

コメント:情弱乙

コメント:詳しくは桃ちゃんの配信見てくるといい。いや柚子ちゃんか。

 

「でね、桃ちゃんから『柚子なら大丈夫だと思うけど、それでもやっぱり心配だから何かあったらフォローお願い!』って頼まれたんだけど」

「え?」

「裏でフォローするくらいなら堂々とコラボしてフォローしようってことで、今回のコラボになりました……って、柚子ちゃんどうしたの?」

「……桃、そんなこと頼んでたんですか?」

「そうだよ。良いお姉ちゃんだよね、羨ましい!」

 

コメント:ええ話やなぁ

コメント:姉妹てぇてぇ

 

「ところで気になってたんだけど、柚子ちゃんはどうして敬語なの?」

 

コメント:猫かぶってるから

コメント:どちらかといえば、借りてきた猫

コメント:皮の上に猫かぶってるとか重ね着しスギィ

 

「アンタら好き放題言ってるけど、初対面の人に失礼ないようにってのは常識でしょうが」

「その論法でいくと、私は非常識?」

「あ、いや、そうではなくてですね……」

 

コメント:あわあわ柚子ちゃんスコ

コメント:Vの者はみんな非常識になるな

コメント:シスターさんはいつも敬語だからセーフ

 

「友達の友達は友達なんだから友達の妹も友達だよ。ほらほら、冬ちゃんって呼んで欲しいな?」

 

コメント:「友達」多くて混乱した。

コメント:陽キャ論法ww

 

「言わなきゃダメ、ですか?」

「ダメ。言わなきゃ配信終了しちゃうゾ✩」

「それ、私は困らな──」

「私がコマルナー、みんなの期待を裏切っちゃうからタタカレルナー」

 

コメント:冬ちゃんつよつよ

コメント:柚子ちゃんたじたじやん

コメント:いつもは桃冬できゃっきゃしてるから、超絶違和感

 

「ほら、ほらほらっ!」

「えー、うー……冬、ちゃん」

「~~~っ! みんな聞いた!? 『冬、ちゃん』だって! くぅ~~っ、やったー!!」

「…………(桃といい、Vってこんな奴ばっかなの?)」

 

コメント:冬柚子てぇてぇ

コメント:恥ずかしそうに言ったのが高ポイント

コメント:桃ちゃんでは中々見れないからレア

コメント:音量MAXのワイ、柚子ちゃんの呟き拾う

コメント:まあ、わりとそうだよ(諦観

 

「これで柚子ちゃんとはお友達だよね! 友達って言ったらゲームだよね! さあゲームしよう!」

「何でそんなにグイグイ来るのよっ!?」

 

コメント:友達教への入信おめ

コメント:被害者がまた一人……

コメント:正真正銘のカルト教団で草

コメント:冬大神官だからね、仕方がないね

コメント:因みに教祖は桃ちゃんやぞ

 

「今日のゲームは~~じゃじゃーん! マリカーです!! もちろん、みんな参加可能だよ。あ、でも、グランプリ一回で交代だからね?」

 

コメント:ふう~~~!

コメント:ルームができたぞ、のりこめー!!

コメント:くそ、弾かれた!

コメント:わるいな、勝っちまったぜ

 

「私はもちろんMii! 柚子ちゃんは?」

「え? あー……じゃあ私もMiiで」

 

コメント:二人ともMiiの再現度高いから、ええよな

コメント:そのままゲーム化希望

コメント:恋愛シミュレーションですねわかります。

コメント:それならMiiよりもっと良くなるやろ

 

「さーてマシンは何にしようかな~~……って、どうしたの柚子ちゃん?」

「いやその……多すぎて何選べばいいか……」

「あれ? もしかして初めて?」

「スーファミならやったことある」

 

コメント:スーファミww

コメント:レトロゲーマーの方かな?

コメント:は? スーファミのマリカーは名作やぞ

コメント:草生やす意味がわからん

 

「そこ、喧嘩しない。両成敗でミュートにするよ?」

 

コメント:ごめんなさい

コメント:許してください

コメント:すみませんでした

コメント:平身低頭で草

 

「それにしても初めてかー。桃ちゃんと一緒にやってると思ってた」

「なんか、すみません」

「謝ることじゃないよ。大丈夫、マリカーなんて基本はみんな一緒だから。でも初めてなら、操作覚えるためにも一番簡単なステージにしようか」

 

コメント:冬ちゃんやさしい

コメント:バブ味を感じる

コメント:ママー!

 

「はっはっは、私をママと呼んでいいのはシィちゃんだけだゾ!」

 

コメント:さり気なくシィママ主張してて草

コメント:なお自称シィママは複数いる模様

コメント:パパは一人なのになぁ

コメント:童貞なのにパパとか、聖母マリアならぬ聖母龍之介

 

「さあ始めるぞ! 実況は私、雪里 冬(ゆきさと ふゆ)と、解説は李 柚子(すもも ゆず)でお送りします。柚子さん、今日はよろしくお願いします」

「え、あ、はい。よろしくお願いします?」

「なんて言ってる間に各車一斉にスタート! 位置取りとアイテムの激しい取り合いが始まっておりますっ!!」

「ちょっ始まってる!? アクセルアクセル……あ、バックした。こっちか!」

 

コメント:バック草ァ!

コメント:ホントに初心者なんやな

 

「遅れて柚子選手がスタート。集団とは大きく離されているが挽回できるのかっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、白熱したグランプリになったね!」

「上位陣はね。反面下位は泥沼だったけど」

 

コメント:まさかあのタイミングでサンダーくるとは思ってなかった。

コメント:アウトコーナーギリギリ攻めて、抜いたと思ったら落雷で操作ミスって落下は大草原だった

コメント:冬「速いか? いや曲がれる! うおおおおおおおお、ぬけ、たぁ!!(ピシャーン にゃんでえええ!!」

コメント:草ぁ!!

 

「でも初めてやって8位はスゴイよ! バイオの配信見た時から思ってたけど、やっぱり柚子ちゃんゲームのセンスあるって」

「あれは、何回もやったゲームだから……」

 

コメント:バイオ?

コメント:気になるならアーカイブ見てこい

コメント:撮れ高はあんまりないけど、やりこんでんのはわかる

 

「柚子ちゃんはいつVTuberになるの?」

「……ならないわよ」

「え? でも立ち絵もあるし、モデリングも進んでるんでしょ? マネージャーは三期生の予定って言ってたよ」

「三期生の件、初耳なんだけど……」

 

コメント:外堀を埋められてて草

コメント:デビューってマ!?

コメント:はやく ちゃんねるつくって やくめでしょ

コメント:はちみつ ください

コメント:ふんたーは帰ってどうぞ

コメント:そこまでお膳立てされてて断るってことは、もしかしてV嫌い?

 

「別に嫌いじゃないわよ、時々見てるし」

「えー、じゃあなんで?」

「…………」

「もしかして言いにくいこと?」

「まあ……そうね」

「そっか。じゃあ今日の配信はここまでにして、二人だけでお悩み相談会しちゃおうか。というわけで、まだ枠残ってるけど終わりマース。明日も見てねー!」

 

コメント:唐突ww 

コメント:二・人・だ・け・で♥

コメント:閃いた!

コメント:すぐそっち持ってくのヤメーや

コメント:おつです

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ無事に配信も終わったし、お姉さんがお悩み聞いちゃうゾ✩」

「普段からソレなんですか……?」

「うっ、やっぱりキツイ? イイ歳してやることじゃない?」

 

 音声のみだが、冬さんは明らかに凹んでいた。

 イイ歳って、何歳なんだろう。声が若々しいから全然判別できない。

 

「でも、普段からやってないとボロが出そうでさぁ。というか実際出しちゃったから」

「……すごいですね。なんかプロみたいです」

「何言ってんの柚華ちゃん。お給料貰ってるんだからプロだよ」

 

 言われてはっとした。

 そうか、プロなんだ。冬さんも桃も。

 

「企業系のVはみんなプロだよ。個人はどうだかわからないけど、でもそれで生活してたらプロだと思ってる」

「……プロだから、頑張れるんですか?」

「ん~、それは2割くらいかな?」

 

 一番はね、みんなが応援してくれるから。

 そう言った冬さんの声は、恥じるような様子はなく堂々としていた。

 

「雪里 冬を見て笑ってくれる人がいる。雪里 冬と笑ってくれる人がいる。雪里 冬の配信を楽しみにしている人がいる。そういう人たちが雪里 冬を好きって言ってくれる。だから私は雪里 冬を頑張れるんだ」

「でも……でもそれは雪里 冬であって……その……」

()じゃない?」

 

 李 桃(すもも もも)も決して桃華じゃない。好きって言ってくれる人も、桃が好きなのであって、桃華じゃない。

 それはなんだか、とっても寂しい気がする。

 桃華を見てと言ってしまいたくなる。

 

「そうだね、そういう人もいる。自分の中の冬であることを押し付けて、自分の中の冬と乖離したら叩いてくる人」

 

 でもね、

 

「私を見ている人は、意外といるもんだよ?」

「本当に?」

「だって、それは柚華ちゃんが証明したじゃない。李 桃から李 柚子になって、来なくなった人はいっぱいいたでしょ?」

「それは私が面白くない、から……」

「まあ、それもゼロじゃないかも。でも間違いなく見に来なくなった人たちは、李 桃を通して桃華ちゃんを見てたんだよ」

 

 ほら、ちゃんと()を見てる人いるじゃない。

 そう言って冬さんは笑った。

 

「逆を言えば、柚華ちゃんだってそうだよ。残った人たちは、惰性で見てる人も多いだろうけど、他でもない李 柚子が見たくて見ていた人がいたはずだよ」

「……いますか?」

「いるよ、少なくともここに一人」

 

 三回とも全部見てたんだから。

 その言葉と共に、とんっと胸を叩く音がした。

 

「だからこそVになるって聞いて嬉しかったし、なりたくないって聞いて残念に思ったし、どうしてだろうって疑問に思ったの」

「…………」

「桃ちゃんに言えないことなんでしょ? 大丈夫、ちゃんと内緒にしておくから」

「…………」

「………………」

「……………………桃華が、桃華がVTuberのオーディションに受かった時は、私も嬉しかったんです」

 

 突然、合格通知を見せられて驚いたけど、二人で手を取って喜んだ。

 私のお姉ちゃんはこんなに凄いんだぞって、それが認められて私も鼻が高かった。

 配信の準備は毎回手伝ったし、どんな配信したらいいか一緒に考えた。

 

「でもあるとき、桃華の素が出ちゃったんです」

 

 別に大したことではなかったし、なんならみんな覚えてないかもしれない。

 でも、その時に出たコメントは私の心に焼き付いてる。

 

 何かイメージと違ったわwww

 

 それで私は気がついた。多分、桃華も気がついた。

 ああ、求められるのは『藤原 桃華(ふじわら ももか)』じゃなくて『李 桃(すもも もも)』なんだって。

 それから桃華は普段から喋り方を変えて、笑い方を変えて、リアクションがオーバーになって。

 藤原 桃華はその努力でどんどん李 桃になって、それが板について身について、遂には桃華は完全に桃になった。

 

 それが私には堪らなく嫌だった。

 

 私の姉は李 桃じゃない、藤原 桃華なんだ!

 桃華はあんな風に笑ったりしない! あんな風に怒ったりしない! あんな風に泣いたりしない!

 私とお揃いで、自慢のお姉ちゃんを返してよっ!!

 

「そう桃ちゃんに言ったの?」

「……言えるわけないじゃないですか」

 

 だってこれは自分の理想の押し付けだ。

 あのコメントを書いた人と何も変わらない。

 それに桃華はVTuber(かわっていくこと)を楽しそうにやっていた。それなのにやめろなんて、言えるわけないじゃない。

 

 だから私は自分から変わることにした。桃華が変わってしまい一緒でいられないのなら、私自らが変わることで桃華が変わったのではなく私が変わったから一緒でいられなくなったのだと、自ら選んだ結果なのだと納得しようとした。

 手始めにバッサリと髪の毛を切って、服のシェアをやめて自分の分を買ってきた。

 桃華が苦手なものほど上手くなるよう努力した。

 そうしていると自然と交友関係も変わってきて、いつの間にか私と桃華は一緒に居る時間が減っていった。

 これでいいんだ、これでいいんだと自分に言い聞かせて。桃華が変わったんじゃなくて私が変わったから同じじゃなくなったんだって。

 桃華は昔と変わってないんだって。

 わかっていながら、自分に言い聞かせて。

 

 それなのに、突然目の前に『李 桃』が降ってきた。

 私が桃華になるチャンスが降ってきた。

 ようやく違うことに慣れてきたのに、桃華と同じになれるチャンスが。

 

 私が本気で『李 桃』を演じれば、多分一週間くらい平気で保つ。

 無難な企画をやって、無難な反応して。もしかしたら違和感を覚える人は少数いるだろうが、違和感で終わってしまうだろう。それくらいには李 桃の中も外も知っていたから。

 でもそれをしてしまったら、李 桃は藤原 桃華ではなくなる。あれだけ頑張って藤原 桃華が李 桃になったのに、桃華=桃が崩れてしまう。

 

 桃華が桃であることが嫌だったのに、桃が桃華じゃないことも嫌。

 矛盾、矛盾、矛盾だらけ。

 自分でもわけがわからない。

 未来から来たAIを自称するVTuberのように、心が0と1で出来ているのならば、きっとこんなことにならなかっただろうに。

 

「……だから『李 柚子』として、桃ちゃんの穴を埋めようとしたんだ」

「はい……」

「でもそれなら、『李 柚子』であることには問題ないんだよね?」

「…………怖いんです」

 

 嫌でイヤで認められなくて、自分から変わって見ないことにしていたのに。

 それを今、目の前に突き出されている。

 桃の代役である柚子ではなく、柚華に柚子になれと言ってきている。

 桃華が桃になってしまったように、柚華も柚子になってしまう。

 あれだけ嫌だったものに、自分がなってしまう。それがたまらなく……怖い?

 違う違う違う。

 怖いのは。本当に怖いのは、桃華に柚華を見てもらえなくなること。

 だってそうでしょう。私は藤原 柚華なのだから。

 

「……なのに」

「……うん」

「なのに、ちょっとだけ、『李 柚子』になりたい自分もいるんです」

 

 李 桃の双子の妹。

 桃華と同じ、VTuberになる。

 それはああ、とても。とても魅力的だった。

 だってそれは、私たちが失くした姉妹の形だったから。

 今までは藤原 柚華と李 桃だったのが、李 柚子と李 桃になれるのだから。

 例え観てくれる人が少なくたって、ううん、いなくたって、また姉妹として遊べるというだけで。

 とっても魅力的だった。

 

「冬さん……私はどうしたらいいのでしょうか?」

「………ふふっ、ふふふっ」

 

 父さんにも母さんにもこぼしたことのない、自分の中の黒くてドロドロしたものを吐いた。

 大人になれない私の、みっともなくて恥ずかしくて汚いものだ。

 なのに返ってきたのは、冬さんの噛み殺したような笑い声だった。

 

「冬さん?」

「ふふっ、ごめんなさい。やっぱり柚華ちゃんと桃華ちゃんは姉妹なんだなって思ったら可笑しくって」

 

 はーっと息を整えた冬さんは、実はね……と切り出した。

 

 

 

 

 

 




なに、今日も来たの?
もの好きね。
……え、桃じゃないのかって?
私もそう思うわ。

まあでも約束だから、明日の占いじゃんけん、するわよ
今日は私、柚子から勝った人に幸運をあげるわ。

いくわよ、じゃんけん、ぽん。
(アンケート最多の手。同数の場合は強い方)

満足した?
そ、じゃあね。

よーく考えて選ぶことね

  • SmokeOnTheWater(グー)
  • WeAreTheWorld(チョキ)
  • 手のひらを太陽に(パー)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。