私がVになった一週間のお話   作:シャケ@シャム猫亭

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きのこは所詮小枝にも負ける敗北者じゃけぇ


金曜日:ぜんぶ投げ出した日

 病院に向かうバスの中で、私は昨日の冬さんとの会話を思い出していた。

 

『桃華ちゃんもね、同じようなことで私に相談してきたんだ』

 

 李 桃が人気になり始めた頃だそうで。

 それは私が桃華と同じをやめた頃と同時期だ。

 

『VTuberになって柚華ちゃんと遊べなくなって、そればかりか柚華ちゃんはどんどん変わってく』

 

 柚華に追いつきたいけど追いつくためには李 桃を捨てなきゃいけなくて。

 もうその頃には藤原 桃華も李 桃も、同じくらい大事になっていた。

 だから動くに動けなくて、そうしてる間にも柚華はどんどん離れていって、もうどうしようもなくて冬さんに相談したらしい。

 

『まあ、この話は秘密って言われてたけど、『二人だけ』とは言われてないからね』

『……大人ってキタナイですね』

『いずれ柚華ちゃんもなるんだよ』

 

 そう言って冬さんは笑った。

 それが何とも楽しそうで、つい私も笑い声が漏れてしまった。

 

「結局、真正面からぶつかるしかない、か……」

 

 桃華が悩んでいたことを知った。

 私と同じように悩んで、でも私には言えなくて。

 冬さんは、何度も何度も相談にのっていたことの全てを教えてくれた。

 馬鹿だなあって思う。

 私も、桃華も。

 

 バスが病院へ到着し、ICカードで料金を支払って下車する。

 この辺じゃ一番大きい病院だ。建物は見上げる程だし、行き交う人の数も多い。

 たった今、救急車が建物に到着していた。看護師さんたちが迅速に患者を中へと運んでいく。

 それを尻目に私はロビーへと入り、面会受付のカウンターで名前を書いてから桃華の病室へと向かう。

 でも直接向かうのではなくて、一階のコンビニに寄って桃華の好きなケーキを買ってから。

 だって多分、また喧嘩になるから。散々言い合いして、お互い息切れして、それからようやく二人とも冷静になって。

 そうして仲直りするのだ。

 そしたら二人でケーキを食べよう。きっと桃華は一口頂戴なんて言ってくる。

 私は渋々ながらもスプーンでひと掬い、桃華へ差し出すのだろう。

 

 チンっと音がして、エレベーターが桃華の病室のある階で止まった。

 乗り合わせていた人が『開』のボタンを押してくれていたため、軽く頭を下げてからエレベーターを降りる。

 桃華の病室は廊下の突き当たり、西日差し込む角部屋だ。

 

 

「桃華、来たわよ」

 

 返事が来る前にスライド式の扉を開けて中に入る。

 桃華は病室にはいなかった。備え付けのテーブルには桃華のスマホが置いてあるため、多分お手洗いかなにかだろう。

 母さんのカバンも置いてあるが、二人してお手洗いだろうか。

 病院とはいえ、流石に無用心である。

 

「しょうがない、待ってるか」

 

 ケーキは冷蔵庫に仕舞って、カバンから学校で出た課題を取り出す。

 机にのっていた物を脇によけて課題を置くと、私はノートにペンを走らせ始めた。

 

 

 

 

 

「~~~っ、はぁ。終わった……」

 

 ぐぐぐっと伸びをして、私は一息()いてテーブルから顔上げる。

 課題は入試で出た難問だった。

 解けた今だからこそ良い問題だと思うけど、これを本番で出された人はたまったものじゃないだろうな。

 だって問題はこれだけじゃないのだから。いくつかある問題の一つでしかないのに、こんなに時間かかっていては他の問題に手を出せなかったはずだ。

 多分、難問と即座に判断して後回しにした人の方が点数いい。

 そのくらい頭と時間を使って、ようやく解けた。

 

「……遅いわね」

 

 もちろん、解くのに掛かった時間じゃない。

 桃華が帰ってくるのが、だ。もう時計の長針は一周している。

 それほど長くお手洗いに行ってるなどないだろう。

 何をしてるのだろうか。

 

「お風呂? それにしたって遅いわよね」

 

 母さんと出かけている?

 ……母さんは財布を置いてってるし、桃華もスマホを置いたままで?

 無いなぁ。

 

「父さんはもう帰ったんだっけ」

 

 単身赴任中の父さんは、桃華の入院の知らせを受けて、無理に会社を休んで駆けつけた。

 桃華の元気な様子を見て胸をなで下ろしていたのを覚えている。

 とはいえ、同僚や上司は快く送り出してくれたらしいが、何日も休んでは悪いと言って、昨日戻っていった。

 私も久しぶりに会ったのに、結局構ってくれなかったのは、ちょっと恨んでる。

 

「ともかく、父さんがどっかに連れて行ってるってことも無いわけだし……」

 

 本当に、どこ行ったのだろうか?

 そうして頭を悩ませていると、カララと音を立てて病室の扉が開いた。

 振り向くとそこにはシーツを換えに来た看護師さんが立っていた。

 

「あら、藤原さんの妹さん。来てたんですね」

「あ、はい。姉がお世話になってます」

 

 私は看護師さんにぺこりと頭を下げて、シーツを替えやすいようにベッドに乗っていたものをどける。

 看護師さんはそれに礼を言うと、早速交換に取り掛かった。

 その背中に、私は尋ねる。

 

「あの、桃華と母さんが何処に行ったか知りませんか? もう一時間くらい帰って来なくて……」

「え? もしかして聞いてないの?」

「……え?」

 

 看護師さんは驚いたように振り向いて、それからどうしましょうと口にする。

 数秒悩んだ看護師さんは、お母さんのところに連れて行くから付いて来てと言い、私はそれに黙って頷いた。

 なんだかとても、嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント:お、始まった

コメント:こんばんぴょん!

コメント:あれ? 始まったけど何も写ってない。

コメント:キャプチャーの起動忘れてますぞwww

コメント:おーい、柚子ちゃーん

 

「……ごめん、今日は何もしない。桃との約束だから配信は入れたけど……悪いけど帰って」

 

コメント:???

コメント:どうゆうこと?

コメント:Do you Kotoー?

コメント:Areの間違いやろ

コメント:何かめっちゃ声が暗いんやけど……

 

「うっさい……いいから帰って」

 

コメント:アッハイ

コメント:おつかれさまでしたー

コメント:いや、マジでなんやねん

コメント:何かしようぜ?

コメント:サッカーしようぜ、お前ボールな!

コメント:ボールをゴールにシュウウウウトッ! 超ッ、エキサイティンッ!!

 

「───ッ! 何もやらないって言ってるでしょうがッ!!」

 

コメント:!?!?

コメント:なになに? どうしたの!?

コメント:は? なんだよお前

コメント:真面目にやれや

コメント:耳がキーンってした

 

「うっさいうっさいうっさいッ!! 帰れ!!」

 

コメント:言われなくても帰るわ

コメント:調子こいてんじゃねえぞ

コメント:所詮はこの程度ってね

コメント:視聴者ゴリゴリ減ってて草

コメント:まあ待てよ、昨日まではちゃんとやってたじゃないか

コメント:今日で帳消しなんだよなぁ

コメント:なあ、何で柚子ちゃんこんなに荒れてるん?

コメント:さあ?

コメント:おーい、柚子ちゃん。理由を言ってくれよ。

コメント:返事がない ただの屍のようだ

 

 

 

 

 

 

コメント:もう枠の半分を過ぎちまったぜ。

コメント:相変わらず真っ暗だな

コメント:でもマイクは入ってるらしい。たまに衣擦れの音がする。

コメント:なんかそれエロいな。

コメント:真っ暗……衣擦れの音……閃いた!

コメント:通報した

 

 

 

 

 

 

 

コメント:もう後二十分も残ってない。

コメント:なに、まだいたの? 暇なんだね

コメント:ブーメラン定期

コメント:あれだけいた視聴者も、今やこれだけか。

コメント:逆に考えるんだ、こんな配信でも残っている俺たちは精鋭中の精鋭だと。

コメント:かつてこれほど斬新な配信があったであろうか

コメント:それがあったんだよなぁ

コメント:誰だったかのお絵かき配信の時、熱中するあまり映像も音声も切ったことに気付かなかったやつだな。

コメント:突然真っ暗になり、そのまま三時間経過しました。

コメント:あの時はコメントでしりとりして時間潰してたな。

コメント:やる?

コメント:あと二十分だし、パス

 

雪里 冬:なにこれ? 今北産業

 

コメント:冬ちゃんッ!

コメント:冬ママッ!

コメント:冬の姉御っ!

コメント:お前ら、どれかに統一しろよwww

コメント:冬民は傘下次期によって変わるから、仕方ないね

コメント:柚子ちゃん大荒れ。配信放棄。原因不明。

 

雪里 冬:わかった。電話してみる。

 

コメント:流石、冬ちゃん。頼りになるぅ!

コメント:そこに痺れる憧れるぅ!

コメント:お、着信音

コメント:ぺろっ……これは桃ちゃんの仕事用スマホの音だ!

コメント:音ソムリエがいて草

 

「……はい」

『こんばんは、柚華ちゃん。配信見に行ったら真っ暗だったから、どうしたのかなって』

「…………」

『桃ちゃんと喧嘩しちゃったの?』

 

コメント:指向性マイクなのがアダになって聞き取れない

コメント:柚子ちゃんの声は聞こえるやろ

コメント:冬ちゃんの電話声まで拾うのは諦めメロン

 

『柚子ちゃんが普通じゃないって、みんな心配してるよ』

「……冬さん」

『うん、なあに?』

「桃華が………ももかが死んじゃうかもしれないって……」

『……え?』

 

コメント:桃華?

コメント:誰やね……桃ちゃんの本名?

コメント:え、ちょっとまって、死ぬ?

 

「お見舞い行ったら桃華が居なくて、看護師さんが母さんのところに連れて行ってくれて、桃華は集中治療室だって……」

『う、そ……でしょ?』

「容態が急変して意識不明で……ぅ……母さんは、母さんが万一があるから覚悟はしとけって!!」

 

コメント:やばない?

コメント:ヤバイ

コメント:ヤバイな

コメント:ヤバすぎる。

コメント:語彙力が無くなるくらいヤバイ

コメント:うそでしょ、嘘だと言ってよバーニィ!

コメント:空気読めや

コメント:ちょっと黙ってろ

 

「私、桃華と喧嘩しようと思って、でも仲直りしようと思って。桃華の好きなケーキまで買って。なのになんでっ!?」

『柚華ちゃん……』

「やっと昔みたいに………やっと、やっと……っぅぅぅ」

 

コメント:喧嘩してたん?

コメント:まるでわからんけど、マジでヤバイことはわかった。

コメント:ドッキリと疑ってたけど、これは……

コメント:むしろドッキリであって欲しかった。

 

「冬さん……私、どうしたら………」

『……よし、わかった! お姉さんに任せなさい!! でもその前に……配信、切っちゃおうか?』

 

コメント:おや? ガサ音が近くなった。

コメント:これは切られますねぇ

 

雪里 冬:みんなごめんね。今日はここまで。明日、ちゃんと公式にコメント出すから。

 

コメント:ええんやで

コメント:吉報を祈るわ

コメント:冬ねえ、柚子ちゃんをよろしくお願いします

コメント:……明日が怖い

コメント:祈るしかねえ

 

 

 

 

 

 

 

 

 震える指で配信を止めるボタンを押した。

 ボロボロと涙がこぼれ、胸からは意味をなさない叫びがこんこんとせり上がってくる。

 ぎゅうっと服を握り締めて、声が漏れないように歯を食いしばってみるけれど。押し止めることはできずに隙間から漏れ溢れて、まるで動物の唸り声のようだ。

 

「桃華……ももかぁ………」

 

 いやだ、いやだよ。

 どうして?

 桃華が何か悪いことでもしたの?

 それとも………私?

 

「ぅあ……」

 

 限界だった。

 決壊した私は叫ぶように泣いて。

 泣いて、

 

 

 

 何も見えない聞こえないほどに疲れて、

 

 

 気を失うように眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 夢は、見なかった。

 

 

 




え、私がやっていいの!?
やった! ちょっとやってみたかったのよね。

んんっ、それじゃあ最後に、明日の占いじゃんけんだよ!
勝った人には、今日は冬から幸運──は送れないから……んー何がいいかしら?
そうだ! 勝った人は私が褒めてあげる♪

いくよー、じゃん、けん、ぽん!! 
(アンケート最多の手。同数の場合は強い方)

バイバーイ!

勝ったら褒めてあげるよ?

  • すごーい!つよーい!(グー)
  • いい子いい子、えらいえらい(チョキ)
  • やるじゃねえか、流石だな!(パー)
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