「…………」
のそりと起き上がる。
頭が重たい、目が腫れぼったい、喉がイガイガする。
脳の回転が遅い。
自然と起きたはずなのに、深い眠りから叩き起されたかのような。
そんな感じがする。
「………ももかの、部屋?」
私の部屋じゃない。
どうして?
……ああ、そういえば。
昨日は桃華の代わりに配信して、そのまま寝てしまったんだ。
「───っ!」
ドクンッと胸が締め付けられる。
「っぅぁ───」
ぎゅっと身体を抱いて溢れ出ようとした感情を、必死に押しとどめる。
ドクンッ、ドクンッと二波三波が襲いかかってきたが、それでもなんとか、辛うじて押しとどめることができた。
浅い呼吸を繰り返していたのを、無理やり深くして。
それでようやくベッドから立ち上がれた。
ふらふらと桃華の部屋を出て、洗面台に向かう。
鏡に映った私の顔は、人生で一番酷い顔をしていた。
蛇口をひねり、水を出す。
それを手ですくって顔に叩きつけるが、どうにもスッキリしない。
三度叩きつけたところで諦めた。
濡れた顔を拭かずに、着ていた服を脱ぎ捨てて、そのまま風呂場へと入る。
給湯機の電源を入れて、シャワーのレバーを全開まで捻った。
ノズルに残っていた水が出て、それから熱いお湯が降り注ぐ。
ぼんやりとそれを身体で受けていると、段々と身体が熱を取り込み、思考が明瞭になっていく。
手を開いたり閉じたりすることで手があることを確認して、その場でゆっくりと足踏みすることで足があることを確認して。
そうやって一つ一つ確かめていく。
熱を失って動けなくなるなんて、まるでトカゲみたいだ。
思わず自嘲の笑みが溢れる。
キュっと音を立ててレバーを引いてシャワーを止める。
湯気で曇った鏡に手を当てて、一文字にひと撫ですればそこだけが私の姿をしっかりと写す。
赤く充血した眼、濡れてへたった髪。顔色はシャワーのおかげで赤みが差しているが、それでも目の下の
ひどい顔だ。
でもさっきよりかは幾分マシだろう。
今日が休みの日でよかった。こんな顔で学校に行っては、友達に心配されてしまう。
それに仮に今日が平日だったとしても、とてもじゃないが学校に行く気になれない。
風呂場から出て身体を拭いていると、着替えを持ってきていないことに気づいた。
仕方がないのでバスタオルを身体に巻いて、自分の部屋に向かう。
誰もいない家に、ペタペタと廊下を歩く自分の足音が響く。
部屋に戻って服を着て髪を乾かして、そうして最低限の身支度を整えたとき、お腹がクゥッと鳴った。
こんな時でも空腹を感じる自分が恨めしい。
部屋を出てキッチンに向かう。
いつもなら母さんがトーストと目玉焼き、それと千切りキャベツを用意しているが、今は家には誰もいない。当然、朝食が用意されているはずもない。
棚から食パンを取り出し、それをトースターに入れてタイマーの摘みをひねる。
タイマーがジリジリと音を立てゆっくりと戻り、電熱線が赤く灯る。
それ以上することもなく、私はただぼーっと食パンが焼ける様子を見ていた。
昨日の配信は酷かった。配信と呼べるのかすら怪しい。
見ていた人たちは何にも悪くないのに当たり散らして、何もしないで配信放棄して、最後には冬さんに泣きついた。
冷静になった今だからこそ、あれはないって思う。
あれはやっちゃダメだ。
あんなことする私は……やっぱりVTuberなんてやるべきじゃない。視聴者だって減り続けてる。
そして、そしたら、きっと。
明後日には元通りだ。
チンッっと音がして私は意識を引き戻された。
トースターを開け、パンを取り出して皿に置く。タイマーを回しすぎたせいか黒く焦げてしまったが、まあ食べられないことはないだろう。
冷蔵庫から取り出したマーガリンをガリガリと塗ってから、食パンを口にくわえる。
「……にっが」
それに硬い。
耳が容赦なく口の中を刺す。
一口目でそのまま食べることを諦めた。
冷蔵庫からジャムを取り出し、大量に乗せて苦味を誤魔化す。ついでに汁気で柔らかくして、それでようやく胃の中に流し込めた。
それ以上なにかを用意する気にはなれず、皿を流しに置いて部屋に戻る。
ベッドに身を投げ出して、枕に顔を
眠いわけじゃない。ただ、何も見たくなかった。
瞼の裏に映るノイズですら煩わしい。
何も見たくない、何も聞きたくない、何も考えたくなかった。
だが、そうやって自分の殻にこもればこもるほど、余計に嫌なことを思い出してしまう。
ぐるぐるぐるぐる堂々巡り。
抜け出す鍵は手に持っているのに、抜けた扉の先を知りたくない。
だってそこには、最悪が待ってるかもしれないから。
そうやってまた、ぐるぐるぐるぐる堂々巡り。
そんな中、ふっと思い出した。
昨日の配信の最後、冬さんが私に任せてって言ってたけれど、いったい何をするのだろうか。
ピーンポーン
来客を知らせるインターフォンが鳴った。
でも出る気にはなれなくて、私は無視を決め込む。
ピーンポーン
また鳴った。
宅急便だろうか?
悪いけど、再配達してもらおう。
ピーンポーン
三度目が鳴って、けど四度目はなかった。
膝を抱えてまた殻にこもろうとしたところで、桃華の仕事用のスマホが震える。
騒がしいそれを止めようと手に取り、目に入ったのは雪里 冬の文字。
「…………はい」
『こんにちは、冬です。柚華ちゃんだよね?』
「……うん」
『今どこにいるのかな? 実は柚華ちゃんの家に来たんだけど、誰もいないみたいで……』
「え? もしかして今のチャイム……」
ベッドから立ち上がり、シャッと音を立ててカーテンを開けて、窓から玄関先を見る。
家の前には赤い乗用車が停めてあり、その脇には女性が立ってスマホを耳に当てていた。
女性はこちらに気が付くと、にっこりと笑って手を振った。
『えへへ、来ちゃった✩』
「桃ちゃんから聞いてはいたけど、本当にそっくりなのね」
「はあ……」
ハンドルを握る冬さんは、ちらりとこちらを見ながら言った。
助手席に座る私は、何とも言えない返事を返す。
「……なんで私の家知ってたんですか?」
「桃ちゃんと年賀状のやり取りしたからねー。ほらこれ」
そう言って冬さんは上着のポケットから年賀状を取り出し、私に差し出した。
見覚えがある。去年、桃華がお世話になった人にと何枚もリビングで書いていた、その中の一枚だ。
宛名にはしっかりと『雪里 冬』の文字がある。
あの後、驚いた私は思わず玄関を開けてしまった。
そうしたら挨拶もそこそこに、冬さんは桃華のお見舞いに行きたいからと私を車に連れ込んだ。
どうやら私の家は知っていても、流石に桃華の入院先までは知らなかったらしい。
案内してもらうためとはいえ、ちょっと、かなり? 強引だと思う。
それでも私は請われた通りに、次の信号を右、とナビ替わりになり、冬さんもそれに従ってハンドルを切る。
またしばらく直進だ。することがなく手元の年賀状に目を落とすと、冬さんの住所が目にとまった。
「……神戸?」
「そうだよ。いやぁ関東は遠いね。高速かっ飛ばしたけど、それでもここまで八時間かかったもん」
ほぼ貫徹だよと、冬さんはからから笑った。
「だ、大丈夫なんですか?」
「平気平気。耐久配信で慣れてるから」
そう言うと冬さんは、ドリンクホルダーに入れていたエナジードリンクのプルタブを起こすと、ぐいっと呷った。
特有の甘い香りが車内に広がる。
「そんな遠いところから、なんでわざわざ……」
「理由は二つ。一つは桃ちゃんが心配でいてもたってもいられなかったから」
左手をハンドルから離し、人差し指をぴっと立てる。
「もう一つは……柚華ちゃんが心配でいてもたってもいられなかったから」
そう言って中指もすっと立てた。
「ほら、約束したじゃない『お姉さんが何とかしてあげる』って」
「……冬さんは、もしかしてお医者さんなんですか?」
「違う違う。私は元OLの現VTuber。医学なんてこれっぽっちもわかんないわよ」
でもね、と冬さんは言葉を続ける。
「私は『奇跡』と『ハッピーエンド』を信じてるの」
だから私が何とかしてあげる。
そう言って冬さんは、今度は目の前で、胸をとんっと叩いた。
「皆おまたせー、今日の配信始めるぞー!」
コメント:わこつ
コメント:こんばんわー
コメント:こん冬
コメント:冬ねえは相変わらず元気だね
「おっと、いつもの枠じゃないって? そうだよ、今日も李 柚子ちゃんの枠でコラボ配信だよ!」
コメント:二日ぶりのコラボ
コメント:そのくせに桃ちゃんの姿がないな
コメント:柚子ちゃんな
コメント:昨日荒れてたし、顔出せないんちゃう?
コメント:しょうがないだろ、あんなん誰でも荒れる
コメント:相手いないコラボって、コラボなのか?
「おっと、言い忘れてた。今日は本社スタジオからの配信だよ! だ・か・ら、バストアップじゃなくて全身3Dなのです! し・か・も、スタッフさん総出なので、年に一度のお祭り配信レベルのことが出来るのだー!!」
コメント:うお、爆発した!?
コメント:特撮かよwww
コメント:音も良いし、マジでお祭りレベルじゃん
「───とまあ、テンションMAXで開始したけど……今回はそういう配信じゃないんだ。まずはみんなが気になってることのお知らせ。これは運営からの公式発表だからちょっとお堅いけど、みんな茶化したりせずに静かに聞いてね」
コメント:はい。
コメント:まってた
コメント:どうか、どうか無事でいてくれ
コメント:口チャック
昨日、弊社に所属するVTuber『李 桃』の配信にて『李 柚子』により、李 桃を担当する者、通称中の人が重篤であるとの発言がありましたが、事実確認の結果、事実であると判明いたしました。
つきましては、人命第一の観点から、今後の『李 桃』の全ての活動について休止と致します。
活動再開時期につきましては、本人の病状快復を待って決めさせていただきたく存じます。
ファンの皆様にはご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解をお願い致します。
「……ふう。これが運営の公式発表です」
コメント:マジか……マジかぁ……
コメント:ももちゃん……
コメント:病院行くの嫌がったばっかりに
コメント:桃ちゃん、死んじゃうの?
「ここからは、非公式のお話。私、実は桃ちゃんのお見舞いに行ってきました。高速道路を八時間かっ飛ばして」
コメント:ま!?
コメント:昨日の今日やぞ!?
コメント:行動力ありスギィ!
コメント:流石ぁ姉御ぉ!
コメント:さすあね!
「でも面会謝絶だった。お母様に会って色々聞いたけど、今のところ原因不明だから桃ちゃんの体力に賭けるしかないって………」
コメント:う、そ、だろ?
コメント:死ぬな!
コメント:死んじゃやだ!
コメント:頼む、生きてくれ!
コメント:もう二度と配信しなくてもいい! たのむ、快復してくれ!!
コメント:くそ、何か俺らに出来ることはないのか!?
「最初はね、クラウドファンドで桃ちゃんの治療代集めようかと思ってたんだ。けど、桃ちゃんのお母様に固辞されちゃった。『親が子にしてあげられることを奪うんじゃない』って」
コメント:イケメン
コメント:男前
コメント:そうだよなぁ。桃ちゃんのお母さんも『何かしたい』って思ってるよな……
コメント:何か、何かないのか?
コメント:何もできねえのが辛ぇ
コメント:祈るしかない……
コメント:俺たちは……無力だ……
「大丈夫、私たちにも出来ることあるよ! 名づけて、『万羽鶴計画』です!」
コメント:千羽鶴ではなく?
コメント:詳細はよ!
「名前で察した人もいるとは思うけど、桃ちゃんの快復を願ってみんなで折り鶴を作ろうって企画だよ。でも本物を送ったら結構邪魔だよね。そ・こ・で、桃ちゃんはVTuberなんだから、ヴァーチャルらしくツイッターでハッシュタグつけて電子の海から送ろう!」
コメント:つまり……どういうこと?
コメント:折り鶴作って、その写真をハッシュタグつけて投稿しろってこと
コメント:なる。俺ららしいな
コメント:これなら誰でも参加できるしな
「さあみんな、紙の準備はいいかい? 一緒に折るよ───っとと、危ない。ハッシュタグの告知を忘れてた。ハッシュタグはこの下に出てるテロップ……でてないね? ちょっとスタッフさーん?」
コメント:草
コメント:あ、でた。
コメント:リアルタイムの編集は息が合わないと難しいから……
コメント:そういや冬ちゃんは普段関西スタジオだっけ。
コメント:げ、もう投稿してる奴おるぞ
コメント:早スギィ!
「それじゃあ折るよー? まずは正方形の紙を三角に折って───」
「───最後にお腹の形を整えて……完成!」
コメント:できた
コメント:わいも
コメント:何年ぶりに作ったんだろう?
コメント:幼稚園を思い出したわ
「これをパシャリと撮って、ツイッターに投稿。どう? 良く出来てるでしょ?」
コメント:白い鶴だな
コメント:冬ちゃんのイメージカラーだからね
コメント:いやこれ、A4のコピー用紙カットして作ったやつやろ
「あっ、バレた。実は、折り紙買ってくる暇なかったので……一番マシな紙選びました」
コメント:くさ
コメント:折り紙くらい、そのへんで買えるやろ
コメント:その暇がなかったって言ってるやんけ
コメント:なんか途端に安っぽく見えてきた
「いいんだよ気持ちが大事なんだから! それにほら、みんなの投稿見てみたら、折り紙使ってる方が少ないじゃん」
コメント:アッ……アッ、ヤメテ。ワイのチラシ鶴を晒さないで……
コメント:折り紙常備してる家とか逆に少ないんじゃ?
コメント:ウチは小さい子供がいるからあるわ
コメント:そうじゃないと無いよな
コメント:新聞紙で折ったやつ、むちゃくちゃデカくて草
「うわ、なにこれ鶴から足が生えてる!?」
コメント:www
コメント:きっしょwww
コメント:大草原不可避
コメント:次は……なっ!?
コメント:これは……鶴……なのか?
コメント:もはや鳳凰では?
コメント:こんなの一体どうやって折るんだよ……
「職人技ってやつだね。すごいなぁ……」
コメント:三羽繋がってるやつとか、ケルベロスならぬツルベロスとか
コメント:折り紙って奥が深いんやな……
「ところでスタッフさん、今投稿何件? え、一万件超えた? よし目標達成だー!!」
コメント:おめ!!
コメント:888888888!!
コメント:速攻だったな
コメント:まあこの視聴者数ですし
コメント:桃ちゃんのチャンネルでは過去最高では?
コメント:本人がいないのだけが惜しまれる
「ヨシ次の企画いくぞー!」
コメント:切り替え早www
コメント:はえーよホセ
コメント:開幕でテンションMAXの配信じゃないとか言ったのどこのドイツだ
コメント:冬ねえだからね、仕方がないね
「次はね、『VTuberよ、桃に元気を分けてくれーー!!』だよ」
コメント:元気玉やんけ
コメント:桃ちゃんはサイヤ人だった……?
コメント:チャンネル登録者数の目標は五十三万とか言ってたぞ
コメント:サイヤ人滅ぼす奴で草ァ!
「これはね、Vのみんなが箱の垣根を越えて桃ちゃんを応援する企画。どうやってやるのかって? ふっふっふ、こうするのさぁ!!」
コメント:おおおおお!!
コメント:すげえ、背景に大量のウィンドウが立ち上がってる!
コメント:あれ全部Vとの通話窓だと!?
コメント:やばいやばい、いったい何人と繋がってるんだ?
「全部で五十人! ホントはもっと繋げたかったけどシステムの限界だった……」
コメント:それでもすげえよ
コメント:お、右上の方にシィちゃん居る
コメント:その隣は龍之介パパやな
コメント:おいおい、猫目ナゴおるやん
コメント:ほんとに箱関係なく来てるんだな
「このみんなで桃ちゃんにエールを送るため、歌を歌うよ!」
コメント:豪華すぎひん!?
コメント:マ? 最大音質で録音するわ
コメント:これだけ集まるって、やっぱ桃ちゃんの友達教のお陰かな?
コメント:カルトが初めて役に立ったな
「みんなにはバックコーラスをお願いしてまーす。そして何を隠そう、今回のプリマドンナは私!! ────じゃないんだよね。みんな、ここが誰のチャンネルか忘れてない?」
コメント:あ
コメント:まさか
コメント:ごめん、素で忘れてた
コメント:お前裏庭な
「ご登場していただきましょう! 今回のプリマドンナ、『李 柚子』ちゃんです!!」
「………えっと、こんにちは、それとも初めまして? 李 桃の双子の妹、李 柚子です」
コメント:キタ━(゚∀゚)━!
コメント:まさかの3Dお披露目!?
コメント:て、てぇてぇ……
コメント:やばい、めっちゃストライク
コメント:もう3Dできてたんですか!?
「服の装飾とかを省略することでモデリング担当者が一日で仕上げてくれました。我らがジェバンニに拍手ー!」
コメント:88888888!
コメント:よくやった!
コメント:GJ!
コメント:今日のMVPはお前だ!
「さ、柚子ちゃん。みんなに一言」
「は、はい。えっと……」
「あれ? もしかして、緊張してる?」
「あ、当たり前じゃないですか! スタッフさんみんなこっち見てるわ、私でも知ってるVTuberが来てるわ、挙句の果てには何ですかこの視聴者数はっ!?」
「ふふっ、すごいよね。ちょっと私も見たことない数字になってる」
「笑い事じゃないですよ!」
コメント:俺も見たことない
コメント:間違いなく伝説になる数字
コメント:まあこのV数とのコラボだし、多少はね
コメント:柚子ちゃん、なに猫かぶってんの
コメント:はやく罵倒して
「スタッフさん、あいつミュートして」
コメント:あっ
コメント:処刑されてもうた……
コメント:変態は去った
コメント:相手されて喜んでそうなんだよなぁ
「こほん……それじゃあ改めまして、スタッフの皆さん、Vの皆さん、それから見てくださってる皆さん。今日は桃のためにありがとうございます。桃がこんなにも、みんなに愛されているんだってことを知れて、それで………私も勇気が湧きました」
コメント:そうだぞ
コメント:みんな桃ちゃん大好きさ
コメント:桃ちゃんに元気を貰ってたからな。今度は俺たちが返す番ってわけ
コメント:もちろん柚子ちゃんも好きだぞ
「あと、昨日はごめんなさい。当たり散らして配信放棄して、みんなに迷惑かけました」
コメント:ええんやで
コメント:しゃーないやろ
コメント:むしろ普通にできる方が稀
コメント:ちゃんと謝れてえらい
「それから、冬さん」
「ん? なぁに?」
「私をここまで引っ張ってきてくれてありがとうございます。冬さんが連れ出してくれなかったら、きっと今ごろベッドの上で震えて、明日が来るのに怯えているだけでした」
「……あはは、面と向かって言われると照れるね」
コメント:赤面冬ちゃんかわいい
コメント:冬柚子?
コメント:さすふゆ定期
「私も冬さんのように、奇跡とハッピーエンドを信じてみます」
「……うん、きっと大丈夫✩」
コメント:俺も信じてる
コメント:オレも
コメント:私も
コメント:満場一致やな
「───ねえ、桃。アンタにはいっぱい、いっっっぱい言いたいことある」
だから───
「病気になんて、負けんじゃないわよ!」
息を吸って、吐いて。
スタンドマイクの前に立った。
隣では冬さんが人差し指を指揮棒のようにして、リズムを取ってくれている。
ふと目が合って、冬さんは私の背中を押すように頷いた。
私はしっかりと頷き返すと、もう一度大きく息を吸って──
You are my sunshine, my only sunshine.
──ねえ桃華。桃華は、太陽なんだよ。
You make me happy when skies are gray.
──桃華がいるだけで、みんな笑顔になるんだ。
You'll never know dear, how much I love you.
──私? そうだよ、私も。知らなかったの?
Please don't take my sunshine away.
──だから神様お願いします。
Please don't take my sunshine away.
──桃華を、大好きなお姉ちゃんを奪わないで下さいっ!!
配信が終わる。
その瞬間、全身の力が抜けて床に座り込んでしまった。
「柚子ちゃん、大丈夫?」
「……立てません」
「そっか、実は私も限界……」
冬さんもまた、私の隣に座り込んだ。
見ればもう目が半分閉じかけている。よくここまで一睡もしないでやれたものだ。
「冬さん、ありがとうございました」
「柚華ちゃんも……よく頑張ったね」
「……はい」
みんなが桃華のために出来ることをしてるところを、ずっと別室で見ていた。
みんなが桃華のために祈ってるところを、ずっと別室で見ていた。
ここに連れてきてくれた冬さんは『見てて』としか言わなかったけど。
──こんなにもみんなが桃華を想ってくれているのに
──私は、何もしないの?
俯いてた私が、前を向いた。
信じてみようって思えた。
この後に何をするかは、渡されたタイムスケジュールでわかっている。
スタッフさんに手伝ってもらい、急いで機材を身体に取り付けると、私はスタジオに飛び込んだ。
冬さんは私を見ると、すぐさま予定を変更した。
きっと──いや絶対、タイムスケジュールに書いてなかっただけで、元々予定してたのだろう。
じゃなきゃ、私のモデルを用意しているはずがない。
冬さんは私にマイクの前を譲ると、私の脇に控えた。
そこから先は、知っての通り。
「ねえ、柚華ちゃん。寝る前に聞きたいのだけれど」
「何ですか?」
「明日はきっと、いい日になるよね?」
「……もちろんです」
だって──
「ハッピーエンドって、決まってますから」
みんな、今日はありがとう。
それじゃあ最後に、明日の占いじゃんけんです。
勝った人にはお礼もこめて、柚子から幸運を送ります。
え、自分の分?
大丈夫。だって、桃も私も幸せウサギだもの。
それじゃいくよ、じゃん、けん、ぽん。
(アンケート最多の手。同数の場合は強い方)
……ばいばい。
今回はサービス問題よ。
-
しあわせの箱(グー)
-
しあわせ草(チョキ)
-
しあわせ島(パー)