「トリャアッ!」
マガジャッパに向けたタックルは見事に胸元へと衝突した。
その攻撃を皮切りに左腕、右腕と拳が頭部の鼻のように出っ張った器官へと飛んでいく。
「■■■ッーー!!」
痛みによる声を上げるマガジャッパは腕を振りオーブへと攻撃を開始した。
(こんなのッ!)
両腕で弾き、すかさず腹部へと蹴りを入れる。さらに今度は体制を低く屈めて側面へ移動。そこからしなるような横蹴りをお見舞いさせた。
(こ、この……うぅっ)
攻撃が通るには通る。しかしこの魔王獣の最大の特徴が、既に彼を襲っているのだった。
魔王獣の”特徴”に襲われている事を自覚し始めているその時、奴の鼻のような器官からマガ水流が発射された。
(っ……!?)
しかし、その兆候をコンマ数秒早く捉えていたオーブは大きく後ろにジャンプ。さらに宙返りで距離を稼ぎ、マガ水流によって切断されたかのような地面へと着地。マガジャッパを見据え、再び構えを取る。
「オエッ……」
すると突然、オーブは口や鼻を抑えるという仕草を始めた。
(なんか……コイツの臭い、だんだん強くなってる?)
彼を襲っているのはそう、水をも汚染させるマガジャッパの全身から淀み出る悪臭である。今まで何とか我慢していたが、オーブが攻撃するたびに鼻から伝達されるその悪臭の強さが増しているのだった。
おそらく、攻撃していくと奴の体に纏わりついた悪臭が空気中へと拡散され、体のものと相まって臭いが強くなっているのだろう。
自分で考察しておきながら、攻撃したくない、アイツに近付きたくないと気が滅入っているオーブ。
そんな個人的な事情はお構いなしにマガジャッパは接近し、無情にも攻撃を仕掛けてくる。
「■ゥゥゥ、■ッ■ッ■ッ!!」
鼻を取りたくなるくらいの悪臭に苦しみながら、トサカ部分に手刀を繰り出していく。
「ウウ……アア……」
正直、気持ち悪い。触りたくないと心のどこかで叫んでいる自分もいる。後方に顔を逸らし、少しでも新鮮な空気を――――
「■■■ッーー!」
そんな一瞬の隙を突かれ、攻撃を許してしまった。マガジャッパはムチのようにしならせた尻尾をオーブの脇腹へと当てたのだ。
(……ッ!?)
言葉にできないような痛みが彼を襲う。経験したことのない痛みを受けると、人は動けなくなる時がある。一眞は今まさにその状況であり、痛みに悶えていた。マガジャッパはチャンスと腕を力強く振るいオーブを薙ぎ飛ばしたのだった。
身長50m、体重2万tの巨体が地面へと叩きつけられたことにより、ド級の砂埃と衝撃が辺り一帯に発生した。
「■■ッーー!」
上にのしかかろうとしているマガジャッパ。奴の鳴き声は今にも
(舐めやがって……)
首跳ね起きで素早く立ち上がると、行動への処理が追い付いていないマガジャッパに向かって反撃の飛びまわし蹴りを繰り出した。後退させることに成功し、このまま畳みかけると地面を蹴った。
(はあああああああああっ!!)
が
「ウゥゥッ……アァァ……」
その強烈な臭いが、戦意を削いでいくのだ。そして意識すら飛びそうになり、フラフラと後ずさりしてしまう。
~~
「ウルトラマン……大丈夫かな」
「押されてる……のかな」
「口……? なのかな。そこを抑えてるってことは気持ち悪いってことなんじゃない?」
学校の教室で待機を命じれれている千歌たち。そんな中誰かが「ウルトラマンと怪獣の闘いが中継されている」と言っていたことを聞いた3人は携帯を横にしてその中継を見ている。現状を見ている彼女たちの表情は、心配や不安と言ったものを感じ取ることができた。
それは彼女たちでけではなく、クラスメイトも同様……と言った感じだ。
「ねえ、そう言えばここってカズくんが言ってた場所に近いんじゃない」
ふと梨子が携帯のマップを見て告げた。千歌や曜は顔を見合わせ
「そう言われれば近いよここ!?」
「うん!」
そこで、彼が言っていた言葉が不意に繋がった。
「じゃあカズくんが言ってた原因って……」
千歌の言葉に曜と梨子も察する。
「この怪獣が……」
「水が臭くなった原因……ってこと?」
それと同時に駆けていった彼の……一眞の無事を祈る3人。
~~
「ほお……随分とやるようになったじゃないか。でも、これくらいで苦戦するようじゃ理想には近づけないぜ」
マガジャッパと交戦するオーブを見て、アオボシは肩をすくめて呟いた。
「にしても……強烈な臭いだよ……」
ポケットからハンカチを取り出した彼は、スッと鼻や口を押えたのだった。
(くそっ!?)
信じられないほどの悪臭に苦しめられるオーブは、中距離からの攻撃を放つために体に力を籠める。すると体にある紫のラインが発光し、高速移動を可能とした。ティガの形態の一つ『スカイタイプ』力だ。
マガ水流と軽々と躱し、死角へと移動する。奴が気付いたときにはすでに遅く、別の場所へと移動し手裏剣状の光弾『スペリオンスラッシュ』を手から放つ。
スピード故の残像を作りながら、左右に移動したり上空へと飛び上がり、攻撃を当てていく。オーブの放ったスペリオンスラッシュは体へ着弾し、身体からは火花を上げていた。
(喰らえッーー!!)
止めににスペリオン光輪を何発も同時射出。これで終わりかと思った矢先――――
身体を丸め込むようにして黄色い鱗を目立たせると、その全てを弾き返したのだ。
(んだと……)
直後、マガジャッパは奇妙な声を上げると”目の前から消えた”。
姿を確認しようと辺りを見るが、どこにもあの魔王獣は見当たらない。
(透明か――――うああっ!?)
背後からの衝撃にオーブは地面に倒れる。背中を走る激痛に歯を食いしばりながら、オーブは立ち上がる。
今まで以上に目を凝らすが、やはりマガジャッパの姿を視認することができない。肩を上下させながら辺りを必死に探していると
「ガアッ……!?」
顔に一発。
「グウアアアッ!?」
腹部に一発。
「ウァァァァァッ!?」
再度、背後に一発を食らってしまう。
攻撃を受け続ける数秒の間、地面へと視線を向けたオーブはあることを思いつく。
(これだっ――――!)
身体を勢い良く回転させ、土煙を上げ始めた。上空へと巻き上げられそれをオーブは周囲に向かって放射した。
するとある場所だけ、土煙が怪獣の形を取り始めたのだ。
(そこだぁぁぁぁぁ!!)
反射的に手から放たれた何発ものスペリオンスラッシュがマガジャッパの体を爆発させ、透明化を解いたのだった。
いつだったかは覚えてないが、透明になった相手に土をかけて見破るという戦法を漫画かテレビで見ていたことを思い出し、それを実践したのだ。
(これでっ!)
いい加減、勝負を終わらせるためにオーブは空へと跳躍する。
《ウルトラマンオーブ バーンマイト》
カラータイマーを中心にして赤い光がオーブを包み込むと、2つの角を持った形態”バーンマイト”へとチェンジした。
「ラァァァァッ!!」
空中で何度も回転や捻りを加えたキックが、爆発音とともにマガジャッパの頭部へ直撃した。
(こいっ!)
燃えがる力を体現させたその体で、オーブは構えを取る。
「■■■■ッーーー!!」
そっちこそ来い、とマガジャッパは腕を広げ、そこにある吸盤はものすごい力で引き寄せ始めたのだ。その証拠に周囲の木々や砂さえもマガジャッパへと向かっている。
(な、ちょっと、あああああ!?)
見事に腕の吸盤へと吸い寄せられたオーブは、ゼロ距離から口から出す臭気ガス『マガ臭気』を浴びてしまう。
「ウアアアアアアアアアアアアアアア!?」
今までの何倍もの悪臭、そして身体が痺れてしまったような感覚に陥る。カラータイマーも点滅を始めてしまった。
「■■■■■ゥ、■ッ■ッ■ッ■ッ■」
勝利を隠したかのように声を上げるマガジャッパだったが……。
(ふざけてんじゃねえぞぉぉぉぉぉぉ!!!)
身体から噴き出る炎に、マガジャッパは拘束を解いてしまう。
「(ウオオオオオオオオオオオオ!!!!!)」
激昂の声と共に繰り出されたアッパーカットは水の魔王獣の頭を打ちあげた。
マガ水流を放つため動作に入ったことを確認したオーブは近くにあった泥を救い上げその穴を塞ぎ、さらに手に込めた炎で焼くことによって固めた。
「■■■■!?!?!?」
塞がれたことにパニックを起こすし、憤怒したマガジャッパの攻撃を胸部で受け止める。
「ハアァァァッ!!」
さらに腕を持ち上げ腹部を蹴り上げ、クビに足を挟み込んで全体重をかけ地面へと叩きつける。
追撃が終わることなく、背後に回り込んで尻尾を掴みジャイアントスイングで投げ飛ばす。さらに逆さまの状態で掴み上空から投げ下ろす。
(これで……終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!)
体中に炎のエネルギーを充満させたオーブはマガジャッパに突進。その破壊エネルギーはマガジャッパを焼き尽くすほどの高温と、爆発力を生み出した。
「(ストビューム……ダイナマイトォォォォォォォ!!!)」
オーブを中心とした大爆発がマガジャッパを木っ端みじんに粉砕した。
大爆発の煙の中から確認できるカラータイマーの点滅……。この水源での勝者はウルトラマンオーブだ。
「……」
彼の周りを飛ぶヘリに気付くと彼は首を縦に振り、それ高く飛翔していく。
携帯での中継を見ていた千歌たちも「「「ふう……」」」と安心の一息を吐いたのだった。
いつものクリスタルから光を集め、ホルダーから取り出す一眞。その姿に目を凝らして見つめる。
「え!? なにこれ、おんなじ人?」
そのカードに描かれていたのはどことなく『ウルトラマン』と似ていたのだ。
「あ、でも模様違う……って早く戻んなきゃ……」
カードをしまい、急ぎ足で自転車の下へと向かう一眞であった。
同じようにしてダークリングでマガジャッパのカードを手に入れるアオボシ。
「この調子で最後も頼むよ」
「オーブは倒したのね」
と、背後から近づいてきたのはスピカである。すると、先の闘いを見ていたのか、彼女は尋ねた。
「ねえ、貴方と彼の間には何か関係があるの?」
それを聞いたアオボシはニヤッと笑う。
「どうだか。何、もしかして――――」
「いいえ。ただ不思議に思っただけ。彼とだけは真っ向から勝負を仕掛けたがる貴方に」
「別に……アイツには現実を知らしめたいだけだよ」
それよりとアオボシは続ける。
「最後の魔王獣はどうしたんだ?」
「あなたが動くよりも早く復活させたわ」
そう言って彼女は空に輝く恒星を見上げるのだった。
~~
「はあ~一時はどうなるかと思ったわよ……」
「まあまあ、問題も解決したみたいだし!」
「千歌は能天気だよホント……」
「それどういう意味!?」
そこからは普段通りに進み、今練習を終えて帰宅しているところだ。一眞も教室に戻った時は心配されたが、「いや~ウルトラマンに助けられちった!」とか言って誤魔化しておいた。
(ほんと……今回も強敵だった。色んな意味で)
もうあんなとは戦いたくないと心底思う一眞。
教師陣や生徒会長そして理事長も、今回の事件が魔王獣絡みと知ってどう思ったのだろうか。とりあえずお疲れ様ですと心の中でねぎらっておく。
だがまだ完全に終わったようではないらしく
「学校はまだバタバタしてるみたいだけどね……」
「お姉ちゃんも今日は遅くなるって言ってましたし」
曜やルビィの言葉に、今回の騒動の大きさを痛感する。
水という生命維持に必要不可欠なもの……それが汚染されれば多大なる被害を被る。あの魔王獣にそんな罪の意識はなかったのかもしれない。しかし、存在自体が環境を悪化させてしまうとはなんともアレな話だが。
そして話が脱線していくにつれ一眞は花丸に話しかける。
「花丸ちゃんは今日も沼津に?」
「はい、ノートを届けに」
自分の荷物以外にもバックを持っている花丸。話によれば、新学期初日から自己紹介を失敗したらしくそれから来ていないのだとか。(花丸に聞いた話を一眞が雑に解釈した結果)
「大変だな~」
学年によっていろいろあるんだな~とぼんやり考える一眞を乗せたバスは、次の停留所をアナウンスするのだった。
本人は水浴びをしているだけなんですが、実はそれで水を汚染してしまうという厄介な魔王獣ですよね。
今回はオーブ本編のほかにウルトラマンタイガのマジャッパとの戦闘を。さらに透明化を見破るのはR/Bを参考にしました。能力多彩過ぎんだろコイツ……。
残るはあの魔王獣だけ。前回を見たらわかりますがもう既に……。