シリウスが地球へと墜落する数年前、
彼が受けた指令……それは魔王獣の討伐。しかし、オーブが降り立った地球では闇、光、風、土、水、火の魔王獣が同時に……一斉に目覚めようとしていたのだった。オーブ1人に対し、同時に相手する魔王獣は6体……。
倒すにしても地球にも、地球の生命体にも多大なる被害を与えてしまう。そんな最悪な事態を恐れた彼は、事前に渡された”魔王獣をを倒すための力”であるウルトラフュージョンカードの力を解放。フュージョンアップという力を犠牲にすることにより、魔王獣を封印することに成功したのだった。
そして最後に、全ての力を併せ持つ大魔王獣の力に蓋をするように、勇者のフュージョンカードを封印に使用。
一時的に封印し、目覚めるタイミングを少しでもずらことによって、被害を最小限にとどめようとする彼なりの守り方だったのだ。
しかし、大災害を引き起こすとされる魔王獣を地球に封じるという行為は、危険の種を蒔くということ。守るべきはずの星に、脅威となる可能性を長く放置することになる。
その選択が正しかったのか、オーブは地球で魔王獣の復活を監視する傍ら、自問自答を繰り返すのだった。
~~
「………んん……」
その痛みが残る体で起き上がった。辺りを見回してみるが自分には馴染みのないものばかりで、まるで異世界に来たような錯覚を覚えた。
彼は和室に寝かせらていたのだ。布団をはぎ取ると、自分の体には包帯が巻かれており、誰かが傷の手当てをしてくれたのだとわかった。
自身の手を見つめると、自分が助かったのだという安堵と、”助かってしまった”という後悔、もうあの星はないのだという悲しみが同時に襲い掛る。その見つめていた手で、シリウスは顔を覆った。止めようにも止められない涙が、目から溢れ出てくる。
様々な後悔の中で、彼は”今できること”として、自分1人しかいないその空間に謝罪することしかできなかった。
「ごめん……俺だけ……生き残るなんて……」
「……あ、あの……」
不意に声をかけられたシリウスは涙をぬぐい、声の方向へと頭を向ける。そこには襖から顔を覗かせる少女の姿。
「あ……」
目が合った瞬間、少女は無言のままいきなり廊下の方へと駆け出していった。それによって訪れた再びの静寂。何が何だかわからないシリウスだったが、とりあえず逃げだそうと立ち上がる。
「ううっ……!?」
四肢に力を入れると激痛が走る。墜落の時のダメージが体に残っているのだ。
「おい、あまり身体動かすなよ。傷口開いちまうだろ?」
襖をあけて、青年の声がシリウスを止める。
「……あなたが俺の傷の手当てを?」
「まあな。見たところ、2日でだいぶ良くなったみたいだけど」
2日、それが自分が寝ていた時間だと理解する。この激痛でだいぶ良くなったとは、どこまで酷いケガだったのだろうか。加えて、アルデバ人特有の力も使えないというのはいささか不便だなと感じる。以前は怪我をすれば、すぐに治すことができていたからだ。
だが今となってはそれすらも不可能となってしまった。不意に思い出してしまった事実は、彼の心をチクリと刺激する。
「どうした?」
「いや、なんでもない。それより、ここは何処なんだ? なんで俺は……」
いっきに畳みかけようとしたところで、前方の青年は――――待った、いっきにしゃべるなと彼を制し、一つ一つ順を追って説明してくれた。
「まず、2日前にお前が倒れてんのを珠冬が見つけて、なんとか内浦のオレの家に運んできたってとこだな」
「内浦……?」
シリウスの問いに、――――嘘だろ、と言いたいような表情と苦笑いを浮かべながら説明を続けてくれる。あとおそらく、先ほどのピンク髪の少女が珠冬というのだろう。
「沼津……もわからないよなこりゃ。その前に、お前はどこまで覚えているんだ」
その問いに、彼は黙る。自分は宇宙人だと言えるはずもないシリウスは口を噤んでしまう。それを見かねた青年は――――名前は? と聞いてきた。
「……シリウス。それが俺の名前だ」
なにかを納得するような表情をとった後、青年は手を出して自身の名前を言った。
「オレは
「……?」
手を差し伸べたことに疑問を浮かべる。――――立て、ということなのだろうかと頭を悩ませる。
「こうやって手と手を握るんだ。誰かと初めて会った時にするんだ」
「そうなのか……」
そういうものなのかと、呑み込んだ彼は和哉の手を握る。途端に伝わってくる、彼の熱。がっしりとした力強さがありながらも、彼の優しさを感じた。
「さてと、あとは追々話していくとして……シリウス、お前腹減ってるだろ?」
そして和哉の言われるがまま、シリウスは居間へと連れていかれるのだった。
「どうだった?」
「……美味かった。ほんとうに………」
噛みしめるように、シリウスは感想を伝えた。
机の上に置かれていた料理の数々はシリウスの胃袋の中へと吸い込まれていった。彼は料理を一口口に入れた時、動きが止まったのだ。途端、雷に打たれたような衝撃。
食材を調理した料理というものは生まれてから碌に食べたことがなかった。なにせ食べ物も入手しづらかったし、”栄養を取るためだけ”を目的としたブロック状のものをよく口に入れていたのだから。そう言えばよく文句を言ってはリゲルに叱られていたことを思い出した。
そんな調子で温かい料理を無言のまま、ひたすら口に運んでいった。その調子を和哉はにこやかに見つめていたのだった。
「だろ? オレと
和哉は満足そうに笑った。
「……兄さんも話してないで洗い物手伝ってよ」
すると台所から来た少女、珠冬はシリウスの顔を見ずに兄に声をかけた。
和哉の妹、
「わるいわるい。シリウスはここで休んでてくれ」
和哉が去った後、座っていられなくなったシリウスは、ふと飾られている写真に目をやる。2人の兄妹が、父母と共に笑顔を浮かべた瞬間を映したものが多く置いてあった。恐らく、和哉と珠冬の幼少期のものだ。
「………」
シリウスは無言のまま。写真を見つめていた。
~~
翌日、晴れた空の中内浦へと繰り出した3人。その美しい海や自然を見せられたシリウスは言葉に出せないような感動を覚えていた。
「すごいだろ! この景色!! オレもお気に入りなんだ」
階段が何段も続く淡島神社を上っていった先に見えたその景色。青い海や、深い緑。その中に人が住んでいる街が形成されている。アルデバにいたころには見ることのなかったその美しさは、シリウスの心を大いに揺さぶった。
「ああ……ほんとうにすごい。それに……綺麗だ……」
知らず知らずのうちに、シリウスはその目から大粒の涙を流していた。
「おいおい、どうした、潮が目にでも染みたか?」
「そんなところだよ……」
涙を拭きとったシリウスだったが、長い溜息の後に彼は小さく呟く。
「こんなきれいな場所が、宇宙にはまだあったんだな」
「なあ和哉、聞きたいんだが……親はどうしたんだ?」
シリウスが口を開いたのは、階段の途中に設けられたベンチに座ってからものの数秒後であった。
突然の問いに和哉は戸惑ったが、彼の真剣な眼差しに口元を緩め話し始めた。
「オレの両親は、数年前に死んじまったよ。事故……だったかな。幸い、蓄えはあったから何とか珠冬と一緒に生活してるけど」
「す、すまない。そんなことも知らずに聞いてしまって」
彼らも親を亡くしている。アルデバと同じようにも聞こえるが、このような平和な世界では珍しいはずだ。そう感じたシリウスは即座に謝罪の言葉を述べるが、気にしていないと和哉は笑う。
そうして和哉は立ち上がり背伸びをする。そしてシリウスに向かって語りかけた。
「オレはさ……珠冬が幸せになってくれればそれでいいんだ。今はそれがオレの夢なんだ」
海を見据えて語るその横顔を見たシリウス。それはとても美しい願いだと、彼は感じていたのだった。
~~
遠くに地球が見える宇宙空間。そこでレグリオス星人の船と、ウルトラマンオーブは激しい攻防を繰り広げていた。
対空砲の雨を交わしながら、エネルギーを丸鋸状にし撃ちだす。正確な狙いのおかげで対空砲の半数は壊すことができた。しかし、金色の色を輝かせ飛んできた円盤の攻撃がオーブへと直撃。
無重力の中、何回も回転してしまう体をコントロール。体勢を整え、飛行で円盤へと突撃。円盤の機体下部から放たれる光弾を巧みに躱し幾度目かの光輪”オリジウムソーサー”を放つ。
これで決着はついた……と思った矢先、円盤はまるで王冠を付けた竜のような姿に変形。光輪を避けてオーブに襲い掛る。
オーブと宇宙竜の接触のするコンマ数秒、巨大な剣を取り出したオーブが金色の体を切り裂いた。衝撃により、船の方へと飛ばされる宇宙竜。そのままオーブはエネルギーを剣へと集約、虹色の奔流として撃ち出した。
金色の竜は木端微塵に、加えて”エネルギーの刃”で船を切り裂こうとする。しかし、艦体を切り裂くことは叶わず、ワームホールへ逃げられてしまった。
オーブは船の消えた方向へと目を向け、そのまま動くことは無かった。
~~
俺が和哉と珠冬の兄妹に助けられてから数週間が経った。好意、しかし強引に、和哉は俺を2人の家に住ませてくれた。
その間に彼らがいろいろ良くしてくれたおかげで、傷も治り、この地球、内浦のこともわかってきた。そして珠冬との間にも変化が。
「シリウス、何見てるの?」
「ああ。なんか動画を見つけてさ」
俺が見ていたのは、とある動画だった。自分よりと年上の、所謂高校生だろうか。その数人組が歌を歌い、踊るというもの。そこには胸の内から湧き上がる何かがあったのだ。俺は彼女に説明しようと、言葉を紡ぐ。
「なんていうかさ、このステージに立つ人も、そしてそれを応援する人にも……なんだかすごい力を感じるんだよ。まるで会場全体が輝いているみたいに……」
俺は興奮気味になる気持ちを抑えながら自身の感想を口にするが、珠冬は目をぱちくりさせ話を聞いていただけだった。
「どうした?」
「ううん。ただ、シリウスがそこまで楽しそうにしているのが珍しいなって」
「あっ……そうかも」
俺はここで何かに夢中になる、心惹かれるという感情を始めて知った気がした。
「珠冬はどう思う、これ?」
「私には……う~ん……」
顎に手を乗せ、考える珠冬。しかし――――よくわからないな、とだけ言い残すと用事があるみたいでその場をあとにする。
いってらっしゃいと声をかけるくらいには、俺もこの星に馴染んでいるのだった。
~~
「俺は、地球人じゃない……。それは知ってるんだろ?」
唐突な問いだった。俺はかねてから心のうちにあったその疑問を、和哉へと伝えた。
「ああ、知ってた。そりゃあデカい船があったり、地球のことなんも知らないんだ。怪しむだろ」
何もなく普通に、ただ友達と話すように簡単に、和哉は言った。
淡島神社途中の休憩場所で、遠方を見据えた和哉にシリウスは返す。
「じゃあ……なんで……ここまで俺に……」
疑問だったのだ。どうして俺なんかを助けたのか、所謂異星人だと知っていたのであれば、見て見ぬふりをしてほっとけばよかったものを。
「理由なんていらないよ。オレは、オレも珠冬も、傷ついたお前を助けたかっただけだ」
その迷いなく語る横顔を見つめるシリウスの目は、何かを思い出すかのように細まっていく。
「俺も……俺もここよりだいぶ遠い星に……アルデバにいた頃……そう思っていた」
「……誰かを助けたい?」
「……ああ。誰も傷つかない世界が、俺の理想だった。でも、言われたんだ。その理想は夢物語だ。そして俺が誰かを助けるのは、助けられなかった人たちへの後ろめたさからだって。………でも! 俺は誰かを助けたい、それに理想だって求め続けたい……………だけどそれは、間違いなのか?」
しばしの間の沈黙。
風が木々を鳴らしている音が、その場を支配する。
そこに再度、人の声が入る。和哉だ。
「それでも……それでもいいんじゃないか」
「え?」
彼の答えに、シリウスは疑問を抱く。何故だと。その理想を追いかけるだけの、罪悪感からくる、愚かで歪んだ生き方で?
「理由はどうあれ、お前は誰も傷ついてほしくないんだろ? だから助けて、その理想を追いかける。確かに愚かだし、歪んでるっていう奴もいるかもしれない……」
けど、と彼は続ける。
「それってすごく美しいものだとオレは思うんだ。現実が非常だからこそ理想を求め続ける、形にしようと努力する。誰かを助ける? いいんじゃないか! 理想……夢や目標も、達成するために足掻いて足掻いて……足掻き続ける。オレはそういうの好きだな」
いつの間にか景色を見ている姿勢から、シリウスへと向き直っている和哉は笑顔を作って言う。
誰も傷つかない世界……そう願ったのは、そう願った根底にあったのは、アルデバの惨状からだったのかもしれない。この戦いが終わって欲しいと、終わって平和に暮らしたいと……それが、どれだけいいだろうと憧れたのだから。その願いは……美しいものはず……。
形にするのが難しく、険しい道だからこそ……足掻き続ける。
「お前はお前の信じた道を進めばいいんだよ。その過程や、根底に何があってもな」
肩を叩いた和哉の手はシリウスの心に熱を灯していた。
「ありがとう。なんだか軽くなった気がする」
「そうか、そりゃあよかったよ」
その帰り道、2人は並んで内浦の道を歩いていた。この地球でもう一度やり直そうとシリウスは決心する。
しかし運命というのは時に残酷なものであった。
巨大な地響きと揺れが、彼ら……街の人々を支配する。
「な、なんだこれ……!?」
「地震か……!?」
和哉やシリウスのほかにも、急に発生した異常に声を上げる。すると太陽の光が一瞬、鈍い青に輝く。そこから数秒後、テレポーテーションのごとく、異形の巨大生物がその姿を現した。
地球のカミキリムシと、顔のない甲冑を模した生物だった。
黒と白の体、2本の角を生やした頭の中心にはどす黒いクリムゾンレッドに輝く結晶。そして胸部には青、はたまたは気色の悪い虹色に輝く発光体が2つ。
「なんだ……シリウス?」
和哉は隣にいる人物に顔を向ける。すると、あり得ないとでも言いそうな表情で、その”元”となった生物の総称を口にした。
「……怪獣」
「まさか……アルファルド様が重傷を負うとはね」
アルファルド・レグルスから渡されたダークリングを片手に、リゲルは呟いた。
とある目的のため、太陽系第三惑星への侵攻を始めていたレグリオス星人たちだったが、あいにくとでも言うのだろうか……魔王獣討伐に訪れていたオーブに防がれてしまった。そして船の当たり所が悪く、アルファルドが負傷。
代わりに、この星に眠ると言われる魔王獣の復活をリゲルに託したのだった。
「アレが魔王獣……単体でも尋常じゃない力を持っている。なら、それを統べる大魔王獣ってのは……どれほどの力なんだろうな」
ダークリングの放つ闇のエネルギーは、リゲルの秘めた狂気を加速させていた。
「どこだ! 珠冬! おい!!」
「珠冬! 珠冬!!」
2人がかりで彼女を探しているが、街を蹂躙する怪獣、そして怪獣によって逃げ惑う人々の悲鳴や叫びが、その声をかき消す。
「シリウス、いたか?」
「だめだ見つからない……」
『pppppppp……!!』
なんという事だろうか。怪獣は頭から火球を放ち始めた。爆発により、暗くなっていた外は一瞬にして昼間並みの明るさに変わる。そして鼓膜を激しく振るわす破裂音。
「早く見つけないと!」
「そうだな」
早く見つけなければ、珠冬も炎に呑まれてしまう。そんな焦りで心臓の鼓動が早くなる。
「兄さーーん! シリウスーー!!」
2人は呼ばれるがまま、その方向へと駆け出していく。
「おい、大丈夫か?」
「私は平気。ただ、この人の脚が挟まれちゃったみたいで」
珠冬の前には男性が倒れており、片足がコンクリートの瓦礫にはさまれていたのだ。
「和哉、やれるか!!」
「ああ!!」
すぐに助けようと瓦礫に手を掛けたシリウスと和哉。彼らは息を合わせて、その何トンもあるだろ瓦礫を数センチ持ち上げる。そのくらいの隙間ができれば、引きずり出すことも可能だ。
「……珠冬、出してあげろ」
彼女は男性を引っ張り、瓦礫から救出する。
「あ、ありがとうございます……!」
「歩けますか? なら早く避難を」
それはあまりに突然で、理不尽な出来事だった。
『ppppppppp……』
光の魔王獣 マガゼットンの光は、シリウスたち3人に狙いをつけてしまったのだ。
「アイツ、俺たちを狙ってる……!」
限界が近づきつつある四肢に力を入れて、3人は走る。しかし、マガゼットンは追尾を辞めなかった。まるで何か執念を抱いているかのように。
『pppppp……!!』
再度、マガゼットンは頭の前でエネルギーを貯め始めた。
必死の逃走虚しく、超高温度の火球が3人の背中を狙うように撃ちだされた。だが狙いがずれたのか、その攻撃はビルへと直撃。爆発で建物が全壊する。
「危ないッ……!!」
シリウスと珠冬は前へと押し出された。
「うっ……!?」
「……っ!?」
シリウスは横を見ると、珠冬が横たわっていた。しかし、和哉の姿が見えない。その瞬間、もしやという最悪の状況を連想させた。そんなはずはないと、彼は後ろへと顔を向ける。
「―――――――――ッ!?」
声にならないほどの衝撃がシリウスを襲う。
おびただしい血の量と共に、和哉は瓦礫の下敷きになっていたのだ。それは先ほどの男性とは比較にならない。頭から下は瓦礫に挟まれ、よく見るとむき出しの鉄骨などに胸を貫かれていた。
「だ………大丈夫…………か?」
「和哉っ!!」
引き寄せられるようにして和哉へと駆けよる。
「待ってろ、今助ける……上がれ……上がれよっ……頼む!!」
自分1人ではどうにもならないほどの大きさと重さがあった。貫かれたとはわかっていながらも、それを認めたくないというシリウスは必死に持ち上げようとするのだった。
マガゼットンの影が近づいてくるその時、もう一方から光の球体がマガゼットンを弾き飛ばした。それは段々と人型の形をとって姿を現す。光の巨人、ウルトラマンオーブであった。
「なにやって……るんだ……? はやく……オレを置いて……珠冬を連れて逃げろ……」
「何バカなこと言ってんだよ。俺が助けたいんだ! 信じた道を行けってお前が言ったんだぞ!!」
瓦礫をどうにかして持ち上げようとするが、やはり上がることは無い。棒を下に潜りこませ、てこの原理を使ってもだ。
「オレは……大丈夫だから」
「大丈夫なもんか……もう、誰も死なせたくない……これ以上、俺に関わったせいで……」
俺に関わった関わろうとした人を、もう目の前で失うことはしたくなかった。アルデバが消滅したときの無力感を、もう味わいたくはなかったのだ。
それに、宇宙人と知った上でもこんなにも温かく迎え入れてくれた彼を……ただの人として扱ってくれた彼を……ここで死なせるわけにはいかないと。
「頼む!!」
シリウスの右腕を掴む、和哉の真っ赤に染まった手。周りは火の海だって言うのに、彼の体温がやけに冷たかったのが、近づきつつある死というものを嫌でも意識させる。
「お前ら2人……だけでも生きるんだ。今は全員よりも、……生きれる可能性のある方を……取るんだ」
それは、誰もを助けたいと願うシリウスには酷な頼みだった。
しかし和哉は視線をずらさず、シリウスを見つめている。
「ずっと……考えてたんだ……このまま、お前とずっと一緒に暮らせればいいなって……でも、それを言うと、お前は残るだろ?」
和哉のそれは、シリウスが抱いたものと同じ願いだったのかもしれない。親を亡くし、妹とともに育っていかなくてはいけないという現実。彼自身、やりたいことも、関わりたいこともあっただろう。しかし、そのすべてを諦めた。
平和な世だからこそ、彼は妹のために自分を捨てたのだ。
そこに現れたシリウスという存在は、和哉にとって同等の付き合いができる人物になっていた。友人に、親友に……。
「俺も……お前と共に暮らしたいって……」
「なら……今日から暁……の姓にしないとな……」
「そう、だな……」
焦点のあってない和哉の顔は、くしゃりと笑う。それを見たシリウスは手を握り涙を流した。和哉が欲したもの、シリウスが失ったもの。それは2人同士で補うことができたのかもしれないと。
完全に事切れてしまった和哉を見送ったシリウスは、そこら辺に落ちていたネームプレートに『暁カズマ』と名前を入れ服に付けた。シリウスという名を捨て、彼は和哉から名前を貰い、新たな名で生きていくことを決意したのだ。
「珠冬、起きろ。逃げるぞ」
起こした珠冬を連れて駆け出した。
「ねえ、ねえ兄さんは!?」
「………和哉は……ごめんな……」
「ねえ、どういうこと!? 教えてよ!!」
珠冬の疑問に涙を零しながら、シリウス……カズマは詳しいことは答えることなく逃げていくのだった。
逃走の最中、カズマが後ろを振り向くとダークリングを持った人間を捉える。
「まさか……!!」
「シリウス?」
珠冬が不思議そうに見つめてくるが、カズマは何でもないと一言、マガゼットンから逃げていくのだった。
(1話冒頭に続く)
~~
オーブがマガゼットンを倒した衝撃で、珠冬も瀕死の重傷を負ってしまった。それをみつけたリゲルは、口角を上げる。
彼女はこの街の人間だろう。怪獣に襲われた記憶というのをウルトラマンに変えてやれば、良い手駒になると考えたからだ。そうと決めたリゲルは、横たわる珠冬の体を持ち上げアルファルドの宇宙船へと戻っていく途中、
そこでリゲルは見つけてしまったのだ。
倒れていたカズマ……シリウスの姿を。
「……残念だよ。ここで君が死ぬなんて……」
それだけ言い残すと、彼は歩き出していった。
しかしカズマの肉体にはオーブが宿っていた。ダメージを受けた体を、オーブが修復していく。しかし、地球人とよく似た肉体構造でありながらアルデバ人という異星人の体は、オーブのただでさえ少なかったエネルギーを消費。それによってオーブの意識は封印され、その一体化の副作用からなのか、肉体的負担で記憶を失ってしまったのだった。
珠冬は記憶を弄られ
「珠とは日本の言葉で真珠を意味するみたいだから……今日から君の名前はスピカだ」
「はい……私はアルファルド様の仰せのままに……」
アルファルドの傀儡となってしまった。
それが3年前の真実。一眞の失われていた記憶の欠片。
「…………ッ……ッ……ッ」
波のように押し寄せてきた記憶の奔流。
その膨大な情報量に一眞は吐きそうになる。
「ようやく思い出せたようだね? シリウス」
懐かしいその名前を、アオボシ……リゲルは嬉しそうに、恨みを込めたようにその声を発した。
スピカちゃんの正体は、一眞を助けた家族の1人で彼と交流があったというやつです。
あと、オーブ本編とはフュージョンカードの出自がかなり違います。(あまりこれには意味がいないです。ただ、原作のオーブとは違うことを示しておきたかったので)
これは星の名前の話なんですが、アオボシってシリウスの……