そして、エース兄さんウルトラカッコいいぜ!!!!
学生は休みを謳歌し、あるいは課題の多さに声を上げ、あるいは大会で歓喜の声を上げ、または悔しさの涙を流すこの夏。それはスクールアイドルも例外ではなく、大イベントの開催も秒読みになっていた。
ラブライブ
スクールアイドルの甲子園とも呼ばれる全国大会だ。Aqoursもその目的はラブライブで優勝し、浦の星を廃校から救うため……。その予備予選がついに始まろうとしている。
だがそんな中、梨子からあることが告げられた。
ピアノコンクールの出場だ。偶然にも、予備予選とコンクールの日程が重なってしまうという事態になってしまったわけだが、みんな……一眞を含めたAqoursのメンバーは梨子を送り出すことに決めたのだった。
弾くことができなかったピアノを、いままでのスクールアイドル活動を通じて梨子が何か答えを得たのなら、それを送り出す。そのことになんら反論はない。むしろ、彼女が再びピアノを弾こうと自らの意志で決めたのだからそれを止める理由など、どこにもない。
千歌が、ラブライブとコンクールのどちらかを選ばなければいけない梨子の背中を押したのだ。
「しっかりね」
「お互いに!」
沼津駅のホームで、千歌と梨子は互いに手を握り合い励まし合う。そこにはくっきりとは見えないながらも、強い信頼を感じとることができる。
「梨子ちゃん、頑張ルビィ!」
「東京に負けてはダメですわよ!」
東京に負けるとは何なのかはわからないが、ダイヤなりの激励なのだろうと一眞はひとり納得していると時刻表を見た曜が、時間だと教えてくれた。
「チャオ、梨子」
「気を付けて」
「ファイトずら」
鞠莉や果南、花丸も別の地で輝こうとする彼女にエールを送る。
「頑張れよ」
「うん、一眞くんも」
マネージャーとしてか、それともウルトラマンとしてか……おそらく両方だろう。互いに受け取った言葉に、どちらも笑い返す。
キャリーバックを引きながら改札を抜けてホームへと向かう梨子の姿に、千歌はもう一度
「梨子ちゃん、次は、次のステージは絶対みんなで歌おうね!」
次こそはみんなで。その約束を胸に、梨子は走っていく。東京へと向かう梨子には、不安な表情など微塵も見られなかった。
「さ、私たちも帰って練習しますわよ」
「これで予備予選には負けるわけにはいかなくなったね」
「なんか気合が入りマース!」
ピアノが弾けなくなった過去と向きあおうとする梨子に感化されたのか、一層練習に熱が入るだろうと一眞は確信すると同時にこちらにも気合が入る。
「ね、千歌ちゃん!」
しかし曜の言葉に帰ってくる声は無かった。
不思議に思って曜が振り返った目線の先……そこには改札の先を見据えて佇む、千歌の姿があるだけ。それを見た曜はただ友人の名前を呟く。それしかできなかった。
「……?」
視界の端に捉えてしまった一眞も疑問に感じたが、その時は別段気にしてはいなかった。
~~
「特・訓! ですわっ!!」
部室にまたもや聞いたワードが響き渡った。予備予選では負けることはできない。そんな熱意故の呼びかけなのだろうが、誰も相手にしない。またか……と呆れた目を送るだけとなってしまっていたのだった。
「また……?」
「本当に好きずら」
目だけと思えば口にも出してしまった。ある意味冷たいその空間で、一眞は苦笑いをするしかない。
すると、パソコンで何かを調べていたルビィが突然声を上げ、それにつられた全員の視線が彼女へと向けられる。
「これって……Saint Snow」
画面には、以前東京であったSaint Snowのライブ映像が映し出されていた。
「先に行われた北海道予選をトップで通過したって……!」
「へえ、これが千歌たちが東京で会ったって言う」
興味ありげに呟いたのは果南だったが、映像に映されている圧倒的なパフォーマンスはここにいる全員の目を引いていた。おそらく……いや、絶対東京のライブの後に猛特訓をしたのだろう。
「頑張ってんだな……」
「……うん」
一眞と千歌はどこか嬉し気であった。遠い地で、同じトコロを目指している事が、とても嬉しく、燃えたのだろう。そして、あわよくば同じステージで……
「気持ちはわかるけど、今は目の前のことに集中しない?」
「果南にしては随分堅実ね」
「誰かさんのおかげで、いろいろ勉強したからね」
釘をさす果南を鞠莉はからかってみる。しかし、果南も鞠莉へと軽口をたたいている。思い出したくもないことから、軽口にできるくらいの出来事……ぐらいにはなったようだ。すると、「では! それを踏まえて……」とダイヤが何かを提案してくる。
「なんで……こうなるの!!」
それはプール清掃だった。いったい何を踏まえてプール清掃なのだろうか。全員(ダイヤを除く)でデッキブラシでプールを入念に掃除していく。とは言っても不満しかないのだが。
「文句を言ってないでしっかり磨くのですわ!」
「で、でも足元がヌルヌルして……」
「ずら……!?」
脚を滑らせ、ルビィと花丸は盛大に転んでしまう。
「気を付けろよ~」
ブラシをこすりながら一眞は2人に声をかけた。
にしてもここまで清掃していなかったのかと不思議に思った一眞。しかし、以前のマガジャッパの騒動もこれに関与しているのだろうと、改めて魔王獣の脅威を感じていた。
「これで特訓になるの?」
千歌の指摘の通り、プールサイドのホワイトボードにご丁寧に”特訓”と書かれている。そうか、この滑る状況でいかにバランスをとれるかが特訓なのだなと一眞は呑み込もうとする。しかし結局――――あれ、なら俺要らなくね? となってしまうので深く考えないようにした。
「ダイヤがプール掃除の手配を忘れていただけね」
「忘れていたのは鞠莉さんでしょ!?」
「言ったよ? 夏休みの間に何とかしろって」
「だから何とかしてるじゃないですか!」
「へぇ~、何とかね~?」
――――ちょっと待てください、それって特訓と称して掃除してるだけじゃないですか! と声を上げそうになるが、鞠莉とダイヤの言い合いには割り込めそうにもない。
「生徒会長と理事長があんなので大丈夫なの?」
「あたしもそう思う」
善子や果南の懸念の声が背後から聞こえてきたが、肯定も否定もしたくない微妙な感覚に駆られる。
「でも約束したもんね。生徒会長の仕事は手伝うって」
そういやしてたな~と思いにふける間もなく、背後から曜の声。
「デッキブラシと言えば甲板磨き! ……となればコレです!!」
曜はセーラー服……のもとになった海軍兵士の制服を着こなし、元気よく敬礼。まではよかったが、バランスを崩したようで勢いよく尻もちをついてしまう。
一体どこからその制服を持ってきたのか……なんて聞きたかったが
「その恰好はなんですの!? 遊んでいる場合ではない――――」
ダイヤのお説教が聞こえてくる中、曜と千歌は笑い合う。
「…………」
笑い合っていたのだが……どうも、なにか壁があるような不安さを感じてしまう一眞だった。
どうにかこうにか、プールを掃除し終えることができた。青い床と残った水が空を映し出し、まるで空の上に立っているかのような……そんな綺麗さだった。
「そうだ、ここでダンス練習してみない?」
「Funny! 面白そう!!」
「滑って怪我しないでよ?」
果南の唐突な提案だったが、着替えたりして屋上に行く時間も惜しい。このような訳あってかみんな乗り気だった。
が、ダイヤの言った通り怪我だけには気を付けて欲しい。ここでやらかして出場できないとは笑えない。むしろ最悪だ。
それぞれの位置について、ポーズをとる。そこで千歌、および前方のプールサイドに腰掛けた一眞は違和感を覚える。
「………ん?」
「……あれ……?」
「そっか、梨子ちゃんがいないんだよね」
「そうなると、今の形はちょっと見栄えはよろしくないかもしれませんわね」
ダンスを見てくれる果南、そしてダイヤがその違和感を言語化してくれた。そう、本来は梨子と千歌のダブルセンターとして想定されたフォーメーションだったが、今は梨子がいないことで見栄えが悪くなってしまったのだ。
「変えるずら?」
「それとも梨子のポジションに誰か代わりに入るか……」
「そうだな……だとすると……」
果南とともに一眞も思考を巡らす。千歌とともにセンターに立つには、彼女とも付き合いが長くて即座に合わせられる人材が適任だろう……となると……
一眞に続いて視線が1人、また1人と集まっていく。
「ん? ……え? ………ん?」
千歌も信頼の力強い眼差しを向けている。
「え……私っ!?」
曜はその向けれた視線に驚きながら自身を指さすのだった。
「うああ……」
「まただ……」
千歌と曜、2人のパフォーマンスの練習を重点的に始めていったのだがどうしたものか、なかなか息が合わないのである。
「これで10回目ですわ……」
「曜ちゃんなら合うと思ったんだけどな」
回数を重ねてもなお合わないパフォーマンスに不安と困惑がよぎる。
「私が悪いの。いつも同じところで遅れちゃって……」
「違うよ。私が曜ちゃんに歩幅合わせられなくて……」
一眞は2人の様子を見て疑問、懸念を抱いてしまう。千歌と曜……2人の間に見えない壁があるような、妙に気を使い合っているようなところが気がかりだったのだ。
~~
「何見てるずらか?」
「花丸? いや、ただこの記事が気になってな」
コンビニでみかんアイスを啜る花丸が横で聞いてくる。一眞は携帯の画面を見せて、その記事の詳細を説明していく。それはどうも内浦の石碑が関係する記事だった。
「この石碑にお願いするとな、なんか友人と仲直りできるとか、友情が続くとか、自分を助けてくれる人が現れるとか……いろんな言い伝えのある石碑があるんだってさ」
「それルビィも聞いたことあります! 『想い石』ですよね?」
「それ、ここらじゃ有名な話ずら」
どうやら内浦では長くから知られているようであり、ルビィも知っているようだった。
「みんな知ってるのか……でも俺はそういった話は聞かなかったけどな~」
「一時期話題になっただけですからね。一眞さんが知らなくても無理ないです」
「ん~そうか……」
3年もいたのに知らなかったことにショックを受けた一眞は唇を尖らせていると、レジの方から「堕天のD……」と善子の崩れ落ちる声が聞こえてくる……がそれよりも3人の話題はコンビニの外で練習を続けている千歌と曜に移る。
結局、練習時間中には合わせることができずに今もやっているのだ。
「2人でやってもらった方が気兼ねなくできていいと思ったんだけど…………そろそろ見に行くかな」
そうして一眞は店内に設けられた椅子から立ち、外へと向かう。どうやら外も日が落ちかけている。いくら何でも休憩させなければ、明日にも響く。
「どうだ?」
「カズくん……もうちょっとなんだけど、私が梨子ちゃんと練習してた時の歩幅で歩いちゃって」
「成程な。でも、そろそろ休憩した方がいい。いくらなんでも続け過ぎだ」
「じゃあ、あと……1回。1回だけ、いいでしょ?」
手を合わせて懇願してくる千歌に、一眞はため息を吐いて1回だけと釘を刺して続行させる。こうなったら千歌は何言っても曲げないことを知っているからだ。
「千歌ちゃん、もう一度梨子ちゃんと練習したとおりにやってみて?」
曜の切り出してきた提案に、千歌は戸惑う。それは梨子と合わせるためのものであって曜と合わせるものではない。だからこそ、今まで失敗してきたのだから。
「いいからいいから」
しかし曜は千歌を丸め込み、再び立ち位置につく。
一眞がカウントを数え始め2人が移動していく。……するとどうだろう。先ほどまでぶつかってしまっていた箇所が成功し、綺麗に並び立つことができたのだ。その姿に、後ろで見ていた1年生たちも喜びの声を上げる。
ようやくの成功に喜んでいると携帯の着信音が鳴り響く。千歌が電話に出ると、相手は梨子からだった。
「あ、ちょっと待ってみんなに代わるから」
千歌は自分の携帯を花丸に差し出す。
「あ……え、え~と……もすもす?」
『もしもし、花丸ちゃん?』
「未来ずら~!」
さっき携帯見てただろという一眞のツッコミと共に善子も口をはさむが、梨子の呼びかけに
「別のリトルデーモンと代わります!」
ルビィに押し付けてしまう。出てやれよ、梨子が可哀想だろ……と一眞は内心思いながら見ている。代わったルビィも梨子の探るような”もしもし”にビビったのか「ピギィィィィィィッッ!?」と声を上げて木の裏に隠れてしまった。
「曜ちゃん、梨子ちゃんに話しておくこと、ない?」
「……うん」
曜が力なく答えるのと同時に、千歌の携帯からバッテリーの残量を知らせる警告音が鳴り響く。そのことに残念がっている千歌だったが、曜はそれとはまた別の悩みを感じていた。
「じゃあ曜ちゃん、私たちももう少しだけ頑張ろっか!」
「……うん、そうだね!」
梨子との電話によってやる気を出した千歌の呼びかけ……。
曜の持ったビニール袋に、みかんアイスが勢いよく落ちる音が響いた。
「曜、どうした?」
「え?」
帰り道、一眞は曜に話しかけた。今日の一連のことが気がかりで仕方なかったのだ。こんなことはお節介であるとはわかっていながらも、2人の間にできた壁のようなものがどうしても気になってしまうのだ。
(俺もリゲルとのことを気にしてるから……ってことか)
「何か悩みがあるなら話聞く……って俺が言うのもだけど」
「……うんうん、何にもないよ。大丈夫! カズくんも早く帰りな、じゃあね!!」
曜は手を振るとすぐさま走りだしていってしまった。強引に丸められたような気もするが、あの調子の曜では話してくれないだろう。
「はあ……どうしたものか……」
「どうやらのお困りのようデスネ~?」
背後からかけられた声になんとなく反応してしまう一眞。しかし数秒後、その正体に驚愕する。
「ええ、これが結構……って鞠莉さん!?」
「フフフッ、チャオ~!」
生徒会室で仕事を片付けていた筈の3年生。そんな彼女も、曜のことを追いかけてきたのだそうだ。恐らく、似たような目的で。
「ここはマリーに任せて。Girls talkの方が本音で語り合えるってものよ?」
「ハハハッ、そうみたいですね。なら、ここは鞠莉さんに任せます」
「ええ」
鞠莉に任せた一眞は踵を返そうとする。そこで自身のポケットが震えた。
「……ん? 電話か」
着信が来ているようで、一眞はズボンのポケットから電話を取る。
「もしもし……ああ、どうした? ………あ~、気付いちゃったか。……うん、実はそうなんだ」
~~
「千歌ちゃんと?」
「はい! 上手くいってなかったでしょ~~?」
展望台から海の景色を見ている曜に、鞠莉は問いかけた。昼間の練習、そして生徒会室で見た部の申請書で確信に変わったのだろう。千歌と曜の間に何かあると。
「大丈夫だよ、あの後上手くいった――――」
「いいえ、ダンスではなく……千歌っちを梨子に梨子に取られてちょっぴり、嫉妬ファイヤ~~~~~~~が燃え上がってたんじゃないの?」
ズバリ単刀直入に鞠莉は問いかけた。今曜が抱いているその気持ちは嫉妬なのかと。しかし曜は誤魔化そうとしていくが、両頬を引っ張られてしまう。
「ここはぶっちゃけトークをする場ですよ?」
鞠莉は設けられた椅子に座ると、優しい眼差しで続ける。
「話して? 千歌っちや梨子、それにカズマにも話せないでしょ?」
「私ね、昔から千歌ちゃんと何かやりたいなってずっと思ってたんだけど……」
曜が語ったのは、千歌と何かやりたかったということ。中学生の時も水泳部に入部した曜、やりたいことが見つからなかった千歌……となって”一緒に何かをする”ことが出来ないもどかしさを感じていたということ。
「だから、千歌ちゃんが一緒にスクールアイドルやりたいって言ってくれた時は凄く嬉しくて……」
これでやっと一緒に何かできると思っていた。それでも梨子が入り、一眞が入り……気付いたら10人となっていた。それで彼女は考えてしまったのだ。
「ちかちゃん……私と2人っきりは嫌なのかなって」
「Why、なぜ?」
彼女が抱いていたのは嫉妬などではなく、千歌は自身を嫌っているのではないかという不安だったのだ。
曜はもともと要領がいいと言われていた。さっきのダンスだって梨子に合わせてしまう千歌のために、曜がその動きを真似たことによって成功したのだ。
そつなくこなせる自分とやるのは、やりにくいのではないかと。
「痛っ!?」
自身の気持ちに押しつぶされそうな曜の頭に、鞠莉はチョップをした。その後も、勝手に決めつけるなと頬を弄ってきたりする。
「千歌っちのことが大好きなら、本音でぶつかった方がいいよ」
それが、鞠莉ができるアドバイスだった。心を許した友人だからこそ、自身の気持ちを正直に包み隠さず伝えるべきだと。
「大好きな友達に本音を言わず、2年間を無駄にしてしまった私が言うんだから、間違いありません」
鞠莉は自分の反省を活かして曜に言ったのだ。その暗い過去を笑いながら語る鞠莉に曜は元気づけられた。
「本音か……」
鞠莉と別れた帰り道に、曜はその言葉の意味を考えていた。本音……それを伝えるのは簡単なようでいて難しいもの。伝えることで嫌われないだろうか、拒絶されないだろうかという不安などが邪魔をし、なかなか言えなくなってしまうのだ。
「はあ……あれ、考えてたら変な道来ちゃった」
考えすぎた結果だろう。曜はいつもの帰り道からはずれた道を歩いていたのだ。
「やっちゃった……もう、早く帰らないと……って、あれ?」
視線を動かすと、道の片隅には石碑が置いてあった。文字が書かれているようだが、古いのか読めない。さらにその前には手紙やお供え品のようなものが置かれている。
「これって想い石……?」
友情にまつわる言い伝えがあるその石碑のことは曜も知っていた。しかし自身がその現物を目の前にしていることに、驚きが隠せなかったのだ。
「私もお祈りすれば、千歌ちゃんと……ううん、ダメ! 私がちゃんと本音を伝えなくちゃいけないんだから!!」
祈るべきかと悩んだ自分に言い聞かせるようにして、曜は走り去ってしまう。
曜が走り去った後、想い石から紫色の”邪気”ともいうべきエネルギーが怪しく立ち昇っていく姿は誰の目にも入ることは無かった。
あのキーワードが出たから今回の対戦相手はわかりましたよね。少し……というかだいぶ設定が変わっていますが。