第37話 次なる輝きへ
――――夢をみた。
目の前で輝く何かへ、一生懸命に手を伸ばす。
けどそれは、自分が見ているよりもはるか遠くにあるのか、それとも遠ざかっているのか……どう頑張っても掴めそうになかった。
手を伸ばし光を追いかけていく……その瞬間――――
足元が消えたように、その体は下へ……下へ……落ちていく。終わりのない穴の底へと――――
~~
夏の暑さがいまだ鬱陶しいほどに残っている頃。右には青い海。左には緑豊かな自然……。日射しがアスファルトを熱したフライパンの如く加熱しているという、なんとも夏には定番の光景である内浦に”彼”の悲鳴にも似た声が響き渡る。
「だあああああああああああああっっっ!!!!!!!」
常人にはもはや風と一体化したように見えているであろうソレは、浦の星までの道を直行していた。
流れている大量の汗など今はどうでも良い。ただ、自分の犯してしまった過ちを精一杯悔いながら、脚に力を入れている。
「寝坊だあああああああああああああっ!?!?!!??!?!」
暁一眞。今は意識のないウルトラマンオーブと一体化しているアルデバ人であり浦の星の学生。
月での戦いの後なんとか帰還した彼だったが、戦いのダメージや疲労は尋常ではなく、ここ最近まで残留し続けていたのだ。
残りの夏休みの期間は回復に専念していた彼だった。しかし今日、寝坊したのだ。新学期の始業式当日に。
生活習慣が完全に狂っていた。幸い、始業まではまだ時間がある。とはいっても普通に歩いていたら到底間に合わない。
彼はウルトラマンと一体化しているこの身体で力を発揮することにより、ギリギリ間に合わせるという手段をとったのだ。
「間に合えええええええええええ!!!!」
彼の放った叫びは、風の音として一般の人々の耳に入ることになる。
「本日より、Second seasonのスタートデース!」
ステージの上から、理事長でもある鞠莉のハイテンションなスピーチが繰り広げられている。
「セカンドシーズン?」
「2学期ってことよ」
「それにしても千歌ちゃん遅いね。カズくんは何か知らない?」
梨子と曜は、一眞へと聞いてみるが
「はあ……はあ……はあ……」
「こりゃだめだ」
息切れで話にならないと曜は首を振る。一眞は一眞で何とか間に合ったようだ。難なく、ではなさそうだが。
「て、てっきり……もう学校に行ってるんだと思ったんだけどな……」
息を整えながら、一眞は2人に告げる。
これからは1人で起きると千歌は宣言したのだが、結果は今をみれば察しの通りということだ。
さらに、ステージ上では理事長らしからぬ進行でスピーチを続ける鞠莉へ、ダイヤが舞台袖から指示を出している。小声のつもりだが、がっつり聞こえているの内緒だ。
「浦の星の生徒らしい節度を持って……」
「雪像を持つ?」
「節・度ぉーー!!」
ダイヤの声が体育館に響くが、いつものことなのか3年生は苦笑いですんでいる。
「にしても、惜しかったよな~」
「もう少しで全国大会だったもんね」
「……過ぎたことを言っても仕方ないわよ?」
一眞のぼやきに曜と梨子は反応する。そう、Aqoursは地区予選で惜しくも敗退。全国への道は絶たれてしまったのだ。仕方ない、と梨子も言ってはいるが、彼女の言葉には捨てきれない悔しさを感じる。
「それにさ、なんだよ? 参加賞が二色ボールペンって。もっとこう……あるだろ……」
「一眞くん、気にしてるのそこ?」
一眞はそれに加え、大会の参加賞にも不満を抱いているようだ。学生という面から見れば確かに必要なものではあるが……。
「じゃあアレか? 全国大会の参加賞は三色にでもなるのか?」
「それもちょっと……」
「シャラァァァァァァァァァァァァプ!!」
たちまち参加賞の話題に移行する3人を見かねて注意する。鞠莉の特大声量をマイクが拾ったせいか、ハウリングが発生。体育館にいる誰もが耳を塞ぐ。
「確かに、全国大会に進めなかったのは残念でしたが……」
「でもゼロをイチにすることはできた。ここにいるみなさんの力ですわ」
あの会場での輝きは、悔しくも届かない面もあった。しかしそれでも、小さな一歩はあったと2人は言う。そのことに皆は胸を張っていた。
そして今では入学希望者は0から1、1から10になった。
さらに
「本日、発表になりました。次のラブライブが! 同じように決勝はアキバDome!」
鞠莉の発表に、果南やルビィといったAqoursメンバーは勿論のこと、浦の星の生徒全員の心を躍らせた。
そして同時に、体育館に駆けこんできた彼女の影が。
「To Late!」
「大遅刻ですわよ」
「次のラブライブ……」
肩で息をするほど疲れている千歌だったが、それでも彼女は言葉を紡ごうと口を動かす。
「千歌ちゃん!」
「どうする?」
「聞くまでもないと無いと思うけど!」
千歌がこの時に何と言うか、一眞たちにはわかりきっていた。だからこそ、改めて彼女に問う。
「出よう、ラブライブ! そして……そして! イチをジュウにしてジュウをヒャクにして、学校を救ったら!」
『――――そしたら!?』
全校生徒が問いかける。ここにいるみんなが、彼女の答えを待っている。
「そうしてたら、私たちだけの輝きが見つかると思う。きっと――――!」
『――――輝ける!!』
「1、2、3、4……」
「んんっ……、う、うああ……!?」
日が海を照らしつける夕刻。なんとも苦しそうな声が屋上で響いている。
「善子ちゃん、相変わらず体硬いね。ちゃんとストレッチやってる~?」
「……ンンンヨハネェ~!!」
善子の前屈を果南が押しているという図はさほど珍しくもない。しかし、何も知らぬ人が見たらあらぬ誤解を受けるだろうと、一眞は震える腕の痛みに耐えながら考えていた。
「痛たたたたたた!?!!?」
限界以上に果南が押し込んでいるようで、善子の悲鳴はさっきよりも増して大きくなる。限界を超えたそれはもはや伸びすぎてキレるんじゃないかというくらいの痛みを伴う。だがこれも彼女のためだ。ここは痛みに耐えてもらうしかない。
「花丸ちゃんは随分曲がるようになったよね?」
「毎日、家でもやってるずら」
ルビィの言うように、花丸も随分と体が柔らかくなった。家でも欠かさずやっている努力の賜物だろう。さらには、腕立てもしているとのことだが……
「イ~~~~~~~~~~~~~~――――」
とは言ったものの、腕を曲げたままで止まっている。
「――――~~チ……」
伸ばすことは叶わず、そのまま伏してしまう。賞賛するルビィや鞠莉だったが、そこに善子の真っ当なツッコミが響く。
「まあ……頑張って……な……」
いつもの光景を目尻に声まで絶え絶えな一眞。彼も腕立てをしているのだった。
「ほら、カズもさぼってないで腕立て終わらせちゃって?」
「なんで……俺も……腕立て……なんか……を……」
「カズもウルトラマンなんだから鍛えておかないと。また寝込むことになるよ?」
「それも……そうだけど……さ……」
「これからの戦いのためにも、カズも鍛えなくちゃね」と果南が提案してきのだ。鍛えておいて損は無いと言うが……メニューがひたすらにキツい。一眞もすでに、大量の汗をかいている。
「だはっ……終わった……」
「ほら、まだ腹筋も残ってるよ」
「ええ!? 俺をどうする気なんだ……ウルトラマッスルなんか望んでないんだけどっ!?」
「でも、目のつり上がったオーブはなんか筋肉質ですよね?」
ルビィの指摘に、狼狽える一眞。オーブのことでも気兼ねなく話せるようになったのも、正体を明かした故の結果かもしれない。
「ルビィちゃんっ!? それはほら……別と言うか何と言うか……」
「あれ、回数増やされたいのかな~?」
「すぐやります! やらせていただきます!!」
鉛にでもなったかのような腕の重さを感じている一眞だったが、彼の筋トレはまだまだ終わらないようだ。
「それで、次のラブライブっていつなの?」
「多分、来年の春だと思うけど……」
そんな曜の唐突な問いに梨子が答えていると、ダイヤがその前にやるべきことがあると指摘する。
「入学希望者を増やすのでしょう?」
「学校説明会」
「Of course! すでに告知済みだよ」
「せっかくの機会です。そこに集まる見学者たちにライブを披露して、この学校の魅力を伝えるのですわ!」
理事長と生徒会長は、着々と事を進めているようだ。彼女たちの働きには感心してしまうと同時に、ここがどれほど好きなのかを再認識させられる。
「それいい! それ凄くいいと思う!」
千歌が賛成するように、みんな同じ気持ちだったようだ。浦の星の生徒として、スクールアイドルAqoursとして学校の魅力を伝えようと。
そんな中着信が来たことを知らせるバイブレーションの音が、みんなの笑い声に交じっていたことは一眞ですら気付かなかった。
~~
「そっか、秋になると終バス早くなっちゃうんだね」
ここにきてある問題が曜の口から出された。バスの運用時間の変更に伴って、練習時間の確保が難しくなるという点だ。それに日が暮れるのも早くなるため、屋上で長時間は練習できないとルビィは言う。
説明会まであまり時間が無いとダイヤ。そして
「練習時間は、本気で考えないと」
「あと2時間早く集合しよっか」
果南の提案に無言で通す。それ以外の具体的な解決案を出したいが出てこない……そういった意味での無言ではあったが。
「じゃあ決まりね!」
「早すぎるわよっ!」
無理だと善子は反対する。さらに、善子はもっと早く帰ってきて欲しいと母親に言われていることを梨子にバラされる。なんでも、梨子の母親と善子の母親は前回のライブで色々話したらしい。
「なんか、部屋にも入れてくれないって」
「だ、だからヨハネは堕天使であって母親はあくまで仮の同居人というか……」
”あの人”とかではなく、”母親”と言ってるところが善子らしいな一眞は感じていると千歌がある疑問をぶつけた。
「お母さんってどんな人なの?」
「学校の先生なんだって。それに善子ちゃん幼稚園まで哺乳瓶離さな――――」
「うにゃあああああああああっ!?」
これ以上は言わないでくれと、善子は声でかき消そうとしたその姿が面白く、たちまち笑いが起こる。
「まって、沼津からこっちに来るバスは遅くまであるのかな?」
内浦から沼津は終わっていてもその逆はどうだと、梨子が聞く。
「仕事帰りの人がいるからな……こっちよりはある」
そんな情報を一眞は口にする。これも企業等が沼津の方に集中していたりするからだ。
「そうだ、向こうで練習すればいいんだ!」
「それなら時間も確保できるずら」
「ルビィ賛成!」
「そうだね、鞠莉は?」
「えっ……No problem!」
練習時間の短縮という危機を乗り越えられそうなのに、鞠莉の反応が妙に鈍い。そんな違和感を覚える果南。
一眞はそんな果南に目を向けるが、あまり干渉するものではないと口には出さなかった。彼女たちにしかわからないものがあるのだから、それに不用意に接触しようとするのは彼女たちにも悪いだろう。
「ん~と……あと必要なのは……」
木の枝に体を預けているアオボシは、ダークリングの内側で浮かぶエレメントを見つめる。
紅蓮騎を倒した水のエレメント。ゼッパンドンに撃ちだした土のエレメント。そしてテンペラー星人に放たれた風のエレメント。
オーブが使ったそのエレメントの残り香をアオボシは回収していった。どうやらそこには、彼の極めて個人的な計画が見え隠れしているように感じる。
「火のエレメント……。残りの光と闇は僕自身でどうにかできるし……なら、また僕が嗾けるか」
そうと決めたアオボシは、懐から出したカードを見つめ始めたその時だった。
「――――ん?」
突然、謎の光に包まれたアオボシ。
光が消えていくとそこは内浦の景色ではなく、機械然とした冷たさの漂う場所に変わっていた。そこで彼は察する。
――――ああ、呼ばれたわけか
「来やがったか……ヒョロガキッ!」
すぐさま聞こえる耳を劈くような声に彼は顔を歪ませる。
おそらくアオボシよりも少し年上くらいの少年。金赤の短髪に緑に輝く瞳、日焼けした筋肉質の肌を上半身はベストのような赤い布1枚が覆い、下半身はぴっちりした皮のズボンとサンダルといった、いかにも脳筋と呼べそうな恰好だった。
「久しぶりにテメエ顔を見たが、やっぱり気に食わねえ。……オレと勝負しよう」
「やめてくれ。そう言って君は只戦いたいだけだろう。この単細胞くんが」
「違ぇよ。違うんだよ! こういうのはどれだけオレを熱くさせるか……ただそれだけなんだよっ!」
彼はなりふり構わず拳をアオボシに向けて突き出す。しかし、殴りかかった男の拳がアオボシの顔に到達することは無かった。
「ここで暴れないのプロキオ。船が粉々になるじゃない」
そう言って艶やかな声と共に少年”プロキオ”を止めた女性。
彼と比べたらポッキリ折れてしまいそうなほど差のある体の細さ。しかし、それは只細いだけではなくメリハリのある豊満な肉体であり、輝くような褐色の肌を隠すドレスからでも見て取れる。また黒く腰まで伸びた長髪やサークレットで輝く紫の宝珠……。
その姿はまさしく妖艶なとでもいうべきものであった。
「これはこれはヴィルゴ様、助けていただき感謝します」
妙に芝居がかったのが気に食わなかったのか、ヴィルゴと呼ばれた女性はアオボシに嫌悪の表情を浮かべる。
「別に、私はあんたなんか助けたくないわ。でも、ここでみすぼらしい姿になられるのも困るの」
「へっ、まったく訳の分からないことを言う女だぜ。まあ、今回は大人しく退いてやるよ」
――――それと、とプロキオはアオボシに向けて告げる。
「アルファルド様が呼んでる」
「どうだ、地球の様子は?」
相変わらず冷ややかなトーンで話すアルファルド。アオボシを見つめるその眼も、虚空を見つめているかのように表情が読み取れなかった。3年前から年を取っていないかのようなその変わりの無さは、もはや彼の寿命が止まっているかのようだ。
「ええ、順調です。目覚めるのにはもう少し時間が必要みたいですが」
「そうか。なら、……光の巨人とやらはどうした?」
一層彼の声が低くなり、漂う空気も冷たくなる。
「みたところ、惑星侵略連合ももはや機能していないようだが」
「……」
「まあ、所詮はその程度だったという訳か」
「……ッ、アルファルド様! 次はオレの出番なんじゃないか? コイツに任せておくと、ロクなことにならなそうだしな!」
プロキオは自分を地球に派遣しろと言ってきた。まったくズケズケとことを言う奴で腹が立つアオボシ。
「そう言ってあなたは戦いたいだけでしょ?」
「それ以外に何があるんだ?」
ヴィルゴの横槍を一蹴する。彼は端から戦闘のことにしか興味がない。しかし”それ”だけでいくつもの星を滅ぼしてきたのは事実だ。
「地球人を奴隷にするとか? よく働きそうじゃない、あの種族は」
ヴィルゴもヴィルゴでその妖艶な体の中にあるものは、ドス黒く染め上がったエゴの塊だ。己の快楽のために、多くの人の人生を滅茶苦茶にするのも厭わない。
「それに、お前のつれてたピンクのチビはどこ行ったんだ?」
「ああ、せめてもの――――「スピカはやられたよ」
アオボシはそれ以上聞きたくなかったのか、言わせたくなかったのか彼女の言葉を遮った。
「そう。……まあ、よく働く子だっただけに残念ね」
ホントに残念には思ってないだろ、とアオボシは心の中で愚痴をこぼす。
「もういい。もうしばらくはリゲルに任せよう。だが、私が待てないと判断した場合は……」
首にナイフを突く付けられているような緊張。その眼光がアオボシに刺さる。
「……ええ、お好きなように」
――――全く、居心地の悪い場所だ。
アオボシは数刻前までいた内浦の地を懐かしんだ。
~~
「はあ~」
「千歌、また寝てないのか?」
「練習場所探してたら、夜更かししちゃって……」
「遅刻しても知らないからな」
「そこは……頑張る」
「大丈夫かよ……」
千歌を心配する一眞に、いたずらな笑みを浮かべた曜は昨日の話を持ってくる。
「カズくんだって昨日遅刻ギリギリだったじゃん?」
「うっ……反論できない」
翌日、浦の星の部室。そこでは沼津での練習場所を何処にしようか、そんな相談が行われていた。
善子は花丸の家が寺なら、そこに大広間は無いのかと尋ねる。
「うちのお寺でほんと~に良いずらか~?」
やけの誇張した彼女の言い方に、善子とルビィは怯える。
「あと、家は遠いから無理ずら」
「なら、善子ちゃんの家の方は?」
そんなスペースは無いとこれまた却下。その前に、誰かの家で練習させてもらうというのは良くないだろう。
「あれ、そう言えばダイヤさんたちは?」
曜の指摘で部室を見回すが、確かに3年生の姿が見えなくなっていた。
「さっきまでいたのに……」
「鞠莉さんは電話かかって来てたみたいだけど……」
(杞憂ならいいんだけど……)
ルビィの情報に、一眞は底知れない不安を感じていた。
2期がスタートするとのことで新キャラ2人投入。モチーフにしたのはとあるキャラ達です。そして久しぶりの登場のアルファルド。何したいんだろコイツは……。
そしてアオボシの個人的な計画は察しのいい人ならもうわかってると思います。