それはあまりにも突然のことだった。
彼女の言葉に、その場にいる誰もが言葉を失う。予想することもできなかったそれは、今までの積み上げてきたものを……そして、これからの道行きを断つには十分すぎるほどの言葉だったのだから。
ことの始まり……いや、すでに手遅れだったのかもしれないそれがわかったのは、放課後。
その日は遂に、曜が沼津での練習場所を確保したとのことで見に行ったのだった。
「ひろーい!」
千歌が言うように、そのスタジオは9人ではもったいないくらいの広さがあった。まさにダンスレッスンにうってつけの場所。
「このカーテンを開けると鏡もありますし」
「いざ、鏡面世界へ!」
「やめるずら」
1年生もその大型鏡に興奮している。いつもの善子を諫める花丸には、どことなく圧を感じるが……。しかしこの大型鏡であれば自分でフォームを確認して、修正することも可能だ。
「パパの知り合いが借りてる場所なんだけど、しばらく使わないからって」
曜の話で、父親の人脈の広さを実感する。これほどの施設を借りているんだ。只ものじゃないはずだ。
「さすが船長」
「関係なくないか、それ……!?」
「それに、ここならお店のたくさんあるし!」
「聞いちゃねえ……」
俺たちが話している間も3年生は会話に参加していなかったな……と、思い返してみれば違和感の塊だった。
「とりあえず、店の話は後にしよう」
「うん、それじゃあみんなで一度、フォーメーション確認してみない?」
曜の提案にみんなが賛成していた。これからだぞと意気込む中、それを伝えられたのだった。
「その前に……話があるんだ」
果南にしては歯切れが悪かった。それでも、あんなことを言われるなんて夢にも思わなかったのだから。
「実は、学校説明会は………中止になるの」
鞠莉の発したそれで言葉を失うのは実に簡単だった。
「浦の星は正式に来年度の募集を辞める」
一眞を含め、誰もがその言葉の意味を捉えきることは無かった。訊き返した梨子に、果南は事実をありのまま告げる。だが「はいそうですか」と納得できるわけがない。善子や花丸、ルビィは異議を唱える。
「いきなり過ぎない!」
「そうずら。まだ2学期始まったばっかりで……」
「生徒からそうかもしれませんが、学校側から2年前から統合を模索していたのですわ」
2年も前から……。これでもよく延ばし続けた方だと人は言うだろう。しかし、しかしAqoursにとってはいきなり過ぎるのだ。まだ、はじまったばかり。駆け出したばかりなのだ。
「鞠莉が頑張って、お父さんを説得して今まで先延ばししていたの」
「でも、入学希望者は増えてるんでしょ? 今は0だったのが10になって……」
「これから、もっともっと増えるって……」
確かに、曜とルビィと同じ気持ちを伝えたと鞠莉は言った。けれど、それでけでは決定を覆すには至らなかった、と。
すると、千歌は鞠莉の方へと詰め寄りとある質問を投げかける。
「鞠莉ちゃん、どこ?」
「千歌っち……?」
「私が話すっ!」
スタジオを抜け出していく千歌を、梨子や曜が止める。父親がいるのはアメリカだと。そこまでどうやって行くのだと。
「美渡ねぇや志満ねぇやお母さん……あとお小遣い前借しまくって、しまくって……アメリカ行って……もう少しだけ待ってほしいって話す」
それはあまりにも無茶だということは、一眞にもわかっていた。だが、千歌はそれでもできると虚勢を張っているように見えた。ここで諦めてしまえば、全てが無に帰すと……。
「こうなったら、私の能力で……」
励まそうとする善子ですら、いつものようにはいかず、ただ虚しく響くだけ。
「……なら、俺が」
「カズくんっ!?」
「無茶よっ!?」
「無茶だとしても、やるしかない。俺が飛んでけばすぐに着く。それに、みんなを乗せて行くことだって……」
一眞は懐からオーブカリバーを抜こうとする。だが柄に手を掛けるだけで、引き抜けなかった。
「くっ……」
「説得できると思う?」
梨子の言う通り、彼もまたできるとは思えなかったのだ。地球人で無い一眞ですら、この星の理不尽さを知っている。仮に10人の高校生が説得に言ったところで、子どもの意見などに耳を貸してくれることは無いだろう。只行っても追い返されるのがオチだ。
「わかってるよ。わかってんだよ……だけどここで、こんなところで諦めるなんて……チャンスすらないなんて……そんなの……」
”奇跡を起こす”という挑戦をする権利さえも剥奪されるというのは、あまりに惨めで、無力で、悔しいだろう。
「鞠莉はさ、この学校が大好きで、この場所が大好きで……留学より、自分の将来より、この学校を優先してきた」
「今までどれだけ学校を存続させようとしてきたか。私たちの知らないところで、理事長として頑張ってきたか……」
彼女を一番身近で見て、何もかもわかるようになっていた彼女たちの方が、何倍も力になりたいと思っている。けど、それは叶わない。
「その鞠莉がもうどうしようもないって言うんだよ?」
「でも、でも……」
千歌が何かを言おうとする前に、鞠莉が出てくる。
「千歌っち、ごめんね」
鞠莉の精一杯の笑顔が逆に心に突き刺さる。
「……っ、違う、そんなんじゃない……。そんなんじゃ……」
千歌はそれ以上、何も言うことは無かった。
もうここで呆れめるしかないのかと。もしこれが定められた運命、決まっていた道筋というのであれば、それはどれほど理不尽で、どれほど最悪なものなのだろうかと、一眞は拳を握りしめる。
練習する気になどなれるはずもなく、その日は解散となった。
~~
翌日、鞠莉は全校集会で説明会の中止、そして統廃合となることを伝えたのだった。
その衝撃は計り知れなく、あちこちで声が聞こえる。そのやりきれなさに、ため息を吐くことしかできない。当然、校舎内に貼られたポスターもすべて撤去されることとなった。
「どうにもできない……くそっ」
帰り際、一眞は自分を納得させるように呟くが、どうしても未練が残る。”こればっかりはどうしようもない”という現実はどうしても受け入れがたいものだ。
「俺は……俺達は一体、どうすればいいんでしょうか?」
オーブオリジンのカードを見つめ、一体化している”彼”に問いかける。だが当然、一眞の問いに答えてはくれない。何か答えを出してくれると期待していた訳ではない。だけど、だけど自分の気持ちを少しだけ”彼”に話すことで整理したかったのかもしれない。
「あれは……」
すると一眞の視線は、夕刻の太陽を反射し煌めいている海と、その光景を砂浜で座って見つめている千歌の姿を捉えた。
「……っ、はあ……」
声をかけようとも思ったが、ここは誰しも考える時間が必要なのかもしれない。そう思った一眞は、静かにその場を退いた。
「はあ……はあ……はあ……」
早朝、一眞はグランドをひたすらに走る。体を鍛えるというのもあるが、なんとなくここに来るべきだと体が動いたからというのもある。
「一眞くんも来てたんだね」
呼びかけられた方向に目を向ける。するとそこには梨子をはじめとしたAqoursのメンバーが揃っていたのだ。
「カズくん、おはヨーソロー!」
「やっぱり、来たんだな……みんな」
「うん。”怪獣”が出そうな気がしたから」
みんなの想いは1つだったということを再確認していると
「ガオーーーーー!!」
小さな普通怪獣の叫びは、その広い校庭に響き渡る。しかし彼女の叫びは校庭で収まることはないだろう。
「起こしてみせる、キセキを! それまで泣かない! 泣くもんかっ!!」
ここまで理不尽に打ちのめされてきた。しかし千歌は諦めない。今はどうするかわからなかったとしても、いくら無謀だったとしても……キセキを起こしてみせると。
「来たな、普通怪獣」
「え、カズくん……みんなも……どうして?」
一眞の呼びかけに反応した千歌は、ここに集まる全員に困惑する。
「以心伝心ずら」
「聞こえたぞ、闇の囁きが」
言葉にせずともみんなが通じ合っている。それは何故か……
「なんか、よくわからないけどね」
「そう? 私はわかるよ。きっと……」
果南の言葉を千歌繋いでいく。それはきっと――――
「きっと……諦めたくないんだよ……諦めたくないんだよ!」
諦めたくない。……まだ、終わりじゃない。
「鞠莉ちゃんが頑張ってたのはわかる。でも……私も、みんなも、まだ何もしてない!」
何もできていない。だから千歌は語る。
「無駄かもしれない……。けど最後まで頑張りたい。足掻きたい! ほんの少し見えた輝きを探したい……見つけたい!!」
例えこのまま進んで無駄に終わることになっても、足掻きに足掻いた末……。その先の先で掴みとれる輝きを見つけるために……。彼女たちは駆けていくことだろう。
「諦めが悪いからね。千歌は昔から」
「それは果南さんも同じですわ」
「お姉ちゃんも!」
やはりAqoursの想いは1つだと、千歌の笑みには今までの暗い雰囲気は存在しなかった。そして千歌の呼びかけに答えていく一同。
「いいんじゃない。足掻くだけ足掻きまくろうよ」
「そうね、やるからには……キセキを!」
足掻きに足掻いて、その果てにキセキを起こそうと決意する10人。彼女らの決意だと言わんばかりに、山間から太陽が昇り、内浦に光が差し込んでいく。
すると千歌が鉄棒で回り始めると同時に、一眞の視界を塞ぐ果南。
「え、なんだよ!?」
「いいから!」
「起こそうキセキを! 足掻こう精一杯ッ!! 全身全霊、最後の最後まで――――!」
太陽の光を受け、ここにもう一度言い放った。ここら先もどうなるかわからない……。だが、それでも――――
「――――輝こう!!」
彼女たちの想いはまっすぐに、青空へと飛び立っていくのだった。
~~
「へえ……新たな輝きってことかな。それじゃあ僕のためにも、ちょっとはキセキとやらを起こしてくれよ、シリウス」
遠くから見ていたアオボシはダークリングを取り出し、カードをリードさせた。
《アリブンタ》
召喚されたアリブンタは地面を潜り、ものすごいスピードで地中を潜行していく。その地響きと揺れは、すぐに彼女たちにも知れ渡る。
「え、なに!?」
「も、もしかしてヨハネの魔力が暴走を!?」
「そんなわけないずら!」
あまりにも色々なことが起き過ぎて、みんなも若干の慣れがあるようだ。それが逆に危険なのだが。
「あ、あれを見てください!」
ダイヤが指を指した方向に視線を向ける。すると一台の車が、蟻地獄のような巨大な砂の渦巻に巻き込まれてしまったのだ。その後、アリブンタは地中から姿を現す。
「か、怪獣っ!?」
「チッ、怪獣じゃない。”超獣”だ」
曜のその叫びを聞いたアオボシは、舌打ちしながら訂正する。
「普通怪獣だけでいいってのに……」
「今そんなこと言う!?」
一眞の発言に突っかかる千歌だが、ダイヤの呼びかけにより避難していく。
「俺がやります!」
「一眞さん、お願いしますわ!」
「はい!」
ダイヤの言葉に背中を押され、一眞は人気のない場所まで走る。そして、今度こそオーブカリバーを天高く突きあげるのだった。
青い光の柱は、まるで天と地を繋ぐようにして現れて人の姿をとると、オーブオリジンへと姿を変える。アリブンタと対峙し、聖剣を構える際に発した光芒は、彼自身を囲みこんだ。
「そうだ、わかってるじゃないかシリウス」
その姿を見て、アオボシは狙い通りだと口元が緩んだ。
その笑みが合図になったかのように、同時に片足へと力を伝えた2体は中心あたりで激しく火花を散らす。
アリブンタの強力で鋭い両腕のハサミ。そして抜群の切れ味を誇るオーブカリバー。どちらも譲らぬ威力でぶつかり合う。
「■■■ッー!!」
連続して迫る攻撃を、オーブカリバーを使って的確に防いでいく。時には弾き、時には中心部で受け止めて押し返す。柄頭で打撃を与えてからの連続斬り。次第に大きくなる隙を体術で埋める。
「ハアアアアア……」
ハサミから撃ちだされた高火力の火炎放射を聖剣で防ぎながら、開いた距離を詰めていく。
「オリャアァァーー!!」
打撃で顎を捉えてからの振り上げ斬りが、見る者に恐怖を与えるその頭を捉えた。
地面を揺らす轟音とともに伏せるアリブンタ。
「ウオオォォ……」
伏した体に向かい飛び掛かった巨人は、手刀や殴打を首元に食らわせる。
「■■■■■■■ッッーー!」
すると、大蟻超獣の名の通りである鋭い顎から噴出した煙状の酸がオーブを襲った。
(うっ、目、目が……)
酸の激痛に襲われる中、アリブンタが地中へと潜り込んだ。
(く、くそっ……このためか)
酸で目くらまし、そしてわずかな隙に地中へと潜り込む。アリブンタの厄介なところである。
「ちょっと、そんなの卑怯じゃない!」
善子も非難するが、当然アリブンタには卑怯と思う心も、慈悲なんてものもない。ヤツはかつて、こことは別の地球の侵略を目論んだ異次元人が製造、使役した怪獣を超える力を持つ改造生物。感情なんてものは無いのだ。加えてダークリングで呼び出されたということが、さらに拍車をかける。
(どこだ……)
地中にいる、そして猛スピードで進んでいるという状況下ではオーブはヤツの姿を捉えることができない。
「……ッ!!」
突如背後から飛び出したアリブンタはオーブに飛び掛かりさっきの仕返しと言わんばかりにハサミで攻撃を与え、さらに火炎放射を浴びせた。
「オアアァァッ……グ、クッ……ッ」
地面に倒れたオーブに、先ほどの応酬とも言える攻撃を与え続けていく。
オーブが反撃するも再度地面に潜り、隙を突いて足元を狙って転倒させると同時に鋭いハサミの斬撃。
「ッ!? グハッ……」
地中に潜られては死角からの不意打ち。その繰り返しではあるが、実に凶悪な手段であった。このままではこちらの体がもたない。
「埒が明かねえ……」
だが死角とは言っても、アリブンタはオーブに攻撃が当たる範囲内でしか動かないはず……。一眞はそう考え、切っ先が黄色に輝くオーブカリバーを握ると地面に突き刺した。
(来い……)
チャンスは一瞬。オーブは全神経を集中させる。
「■■■■■■■■ッーーー!!」
現れたのはオーブの左斜め後ろ。
(そこだ……オーブグランドカリバァァァッ!)
あらかじめ発動させ、その機を伺っていたオーブ。地上へと出てきた気配を察知すると同時に放たれた地を這う光線は、アリブンタへと直撃する。
「当たった!」
その戦いを見ていた千歌も喜びに声を上げる。
「もう一発! オーブウインドカリバー!」
斬り上げる同時に発動させた暴風は、超獣の体を包み込み空へと吹き飛ばした。
浮力を失い、重力に引かれた体は駿河湾へと真っ逆さまに墜落。巨大な水柱が昇っていく。
「そうだ! そのまま火のエレメントを使え!!」
待ちくたびれていたアオボシだったが、ようやくお目当てのものを使ってくれるかと表情を明るくする。
――――しかし
オーブはカラータイマーから光を発したのだ。それはつまり――――
《ウルトラマンオーブ ストリウムマイト》
紅蓮を纏った一閃が、アリブンタの腹部へとめり込み、吹き飛ばした。
「……は?」
予想外の出来事に、アオボシは目を丸く開いてしまう。困惑は失望となり、やがては怒りとなって彼の内から外へと発される。
「オイ……おま……お前ぇ! 何やってるんだよ! なんでそのまま火のエレメントを使わないんだぁぁぁオイッ!?」
アオボシの声など届くはずもなく、2本角のオーブは素早く立ち回る。攻撃を受け止めると同時に腕や腹に殴打。さらに蹴り上げから、空気を切り裂く勢いのまわし蹴り。
アリブンタの後退で空高くまで上がり、太陽の光を反射する水飛沫。
「ウルトラフリーザー!」
それを瞬時に冷凍。氷の針となってアリブンタを牽制する。
「■■、■■■■■ッーー!」
負けじと火炎放射で対抗するが、オーブも燃やした拳で対抗。そのまま打ち勝つと同時に空へとジャンプ。二重三重と捻りを加えたキックが顔面へと直撃し、フラフラとおぼつかない足取りになった。
「なんでだよオイッ! なんなんだよっ!? 僕の計画通りに動けよコノヤロォォォォ!!!」
頭に血が上ったアオボシは叫び続ける。
「コイツで……終わりだ! ブラストリウム……光線ッ!!」
放たれた炎の奔流がアリブンタという超獣の肉体を完全に破壊せしめたのだった。
「ウアあアあああアあああアアああああァァァァぁァァぁァァ!!!!!!」
想定外の事態に陥ったアオボシは頭を掻きむしりながら発狂し、その場に崩れ落ちる。
「これが……僕とお前の差なのか……シリウス……?」
……彼の問いに、答える者などいない。
太陽の光を背に立つオーブは浦の星、そしてAqoursの面々を見つめる。
足掻いて足掻きまくる……。そしてキセキを起こすと誓い合った彼女たちならば……。
こちらに向かって笑いかける千歌たちへ頷いたオーブは青い空へと飛翔していく。
――――まるで風に乗ってどこまでも飛んでいく、紙飛行機のように。
非情な現実にも折れず、最後まで足掻くと決めたAqours。2期1話にして怒涛の展開だなと、リアタイ時はビックリしていたものです。(重力に逆らうスカートは置いといて)
そして、超獣とのバトルでアリブンタ。最近は可愛い印象がついていますが、今回は只の怪獣兵器としての側面を出そうと思って何とか書いてました……。地の文もあの解釈でいいか少し悩みどころではあるんですけどね……。(オーブが割と脳筋なのは作者が頭悪いせいです)
さらにアオボシは何故か発狂。これは前回の宇宙船が居心地悪いせいで機嫌が悪くなっていたからです。何かに当たりたかったのでしょう。
次回はオリ回で行きたいと思います。この話が無いと今後が詰むので。