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時は経ち日曜日。当初の予定通りに”海の音”を聴くために海に出た一眞たち。船やダイビング道具に至っては果南に協力してもらっている。
「音ノ木坂からの転校生だって」
「そうなんだよあのμ’sのだよ!」
と果南に紹介する一眞と彼女の転入前の学校に興奮している千歌。しかし彼女が一体なぜそこまで興奮しているのかがわからない梨子。
「知らないんだ……」
「と言っても何年も前の話だしな」
「でも有名なんだよ? カズくんだって知ってるでしょ?」
そこまで興味がない様子の一眞に詰め寄る千歌。そんな2人の様子に少し不安が和らいだ梨子であった。
「カズは行かなくていいの?」
千歌と曜そして梨子が水中へ潜った後、果南はそう尋ねてきた。
「最初は一緒に行こうと思ったけどアイツら見てたら、なんだか3人だけにしておきたいなって思ってさ」
脚だけを水中にいれながら答えた。しかし彼の遠方を見据える目は、なんとなく楽しそうだと感じた果南は彼に近付き再度話しかける。
「カズ、いつもより楽しそうじゃん」
「え、俺が? そうかな……」
「うん、昔よりも生き生きしてる」
一眞は否定したかったが果南が言う通り、今はとても楽しい。彼女たちがスクールアイドルになろうと努力しているところを見ると、記憶のない自分も何か変われるのではないかとそう思えるのだ。だがそれを素直に言うのも恥ずかしいので一眞は沈黙を貫くのだが。
おもむろに果南は空を見上げる。すると青い色が続いている途中で、黒い雲が青空を覆い隠しているところを発見した。
「嵐がくるね……」
果南はポツリと言った。それに一眞も空を見上げてそうだねと返す。
「最近は変な天気が続くからね。ニュース観た? 世界中で台風……それにエジプトで雪だよ? こんなのあり得ないってお父さんも言ってたし。また怪獣の仕業とか言われてるんだよね」
「大丈夫。ウルトラマンが何とかしてくれるよ」
そのようなニュースは一眞も確認済みだ。ネットで調べると巨大な鳥を見たともいわれているが、ネット情報なので半信半疑だ。しかし、もし仮にそうなのであれば、自分が倒すと心に誓っている。
「ウルトラマンね……彼って言っていいのかな。なんだか、ふわふわしてるって言うか……足元が安定してないって言うか……まだ初心者って感じ」
「果南は動き見ただけでわかるのか?」
果南の評価にギクッとしながら反応する一眞。確かにまだ力の使い方が完全とは言い切れない。しかしそれを見抜かれてしまうとは、どんだけ動きに出ているんだと恥ずかしくなる。
「だって最初の光線だって腰を安定させないからあんなことになるんだよ。もっと体を安定させなきゃ」
「へえ~、参考にな……じゃなかった。果南は誰かのフォームとか見てたの?」
「え?」
「いやだって、そんな誰かの動きとかに目が行くのってそういうことやってた人じゃないとすぐにはわからないだろ。今のダンスの確認だって、飛び込みやってる曜がフォーム見ているわけだし……俺の憶測でしかないけど」
すると一瞬果南は黙り込む。
「……そりゃあダイビングやってるし、お客さんの動きも見てあげないとね」
一眞が何か言いかけた時、水面から千歌たちが飛び出したのだ。彼女たちは見事、海の音を聴くことができたのだった。その3人の笑顔、笑い声を聞いた一眞は柔らかな微笑みを浮かべた。
梨子や果南と別れた後、一眞たちは沼津へと出かけていた。雨が降りそうと止めたのだが、2人は構わないと聞かずにバスに乗った。先ほどのダイビングの疲れを感じさせない2人の動きに一眞はぶつくさ言いながらも付いていく。ちょうど見たいものもあったしと自分を納得させた。
「私と曜ちゃんはスクールアイドルのグッズ見てくるね!」
「そうか。俺CDみてくるわ」
といって一時解散となった。一眞がCDショップへと向かったのと反対に千歌と曜はスクールアイドル専門ショップへと向かう。彼女たちだってスクールアイドルの前にファンでもあるのだ。
「う~ん、どれにしようか悩むね~」
「時間はいっぱいあるし、焦らず見ていこうよ」
そう話す2人は前から歩いてくる男とぶつかってしまう。
「ああ!? すいません!!」
「ごめんなさい!」
頭を下げる2人を見つめて男は微笑む。
「大丈夫ですよ。むしろ2人の方が心配だ。ケガはないかい?」
丁寧な口調で話しかける男。見たところその姿は千歌たちと同い年くらい。ここにはいないが一眞と同じくらいの背丈である。
「はい……私たちは大丈夫です。ね、曜ちゃん?」
「うん。大丈夫です」
「ならよかった」
遠くの方から雷が鳴り響いてくる。音の方向に千歌たちが視線を向けると、男も彼方を見て
「荒れるな……これは」
と呟く。「変な天気だよねー」と曜も続いて言う。
「僕は好きなんですよね。こういう変な天気は退屈を紛らわしてくれますから」
しかし彼の意味が分からず千歌と曜は呆気にとられていた。
「では僕はここで」
結局男はそのまま去ってしまう。2人は顔を見合わせて何だったのだろうかと考えた。
すると頭上に大きな暗黒の渦が発生。そこからいくつもの竜巻が生まれ、ビルを破壊し吸い込んでいく。数々の悲鳴、そして逃げまとう人々。天変地異のようでまるで意思を持ったようなまさしく”悪魔の風”とでもいうのだろうか。
「千歌ちゃん逃げよう!!」
「うん……!」
2人が逃げていると強烈な風圧に千歌は巻き上げられてしまった。
「千歌ちゃああああん!!!」
「うわあああああああああああああ!!!!」
宙に浮き、絶叫する千歌。このまま空高くまで打ち上げられてしまうのかとなったその時――――
「千歌、目つぶってろよ!!」
よく耳にしている声が聞こえ、言われて通りに目をつぶる。
誰かに抱えられる感覚と、下へと重力に引っ張られる感覚がほぼ同時に千歌を襲った。彼女は絶叫するしかなかった。そしてドスンと体に重さが一瞬掛るとそれ以降は体全体を襲った風も、衝撃も起きなかった。恐る恐る目を開けると、目の前には
「カズくん!?」
「大丈夫か?」
一眞が助けてくれたのだろう。しかし今が自分がどのような状態なのかを何となく把握すると、急に恥ずかしくなり彼を叩く。今はいわゆるお姫様抱っこの状態なのだから。
「カズくん、早く降ろしてよ!!」
「なんだよ急に、せっかく助けたのに……」
彼が下におろしたタイミングで曜が走ってきた。
「千歌ちゃん、大丈夫!」
「大丈夫みたいだよ」
一眞が拗ね気味で答えた。千歌は曜へと抱き着く。さっきは人が考えられないよな状態に陥ったのだ。無理もない。すると目の前に猛禽類を思わせる青い羽と体を持った怪獣が渦の中から姿を現し、巨大な咆哮を沼津の街に轟かせたのだった。
「アレが原因か……2人は早く逃げろよ!」
「え、ちょっとカズくん!?」
またしても走り去っていく一眞。彼はまた名も知らぬ誰かを助けに行ったのだろう。そう思った千歌と曜は言われた通り避難していくのだった。
一眞は誰にも見られない場所を探していると、証明写真機がふと目につく。中に入ってカーテンを閉めオーブリングをかざした。
《ウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオン》
紫の光に包まれながら、ウルトラマンオーブは沼津の大地に立つ。獲物を見つけたかのように走り迫ってくる風の魔王獣マガバッサーにオーブは迎え撃つために構える。
ダッシュで勢いづけて飛び立ったマガバッサーの突進を受け止め、頭を持ち上げる。その顔面に左ストレートを打ち込んだ。マガバッサーも自慢の巨大な羽を振るう。風を切り裂く音がとても鋭く感じられ、羽には斬撃属性があるのだろうと察したオーブは体を逸らして避ける。
攻撃でがら空きになったボディにキックを放ち後退させる。しかしその距離から飛び込んできたマガバッサー。体で受けないように、前方へ転がって避ける。怪獣が振り向くより早く動き出し首元にチョップ、さらにパンチを食らわせる。
マガバッサーは怒ったのか咆哮をあげ、強力な脚力と爪を使い体を引っ掻いてくる。この衝撃に地面へと倒れるオーブ。
(この……!)
寸でのところで足を掴みビルの方へと放り投げる。マガバッサーは危険を感じたのか、羽をはばたかせ、強烈な風を引き起こす。オーブが風で身動きができない隙に飛んで逃げようとする。
マガバッサーとオーブとの戦いを遠くから見ている千歌と曜。
「頑張れー!!」
「頑張ってウルトラマン……!」
怪獣と対決する巨人にエールを送る2人。
「彼の名前はウルトラマンオーブ」
どこからともなく現れた男はウルトラマンの本当の名前を呟いた。
「ウルトラマン……オーブ」
「アイツは地球を護るために降り立った光の戦士なんだってさ」
千歌と曜の反応を一切無視して話を続ける男。
「なんでそこまで知ってるの……あなたは誰なの?」
千歌の疑問にニヤッと笑みを浮かべながら答える。
「僕も昔と会ったことがあってね……それで知ったんだよ。僕の名前はアオボシ……とでも名乗っておこうか」
強風が千歌たちの視界を奪う。目を開けると謎の青年アオボシの姿は消えていた。
オーブはスペリオン光輪をマガバッサーに向けて放つが、上空へと飛んだことによって外してしまう。しかし、高速移動で光輪をキャッチし投げ返すと同時に二発目を放った。2枚の光輪は左右の翼の根元を捉えて羽を切り裂いた。
翼を失ったマガバッサーは地面へと落下する。だがその獰猛さは失われておらず、立ち上がると羽を失った怒りと痛さで声を上げる。
胸のカラータイマーが点滅を始めた。ここで勝負を決めるためにオーブは光線を放とうとしたその時、
――――最初の光線だって腰を安定させないからあんなことになるんだよ。
と果南の声が脳裏に響く。
オーブは右腕を上げて左腕を水平に伸ばしエネルギーを貯める。そして腰を安定させ反動でよろめかないよう構え、球体状に圧縮したエネルギーを十字に組みなおした腕で放った。これがスペシウムゼペリオンが誇る必殺光線。その名も――――
(スペリオン光線ッ!!)
光線を全身に受けたマガバッサーは青い閃光を輝かせながら、すさまじい爆音と共に砕け散ったのだった。
爆音後の静けさの中佇むオーブは空高く飛び去っていくのだった。
(なんか落ち着いたら飛び去るんでしょなんてニュースで言われたからやってみたけどこれ良いな……)
何事もなく証明写真機から出てきた一眞は、取り出し口に入っている写真を取り出した。
「なんで動いてんだよ……。てか顔半分がウルトラマンに変わってるんだが……」
これは何としても見られてはいけないとポケットにしまう一眞。するとオーブリングが光り始めて、一眞をとある場所へと導いた。
そこはあのマガバッサーの残骸である赤いクリスタルが落ちている場所であった。オーブリングを掲げるとクリスタルが砕け散り、その粒子はオーブリングを介してホルダーへと入っていった。一眞がホルダーを展開すると新たなカードがその輝きを取り戻していたのだ。赤と銀の身体にひし形のカラータイマーを持ったウルトラマンだった。
「新しい力……なのか」
それよりも千歌たちが心配な一眞はすぐにホルダーにしまうと駆け出して行った。
「大丈夫か?」
「カズくんこそ大丈夫?」
「急に駆けだすんだから心配したよ~」
千歌と曜はどちらも無事のようだ。
「ウルトラマンが倒したんだろ?」
「オーブ。ウルトラマンオーブだって」
千歌がその名を出したときは一眞は驚いた。そんな正式名称を言った覚えはない。もしかして見られていたのだろうか。
「オーブ?」
「うん、アオボシ……? さんが言ってたんだ」
「誰だそれ?」
「私たちにもわからないんだよね。突然現れて、突然消えちゃった感じだし……」
曜の言葉にアオボシとなる人物も気になったが、今は平和になったことを喜ぼうとその話は深堀しないようにしたのだった。
同時刻、ダークリングを掲げたスピカはその輪の中からマガバッサーのカードを生成した。
「………」
カードを手に取り、無言で見つめるだけのスピカ。そこには個人的な感情はない。
マガバッサーが倒されたこと。それは終わりではない。むしろ、これは始まりに過ぎないのだ。
――――強大な力を持った卵を孵すための。
~~
「ここ旅館でしょ?」
「そう、けど千歌の家でもあるからな」
「カズくんもでしょ?」
「俺は居候なので……」
翌日、学校終わりに4人は十千万に来ていた。
なんと梨子が曲作りを手伝ってくれると言ってくれたのだ。しかし曲作りを手伝ってくれると言ってはくれたものの、詞が無いという現状のためまずは歌詞を作ることとなった。そのために時間を気にせず行うことができる千歌の実家でもある十千万に来たという訳だ。
千歌は梨子に志満さんを紹介し、梨子も挨拶をする。しかし彼女の目線は近くにいる飼い犬しいたけに向けられている。目も毛でおおわれているため確認できないが、その見られている感覚に梨子は複雑な思いを抱えていたのだった。
場所は移り千歌の自室。早速作詞に取り掛かりたいところだったが、千歌は千歌で美渡さんが食べていたプリンのことでご立腹の様子。
千歌を煽る美渡さん。そしてヒートアップした千歌に梨子が怒っていたのを一眞を手を口に当て、笑いをこらえながら見ていた。
「初っ端から恋の歌はやめとけって」
作曲を開始したが、千歌は「Snow halationのような曲」が作りたいらしく、アイディアが出てこず何枚もの紙が床に落ちていた。
「じゃあ恋愛経験はあるの?」
「ないけど……じゃあμ’sの誰かが恋をしてたってこと?」
梨子の言葉を受け千歌はパソコンを開く。ネットに載ってようものなら一部が燃えるだろう。
「千歌ちゃんはスクールアイドルに恋してるからね」
曜は呆れながら言った。それには梨子も同意する。
「それじゃね~」
天井を見ながら呟く一眞に曜と梨子は顔を見合わす。”それだ”と。
「千歌ちゃんさっきの話聞いてた?」
「スクールアイドルにドキドキした感覚とか、ワクワクするとかそんな気持ちを書けばいいんじゃないかな」
曜の言葉を受け、白紙にペンを走らせていく千歌。その姿を見た梨子は、幼少期にピアノを弾いていた時のことを思い出したのだった。
千歌のスクールアイドルが大好きという感覚、それは自分が成長していくにつれ、段々と忘れ去っていってしまったものなのだと感じていた梨子なのであった。
その日の夜。浜辺へと出ていた梨子を見かけた一眞は声をかけたのだった。
「こんな時間に何してるんだ?」
「一眞くん……ちょっと考え事をね」
「そっか……」
しばらくの沈黙の後、一眞が再度口を開いた。
「始めるのか? スクールアイドル」
「え?」
予想外の質問に彼女は一言しか出なかった梨子。一眞はそう言った訳を説明する。
「ちょうど千歌との会話が聞こえてつい……」
「盗み聞きなんて趣味悪いわよ?」
「ごめんごめん」
笑って謝罪する一眞。
作詞の後、梨子は千歌の言ったユメノトビラを再生した。そして弾くことのできなかった記憶と向き合いながら、ピアノの鍵盤に指を置き、弾き始めた。それを聴いた千歌に再度誘われたのだ。スクールアイドルをやってみなかと。
しかしここでピアノを諦める訳には行かないと答える梨子に、千歌は優しく
やってみて笑顔になれたら、変われたらまたピアノを弾けばいい。そんな思いでやるのは失礼だと拒否する梨子に千歌は続ける。スクールアイドルが梨子の力になれたのならそれが嬉しいのだと。そして――――
「みんなを笑顔にするのが……スクールアイドルだ……って」
彼女が言ったことに頷き一眞は言った。
「アイツらしいな。千歌の言うように”何か変われるかもしれない”……俺もそう思えるんだ」
何故彼もそう思ってのか……疑問に思った梨子は一眞に尋ねた。
「俺……記憶がないんだ。ここ3年間より以前の記憶が。だから自分が本当は何者なのか、どこで生まれてどこで育ったのか、何もわからないんだ。でもあれを見てると、こんな空っぽの自分でも何か掴めるんじゃないか、変われるんじゃないかって……そう思うんだ」
記憶がない空っぽであるが、それでも彼の月に照らされた横顔は悲壮の表情ではなかった。希望溢れると言った表情で海を見つめていた。そんな彼を見た梨子は、先ほどの千歌とのやり取りを思い出す。
届かない手を伸ばしてでも掴もうとする千歌。彼女となら、またピアノが弾けるのかもしれない。変われるのかも知れない。自分も踏み出さなくては。そう思い掴んだ手は簡単には途切れたりはしないだろう。
千歌によって己が変わるために新たな一歩を踏み出した梨子。そして一眞。
――――ここに新たな絆の輪が結ばれたのだった。
やっとスペリオン光線撃てましたね……。